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フェアリー・クインテット  作者: 芝森 蛍
蜂蜜酒に踊る即興曲(アンプロンプチュ)
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第七章

「先輩は、ニーナ先輩ですよね?」

「何、今更怖くなった?」


 悪戯に笑みを浮かべるニーナの視線に告ぐべき言葉を見失う。

 そんな間に、ニーナは勝手に語る。


「今まで土足であたしとお母さんの間に入り込んで、引っ掻き回して。本当に感謝だけしてるとでも思ってた?」


 鋭い言葉に、事実を受け止める。

 彼女にしてみればいいお節介だ。知らない間に勝手に結ばれた約束で、(あまつさ)えそれを取引材料にされて母親と真正面からぶつかる機会を得たニーナ。

 客観視すれば、彼女達親子の問題にクラウスが首を突っ込んだだけ。当人達からしてみれば……特にニーナは、与り知らぬところで勝手に立たされた舞台。

 結果論だけ語れば母親との間に出来た溝を埋める事が出来た綺麗な終わりだ。けれど振り回された彼女がそれ一つで納得できないのは分かっていて、クラウスは覚悟を決めて踏み込んだのだ。

 それが必要だったから。


「ふざけないでもらえるかしら。幾ら貴方と言えど、あたしはそこまで許せない。勝手に人の問題に首突っ込んで解決したからそれで全て不問にしろって? 馬鹿じゃないの? 驕るのもいい加減にしたら?」


 もちろん彼女がそう言った気持ちをわざと押さえ込んでいくれていた事には気付いていた。けれどいつからかクラウスはそれに甘えていたのだと。


「ヴォルフだって、ユーリアだって。少なからず思ってることよ。何で他人の貴方にそこまで振り回されなきゃいけないのかって」


 当たり前。当然の、その通り。だからこそ反論は見つからない。


「それでもどうにか飲み込んできたのはね、クラウス君が夢を見せてくれたからよ」


 そうして紡がれた言葉に、思わず顔を上げる。


妖精の国(アルフヘイム)……。夢物語の幻想郷に、もしかしたら連れて行ってくれるんじゃないかってね。でもそれを、一度裏切った。勝手にあたし達に押し付けて離れて行った。…………分かってるんでしょう。何のために、あたし達がこの二年努力してきたのか」


 アンネ、ヴォルフ、ニーナ。今まで語られた三人からの話にだって何度も出て来た、その理由。


「貴方のためよ、クラウス・アルフィルク。一度失敗した貴方に期待してるから、戻ってきて欲しいってみんなが力を惜しまなかったの。……今まで他人の問題ばかりは解決してきた貴方が、唯一失敗した自分の問題。失望したくなかったのよ。貴方は、このままでは終わらないって。縋って居たかったの。それだけ大きなものを、置いて行ったの」


 そんなのは、分かりきっている。二年前の春に、委員会を設立した時に覚悟は決めていたつもりだ。

 巻き込んだからには、その責任を背負うと。必ず果たすのだと。

 けれどそれに、報いる事が出来なかった。その、罪。

 悔やんだってどうにもならない。反省したって何も戻らない。


「ねぇ、それがあたし達に対する贖罪だと思わない? 勝手に振り回して、首を突っ込んで、期待させた、その償い。あたし達を動かさせた、その希望…………。叶えるだけの意味があるわよね?」

「…………はい」


 重く、頷く。

 彼女達は、優しい。優しすぎる。

 悪態を飲み込んで、子供の夢に付き合って踊って、その上で失敗したからと、更なる償いの場を用意してくれたのだ。

 真正面から振り回せる、クラウスにとっての方便を揃えてくれたのだ。


「だったら中途半端はやめなさい。一度巻き込んだなら、最後まで責任を果たして。あたし達を利用したいなら、利用できるだけすればいい。その代わり、あたし達の全てを背負いなさい。知らなくて良い事なんて、存在しない。知ればその分だけ、貴方は逃げ道をなくして、前に進める。真実から目を逸らさないで」


 悔しくなる。今まで散々道具のように切り捨ててきた彼女達に、助けられている事に。悪役になりきれない自分がいる事に。

 どこかで線引きを間違えていた。何度も、そう自分に言い聞かせて来たではないか。

 彼女達は、クラウスの駒だと。だったらただの駒として、非情になるべきだ。全てを知って、それさえも彼女達を操る手段にすればいいだけだ。

 それを、ニーナが……全員が許してくれる。


「駒にしたいなら好きにしなさい。けどそれだけの覚悟を見せて。あたしを利用したいなら、あたしから目を逸らさないで。あたしの全てを知って。そうじゃないと、ニーナはニーナを預けられない」

「…………はい」


 また一つ、頷いて。そうして顔を上げれば、いつの間にか見慣れた顔が増えている事に気がついた。


「……テオ…………」

「よう。よく眠れたか?」

「うん。起き抜けに、今し方説教されてたところ」


 ようやくいつも通りに冗談を紡げば、ニーナが席を立った。


「説教だなんて酷いわね。愛すべき後輩への助言でしょ?」

「……また仕事か?」

「ちょっと休憩よ。代わりに二年間の話でもして教えてあげなさいな」

「先輩、さっきの話の続きどうするんですか……」

「テオにでも聞きなさい。あの後の事は彼でも知ってるから」


 言って病室を出て行くニーナ。彼女の後姿を見つめて、頭を掻いたテオがそれからこちらへ向き直る。


「しかし話つったってな……」

「僕も今し方丸投げされたばかりだからね。……だったらテオはテオの身に起きたこと教えてくれればいいよ。それから、ニーナ先輩がスハイルから帰って来てからの事も。恋人なんだから知ってるでしょ?」

「………………」

「何、別れたの?」

「違ぇよ」


 からかいに返った言葉に安心して、それから促す。

 そうすればテオは溜息と共に紡ぎ出す。


「……聞いて後悔しても知らねぇぞ? ったく…………それを俺に話させるとかどんな神経してんだか……。余り期待すんなよ? どうせ分かり辛いんだ。何かあったらその都度聞いてくれ」

「テオらしいね。その勇み足……覚束ない遁走曲(フーガ)も楽しそうだ」




              *   *   *




 クラウスがデュラハンに襲われて意識不明に陥ってから一年。

 幾人もの計らいで彼を連れ戻すための方法……それがあるだろうと聞いたミドラースの地へ向かう為に各国から許可を貰うというそれぞれの目的は、半分ほどが達成されていた。

 まずはここブランデンブルク。そもそもが国の後ろ盾を得ての前提のため、別段苦労することなく協力体制は整えられた。

 兄であるカイの口添えやアンネの働きもあって思った以上に簡単に。三人が他国へ向かって数ヶ月で地盤が固められた。

 もう一人はカリーナから。向かったヴォルフは一年経つか経たないかのうちに共和国大統領、グンター・コルヴァズから許可を貰って帰ってきた。早くに求める結果を得られたのは、グンターがヒルデベルトと酒を交わすほどの仲だったからだろう。

 意外と有名な話で、四大国の中でもブランデンブルクとカリーナは特に仲がいい。そしてそれに対抗する……と言うか、まぁ残り二つの国にも色々あるのだが、トゥレイスとスハイルは険悪と言うか、一方的にスハイルの皇帝様がトゥレイスの総長を嫌っている。

