閑話3 大魔術師
「ママ! ママぁ!」
森に剣聖アビス・シローネの声が響く。
アイスバーグ帝国首都周辺にある森とは違い、気候が寒帯のため真っ直ぐ伸びた背の高い針葉樹系がメインとなっている。
冬になると大量に雪が降り積もり移動するだけで難儀するほどだ。
しかしまだ雪が降るには早い時期のため、アビスはスムーズに目的地へと辿り着くことが出来た。
彼の目的地は北の森奥地に存在する塔だ。
別名『魔女の塔』である。
土魔法で作られているため繋ぎ目のないツルツルとした象牙色の塔で、高さは周囲の木々よりやや高いくらいだ。
扉は鉄と木材で作られており、アビスが叫びながらドアノッカーを『ガンガン』と鳴らす。
彼のスキル『剣聖』が、人の気配を感じ取りノックする手を止める。
ゆっくりと扉が開くと、中から1人の女性が姿を現す。
身長は女性にしては高く、魔女のような帽子にマント、大きな胸の谷間が大きく開いたローブを着ていた。
紫色の口紅に顔立ちも整っており、やや垂れてしまっている大きな胸の谷間も合わさって薹が立っては居るが官能的雰囲気を持つ女性だ。
彼女こそスキル『大魔術師』を所持するアビスの母、ネークア・シローネだ。
「あらあらアビスちゃんじゃない。久しぶり、遊びに来てくれたの?」
「ママぁぁぁぁッ!」
アビスが感極まり涙と鼻水を流しながら抱きつく。
体格差があるため蹌踉けるが、しっかりアビスを抱き留めた。
「どうしたのアビスちゃん? そんな子供のように泣いて。それに少し痩せたかしら? とりあえず中に入りましょう、ね」
ネークアは母親らしくアビスを慰めつつ、塔の中へと戻る。
リビングソファーに2人で座り、アビスが涙ながら『何があったのか』説明をした。
ネークアが一通りの話を聞き終えると、顔を真っ赤にして怒りを露わにする。
「ちょっとスキルが創れる程度で、天に選ばれたアビスちゃんの命令を聞かないどころか恥を掻かせるなんて! 許せないわ! 今すぐ八つ裂きにして魔物のエサにしてやりたいわ!」
さらに怒りはシュートだけに留まらない。
「貴族を廃嫡された無能も許せないけども、決闘後にアビスちゃんを労る所か責任を追及したり、責めた奴等も許せないわね。そいつらも引っ捕らえて報いを受けさせてやらないと気が収まらないわ」
「さすがママぁ! 僕ちゃんのことを分かってくれるのはママだけだよっ!」
「うふふふ、当然よ、わたくしはアビスちゃんのママなんだから」
先程まで泣いていたアビスは感激した様子で笑い出す。
ネークアも喜ぶ彼を前に、相好を崩す。
「でもある意味丁度よかったわ。アビスちゃんも知っての通りわたくし『不老不死』について研究しているでしょ? その研究過程で出きた兵器の実戦投入をしたかった所なの。アビスちゃんに恥を掻かせたシュートっていう小僧と関係者達にぶつけるにはちょうどいいわ」
「でもママ、その兵器は役に立つの? あ、あああのクソ、しゅ、シュートは強さだけは本物だったんだ。僕を、剣聖である僕を辱めるぐらいには……」
アビスはシュートとの決闘で味わった恐怖を思いだしガタガタと震え出す。
思い出すだけで震えるが、彼に対する復讐心を止めることが出来ない。それだけアビスのプライドを大きく傷つけたのだ。
震えるアビスをネークアが抱きしめる。
「安心してアビスちゃん。わたくしが作りだした兵器――人造魔物兵士はかなりのものよ。とはいえ口で説明しても理解し辛いわよね。ちょっと見てみましょうか?」
「うん、僕ちゃんも見てみたい」
「ふふふ、アビスちゃんには特別に見せてあげるわ」
ネークアは上機嫌でアビスの手を取ると、基本本人以外は入れない地下実験室へと案内した。
地下だけあり暗いが、『アイテムボックス』からネークアが取り出した杖、『ヨルムンガンド』を一振りすると壁に埋め込まれた光源が灯る。
その明かりを頼りに石材製の階段を下りていく。
階段にも繋ぎ目が無く、全てネークアが土魔法で作り上げたのだ。
階段だけではない。
塔や地下実験室なども全て彼女が土魔法で作りだした。
シュート以外でこれほどの規模を土魔術で作り出せるのも大魔術師の杖『ヨルムンガンド』の力に寄るところが大きい。
コツコツと音を鳴らし、地下深くへ。
案内された特殊鉄格子の先にネークアが『不老不死』研究の過程で作りだした人造魔物兵士達が居た。
『グゥうァぁぁあゥウゥ……』
成人男性の右腕がカマキリの鎌状になっていたり、顔が半分コオロギの状態になっていた。
他にも足や胴体、体の一部が魔物に置き換えられていた。
ネークアは『不老不死』研究のため脅し、協力させている北国から重犯罪者を譲り受けていたり、奴隷商から奴隷を購入し実験材料として利用していた。
