喧嘩の代償
複数ある小説の一つが佳境を迎えたので…。
クラス、ステータス、チート系、そんな物語が書きたくて。
この店の特徴は冒険者ギルドと居酒屋がワンフロア内にあり、中央に植えられた屋根をも突き抜ける大きな精霊樹で分けられていることだろう。冒険者ギルドの大きさは受付カウンターの数で決まると言って良い。ここのカウンター数は2つだ。正直小さい。だが受付嬢の頑張りと割の良いクエストでそこそこの人気を博している。またお隣の居酒屋は低価格の料理と利益度返しの酒により、夜になると冒険者ギルドの席まで埋め尽くされる程の盛況ぶりだ。
冒険者たちは昼必死にクエストをこなし、夜には居酒屋で報酬を使い果たす。そんな毎日を送っているのだ。そして今夜も日常となった店内の喧嘩が始まる。しかし、いつもと違うのは、2mを超える屈強な大男の相手だ。この場にいることが似つわしくない少年が、殴り合いの喧嘩を繰り広げていた。
精霊樹のどらいアドちゃんが、三代目に就任してから二ヶ月。住み込みで働く、その少年にLv999で取得するスキルにて作ることができる、<神樹の種>を一ヶ月間与え続けていた。<神樹の種>とは、ステータスの一部、例えばSTRなどを強制的に増やすドーピング&魔改造を目的とした究極のアイテムだ。この<神樹の種>は、ステータスに反映されるのだが、鑑識などのステータスを読み込むスキルでは検知できない。またドラゴンを一撃で倒せるSTRを身に付けようと、ムキムキマッチョなどにならず、身体の見た目も一切変わらない。ちなみに、ひと粒で1〜9までランダムアップだ。
さて、一ヶ月間、<神樹の種>のSTT版とVIT版を与えた少年のステータスを見てみよう。
■名前:ベスパ ■種族:人間 ■クラス:雑用係(Lv3)
■HP:180/180
■MP:22/22
■STR:6(+92)
■DEX:7
■VIT:5(+85)
■AGI:8
■INT:4
■MND:11
■LUK:6
■CHA:10
■保有スキル:なし
数値的には、【1〜25】一般人、【26〜50】初心者、【51〜75】中級者、【76〜100】上級者、【101〜】国宝、となる。ちなみに()内の数値は、神の与えし力であり、鑑識などでは読みてれないのだ。
そんな少年が、中級冒険者の2mを超える屈強な大男を相手に善戦しているから、居酒屋にいる酔っ払い達のボルテージは最高潮に達していた。
元々、少年の拳はスピードもテクニックも無く、大男に全く当たらなかった。反対に大男の拳は、何発も少年の顔や腹に命中していたのだが、少年は決して倒れることはなかった。決して倒れない少年に、酔っぱらい達は歓喜し、遂には少年の応援を始めたのだ。そして「ガキのパンチから逃げてんじゃねぇ」、「男なら耐えてみせろ」などの罵声に煽られた大男は、少年の拳を受けて立つことにしたのだ。
「よし、パンチを一発ずつ、交互に打ち合う。ゴーレムアタックゲームでケリを着けようじゃねぇーかっ!!」と大男は宣言したのだが、それが失敗だったと後悔することになった。
少年の拳が初めて大男にヒットした。少年の拳は固く重い。ズドンッと、巨大は鉄のハンマーの直撃を喰らったかのように、大男の体はくの字に曲がったのだ。
大男は一応防御姿勢と腹に力を入れていたのだが、それを全く無視するような攻撃力であった。しかし腐っても中級冒険者だ。吹き飛びそうな意識の中、プライドを賭けて立ち上がった。立ち上がったのだが、ハッとする…。このガキは俺が何発殴っても、倒れなかった…。こ、この一撃で決めねぇーと、俺が殺られるっ!!!
大男は全身のバネを使い踏み込むと、少年の顔面に拳を繰り出す。周囲の酔っぱらい達も、その攻撃が意味する結果を知っていた。
誰もが思った。ちょっとして…遊びの喧嘩だろ? 誰が殺せと言ったのだと…。