 そんな四大国のうち、早くに結果が得られたのがこの国と隣国カリーナに向かったヴォルフから。

 あちらでも色々とあったらしいやりとりは、けれど彼の身に起きたこと。詳しく聞くだけ無粋で……それ以上にテオにもやるべき事が沢山あった。

 まずそれぞれの国から許可を貰ってきたあと、直ぐに動けるようにと言う根回しや地盤固め。それから他国へ向かった者達への連絡。特に一番折衝事が多そうなトゥレイスには重点的に。

 更に加えてテオ個人の問題。カイから課せられた許可をする代わりの交換条件。

 ヴォルフにはブラキウムを継ぐと言うエーヴァルトからの命。ニーナには兼ねてより口にしていたフェアリードクターになるという将来。ユーリアには従軍と、それに見合う功績。アンネにはクラウスを連れ戻すという最重要目標。

 そんなそれぞれと同じようにテオにもある副次目標は──フォルトへの進級。

 クラウスとも過去に交わした約束で、遠い頂。学院でも千人に及ぶ全生徒から多くて数人……時にはフォルト級在籍者なしと言う卒業式もあるほどに厳しい場所だ。

 しかしそれに見合うだけの見返りは存在する。

 卒業後の進路は引く手数多。国に仕えるもよし、個人の夢を進むもよし。後者を選んだ際には、国からの援助も貰えると言う好待遇だ。流石はブランデンブルク唯一の国立を冠する学び舎。優遇と言うか……期待が重い。

 その数少ない椅子へ座れと……幼馴染も兄も随分な事を言ってくれると溜息を吐く。

 クラウスはその力の象徴を利用したいがために。カイは出来る限り障害を取り除き、不自由ない将来を弟に歩ませるために。正反対な目論見は、けれど振り回されてでもテオにだって得のある話だ。

 クラウスに着いて行けば妖精のより深いところへと繋がれるし、カイの厳しい言葉も真っ直ぐで心配性な兄らしいと笑えばそれまで。特にクラウスの方について言えば、テオの契約妖精たる英雄的妖精、ヘルフリートとの間に交わした約束を果たす事にも繋がるだろう。


 ────俺と一緒に来てくれ。そうすればお前を再び外へ出してやる


 戦争の終わったこの平穏な世界で、今一度彼と共に肩を並べた他国の英雄的妖精達と再会させる。

 諦める必要なんて感じない夢だ。その気になれば、ヘルフリートの背に跨って他国を巡ればいい。

 けれどそんなのは暴論だ。当て所もなくただ追い求めるだけと言うのは彼の隣に立つには相応しくない。

 ヘルフリートと同じ景色を見たいから。彼が知っていて、そしてテオが知っていて当然の事は当たり前。それ以上に、英雄的妖精のその本当の歴史すら暴く事を厭わずに、彼と同じ感情を共有したいのだ。

 そうして、彼らを見つける事が出来たなら……と考えている事もある。

 未だ不確定で、その時が来たら決心が出来るのかとも思うけれど。唯一つ確信している事は存在する。

 ヘルフリートたちは、妖精の理では語りつくせない存在だから。その本質は妖精だけに留まらないところで許されるべきなのだと。

 妖精、精霊、ドラゴン。三つの顔を持つ特異な存在こそがヘルフリートだ。そして恐らく、この異質さは他の英雄的妖精にも共通する事なのだろう。

 戦時中、いきなり姿を現してその力で戦いの幾つかを平定して見せた存在感は、まるで御伽噺の英雄のように語り継がれた。

 大規模な妖精術と一回り大きなドラゴンとしての体躯。そして精霊やエルフにも繋がりを持つ彼らは、一体何処からやってきたのか。

 それはきっと、妖精だけで語れないように、妖精という枠組みでは収まらない場所に位置するものだ。

 だからこそ、と考える。

 ヘルフリートは──英雄的妖精は、この世界に許されていないのではないかと。

 だからテオは夢を抱いた。

 未だ穴ばかりの推論は、けれどどこかで正しいと音を響かせてそれを認めさせる事に意味があると。

 クラウスが妖精の国を追い駆け、エルゼが過去にエルフを説いたように。

 英雄的妖精にだって何か理由があって然るべきだと、一人思う。

 その夢の……テオ個人の野望のために、クラウスを利用しようと思うのだ。

 彼がその非情なくらいの手段で妖精の国を見つければ、そこには妖精に関する全てがある。そうすればヘルフリートや他の英雄的妖精にも何か納得のいく理由の一つくらいはあるかも知れないと。

 もちろん、そんな事よりも……ただ単純に早く目を覚まして欲しいと思うけれど。幼馴染なのだから、慎重に見えてどこか抜けている彼の事を心配するのは当然のこと。

 そうして決意したからアンネの話に乗っかった。カイに頼んでヒルデベルトから許可を取り付けた。出来る限りの準備を進めた。

 空いた時間で勉強とクラウスを連れ戻すための更なる方法論を探し続けた。

 デュラハンの刃にに罹ったクラウス。目を覚まさない理由は、デュラハンを倒しに行く時に彼がリーザを例に語ってくれた。回路を侵されているから。

 それはつまり、妖精に関係する分野だ。

 学院の授業なんて高が知れてる。正しい答えがあってそこに至るまでの過程があって。それを踏まえたうえで授業を聞き、教鞭を振るうそれぞれの特徴から試験前には重点的に出そうなところを復習する。そうすれば八割なんて簡単に取れるし、そこに予習や疑問解消を重ねて自分なりの理解を突き詰めれば、あとは出題者の意図を考えるだけ。

 ローザリンデが遺したように、学び方さえ学んでしまえばどうとでもなる関門だ。

 けれどそんな授業と、妖精に深く関わる分野は違う。

 答えが見えない。方法論が分からない。誰も教えてくれない。

 妖精に問うたところで彼らは多くを語らない。それはその身を守るため。

 先人の研鑽だって、妖精変調(フィーリエーション)と言う例外があった以上……そしてクラウスと言う埒外がいる以上、何処まで信用していいものかと悩む。

 何をするにしても手探りの、初めてだ。だからこそ学び方を身につけろと教わったのだ。

 そうしてそれを振り翳した。

 分からなければまずは理解しようと言う姿勢だ。興味を持って疑問を明確にし、ぶつける。

 テオが頼ったのは、夏季休暇中にヘルフリートの件で世話になった妖精に関わる者へ。

 妖精の理には妖精力での干渉しか許されない。それに指向性を持たせたものが妖精術。ならばそれを理解すれば何か手段は見つかるかもしれないと。

 アンネやカイを通して連絡を取ってもらい、そうして融通してもらった彼の時間。

 テオがやってきたのは、王立の妖精術を数多秘蔵した建造物。妖精術の図書館とも言われる、管理施設だ。


「お久しぶりです、ベンノ最高顧問」


 ベンノ・ムル・リジ。王立機関妖精術統括理事会最高顧問の肩書きを持つ……妖精憑き(フィジー)だ。

 過去には国に奉公していたそうだがある拍子に契約妖精を失い、それ以降別の妖精との再契約をする事もなく今の椅子へと収まった人物。

 妖精は見えるが、相方を持たないはんぶんな存在だ。


「久しゅうございますね。その後、ヘルフリート殿はお変わりなく?」

「あぁ、健勝(けんしょう)の至りだ。不自由は一つもしておらんよ」


 肩に乗った相棒が挨拶をして、ベンノの雄黄(ゆうおう)色の瞳が笑顔で細くなる。

 優しい雰囲気のお爺さん。確か70近かった気がする。にしてはきっちりと着こなした理事としての服装が彼の雰囲気を若く見せていた。背筋が伸びているからそう感じるのだろうかと。


