16話 決着後
『スキル創造者さまぁぁぁぁ!』
『格好良かったです!』
『スキル創造者さま、素敵過ぎ!』
『スキルマスター!』
『廃嫡された貴族のくせにやるじゃないか!』
『弟子にしてください!』
『俺こそ弟子にしてください!』
『指南してください!』
アビスとの決闘に勝利し、女性達からは黄色い声援が、男性達から野太い応援と『弟子にしてくれ』、『指南してくれ』や『自分とも決闘を』など声をかけられる。
声援と黄色い声、物騒な掛け声全てを愛想笑いを浮かべ、手を振りつつ、アリスとキリリが待つ出入口へと戻って行った。
アリスは祈るように両手を握り締め、キリリは一歩下がってずっと観戦していたようだ。
2人の前に再び戻ってくる。
「ただいま、2人とも」
「……おかえりなさい。賢者シュート様にお怪我が無くて安心した」
「お陰様でね。しかし装備、ステータス的に負けるとは考えていなかったけど、ここまで圧勝したのは予想外だったよ」
一応、切り札として『時間系スキル』があった。
相手を遅くする『スロー』、自身を加速させる『アクセル』を使用すれば例えアビス側に予想外の手札があったとしても確実に勝利すると考えていたが、ここまで圧倒できるとは想定外だった。
そんな会話をしつつ、アリスが耳の先まで赤くした状態で出迎えてくれる。
どうやらオレと剣聖の戦いを目の前に、武人の血が騒いだのだろう。
背後でキリリがニヤニヤ笑っているのが気にはなるが……。
とりあえず忘れないうちにオレは切り出す。
「約束通り剣聖に勝ってきたから、お願いを聞いてくれないか?」
「……ッ!」
アリスの顔がさらに赤くなり、瞳を潤ませる。
胸の前で組んでいた手を解き、自身の体をギュッと抱きしめつつ答えた。
「……け、賢者シュート様のお願いは断らない。でも、今すぐはちょっと。まだ明るく、あ、汗もかいているから一度帰ってお風呂に入らせてもらえると嬉しい。で、でも賢者シュート様が今すぐっていうなら自分はう、受け入れる」
「…………」
キリリが背後でニヤニヤしている理由を理解する。
どうやらアリスは事前に約束していた『剣聖との勝負でオレが勝ったら一つだけお願いを聞いてくれないか』をエッチなお願いと勘違いしているようだ。
別に興味が無い訳ではないし……アリスは非常に可愛らしく、好みのタイプだが、こんな『お願い』で手を出すほどオレは鬼畜ではない。
変な誤解を受ける前にさっさと用件を切り出す。
「約束通りお願い――スキルオーブを使ってくれないか?」
「……えっ?」
「アリス、キリリがオレの事を気遣ってスキルオーブを受け取らないのも理解できる。でも折角、こうして知り合って仲良くなった2人が危険な目に遭うのは避けたいんだ。これはオレ自身の我が儘だ。だから、以前作ったスキルオーブを改めて受け取ってくれないか?」
『まさか帝国のお姫様が約束を破るなんてマネしないよな』と最後に軽い調子で釘を刺す。
アリスはこの指摘に、嬉しそうな笑顔を浮かべそうになるが、両手で頬をムニムニと弄り自重をうながす。
本来は立場上諫めるべきにも関わらず、オレの気持ちが嬉しくて思わず笑みを浮かべてしまった――と言った所だろう。
「……狡い。そんなお願いされたら断れない」
「2人の安全を守るためなら、ちょっとぐらい狡くもなるさ」
最初『アリスのためなら』と口から出そうになったが、気恥ずかしくて慌てて『2人の安全』と言い換える。
それでもアリス的には嬉しかったのか、手で押さえても喜びの笑みが止められず喉まで赤くして、笑顔を作った。
オレとアリスの間が良い空気に包まれる。
――しかし、そんな良い空気は長くは続かなかった。
「……賢者シュート様の気持ちはとても嬉しい。でも、今ここでスキルオーブを受け取るのは難しい。いくらなんでも人目が多すぎる。オーブは離れに戻ってから受けとるでもいい?」
「あ、ああ、もちろんだ。オレもさすがにここで受け取って欲しいとは言わないよ」
「……よかった。ちょっと自分はキリリと『お話』があるから、賢者シュート様はお疲れだろうから先に帰っていて欲しい」
アリスが微笑みを浮かべオレに断りを入れると、背後を振り返る。
アリスの背後に立っていたキリリが、ジリジリと静かに彼女から距離を取るように後退していた。
振り返ったアリスを見て、キリリが短く『ヒィッ』と悲鳴をあげる。
オレの位置からだと、彼女の後頭部しか見えないが、『自分は怒っています』というオーラが背後から陽炎の如く昇っているのが目視できそうだった。
アリスの怒りを向けられたキリリが慌てて弁明の台詞を吐き出す。
「お、落ち着いてください姫様! 確かに私は色々言いましたが、別に姫様を陥れようとした訳ではありません! あくまで一般的男子なら考えそうな『お願い』を提示しただけです! 第一、シュート様のお願いが『スキルオーブを使用して欲しい』なんて普通分かりませんよ!」
いや、普通に分かるだろう。
むしろ強引な流れでアリスはともかく、キリリにバレバレだと考えていたんだが……。
逆に彼女はアリスにどんな意見を上げていたんだよ。
キリリは両手を前に突きだし、涙目で弁明する。
アリスはすたすたと距離を縮め、彼女の襟首を掴んだ。
「……詳しい話は奥で聞くから、付いて来る」
「しゅ、シュート様、助けて! お慈悲を~~~~!」
アリスが聞いたことが無い硬い声音でキリリをズルズルと薄暗い出入口奥へと引きずって行く。
キリリも抵抗しようとするが、アリスの筋力は1000、一方彼女の筋力は35と圧倒的で抗う術がなかった。
キリリは『最後の望み』とばかりにオレへと助けを求めてきたが、微苦笑を浮かべて見送る。
アリスに吹き込んでいた内容にもなんとなく想像がつくため、『大人しく怒られてくるように』と意趣返しした。
とりあえずこうして『スキル創造』所有者シュートvs『剣聖』アビス・シローネの決闘が終了したのだった。
スキルマスターを読んでくださり、誠にありがとうございます!
アリスが恥ずかしがるシーン、キリリが会場奥に引っ張られていくシーンが書けて非常に満足です。
こういうキャラクターのやりとりは書いていて楽しいんですよね。




