4話 『ノーゼル』冒険者ギルドマスター
ダンジョン都市『ノーゼル』に辿り着いた翌朝。
オレ達は『ノーゼル』を治めるアリス姉、次女ミーリスの領主館に宿泊した。
今後、『ノーゼル』滞在中はこの領主館に寝泊まりすることになる。
『では早速ダンジョンに~』と考えていたが、新人がダンジョンに入る前に簡単な説明を受けなければならないらしい。
そのため朝から、『ノーゼル』冒険者ギルドマスターをミーリスが呼びつけ、リビングに待たせていた。
ミーリスからすればオレに気を遣って特別待遇で呼びつけたのだろうが……。
別にオレ達が直接冒険者ギルドに向かって説明を聞いてもよかったのに。
オレ、アリス、レム、キリリが顔を出すと、『ノーゼル』冒険者ギルドマスターがソファーから立ち上がり挨拶をする。
「初めましてスキルマスター殿、皆様。儂――ごほん、わたくしが『ノーゼル』冒険者ギルドマスターを預かるトーマスです」
「わざわざ足を運んで下さりありがとうございます、トーマスさん。シュートです」
オレを皮切りに簡単な挨拶を交わす。
トーマスはダンジョン都市『ノーゼル』の冒険者ギルドマスターだけあり、見た目50歳ほどで短く刈り込んだ髪に白いモノが混ざっているが、背は180cmを越えるほど高く、横幅もある。
未だにしっかりと鍛えているのか、身のこなし、筋肉に切れがあった。
だからと言って『脳筋』という印象を受けない。
むしろ、書類仕事も難なくこなす知的な、出来る男の雰囲気を漂わせていた。
ある意味、男にとって理想的な歳の取り方をしている。
しかしなぜか顔色はあまりよくない。
(……まぁ理由は何となく想像がつくけど)
世界の3割を支配するアイスバーグ帝国の3女アリスだけではなく、色々注目を浴び替えが効かないスキルマスターのオレがダンジョンに潜るため『ノーゼル』を訪れているのだ。
オレ達がダンジョン内部で怪我、事故、死亡、他冒険者に過剰な要求をされたり、絡まれたりしたら――想像しただけで胃が痛くなるだろう。
だからと言って『ノーゼルに来るな』とは立場上、口に出来るはずがない。
挨拶を終えると、オレ、レム、アリスがソファーに座り、背後にキリリが従者として立つ。
テーブルを挟み、向かい側のソファーにトーマスが座る。
彼は軽く咳払いしてから、話を切り出す。
「アリス殿、キリリ殿は経験者のため二度目になりますが、僭越ながらわたくしがシュート殿、レム殿にダンジョンでのルールを説明させて頂きます」
「お願いします」
ダンジョンに初めて潜る冒険者は必ず聞かされるルールだ。
内容自体はそう大したことはない。
1つ、ダンジョン内部で極力揉め事は避ける。
1つ、ダンジョン内部で殺人をおこなった場合、罪に問われる。
1つ、倒した魔物の横取りはしない。
1つ、宝箱は第一発見者が優先される。
――などだ。
つまり、『ダンジョン内部で他冒険者に迷惑を掛けないよう互いに行動しましょう』ということだ。
ただ一つ、特殊な内容が含まれていた。
「滅多に出るモノではありませんが、ブラックオーブを発見した場合、必ずギルドに提出してください。もし意図的にギルドに提出せず、使用したり、外部に持ち出そうとした場合、例えシュート殿、アリス殿といえど処罰対象になるのでお気を付けください」
「ブラックオーブ……確かスキルを得られる代償に精神異常、体の魔物化、殺人衝動の強化など――マイナス効果が付くスキルオーブのことですよね?」
「おおぉ、さすがスキルマスター殿! 博識ですな!」
トーマスが手放しで褒める。
一般的に『ブラックオーブ』の情報は出回っていない。
昔からマイナス効果を甘く見て、『ブラックオーブ』を使用する者達が居て、連続殺人事件や魔物を引き寄せて街を危機に陥れた事案が存在するからだ。
オレが知っているのも、『スキル創造』を取得する前、『どうにかしてスキルを得られないか』と探し回った結果、知ったからだ。
オレ自身、一時『ブラックオーブ』について検討したが、結局リスクが大きすぎて見送った。
「以上、説明を終わります。次はシュート殿、アリス殿、キリリ殿はこちらをお受け取りください」
トーマスが『アイテムボックス』から、クッションに乗った黒金属に金字で書かれたプレートをテーブルへと載せる。
背後でキリリが息を呑むのを気配で察する。
オレも思わず、目を見開く。
噂でしか聞いたことが無いがこの黒金属に金字のプレートはS級冒険者の証しではないか?