「今回は公開されている妖精術の閲覧だったかな?」

「はい。可能性を一つ、追い駆けたいんです」

「いい気概だのぅ。着いて来なさい」


 肩を揺らして笑ったベンノは、それから踵を返して自ら先導してくれる。

 ここにはブランデンブルクの全ての妖精術が収められていると言われている。ベンノの管理するこの国の妖精に対する研鑽が詰まった場所だ。

 命令式単位で刻まれた妖精術は公開されているものを自由に閲覧し、自分の身にできる。

 それは妖精に対する歩み寄りであり、個人の飛躍を助ける計らい。クラウスが作り出した連結術式もここにはあるし、それ以上にローザリンデが編み出した幾つもの秘法が眠る場所だ。

 もちろん警戒は厳重と言う言葉ですら足りないほど。秘匿されて然るべき大法などが眠る扉には、妖精術の封印に加え物理保護、精霊術による加護に、古典的な錠前……に見える妖精力を宿した特殊な錠と、幾重にも対策が施されている。

 それでも悪い事を考える者は何処にもいるわけで、過去にはその封印を破って進入した罪人もいるほどの場所。それからは更に強化されたと聞いたが、どこがどう変わったのかまでは流石のテオも知らない。

 知っているのは、ここを預かるベンノ他、数人の人物だけ。ヒルデベルトもその一人だろうが、無条件で開く鍵を握っているのはベンノ一人だと小耳に挟んだ事がある。

 もちろん、それだって嘘で、彼ではない誰かが握っているのかもしれないけれど。

 何にせよ、堅固な隔離対策と共に、常に腕の立つ妖精騎士(フィリット)も警戒を怠らない世界規模でも重要な場所だ。

 きっとスハイルやカリーナ、トゥレイスにだって似た施設はあるのだろう。可能ならばそちらも訪れてみたいが、それはまた次の機会に。……必要ならば今現地にいる彼女達に頼もうかと。

 考えつつベンノにつれてこられたのは幾つもの妖精術が保存してある展示部屋。博物館のようにずらりと並ぶ透明な箱の中には、それぞれに虹色の文字で綴られた本が一つずつ並べてあった。


「グライド殿はここを訪れたのは?」

「初めてです」

「でしたら少しばかりご説明を致しましょう」


 言って足を止めたベンノの横に並べば、目の前には一つの本。箱についた札には『妖精弾』と書いてある。


「ここにある全ての本、一冊一冊はそれぞれが妖精術によって作られた道具です。掛けられた術式は記憶、記録……備忘録の術式です。グライド殿もご使用になられた事はあるでしょう」

「生徒会の書類や、時々正式な書類にも使ったかな……」


 備忘録の術式は、言葉そのままに決められた文言を紙片などに記す妖精術だ。

 術式に言葉をはめ込む事でそれに妖精力を宿して刻む。刻まれた文字は虹色に輝くという特徴を持つ。妖精力を宿す事で複製を防ぎ、尚且つ定型文ならば量産も効くと言う便利な妖精術だ。

 主な使用例は正式な署名や同文書の大量作成など。契約術式や妖精術のように、属性(エレメント)に由来しない誰もが扱える基礎の妖精術の一つだ。応用としては妖精力を込めて封印術式を組み込むことで機密性の高い暗号とすることもできる。

 去年起こった妖精変調、回帰種(フィーリス)に干渉した任務──クラウスまで動かしたユーリアがデュラハンに襲われた一件。回帰種たちに敵意がない事を示し、意思疎通を図るというあの国を挙げての任務にも使われた技術。

 目の前の本にも記された文言は、虹色に輝き、人の言葉で綴られた文字列はテオにも読める。

 書いてあるのは妖精弾に関する開発者の名前や発明の日時といった事務的な内容から、その妖精術の構成。

 これを元に自分の波長で組み直すことで己の妖精術として昇華する。過去の研鑽を受け継ぎ、更に自分の色をつける、その最初の基礎の更に元。学業に例えれば、公式や年号を覚えるようなものだ。


「こちらは妖精弾……現在この世界で最も普及し、最も簡単と言われる妖精術の公開文書です。これと同じような……もちろんそれぞれに規格は異なりますが、沢山の妖精術がここには収められております」


 規格と言うのは妖精術に定められたその規模。

 妖精術のような個人が扱い、僅かに影響を及ぼすものから、クラウスの生み出した反転術式のように、それ一つで戦況を覆してしまうほどの戦略級妖精術。更には世界に変革を齎す妖精術……一番新しいもので言えばローザリンデの遺した回帰の揺籃歌(ベルスーズ)なども収められている。


「ただいまご覧に頂いているこちらの妖精術は一部。他にも数え切れないほど沢山ありますし、中には非公開、封印指定とし、厳重に保管されているものもあります」

「……クラウスの反転術式もその一つだっけか」


 規格が定めてあるように、妖精術には及ぼす影響と言うものが存在する。その度合いによっては景色を揺るがす危険指定を施され、人目に触れないように管理されるものも少なくない。

 大抵の場合、そう言った大規模な妖精術と言うのは戦時中に編み出されたものだったりする。中にはもちろんクラウスやローザリンデのように個人でその域に至る……妖精力に愛された例外者も存在はするが。

 そもそも妖精術はそう簡単に作れるものではない。

 例えばテオが炎を出す妖精術を作ろうと思えば、まずは何処に帰結し、どんな過程を経るのかを無から思いつかないといけない。

 循環。形成。付与。顕現。これが妖精術を構成する四つの原則。だからこそ方陣であり、そこに込められた命令式を介して、形のない妖精力に指向性を持たせて形と成すのだ。

 妖精力を循環させ、それをどんな風に形成させるのか具体的に示し、そこへ指向性を持つ効果の付与を明確に記して、矛盾なく安全に顕現させる。

 命令式に使用する文言一つでも噛み合わなければ妖精術として結実しない。言わば偶然の産物だ。

 妖精弾も、一定量の妖精力の循環、球形を模り、衝撃や昏倒と言った効果、属性を付与し、それを目に見える形で顕現すると言った簡単な過程が存在する。この簡単さが手に取りやすさへ変わり、普及へと繋がる。

 それらを総称して命令式。人の言葉を妖精力に形を与えるために妖精語で書き換えたもの。大抵の場合、それらは契約妖精が司る分野だ。

 物理的に火を起こすのは着火剤と摩擦熱で可能だ。その過程を妖精力で代替して、高速化したものが妖精術。

 だからこそ無から有を作り出す異能と言われるのだ。

 また、妖精術の規格、規模が大きくなれば四原則に込められた命令式が増える。そうすれば必要な妖精力も多くなり、そう何度も連発できなくなったり、そもそも顕現すらしないという事がある。

