無駄遣い
ベスパは店の開店に必要な備品を購入するため、大量の銀貨を所持し、かなり緊張していた。
(いやぁ…こんなこと、頼まれた事なかったぞ? これで銀貨盗まれたら、一生、タダ働きコースすじゃね? いやいや、実はアルバが裏で手を回して、盗賊を雇っていていたとしたら?)
などと、馬鹿な妄想で楽しんでいると、街の通行人が聖女様が来たとざわつき出した。ベスパも目線を上げて凝視すると、神殿の聖女と護衛の聖騎士が我が物顔で、街を練り歩いていた。そして他の通行人と同様に無用なトラブルを避けるために道の端に寄り、その一行が過ぎるのを待つ。
「おやめください。そのような者など、ただの噂に過ぎません」
「いいえ。栄えある太陽神の権威が傷付けられたのです。真実を確かめなくてはなりません」
「しかし、駆け出しの冒険者が、西地区の重症患者を全て救ったなど…」
ベスパは通り過ぎる聖女達の会話を聞いて、巻き込まれるのはゴメンだと思い、帰る時間を遅らせることにした。
(買い物を済ませてからだと、荷物がいっぱいだよな…。先に休憩ですもするか)
ベスパは大通りを進み、商業通りに出ると、左折する。商業通りは朝から小洒落たカフェがオープンしていて、冒険ギルドがあるゴブリン通りとは街の作り自体が異なっていた。道には綺麗な石畳が敷き詰められていて、魔導街路灯ですらデザインや色彩が街との調和が意識され、その間には綺麗な花がプランターで彩りを添えていた。
自分の人生に疑問を持つ。生きるだけで精一杯だった。こんな小洒落たカフェで朝のひとときを優雅に過ごせるような人生を送れるときが来るのだろうかと。今しか無いと、冒険者になった時のために貯めておいたお小遣いを無駄遣いすると決めた。道路に沿って数件あるカフェの中でも、オープンテラスに白と茶色のテーブルが並ぶ店に入る。
ベスパは開いた席に適当に座る。接客担当は他の客からオーダを受けていた。メニューを見ながら、その様子を見聞きする。居酒屋での自分が元気重視なのに対して、ここでは品格重視のようだ。別の接客担当が自分のところへ来た。自分を見て少々驚いているのに気が付いたが、他の接客と変わらないので安心する。父親が冒険者で羽振りが良い時、学校へ行く準備として文字の読み書きを事前に教わっていたのだ。だが困ったことに文字だらけのメニューを見ても想像がつかない飲み物ばかりであった。
「苦味? 甘味? ゲェレンダー産?」
接客担当は、そんなベスパに助け舟を出す。
「当店は初めてのご利用でしょうか? オススメは甘いのがお好きでしたら、こちらのプーレ産のチョコレートを使用したチョコカフェオレ。苦いのがお好きでしたら…」
「じゃ、そのチョコカフェオレで。えっとそれと…。このチキン&たまごサンドをお願い」
「はい。畏まりました」
ベスパは気が付いていないが、ベスパの着衣は、俗に言う”下民服”であり、この商業地区では好ましく思われていないのである。そんな冷たい視線など気にする様子もなく、テーブルに並ぶチョコカフェオレとチキン&たまごサンドに目を輝かせる。
初めて飲むチョコカフェオレに感動し、チキン&たまごサンドに舌鼓を打つ。そんな幸せそうなベスパの顔を見ていた他の客達は、何とも微笑ましくなり、冷たい視線から温かい目で見るようになっていた。
食べながら通りを行き交う人たちを観察していた。すると父親が健在ならば自分も通うはずであった学園の制服を着た生徒たちに目が釘付けになる。
こちらの視線に気が付き、学園の生徒たちも、こちらをチラ見する。何だが気まずくなり、通りを観察するのを止めて、テーブルに視線を落とした。
「ベスパ?」
何やら懐かしい声が聞こえた。




