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終焉世界に捧ぐマギアクロス! 〜異世界魔人英雄譚〜  作者: 緑川あそぶ
第1章 侵略されし世界
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第12話 怪奇! トカゲ男


「う……、ここは……?」

「お目覚めかな?」


詩朗が目を覚ましてまず視界に入ったのが────、頭がトカゲの顔をした奇怪な男だった。

それがドアップで詩朗の目の前にあった。

突然の光景に意識は一気に覚醒する。


「ぎゃあああああああああああ!!!!!!

トカゲのお、お化けえええええ!!!!」

「ごふっっ!!」


驚きのあまりトカゲ男を蹴飛ばし、壁にぶち当てる。

部屋はそれまで詩朗がいた牢屋とは違った場所の様で、白を基調とした清潔な空間だった。


「な、なに!? どうしたの」


騒ぎを聞きつけ部屋にアニーが慌てて入ってきた。

昨日、ノーフに傷つけられた額の怪我は綺麗さっぱり無くなっていた。


「あ、あああアニー! 目が覚めたら、トカゲのアンデッドが! 早く追い出さないと!」


詩朗はベッドから降りて、手元にあった枕を構えてトカゲ男に対して臨戦態勢をとる。

その様子を見たアニーは事情を察したようで、「見てしまったかー」と言いたげに、髪をかきあげた。


「詩朗、初めて会ったから驚くのも無理はないけど、そいつはアンデッドじゃないわ。私達の味方よ、一応」

「アニー殿! 人に向かってそいつとは失礼ですぞ! あと、一応とはなんですか! アニー殿達の完全なる味方ですぞ、我輩は!」


トカゲ男が体を起こし、アニーに対して抗議する。

トカゲ男の身長は高く、詩朗が見上げる程だ。

体格もがっちりとして、紺色のきっちりとしたスーツを身にまとっている。

声もしっかりとした低めのよく響く声で、頭以外のパーツに限って言えば、きっちりとした

印象だ。


しかし、肝心のトカゲ頭がそれらの要素を台無しにしており、形容しがたいバランスを醸し出している。

よく見るとトカゲの目はガラスでできており、それ以外の部分も金属製でできた被り物ということが分かる。


「み、味方なの!? どう見ても敵キャラじゃん!」


詩朗は思わず、思った事を正直に口に出した。


「敵キャラとは失礼な! 人を見た目で判断するとは紳士的ではありませんぞ、詩朗殿」

「なんで俺の名前知っているの!?」

「あ、ごめんなさい。さっき名前を教えたから。……ジェルマン、あなたも落ち着いて。あなたの見た目を見て、驚かない人間はいないわよ」


アニーがジェルマンに釘をさす。

それを聞いて、ジェルマンは頷き、自己紹介を始める。


「それもそうですな。紳士たる者、まずは名を名乗らなければ! 我輩の名はジェルマンと申します。 この騎士団で回復士をやっている者。

どうかお見知りおきを」

「回復士……?」

「魔法で傷を癒す事ができる者の事よ。回復士は数が少なくてね。ジェルマンはこう見えて、回復魔法のエキスパートなのよ。詩朗がずっと目を覚まさなかったから、ちょっと診てもらってたのよ。 ……でも、良かった、元気そうで」


アニーは詩朗に向かってニコリと微笑む。

こういった事に慣れていない為、気恥ずかしさから顔を背けてしまった。

詩朗は先程から気になっていたジェルマンの頭について尋ねてみる。


「……ところで、どうしてトカゲの被り物を?」

「これかな? これは……、趣味です」

「趣味……? なら、仕方ないか……」

「いや、納得してどうするのよ。突っ込むところでしょ。そこは」


アニーが呆れた様子で物申す。

その時、部屋に誰かが入ってきた。

頭に巻いた赤いバンダナがトレードマークの

サリー・マーキシーだ。

サリーはいつものような軽い口調で、詩朗に話しかける。


「よう。 目が覚めたか。昨日は助けられたな」

「おかげ様で。 そういえば、クレティアさんは?」

「クレティアなら怪我人の対応に追われている。あいつも会得するのが難しい回復魔法を使えるからな。俺たちもジェルマンも、さっきまで、怪我人や死傷者の対応やらで忙しかったところだ」