 大抵は属性さえ合っていれば使えるはずだが、それでも大規模なものは扱うものが極小数に限られる。

 そんな妖精術は、開発者に利益を齎す。


「妖精術の開発には多大な時間や経験、そして天恵にも似た閃きが必要になります。偶然に縋っていては成しえない功績です。その為にこうして開発された妖精術はわたくし達がしっかりと管理させていただき、こうして公開するに至った妖精術に対しては開発者に帰属する権利として、僅かばかりの特恵が授けられるのです」


 大抵の場合は先立つものとして。努力した証に、世界に認められたその形として与えられる褒賞。

 ベンノは僅かばかりと言ったが、特に大規模なものになれば随分な額を受け取る事になる。

 クラウスも反転術式や連結術式で幾つか貰っていたはずだ。詳しい事は聞いていないけれど、それなりの額で、少なくとも学生の身には持て余すほどだとは思う。

 もちろんそう言った形が嫌であれば、申請して別の形で受け取る事も可能だ。テオが聞いた話では、どこかの研究施設への推薦状だとかあった気がする。

 それほどに妖精術の開発には意味があって、それを生業とする者も世界にはいるほどだ。


「もちろん世界にある全て、と言うわけではありません。しかしこの国で作られた妖精術のその殆どはここへ展示されております」


 ここに収められている中で、特に多いのはローザリンデの作り出した術式だろう。彼女が織り成した理は両手の指だけでは数え切れないほどに存在する。その一つ一つが、テオ達の生活に僅かでも関係しているというのだから尊敬してもし切れない。


「……以上が簡単なご説明です。それで、今回はどういったご用件で当館にいらっしゃったのでしょうか。よろしければわたくしがお力にならせていただきます」

「え……あぁ、そうだった……」


 次いで響いたベンノの言葉に我に返って当初の目的を告げる。


「えっと、治癒術式。……中でも回路に干渉するような高位のものが知りたいんですけど」

「その類になりますと一般向けには公開されていない封印指定の術式になります。そのため、普通ならば閲覧すら出来ないのですが……」

「あ、これ……。国発行の許可証。これ見せたらって言われて」


 ベンノの言葉に更に思い出し一枚の書類を取り出す。それを受け取った彼は、上から丁寧に読み込んで一つ頷いた。


「…………ふむ、間違いなくブランデンブルク発行の公式な閲覧許可証ですね。分かりました。ご案内いたします」


 確かな口調でそう言って、疑う素振りも見せずテオの意向を尊重してくれる。どうやらベンノにしか分からない秘密の暗号などがどこかに仕込まれているのだろう。それを見て、ヒルデベルトの計らいだと必要以上の詮索は不問にしてくれたのだ。

 今更ながらに、自分の立っている場所が曖昧に思える。

 こんな中で幼馴染は夢を追い駆け続けていたのかと恐れを通り越して呆れてくる。けれどそれこそがクラウスらしいとは思うのだけれども。

 考えつつベンノに連れられて辿り着いたのは他のものと見た目にそう変わりのない普通の扉。その取っ手を、何の細工をする事もなく押せば簡単に開いてしまう。

 本当に封印が掛かっているのか疑問にすら思うほどの呆気なさだ。恐らく、彼の波長に合わせて開くように封印を施しているのだろうが、傍から見れば随分と頼りなさそうに思える封印だった。


「こちらが封印指定の妖精術です。持ち出しは禁止ですが、この部屋の中であれば自由に閲覧をしてください」


 幾つもの扉を抜け、そうして足を止めたのは先ほどの一般開放の空間よりは二回りほど小さな部屋。妖精術を記した本は同様に透明な箱に入っているがその数は随分と少ない。


「ここに収められている妖精術の殆どは写本でございます。中にはブランデンブルクより研鑽の末に実ったものもございますが、大半は他国にも収められている原本の複製です」


 当然と言えばそれまで、戦だって起こる世界で、一箇所に全てを置いておくはずはない。ブランデンブルクだって、一番大きな保管施設がここと言うだけで、公にはしていないが別の場所に控えや写しを取っているはずだ。


「もちろんここでしか閲覧できない妖精術もございます。よろしければそちらも」

「あぁ、いや……。とりあえず目的の物だけ。あんまり沢山を知りすぎると後が怖いから……」

「賢き裁量に正しき叡智の遭逢(そうほう)があらん事を」


 言って腰を折ったベンノが一つしかない部屋の出入り口に控える。その言葉は、この施設が掲げる訓示だったか。正しい心を持って探求すれば、何れ欲する妖精術に巡り合えるだろう。その言葉の恩恵を受けるべく、胸のうちにしっかりと正義を抱く。

 下手に知りすぎると敵を増やす。その末にクラウスは死神の刃に罹ったのだと今一度反芻して覚悟を決める。

 さて、ここまで来たのだ。何の成果も成しに、と言うのでは融通をしてくれたアンネやカイに示しがつかない。せめて手がかりの一つでも見つけなければ。 




 そんな風に可能性を探しながら幾つもの準備を進めて時を過ごす。経た時は誰しも平等で、時の流れはフィーレストに入学してから四年目を紡ぎ始める。流石に去年の夏にハーフェンに上がったばかり。半年でフォルトを受ける気にはならなくて先送りに。

 そうして学院の生活をこなす中で、テオにも幾つかの災いは降りかかった。

 一番大きなものは燃え上がった不信や非難。

 それは生徒会や校内保安委員会に対するもの……ではなく、テオ個人への言葉や視線。

 デュラハンと戦い、クラウスを失ったテオたちに対する疑いの眼差しだ。

 ユーリアやヴォルフ達が国外に行くまで話に上がらなかったのは、デュラハンについて国がしっかりと情報規制を敷いていたからだ。けれどそんな中にも、偶然やそれぞれの思いは形を作るわけで。

 ニーナの卒業に合わせてユーリアとヴォルフが国外へ。更にはクラウスが学院に登校しなくなれば不信を抱く者は出てくる。動いた面子は全員が校内保安委員会を構成する者ばかり。

 何かあったのではないか。いや、何かあったのだろうと。

 疑念は行動へと昇華し、真実を求める。一番の失敗だったのはイーリス・カペラ……彼女に予めの根回しをし忘れた事。

 クラウスの不在に起因する学院機能の不全。それを補填するためにマルクスとエミ。それから手伝いを申し出てくれたアンネとで全力以上を出していつも通りに振舞った。

 けれどテオは分身できるわけでも、全てに対応できるわけでもない。

 気付けばイーリスに伸びていた沢山の興味や真実を求める声。

 早くに気付くべきだったのだ。浮評に生きる彼女が動けば、何かが変わることくらい。クラウスがよく利用していた彼女に、それだけの価値がある事に。

 何せ彼女は、委員会が出来たあの春の時から、既にクラウスの悪事の片棒を担いでいたくらいなのだ。それはテオがクラウスに言われて色々工作する中で時折耳にした程度ではあるが、少なくともあの時流れていた主な噂はイーリスが燻らせた火種だ。