ちなみに冒険者ランクは以下になる。
S:トップ
A:一流
B:熟練のプロ
C:一人前
D:半人前
E:駆け出し
以上だ。
S級冒険者に上がるためには長年冒険者ギルドへの貢献、上位討伐記録、昇格試験、筆記が必要なはずである。
A級であるアリス、キリリはともかく、オレはD級で要件を満たしていないはずだ。
なのになぜS級冒険者に認定されているんだ?
オレ達の疑問を先回りして、トーマスが答える。
「アリス殿、キリリ殿は長年の貢献を認めて、シュート殿はD級ですが……『スキル創造』所有者が低いままだと、ランクの高い馬鹿な冒険者が無茶な要求、問題を起こす可能性が高い。それらを避けるため特例としてS級昇格を認めたのですよ」
「なるほど……ですが確かS級昇格には戦闘技能を見るための試験もあったはずですが、そちらはいいんですか?」
「あははは、剣聖殿に決闘で勝利したスキルマスター殿相手に勝てるどころか、試験の相手を務められる者は冒険者ギルドにおりませんよ。やるだけ無駄なので免除ですよ、免除」
尤もな理由にオレ自身、トーマスに釣られて笑ってしまう。
場が和んだところで古いプレートと引き替えに、オレ、アリス、キリリがS級プレートを受け取る。
D級プレートからS級プレートに変えるとトーマスが『D級から一息にS級まで駆け上がったのはシュート殿が初ですな。歴史的瞬間に立ち会えて光栄です』と告げてきた。
またレムは既に話を通していたらしく、トーマスが『E級』プレートを取り出し、直接首にかけ、頭も撫でる。
「ありがとう、じいじ」
「おぉ、よしよし。可愛いお嬢ちゃんだな。もし冒険者が因縁をつけてきたら、儂に言うんだぞ。ギルドマスター権限ですぐにじいじが処罰してやるからな」
まるで孫を甘やかす祖父のようだ。
いや、レムが可愛いのは分かるが……そこまでデレデレになるのはどうなんだ?
アリスは『……レムの可愛さは世界一』と胸を張る。
キリリは『はわわわ、わ、私がS級昇格なんて』とプレートを受け取った後もおののいていた。
トーマスは一通りレムを可愛がった後、再びソファーに座ると真面目な表情を取り繕った。
レムを甘やかした姿を見た後だとギャップが酷い。
「無事、シュート殿達がS級昇格を果たしたことを『ノーゼル』冒険者ギルドマスターが確認した。以後、プレートに恥じない行動を心がけて欲しい。またS級冒険者になったことで周囲から妬み、嫉み、嫌がらせを受けるかも知れないが心して欲しい」
そう言ってトーマスはやや視線を下げ、言葉を続ける。
「……実際、お恥ずかしい話ではあるのですが『ノーゼル』だとダンジョン攻略トップチームの『ドラゴンの牙』が皆様に因縁を付けてくる可能性が高いのです。彼らはトップ攻略チームだけあり魔石や稀少なアイテム、魔物素材を持ち帰ってはいるのですが、『自分達が帝国の産業を支えている』と自称し、自尊心が強い傾向が高く……。なのでもし彼らと問題が起きても自分達で処理しようとせず冒険者ギルドに声をかけてほしい。決して悪いようにはしませんので」
トーマスがテーブルに額を着ける勢いで頭を下げる。
S級昇格についてアメを与えつつ、釘も刺してくる。
さすがギルドマスターまで上り詰めた一角の人物だ。
ここまでされて『いいえ、自分達で解決します』とは言えない。
「分かりました。とりあえず『ドラゴンの牙』にちょっかいをかけられたら自分達で動かず冒険者ギルドにご相談させて頂きます」
「要望を聞いて頂き感謝します」
トーマスは言質を取ったことで、あからさまに安堵する。
どれだけその『ドラゴンの牙』は問題チームなんだよ……。
(とりあえず『ドラゴンの牙』というチームは要注意だな)と、心のメモに書き加えたのだった。
一通りの話し合いが終わると、冒険者ギルドマスターのトーマスが領主館から退出する。
冒険者ギルドマスターとの話し合いは午前中で、まだ昼にもなっていない。
なので、オレ達は早速準備を終えてダンジョンへと向かうことを決定したのだった。
スキルマスターを読んでくださってありがとうございます!
シュート、アリス、キリリのS級昇格!
さらに『ドラゴンの牙』なる妖しい問題など……今回もいろいろ伏線を張っております。
皆様に楽しんで頂けるよう頑張って書いて行きますので、これからもどうぞよろしくお願い致します!




