18話 魔物災害3
「ウサ耳モード」
レムが淡々とした声音でアイテムボックスから、ウサギ耳集音装置ゴーレム&バックパック給弾式PKM(擬き)を取り出し、装備。
上空へ向けて、発砲を開始する。
狙いは空からレム達を狙う殺人蜂だ。
シュートがスキル『土魔法LV8』で城壁のように巨大で分厚い壁を作り出したが、空を飛ぶ魔物には流石に効果が無い。
しかしこの世界でも突出している対空装備を持つレムの敵ではなかった。
「ふぁいあー」
レムが可愛らしい声で告げ、トリガーを絞ると発射される銃弾――正確には短い矢の形をしたゴーレムが飛び出す。
約1mの巨体を持つ殺人蜂は、その体躯に見合わず動きが速い。
とはいえ、亜音速で発射される銃弾型ゴーレムを回避できる速度ではなかった。
文字通り、殺人蜂は羽虫の如く撃ち落とされる。
「わ、わたしより小さい子なのに凄く強い!」
レムの活躍振りを前に『ドラゴンの牙』に利用された少女が、驚きの声音をあげる。
彼女の驚きはそれだけでは終わらない。
『ギギギギギギィッ!』
「ひぃッ!?」
魔物災害の騒ぎに反応したのか、川から巨大なワームのような魔物が姿を現す。
口回りに牙がびっしりと生え、気味の悪い雄叫びを上げる。
突然の登場と、恐怖心しか抱かない見た目に少女が悲鳴を上げるが、
「敵を貫け、アイスランス!」
『ギギギギギギィッ!?』
10体以上居たワームは、キリリの魔法によって頭部をあっさりと砕かれる。
頭を砕かれては流石のワームも生きてはいられず川へと巨体を曲げて倒れ沈む。
その際、川の水が大量に撒き散らされ、ワームの血で濁っていく。
キリリはワームを片づけた後も油断せず、帽子を抑え、杖を向けたまま警戒を続ける。
その姿を少女は今までにないぐらいキラキラとした瞳で見つめた。
「お姉さんも凄く強くて、格好いい~!」
「私などシュート様達に比べればまだまだですよ」
キリリは謙遜するが、その姿すら少女に格好良く映る。
彼女の中ではシュート、アリス、レムよりキリリこそ『一番格好いいヒーロー』として心に深く刻まれた。
第三者からの目で見ると非常に格好いいキリリだが、彼女の内心はというと……。
(び、びっくりしたぁぁぁぁッ! なんですかアレ!? 滅茶苦茶意識が土城壁側に向かっていたのに、背後の川から奇襲とか卑怯でしょ!? ビビって反射的に得意魔法を使っちゃいましたが、当たってよかったのと私程度で倒せる相手でよかったぁ。もし手も足も出なかったら、シュート様と姫様に助けを求めて、戻ってくるまで時間稼ぎするしかなかったですよ。そ、それに突然の奇襲で驚いちゃったせいで、下から『尊厳』がちょっと漏れちゃったし……。うぅぅ下着替えたいです……)
胸中では冷や汗を掻きまくりだが、アリスの従者として恥ずかしい面を見せる訳にはいかない。
自身の恥は主の恥だからだ。
……ノーゼル冒険者ギルドで、『シュートの威圧を受けて気絶し、下半身から「尊厳」を解放し恥を掻きまくっているのでは?』という指摘もあるが、彼女的にアレはノーカンである。
なぜならシュート、アリス、レム以外は全員気絶したのだ。
アレは回避不能のため、ノーカンらしい。
『ドンッ!』
土城壁を越えたキリリ達とは反対側で、地震が起きるほどの衝撃音が響く。
キリリ、レムは壁を警戒し、少女は耳を押さえてその場に座り込む。
数秒間、耳が痛いほどの静寂が訪れた。
魔物達の雄叫び一つせず、まるで音がこの世界から消失してしまったのかと疑うほどの静まりかえった。
音は土城壁崩壊と共に回復する。
土城壁が崩壊した際、キリリ、レムは警戒して武器を構え直すが――。
「レム、キリリ、そっちも無事だったか。怪我とかはしていないか?」
「……ふぅー、大丈夫です。皆、怪我ひとつなく無事です。心配してくださってありがとうございます、シュート様」
キリリは安堵感から息を吐き出し、杖を引っ込める。
レムはPKM(擬き)をアイテムボックスに収納し、トテトテとシュートに駆け寄ると彼の足に抱きつき額を擦りつけ始める。
これが彼女なりの親愛の証しのようだ。
シュートはレムの頭を愛おしそうに撫でつつ、キリリ、少女と視線を向け本当に怪我がないか目視確認をおこなう。
キリリの言葉通り問題が無いことに納得し、軽く頷く。
「まさかお2人だけで魔物災害を鎮圧なさるとは……流石シュート様です。ところで姫様は?」
「まだ息がある魔物がいないか、見て回って止めを刺している最中だよ」
シュートが視線を向けると、アリスは『ゴーレム・ソード(大)』を手に、大小クレーターが出来て、木々も見渡す限り切り倒され、地面がめくれ焼かれた戦場跡を悠々と歩き回っていた。
「……これは大丈夫、こっちも大丈夫、うん、まだ生きているから介錯する」
まだ生きていた巨体の魔物に慈悲として『ゴーレム・ソード(大)』を振り下ろす。
首を切り落とし、完全に息の根を止めると彼女は再び、魔物の死体が大小散らばる戦場を歩き出す。
まだ生きている魔物に止めを刺すため……。
そんなアリスの姿を見てキリリ&少女がドン引きする。
キリリは思わずシュートにモノ言いたげな視線を向けてしまう。
「シュート様……」
「オレも止めたんだが本人が『相手が魔物とはいえ戦った相手に敬意を表し自分が慈悲を与える』って真っ直ぐな目で見られたら何も言えなくて……」
「姫様ぁ~、なんで貴女はいつもそんな殺伐思考なんですか!?」
好意を抱く殿方の前で武士のような考え、思考を披露するアリスにキリリが頭を抱える。
とりあず無事に魔物災害をたった4人――実質、シュート&アリスの2人で終息させることに成功したのだった。
スキルマスターを読んでくださってありがとうございます!
今回はレム、キリリ側の視点でしたが、次話で『ドラゴンの牙』のお話になります。
色々地雷を踏み抜いている『ドラゴンの牙』が今後どうなるのか是非是非お楽しみに!
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