 そんな彼女だって最初こそは跳ね除けていた視線だ。早くにダミアン経由で詳しい事情を知っていた彼女は出来る限り無関係を装った。事実無関係で、特にエルゼからも出来る限り口外はしないようにと言う達しはあったそうで。後から聞いた話によれば彼女だって悪意があったわけではないと。もちろん、それを疑うことなどしない。

 何にせよ、噂の集まる彼女に、時を問わず幾つもの疑問が集まった。委員会の面々に何があったのかと。真実を知っているなら教えて欲しいと。

 やがてそれは知らないうちに彼女を中心に据えてテオの与り知らぬところでエルゼへの談判に変わったそうだ。

 先に生徒会が彼女を抱え込んである程度情報を操作すればよかったのだが、けれどそれは気づいた時には遅かった。

 申し訳なさそうに俯くイーリスから聞いたのは、エルゼの判断でクラウスに関する噂……デュラハンと言う言葉が並ぶ真実にも似た虚偽で関心を収めようとしたと言う話。

 曰く校内保安委員会の任務中に不慮の事態でクラウスが倒れたと。そこにデュラハンは関係ないというもの。

 一度はそれである程度の疑念は晴れたものの、けれど納得のいかない生徒はやはりいて。

 その者達が裏で手を組んで動いている事に気がついたのが、ユーリア達が学院を去って半年ほど経った、夏季休暇明けの事。

 直ぐにそれとなく止めようと動いては見たが、結果その言動が更に疑いを強固にして。

 そうして突きつけられたテオへの批判。

 そこには、確かな真実が幾つか含まれていた。

 デュラハンと言う言葉こそは聞かなかったが、代わりに突き刺さったのは妖精殺し(フィリング)の汚名。

 僅かにずれた矛先は、デュラハンではなく別の妖精を槍玉に挙げて、そいつがクラウスを襲い、対してテオがそれを斬り捨てたという話。

 デュラハンの一件を客観的に見れば、確かにテオはデュラハンを撃ち滅ぼした。持てる妖精の技を借りて、塵一つ残らないほどに燃やし尽くした。確かにそれは真実だ。

 けれどそれに関しては国の命が下されていたと言う理由で、テオには処罰はなし。カイの取り成しやアンネの助力、それからエルゼやエーヴァルトの口添えもあって責任は命を下した国にあるとし、一切を不問にした。任務に付随する結果と言うことで悪を斬ったと下った裁定だ。妖精殺しの悪名は否定されたのだ。

 また、城下町の中では悪意ある妖精を倒し平穏を守ったという英雄譚にも似た噂が尾鰭の沢山ついた形で広がっている。

 しかし確かに、テオはデュラハンを一人殺した。

 クラウスの思惑に正誤の判断を誤って…………いや、間違った事をしたつもりはない。仇討ちなんていう感情があったかも怪しい。ただクラウスがそれを欲したから。ユーリアを助けるためにデュラハンへ確かな殺意を向けたから。それに感化された部分はあるにしても、テオはテオの意思で同じように刃を重ねた。

 その結果に、真実としてデュラハンに止めを刺したのはテオだ。

 その後に、もう一体現れた別のデュラハンにクラウスが切られて────

 生徒達が掲げる具体的な理由とは過程と結果が逆だが、けれど当たらずとも遠からず。

 それに、その者たちの最終的な言い分は、この世の伴侶である妖精を殺したテオに向けられた妖精殺しと言う非難だ。

 国が責任を負い、それは正当な意味を持つ行動だったと正当防衛のようなそれで庇護している限り、テオへの批難は意味を成さない。

 けれど、言葉通りの烙印を押されないだけで、向けられた言葉や意思には、確かにテオに対する敵意が篭っていた。

 テオだって、国に言われたからと言ってそう簡単に納得できるわけではない。

 デュラハンを自分の意思で殺したという真実は拭えない。

 思わずテオは、自分の置かれている状況と、エルフである事を理由にされ軍属の地位と二階級降級と言う事実以上の責任を背負わされたニーナを重ねる。

 生徒会長になる者には、そういう意味ではふさわしい扱いなのかもしれないと自嘲すれば、少しだけ諦めもついた。

 そんな風にテオに向けられる視線が険を宿す学院の中で、それに起因するように変化した事もある。

 テオへの非難に加えて増えたのは、一度治まったはずのクラウスに対する糾弾。

 元々彼はクォーターと言うだけで忌み嫌われていた存在だ。生徒の中には僅かにだがクラウスが委員会と作ったと知っている者もいて、その者達がすべてはクラウスの所為で、自業自得だとも言いだした。

 はたまた学院に来ないのは後ろめたい理由があって、それから逃れるために姿を消したという話も聞いた。

 その傍らで、そもそもの原因を作ってしまったと、イーリスが何か償いを求めるようにテオへ幾度となく謝罪の言葉を口にしたり。クラウスの部屋に篭り、彼を連れ戻すためにより具体的な方法論を探すフィーナやアルにまで、契約妖精やただ同じクォーターと言うだけで矛先が向くこともあった。

 そんな風に空気が濁る景色の中。底も中身もない活気で催された学院祭は、クラウスのいた頃のようには盛り上がらなかったし、前年度と比べて目に見えて増えた折衝事が余計に雰囲気を悪くした。果てには関係のない事で喧嘩が起きたりと、もう既にテオの手だけには負えない状況に陥った。

 クラウス一人がいないだけでこんなに変わるものかと。それほどに彼が学院に関わっていたのだと思うと、それを止められないどころか、不用意な言動で悪化さえさせてしまう自分が惨めになる。

 そんな空気が続いて年を越えれば、やがてニーナとヴォルフがブランデンブルクへと戻ってくる。

 ヴォルフの帰還はニーナと同じくカリーナを収める主、グンターから許可を取れたからと言う理由と、彼の卒業式だ。

 彼の卒業式が終われば、テオたちはフィーレストで最後の年を迎える事になる。

 ニーナの方は、テオ個人にしてみれば一年ほど離れていた恋人との再会だ。

 もちろん彼女のいない間に、随分と積極的な女生徒から気持ちをぶつけられたりもしたが、誠実に断った。

 今思えば、あれは彼女達からの風の変わった応援だったのかもしれないと。

 悪くなる学院の空気。その改善と諸悪を詰め込んだテオにどうにかしてもらいたいという思いと……それから気を落としたテオに対するあわよくば。今でもニーナがいるにも関わらず声を掛けてくる異性もいるが、流石にクラウスほど節操無しではない俺はその一つ一つを断っている。俺にとって一番も二番もない。大切なのは、ニーナ一人だけだ。


 ────そういうのいいから。ほら続き


 そこまでしたくない話をさせられているんだ。少しくらい仕返しさせろっ。

 横槍を入れて来たクラウスに反撃をして少しだけ横道に逸れる。

 大体クラウスに俺を糾弾できるほどの正当性はないはずだ。ユーリアにアンネ。フィーナにアルと、テオが知っているだけでも四人の異性と仲良くしているだけで不誠実だ。そんな埒外に責められる謂れはない。