「そうですか……」


あれだけの騒ぎだったのだ。

当然、死んでしまった人達もいるのだろう。

犠牲になった人達の事を思うと、いたたまれない気持ちになる。

そんな詩朗の気持ちを察したのか、アニーが話しかける。


「詩朗、大丈夫?」

「え? あぁ、大丈夫。そうだ、孤児院の人達は? ベルは無事なの?」

「えぇ、無事よ。今は騎士団で保護しているの」

「……そっか。あぁ、そういえば二人ともここに来たのはどうしてですか?」


サリーが咳払いしながら、答える。


「あぁ、急な話だが、今から領主にあってもらいたい」

「領主?」

「簡単に言えば、このリンボシティで一番偉い人って事さ。お前と直接話がしたいらしい」


詩朗はゴクリと唾を飲み込んだ。

サリーは詩朗の緊張を読み取ったのか、表情を崩して喋りかける。


「まぁまぁ、そう硬くなんな。もしかして怒られるとでも思ってるのか?」

「緊急事態とはいえ、牢屋壊してしまったし、脱走しちゃったし……」

「はは。あんなの気にしてねぇよ。お前が助けに来なかったら、もっと多くの犠牲者が出ていたんだ。その事に間違いはねぇ」

「……そう言ってもらうと、助かります」


少し重くなった空気をかき消すように、ジェルマンが咳払いした。


「さて、我輩もここから出らねば。まだ我輩には()()があるのでね」

「あぁ、頼むぞ。ジェルマン」


ジェルマンは手を振ると、そのまま部屋を出て行った。

準備とは何だろうと思ったが、その考えもサリーに遮られた。


「詩朗。早速だが、ついてきてもらうぞ、俺たちの領主の元へ。

「……分かりました」


詩朗はベッドの横にある机に畳まれていたパーカーに袖を通すと、アニーとサリーに連れられて、部屋を出て行った。











サリーとアニーに領主がいる部屋まで連れてこられた詩朗はひどく緊張していた。

元来、あまりコミュニケーション能力が高くない詩朗にとってはこういった場所は苦手なのだ。

上品さと荘厳な雰囲気を纏った広い部屋だった。

そして、詩朗の目の前には年配の男性が椅子に腰掛けていた。

白を基調とした、いかにもな貴族然とした服装で左目に片眼鏡をかけている。

金髪で彫りの深い顔に、穏やかな微笑を浮かべている。


「閣下。先日話していた通り、魔人に変身できる少年を連れてきました」


いつもひょうきんな態度のサリーが、この時ばかりは真面目に詩朗を紹介する。

閣下と呼ばれた男性は、微笑を浮かべたまま落ち着いた声で話し始める。


「昨日話していた少年だね。 おっと、自己紹介が先だったな、私の名はラスティーユ・グレイス。このリンボシティの領主をやらせてもらっている者さ」

「は、初めまして。有木詩朗《ありぎしろう》って言います」


緊張のあまり声が上ずってしまった。


「はは。そんなに固くならなくてもいいよ。といっても、いきなり連れてこられたんだ。

緊張するのも無理はないか」


ラスティーユは砕けた口調で詩朗を気遣う。

そんなラスティーユの態度に詩朗の警戒心も徐々に解けていった。


「さて、君の事は大体聞いているよ。ここに来た時の記憶がない事。そして、魔人となり二度もアンデッドを倒した事も。まぁ、牢屋を派手に壊されるとは思わなかったがね」

「……すみません」

「落ち込まなくていいさ。今の言い方は意地悪過ぎたかな?」

「……閣下、そろそろ本題に」


サリーが口を挟む。


「おお、そうだった。単刀直入に言おう、今日呼び出したのは君のこれからについて話したいからさ」

「これからの事……ですか」

「そうさ。君の存在は君が思っている以上に、我々にとって重要なのだよ。有木詩朗君」


ラスティーユは微笑を浮かべたまま、親しげな口調で語りかける。


「君は魔人という存在がどういったものか、ご存知かな?」

「ある程度は。全部で7人いてアンデッドを率いて、この世界を侵略しているって。実際に見たわけじゃないので、いまいちピンと来ていないですけど」

「その通りだ。通称『七魔人《セブンシンズ》』と呼ばれる彼らは1年半前に突如、このワラキアに現れ、アンデッドを生み出し、多くの人々を虐殺したのだ。このリンボシティにもアンデッドに村を襲われ、逃げてきた難民が数多く存在している。……非常に嘆かわしい限りだ」