魔石の力で食事を殆ど摂る必要のない魔物達に彼女は注目して、『人間と魔物を合成して魔力を補充すれば生き続けられる生物を創れないか』と考え研究を続けていた。
彼らはその研究被害者とも言えた。
奴隷商から購入した男性が、ネークアの姿に気付き鉄格子を掴み訴える。
「た、助けてくれ! わ、私は奴隷商に騙されて連れてこられただけなんだ! だからここから出してくれ!」
「?」
男の訴えにネークアは意味が分からないと小首を傾げる。
「別に貴方が騙されようが、騙されていなかろうが関係ないわよ。だってわたくしやアビスちゃんのような天に選ばれた存在ならともかく、道ばたに落ちている石ころ程度の価値もないゴミでしょ。むしろ、そんなゴミがわたくしの崇高な研究の捨て石に成れる喜びに感謝してもいいんじゃないかしら?」
「ふ、ふざけるな! あんなおぞましい研究の材料に喜んでなってたまるかッ!」
「あーもー五月蠅いわね。ちょっと黙っていなさい」
「ぐあぁあぁッ!?」
ネークアが大魔術師の杖『ヨルムンガンド』を軽く振ると何かの魔法が発動したのか、訴えていた男は牢屋の奥まで吹き飛びダメージを受けて悶絶する。
「ぐ、ぐぅッ、な、何をしやが……」
「あら、まだ元気があるのね。それじゃこれならどうかしら」
「ぎゃあぁああッ!」
ネークアが杖を一振りすると、男の腕がちぎれ、大量の血が流れる。
のたうち回っている男にさらに攻撃を加え黙らせると、ネークアは息子の前で奴隷に意見されたのが恥ずかしかったらしく、申し訳なさそうに謝罪する。
「ごめんなさいアビスちゃん。思った以上に研究材料の元気が良くて。恥ずかしいところを見せちゃったわ」
「気にしないでママ。それより……」
アビスは母と研究材料と言い切られた男のやりとりなど気にせず、人造魔物兵士に見入る。
彼は人造魔物兵士らを前に、落胆した表情を作ってしまう。
確かに強くはある。
並の兵士、冒険者なら相手にならない。
一流とされるLV50クラスでようやく相手になるかだ。
しかしスキル『剣聖』を持ち戦いに恐怖を抱く前のアビスからすれば、しっかりと武装を整えれば10、20程度なら問題なく対処出来る。
そんなアビスを圧倒したシュートなら……言わずもがな。
アビスの落胆を予想していたのか、ネークアが上品に笑う。
「アビスちゃんの反応からするとシュートっていう小僧は余程強いのね。人造魔物兵士達もかなり強いのだけど」
「うん……僕ちゃんに勝つぐらいだから……」
「まぁ、その反応は予想済みだけど。本命はこっちよ、来て」
次に向かったのは硬く閉ざされた扉だ。
その覗き窓から、アビスに中を覗かせる。
「!? これは……」
ネークアは覗き窓から中を見て固まるアビスに朗らかな声音で告げた。
「どれほど強くても『殺す』方法なんてごまんとあるのよ。ただ暴力を振るだけが殺し方じゃないわ。アビスちゃんの話を聞く限り、そのシュートっていう小僧には覿面に効く兵器でしょ?」
「あは! あははははははははははははははははッ! やっぱりママは最高だ! 確かにこの兵器なら、あのクソシュートに効果覿面だよっ!」
先程まで落胆していたアビスは一転、上機嫌に笑い出す。
そんなアビスを愛おしそうにネークアは見つめていた。
「これだけじゃまだ不安だから、念のためわたくしの傘下にある国も出兵するよう告げておきましょう。国を挙げてアビスちゃんに恥を掻かせたシュートや関係者達に罪を償わせてあげましょうね」
「なら魔剣『グランダウザー』を斬られた勇者教、他貴族や国々にも内々で声をかけよう! シュートを目障りに思っている奴等は少なからず居るから、僕ちゃんとママが立ち上がったと知れば協力するはずだよ!」
「さすがわたくしのアビスちゃん、なんて賢いのかしら」
アビスは暗い地下で爛々と復讐の炎を瞳に燃やす。
「待っていろシュート……アイツの目の前でアリスや従者をいたぶって、死を願うほど苦痛を味わわせてやる。僕ちゃんに恥を掻かせたことを文字通り死ぬほど後悔させてやる!」
アビスが狂気的な笑い声を再びあげる。
そんな彼をネークアは『もうアビスちゃんは大きくなってもヤンチャなんだから、しょうがないわね』と言いたげな表情を浮かべていた。
例え一方的な逆恨みで『人を生きたまま過酷な拷問にかける』と叫んでいるにもかかわらずにだ。
こうしてシュートに対して剣聖、大魔術師、一国家が戦争を仕掛ける準備を開始したのだった。
スキルマスターを読んでくださってありがとうございます!
剣聖&大魔術師登場!
剣聖も剣聖ママも書いていて非常に楽しかったです!
また明日、感想返答をアップする予定なのでそちらも是非チェックして頂ければと思います。