 ったく……で、テオの大切な彼女が帰って来て。スハイルから貰ってきた許可を確認しようと彼女を城へと呼び出した。

 彼女に託した特使としての結果報告も含めカイの同席した中で、そうして久しぶりに会った彼女は、どこか心ここにあらずな感じで話を聞かせてくれた。

 積もる話、と言うか愚痴。スハイルでヘレナに再会して、そこで理不尽に振り回されたとか、現地での臨時の勤め先で迷惑な客がいたとか。

 そんな在り来たりな、どこにでもある話。

 けれどそうして言葉に零す傍らで、時折彼女の視線が空を掻いた。まるで物思いに耽るように。

 とりあえず今必要な話を最後まで聞いて、彼女個人の思い出話にはまた今度とニーナを城の外まで送る。

 交わされる会話はやはり雲を掴むような他人事。そうして途中で故郷の話が出た折に、彼女は何故か口を閉ざした。

 響く足音に居心地が悪くなり、考えた末の言葉を零す。


「…………なぁ、何かあったのか?」

「……………………何かって?」


 長い沈黙に、けれど何処まで踏み込んでいいものかと距離を計りながら零す。


「嫌なことなら言わなくてもいいけどよ。悩み事があるなら聞きたい……。元気がないのは、俺も嫌だから」

「元気だよ。絶好調っ。…………大丈夫、心配しないで。ほら、あれ……フェアリードクターの試験も近いし、追い込みかけないとねって」


 言って笑うその笑顔は、俺でも分かるくらいに胸の痛い作り笑顔で。

 けれど無闇に首を突っ込めば、彼女を追い詰めてしまうのではないかと危惧して、それ以上の詮索をやめる。ニーナから感じる物言わぬ視線も、それを訴えていたようだから。


「……そっか。うん、大丈夫だ。勉強もしっかりしたんだろ? 回答ずらさない限り通るって」

「言われるとしちゃいそうだからやめて」

「わ、悪い……」

「冗談だよ、もうっ」


 肩を揺らすニーナは、また作り笑い。気付いていて、けれど言葉にしないテオに甘えるように、彼女もまたそれ以上は口にしない。

 そうして戻っていく日常は少しだけテオの身に起きた学院での話にも触れて。

 テオだって彼女を巻き込みたくない事情はある。ようやく帰って来て目の前に試験。そんな時に無駄な心配は掛けたくない。


「生徒会の方は大丈夫? クラウス君居ないけど」

「大丈夫だ、新しい役員も入ったしな。それに、約束……したからな。いい学院にするってっ」


 夏季休暇明けに行われた生徒会選挙でも、別の人物が名乗り出る事もなかったために二年続けてテオが生徒会長を務める事になったのだ。今年度卒業のヴォルフと抜けたクラウスの穴も埋められている。ようやく新生徒会として形が出来上がってきた頃だ。

 燻る火種は、次に任せるまでに何とかしなければ。これは、テオの問題だと。

 言えない隠し事は誰にもであるものだと不可侵にして黙り込む。

 何よりも、今は目の前と、それからクラウスのために…………。




 そんな風に隠し事と疑念の上に時を過ごしてテオはフォルトへと足を掛ける。

 フィーレストの最上級階級。世界にさえ認められるその実力に見合う試験は幾らテオでも過酷で。同様にフォルトを目指す者達と競うのだから余計に難度が上がる。

 それでもテオにはそうするべき理由と、譲れない思いがあるから。例え他人を蹴落とす事になるのだとしても、全力を尽くしてその椅子を奪いに掛かる。

 生徒会長としての実績と、学院主席を維持し続ける学力と、ヘルフリートの恩恵を受ける妖精術と。きっとどれをとってもテオを語りきれない積み上げてきたものが結果を手繰り寄せて、フォルトの席を捕まえる。

 驕るように当然だと疑いはしていなかった。それ以上に重ねた努力で掴み取った結果だ。これでようやくカイやクラウスに顔向けが出来ると自信が持てる。

 テオと並んでその春にフォルトへ上がったのは三人。試験のたびによく名前を見るテオにとってもよく知った者達ばかり。フォルトに在籍する以上実力も折り紙つき。

 毎年フォルトに関しては限られた者しか辿り着く事ができない場所として、よく噂が飛び交う。今年も例外に漏れず、勝手なところでテオたち三人を纏めて通り名みたいなものが出来たみたいだったが、そこまで興味がなければその名前を覚える気にもならなかった。

 それよりも渦巻く懸念は学院のこと。クラウスがいなくなってからずっと、低迷し続けている雰囲気はテオが進級しても変わらないままで。一応落ち着いてはいるものの、陰では色々と言われている様子。

 途中から気にするだけ無駄だと気付いて可能な限りは跳ね除けてきた。

 問題があるとすれば、その矛先が新入生達にまで影響を及ぼさないかと言うこと。

 生徒会長として、学院や生徒の事を考えるのは当たり前。よりよい学び舎にするためにいらぬ問題は起こしたくないし、期待に胸膨らませて入学してきた者たちの気概を挫きたくはない。

 かと言って何か行動を起こせばそれはそれでまた問題が起きそうで……。

 結果見守る事しかできないながらもハウズに席を置いたばかりの新入生達を歓迎する。

 思えばテオにも彼らのように何も知らない時期があったのだと。年にしてみれば五つほど違う、とても小さく見える彼らに激励の言葉を贈る。

 不器用だけれども精一杯に。こんな俺でも生徒会長になってフォルトに在籍できるのだと足りない言葉で伝える。

 と、そんな風に新年度最初の生徒会長としての仕事を終えて一息吐いていた頃に、ある日生徒会室で変わらない書類仕事をしていれば扉を叩く音。

 訪客の予定はなかった筈だがと脳内の予定表を開きつつ招き入れれば、そこに立っていた見慣れた顔に安堵する。


「遊びに来たよ?」

「遊びって……まぁいいや。そろそろ休憩しようと思ってたところだ。少し待ってくれるか?」

「うん」


 交わした言葉は親しい関係。彼がいなくなってからの時間で特に会話をする機会の多かった少女、アンネ。

 彼女には学院の事も、それからミドラースに関する調査でも随分と世話になった。それに加えて彼女はクラウスの部屋に篭りっきりな二人のクォーターの様子を見に行ったり、他国へ向かった三人との橋渡しをしてくれたり、彼女個人の学業やヴァレッターの仕事、果ては家の事までを全てやり遂げていたのだ。その忙しいと言う言葉では語り尽くせないほどの大変な日常に、けれど一切折れなかったどころか、殆ど笑顔でいた気概に感服するばかりだ。