ラスティーユはぎゅっと唇を噛み締め、その瞳は涙で滲んでいた。

ラスティーユは詩朗の方へと振り向き、表情を変えた。


「だが、そんな時君が現れた。君は二度もアンデッドを打ち倒してくれた。君がいなければ、犠牲者はもっと増えていただろう。感謝している」

「あ、ありがとうございます。」

「そこで提案がある。君の魔人の力を使って、アンデッド達からこの街を守ってくれないだろうか? もちろん報酬は出すし、できる限りこの世界に馴染むようサポートしよう」

「えっ? 」


詩朗が困惑していると、隣にいるアニーがラスティーユに抗議してきた。


「待ってください、閣下。 彼は魔人に変身できる事以外はただの少年なんです。今まで

上手くいったかもしれませんが、戦い慣れしていない彼をいきなり戦わせるなんて……、責任が大きすぎます」

「口を挟むのは後にしてくれないか、アニー・アルジェンタール。私は今、彼と話しているんだ。これからどうするかは彼自身が決めるものだ」


ラスティーユは目つきを鋭くさせ、アニーを睨みつける。

そんなラスティーユの威圧負かされて、アニーは「申し訳ありません」と謝罪し、黙り込んだ。

ラスティーユは再び詩朗に向き合い、表情を柔くして語りかける。


「これは君の為でもあるんだ、有木詩朗君。

街の人々の中には、君の事を疎ましく思っている者も多い。無理もない事だ。今まで〈魔人〉とアンデッドに苦しめられてきたのだから。

だが、君がその力を人々を守るために使ってくれるのならば、疎ましく思っている者たちも考えが変わるかもしれない」

「それは……」

「すまない。この言い方は卑怯だったね。もちろん君に理強いをさせる気はないよ。ただ我々の状況も理解してほしい」


そう言うラスティーユは口調こそ穏やかなものの目は笑っていなかった。

隣にいるアニーは何か言いたげに唇を噛み締めている。

詩朗はラスティーユを第一印象こそ穏やかな人物だと思っていたが、冷徹な部分も持ち合わせていると感じた。

詩朗は目を閉じる。

どうしてこの世界に来たのか、自分が魔人に変身できる力があるのか、その答えはきっと七魔人《セブンシンズ》と呼ばれる魔人達と戦わなければ見つからない気がする。

周りの3人が見守る中、詩朗は覚悟を決めて口を開いた。


「……わかりました」


周りにいる3人に緊張が走る。


「俺……、戦います。自分にその力があるのに見て見ぬふりをしたくないんです。 それに魔人達と戦っていけば、自分が何故この世界に来たのか分かるかもしれない。だから、戦います。魔人達と! 」


詩朗は力強く宣言した。

その返答にラスティーユも満足げに頷いた。

その表情には先程の鋭さはなく、心から安堵しているようだった。


「ありがとう、有木詩朗君。君に女神の加護がある事を祈るよ。そうと決まれば君が落ち着ける住まいを用意しなくては。これから街を守ってくる者を、ずっと牢屋に居させるわけにはいかないからね」

「本当ですか!? ありがとうございます!」


いつまで牢屋にいなくてはならないんだと不安になっていたところだったのだ。

しかも、住まいまで提供してくれるという。

これからこの世界での暮らしが始まるかと思うと少しドキドキしていた。

そんな時、隣にいるアニーがそっと耳打ちをしてきた。


「よかったの? 不安じゃない? いきなり戦えなんて言われても」

「うーん。全く不安がないわけじゃないけど、自分に力があるのに見過ごせないよ」

「わかった。あなたがそう判断したなら、これ以上は言わない」


アニーはそう言って離れる。

その表情はどこか申し訳なさそうだった。


「では、閣下。本日はこれにて失礼します。

彼の待遇については、部下に準備させます」

「頼むよ、サリー。有木詩朗君、君の協力には感謝する」

「い、いえ。大した事では」

「では、これにて」


サリーは頭を下げて、アニーと詩朗を連れて、部屋を出た。

部屋を出た瞬間、サリーがふぅと、ため息をついた。


「相変わらずこういうのは慣れないな。俺は剣でも振るっている方が、性に合っているぜ」

「ありがとうございます。なんか、いろいろ話をしてくれてたみたいで」


「いいって事よ。それよりも今から身体検査を受けてもらわなきゃな」

「えっ? 身体検査?」

「ジェルマン!」


困惑する詩朗をよそに、サリーがジェルマンの名前を呼ぶ。

すると、廊下の向こう側から待ち構えていたかのように、ジェルマンが姿を現した。

両手になにやら注射器のような巨大な器具を持って。

それを見て、詩朗は物凄くイヤな予感がした。


「お前自身だってその力について分からない事だらけだろう? 検査すれば何か分かるかもしれないし、俺たちだって魔人の力について知る手がかりが見つかるかもしれない。

そうなれば一石二鳥ってわけさ」

「それはそうですけど……。検査って何があるんですか? まさか、解剖されるとか!?」

「なんでその発想に……。そんな事しないわよ。……しないですよね? 団長」

「はははは」

「いや、否定してくださいよ!? 不安しかないんですけど!?」


狼狽える詩朗を無視して、ジェルマンが詩朗の腕を掴んだ。


「落ち着きなされ、詩朗殿。大丈夫だから、ちょっと、ちょーーっと体をいじるだけだから」

「全然、安心できない! アニー、助けて!」


詩朗はアニーに救いを求めるも、


「ご、ごめんなさい。私は今から用事が……」

「ええー、 そんなー」

「よし、では行きますぞ。詩朗殿」

「ちょっと待って。心の準備が……」


ジェルマンに無理矢理に連れられて、廊下の奥へと姿を消す詩朗。

それを苦笑いで見送るアニーとサリーであった。


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