 テオはたった自分の事だけでさえ、これだけ他人に迷惑を掛けていると言うのに……。

 反省にもならない後悔をまた一つ重ねて、それから手元の書類を片付ければ、目の前にお茶が差し出された。


「……ありがと」

「そういう契約だからね」


 アンネと生徒会の契約。クラウスを連れ戻すことへ協力する見返りに、彼女は生徒会の力になる。

 過去に交わしたその取引を思い出して小さく笑えば、ようやく少しだけ肩が軽くなった気がした。


「で? 別に本当に遊びに来たわけじゃないんだろ?」

「うん、紹介したい子がいてね。入れてもいいかな?」

「知り合いか?」

「妹」


 答えつつ廊下に頭を出して人を呼ぶ。そうして彼女がこちらに向き直ると、遅れて小さい背丈の人形のような少女が姿を現した。


「えっと、ティアナ・ルキダ、です。姉がいつもお世話になってますっ……ぁたっ」


 礼儀正しく腰を折っての自己紹介。その最後に隣に立っていたアンネが少女の頭を小突いて小さな声を漏らした。

 鳶色の緩やかな曲線を描く長髪に水浅葱色の綺麗な瞳。右目の下に小さな黒子が印象的な、小動物のように柔らかく小さな少女。学院の制服に包まれたティアナはまるで人形のようで、その愛らしい首許には最下級生であるハウズを示す青色のリボンが結ばれていた。


「今年入学か?」

「うん。短い間だけど一緒に学院生活を送る事になるからね。挨拶だけでもと思って」


 テオたちは今年が学院生活最後の一年。何事も無ければ卒業の年。テオ個人で言えば既に最上級生たるフォルトに在籍中のため、夏の試験も関係ない。その実力を敬われて遠巻きに接せられるだけの悲しい一年だ。

 それからアンネは、去年こそ色々な橋渡しで忙しかったが、今年からようやくハーフェン級へ。胸元を彩るリボンは少し前までテオもつけていた赤色だ。

 テオの世代で言えばもう一人。ユーリアもトゥレイスから帰って来てからハーフェンへと進級していた。元々それだけの実力は持ち合わせてはいたが、トゥレイスへの特使としての任務で丸一年学院を明けていたために進級ができないでいたのだ。けれどトゥレイスから帰還後、アンネが融通してくれていたのか特に問題もなく試験を受けて、トゥレイスでの功績も評価され難なく進級。話題に出すだけ失礼な気がするが、眠る我が幼馴染を除けば全員ハーフェン以上だ。

 残念ながら休学扱いの彼を試験も通さずに進級させることは出来ない。幾ら埒外の彼とは言え、そこまでの特別措置はありえない。

 と、そんな事を考えていると、生徒会室を見渡したティアナが疑問の音を零す。


「…………おにいちゃんは……?」

「おにいちゃん?」


 アンネに妹がいる事は、これまで交わした他愛ない会話の中で知っていたが、兄の存在については初耳だ。彼女は二人姉妹だと言っていた気がしたが……。

 疑問は、テオが零した言葉に返ったティアナの声に納得をする。


「クラウスおにいちゃん……。いないの?」

「…………言ってなかったのか?」

「知らないならそれでいいしね。わざわざ言う事じゃないでしょ?」


 アンネに問えば返った答え。確かにその通りだが……しかし彼女がクラウスと面識があったとは。


「……あぁ、思い出した。文化祭の時の……」

「やきそばのおにいちゃんっ」


 次いで響いた声はマルクスから。続いたやきそばという名称に何の事だと視線を向ける。


「二年前の学院祭で彼女がお客さんとしてきてくれて、開いてた屋台でやきそば買って行ってくれたんだよ」

「あぁ、それでか。……いい名前だな、やきそば」

「そこで切るなよっ。ぼくは食べ物じゃない」


 茶化せば、冗談にティアナが笑って肩を揺らす。そんな彼女を騙すようで悪いと、ずれた矛先をそのまま終着点へ向かわせる。


「じゃあ改めて。生徒会長のテオ・グライドだ。何かあったら気軽に声を掛けてくれ。これからよろしくな」

「はい、よろしくお願いしますっ」


 可愛らしく答えたティアナが頭を下げる。礼儀正しくていい子だ。それにどうやら、アンネのように意地悪でもないらしい。……けれどなぜだろうか。そこはかとなく危険な匂いを感じるのは。どうでもいい勘だが、彼女の周りでは面倒な事が起こりそうな予感がする。その辺りは姉譲りの求心力だろうかと。

 可能ならそこに巻き込まれない事を願いつつ、それからティアナの隣に立つアンネが出入り口の方を気にしている事に気付く。


「どうかしたか?」

「いや、もう一人いるというか……実を言うと先客がいたんだけど、まだ入ってこないから」

「先客? 手は空いてるし客なら呼んできてくれよ。生徒会に用事なんだろ?」

「…………テオ君がいいならいいけどね」


 なにやら不穏な言葉を残して再び廊下へと来て行くアンネ。それからしばらくして、聞き覚えのある慌てた声と共に、アンネが誰かの腕を引っ張って現れる。


「だから待っ……! っ……!」

「……なんだ、客ってカペラさんか」


 名前を呼べば揺れた肩。仕草に頭の後ろで一纏めにした緋色の短い尻尾が小さく揺れる。

 イーリス・カペラ。今のこの学院の雰囲気が自分にこそあると塞ぎ込んで後悔を重ねる、噂好きな少女。

 半年以上、何度も思ってきた事だが、彼女に責任なんて殆どない。学院に渦巻く居心地の悪い空気は、言ってしまえばクラウスに起因するもの。諦めるように責任を彼へ丸投げすれば、悩むだけ無駄だと結論は少し前に下したのだ。

 けれどしかし、例え本当にそうであっても燻っていた導火線に火を点けたのは自分だとイーリスは譲らない。それは彼女自身の納得だから、テオがどうこう言えるものではないのだろう。


「……それで? 今日は別件か?」

「ん……。それは……」

「彼女も新入生の紹介。弟が入学したんだって」


 口ごもるイーリスに変わって彼女を連れて来たアンネが答えて、それから廊下に顔を出すとそこにいるのだろう人物に声を掛ける。

 そうして顔を覗かせたのは、幼さの強い童顔な少年。どうやら彼がイーリスの弟らしい。

 栗梅色の短髪に支子(くちなし)色の瞳。一見すると線の細さから女の子に間違えそうな見た目だが、弟と紹介されたのだから男なのだろう。フィーレストは特例を許さず性別を偽っての入学は出来ない。

 男子生徒規定の制服も身につけている。平均より少し背が小さいから余計に性別が曖昧に見えるのだろう。比べるのは彼に失礼かもしれないが、テオ達の代でも底辺を争うほどの小さいアンネとそう大差ない。彼女より僅かに彼の方が小さいか。


「えっと……はじめまして、クルト・カペラです。……男、です」

「……それ毎回言うの?」

「だって言わないと勘違いされるから……」


 挨拶の声も男にしては細いもの。まだ変声期前か、それとも元々声質が高いのか。

 そんなクルトの自己紹介に疑問を挟んだのはティアナ。どこかからかうようなその問いに彼は身を小さくしながら答える。

 確かに一見して性別はどちらか答えろと言われれば女と言われてもおかしくはない顔立ちに声質。けれどどうやら、彼自身はそんな自分を余り気に入っていない様子。

 これまでに容姿関連で嫌な思いをして来たのだろうか?


「二人仲いいのか?」

「おねえちゃん達が友達なので、これまでも時々会ったりはしてました。授業を受ける教室は別々ですけれど」

「仲がいいのは良い事だ。何かあったら相談に乗るから、頑張れよ?」

「っはい……!」


 社交辞令ではあるが心からの言葉。テオは抱く気持ちに裏も表もない。正直こそ自然体だ。

 そんなテオの言葉に目を輝かせるようにして頷いたクルト。気を持ち直してくれたのは正直ありがたい。暗い顔をされるよりは随分とましだ。

 若く伸び代のありそうな新入生を見やって、それからエミに視線を向ければ彼女は頷いて立ち上がる。


「よしっ、それじゃあ礼儀正しい後輩には先輩から贈り物をしようっ。案内も兼ねて購買へ出発!」


 ティアナとクルトの背中を叩いて向きを反転させると、二人を連れてエミが廊下へと出て行く。仕草に揺れる赤いタイで結ばれた長いポニーテール。彼女も今年からハーフェン級の生徒。先輩らしくいつもの愛嬌控えめで頑張って欲しいところだ。


「っとと……」


 …………早速扉の向こうから躓いたような声が聞こえた気もしたけれどきっと気のせい。

 さて、そんなことよりも、だ。


「で、カペラさんは別に本題があるんだろ?」

「っ……!」


 何も知らないで居てくれればいいと純粋な新入生たちを仕方なく追い出して。それから声を掛ければ彼女はまた一つ身を小さく震わせた。

 彼女が抱え込んでいるのは、浮評に楽しく生きる日常に笑顔が浮かばない事を知っていれば誰でも気付く事。今ではもう、前に少しだけあった彼女を責める声も皆無と言っていいほどだ。

 けれどそれでも許せないのは、その空気が学院だけでなく病院で眠る彼や、その契約妖精だった彼女達にも影響を及ぼしていると知っているからだろう。

 だからと言って、どうしようもないのだから諦めればいいのに。その責任感の強さは、これまで幾つもの噂話を渡り歩いてきた上に出来上がった彼女なりの信念か。


「……イーちゃん」

「…………うん……」


 アンネが小さく声を掛ければ、僅かな間の後にイーリスは頷いて。それから俯いていた顔を上げると真っ直ぐにこちらを見据えて、それから静かに頭を下げた。


「……ごめんなさいっ。あたしのせいで、色々な迷惑をお掛けしました」


 下がった頭は上がらない。それは許しを請うと言うよりは懺悔に近い言葉の搾り出し方。彼女はきっと、誰かではなく自分で自分を許したいのだ。

 アンネと視線が合って、彼女が頷く。


「それはもう聞き飽きた。……それで?」


 今までに何度も聞いた彼女の謝罪。けれど彼女は、これまでその先を言っては来なかった。謝るだけ謝って、その先を口にしなかった。

 テオもどこかで待っていたのかもしれない。彼女の気持ちの整理がついて、こうして真正面から腹を括って話を持ってくる事を。

 それが今だと言うのならばと、僅かに手助けをする。


「…………だから何が出来るか分からないんですけど、力にならせてください。あたしがどうにかしてこの空気を変えられるなら、知恵を貸してください。……助けて、ください」


 本来ならば助けを求めるのはこちら側。けれど逆転したその景色に違和感は覚えなくて、僅かの沈黙の後に告げる。


「…………俺は許すなんて出来ないからな。そもそもカペラさんに何かされたとは思ってないし。けどそれでも何か許して欲しいなら、自分で自分を許せるように納得でも見つければいい。その手助けくらいならしてやれるけど。それでもいいか?」

「……はい。ありがとう、ございますっ……」


 何よりも不器用なのは彼女自身かもしれない。だから噂に頼って、話題を探して、空気の中で生きているのかもしれない。

 今回のこれは、その生き方が周りを変えてしまったと後悔しているから、これ以上傷口を広げたくないから打開の一手をとることも探す事もできずにここまで来てしまったという。話はきっと彼女の個人のそれだけの事だ。

 誰にだって悪いところはある。正しい事をしていても敵を増やして、悪口くらい言われる。それを一々気にしていたら生きている事が辛くなるだけだ。

 そもそもが間違い。悪い事をなくそうとするから、余計に身動きが取れなくなるのだ。

 だったら話は簡単、悪い事を無視して、良い事を増やせばいい。悪口なんて横において、正しい事だけを追いかけ続けて、ただ自分を許せるだけの理由を見つければいい。

 クラウスだって、似たような事をしていた。

 クォーターであるからとそれをどうにかしようなんて思わなくて。ただクラウスはクラウスとして自分に出来る事をしていた。その結果に、彼を慕う者が増えて、こうしていなくなってから戻ってきて欲しいと願う者が声を連ねるのだ。

 全く度し難いほどに罪作りで、周りを振り回す悪党だと。そんな正しくあろうとする幼馴染を持てて、テオは嬉しい限りだと。

 僅かに彼の真似をしながら笑みを浮かべる。


「だったらそうだな……とりあえずいつも通りを取り戻さないとな、イーリス」

「うん、テオ君っ」


 他人行儀になる必要なんてない。

 周りが敵で当然だ。その中で、信じられる者達と、何よりも自分を信じていればこれ以上なんてありえない。


「……となると後は俺の問題かぁ」

「何か考え事?」


 解決の兆しが見えた話に少しだけ肩の荷を降ろせば、テオにとってのもう一つの懸念が鎌首を擡げる。

 それが口に出ていたか、アンネが首を傾げて問うて来たので仕方なく答える。


「……あぁ、うん。……一つ頼み事してもいいか? 個人的なやつだけど」

「んーーー…………うん、いいよ。今暇だしね」


 随分な長考。一体何と天秤にかけたのだろうか。……彼女の事だからきっと大事な誰かの事なのだろうけれども。

 少しだけ邪推して、それから室内にエミがいない偶然に感謝をしながら口にする。


「ニーナの事、探してくれないか? 話がしたいんだが帰って来て一度会ったきり顔見てないんだ。学院長に聞いたけど知らないって言われたし、今何処にいるのかだけでも知りたい」

「彼女想いだね。……わかった。何かあったら連絡するよ」


 茶化された事に顔を背けながら少し考える。

 フェアリードクターの試験結果は既に出ているはずだ。けれどテオの元に彼女から直接の連絡はない。となると何かあったのだろうかと。

 学院のことで忙しくて城の方にもいけていない。カイに話を聞ければいいのだが、これからイーリスと協力して学院の雰囲気改善に本腰を入れなければ。となればテオ個人の用件であるニーナの事は後回しになる。

 テオが動けない間にアンネに調べてもらえば何か分かるだろうと。少なくともテオよりは広い友好関係で探せるはずだと。


「その代わり、個人的なお願いなんだから後で覚悟しておいてよ?」

「……お手柔らかに頼む」

「ふふっ」


 零れた笑みはイーリスのもの。

 彼女の笑顔を久しぶりに見た気がすると。ようやく動き出した気がする景色にテオも笑って、それから息を整える。

 まだまだやるべき事は沢山だ。もうしばらくすればクラウスがいなくなって二度目の夏季休暇。となれば恐らくその時期にミドラース関連の調査の命が下るはずと。

 できることならそれまでに不安要素は片付けておきたいものだが……。

 苦手な停滞のその先に。動き出した歯車の音を聞いて気を引き締めなおすテオだった。

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