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フェアリー・クインテット  作者: 芝森 蛍
月草を誘う小夜曲(セレネイド)
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第一章

 ハロウィンの宴は過去にない盛り上がりを見せた。

 日を跨いでも人が減るどころか増えて。屋台は用意した材料が売り切れるほどに売れ行きを伸ばし、町を包む歓声は留まるところを知らなかった。

 きっと幾つもの要因が重なったが故の景色だったのだろう。

 外れた箍に気分を任せれば心地よいほどで、少しだけ自分と言う存在を曖昧にして忘れることができるほどに、現実味の薄い景色だった事は確かだ。

 そんな祭典も、けれど朝からずっと動き回っていたクラウス達にとっては行き過ぎた盛り上がりで。肩上のフィーナが途中で寝息を立て始めたのを目にしたクラウス達は示し合わせたように解散して寮へと戻ったのだった。

 そんな過去一番の盛り上がりを見せた翌日。

 クラウス達は事後経過を確認するためにブランデンブルク城へと足を運ぶ。

 今日はサウィンだが、どうやらハロウィンの熱が抜けきっていないのか、城までの道中でまだ少しだけ感覚が馴染みきっていない大人たちを幾人か目にした。

 それでもサウィンはどちらかと言えば厳かに行われる祭り事だ。そのうち落ち着いていつも通りに戻るはずで、そうなれば昨日の夜の出来事がまた一段と現実味を薄くさせるのだろう。

 雰囲気の持つ力とは恐ろしいものだと客観視すれば、肩の上のアルが小さく鼻を鳴らした。お願いだから契約もしてないのに心の内を覗かないで欲しい。

 そんな一幕を交えつつ辿り着いたブランデンブルク城は随分と慌しい空気に満ちていた。

 当然と言えば当然で、昨日まで妖精騎士(フィリット)達はその仕事全てに手をつけられないまま眠っていたのだ。その間に溜まった仕事がどうやら既に彼らを追い立てているらしい。きっとカイやハインツも上に立つ者としてあちらこちらへ動き回っているはずだ。

 時間があるならばジャッキーとも少しだけ話をしたいのだが、さてクラウスの小さな希望は叶うだろうか。

 考えつつ、気付けばクラウス達はヒルデベルトの御前へ。

 膝を突いて頭を垂れれば柔らかい声で挨拶を交わす。


「……さて、色々話したい事はあるのだが、まずは昨日の事から礼を言わせてもらおう。皆、事態の収拾に力を尽くしてくれ感謝する」


 静かに頭を垂れる。公的な場。ヒルデベルト国王からのお言葉だ。一介の民であるクラウスに自由な発言権もなければ頷く以外の行動は許されない。

 けれど思考は緊張もなく随分と落ち着いている。それは昨日の夜に彼と少しでも近しい距離で会話をしたからだろうか。

 何にせよ、クラウスはいつも通り、感情を捨てて理由のある行動だけを機械のようにこなす。


「君達の力なくしてはあれほどまでに順調な解決は難しかったであろう。その労を労って、君達には褒美を下賜したいと思うが、どうだろうか?」

「……謹んでここに」


 ニーナが短く呟く。

 幾つかの偶然と成り行きが結んだ結果だ。クラウスが選んだこととは言え、それは外から感謝されるべきものではないと踏んでいたのだが、どうやら国としてはそうも行かなかったらしい。口添えをしたのはハインツだろうか。だとするならば口止めと言う意味も含まれているかもしれない。


「さて、何がいいかと悩んだのだが、こちらが勝手に授けるのも君達の重荷になってしまうだろう。だから君たちが選ぶといい。可能な限りの理想を叶えられたらと思う」

「……いいのですか?」

「それほどまでに君達は大きな力を示して見せたのだ。恩義に報いるのは当然のこと。何より正当な評価を受けなければ、こちらの価値が下がってしまう。聞き入れてはくれぬか?」


 柔らかい笑顔で告げるヒルデベルト。彼も国の長として大きな責務を背負っているのだろう。

 こちらを伺って来るニーナに頷くけば、彼女は一つ息を整えて答える。


「分かりました」

「ありがとう。追って話が行くだろう。よく考えて返答をくれると助かる」


 そうして浮かべた笑顔は、優しさの中に厳しさを湛えて彼らしさを表している気がした。

 ヒルデベルトの言葉に頷く時間を終えて、クラウス達は帰途に着く。後今日すべき事は、サウィンに向けての準備だ。

 学院でも寮を上げて催しは行われる。寮はクラウス達にとって立派な帰るべき場所だ。その場所で今後何事も起きないようにと願うのは別に間違っていないだろう。

 何よりも、今回の事でクラウスは幾つかの視点を新たに得た。

 妖精とこの世界の繋がり。その間を取り持つ過去から連なる催し事、祭事。

 この世界には一年の間に沢山の祭事が存在する。

 インボルク、ベルティネ、ミッドサマー、ルーナサ、ハロウィン、サウィン、ユール……。この他にも地域によってはもっと細かい分類で地域特有のお祭りごとがあったりするが、それは一旦置いておくとしよう。

 これらの祭事は季節の訪れや豊穣などを願うもので、特に大地に感謝する祝い事だ。

 太陽の恵み、植物の実り。特に食べ物を作ることにおいては人間の干渉とは別に自然由来の力が必要になる。その大地に願いを込める儀式として、自然に強い繋がりを持つ想像上の生き物達へ感謝を届けるという形が、原初の祭事だ。

 その超常現象染みた自然の力と、目の前に現れた異能を繰る種族が交じり合って、早い時代から儀式の意味を持った祭りが出来上がる。

 けれど同時にそれは妖精との歩みの歴史であり、妖精術を駆使した便利な世界への道程だ。だからこそ、始まりこそ重要視された儀式としての意味合いだが、時代が下るにつれてその本質は娯楽へと変わっていく。そうして出来上がるのが現代の祭りだ。

 この辺りの事は妖精史の授業で軽く触れるためにクラウスでも幾つかは知っている。尤も深いところまでとなると流石に文献を漁ったりしないといけないだろうが……。

 そんな祭事。今回の話で重要になったのは祭りの原形……特に妖精と言う存在が現れてからの形だった。

 ハロウィンに関しては古くから幽霊と言う存在に対して行われてきた祭りだが、その意味合いが強くなったのは妖精が目に見えるようになってからだろう。

 まだ妖精が妖精という名前を与えられていなかった頃……その時代に生きた先人達は目の前に現れた妖精という種族に忌避感を抱いた。

 当たり前といえばそれまでだが、いきなり現れた存在だ。興味と恐怖は表裏一体で、だからその存在は時折幽霊や悪魔と言った存在と同一視される事もあったのだろう。

 そこから最初の頃は幽霊だと勘違いされ、祭事で遠ざけようとした異端でもあったはずだ。

 けれどたった一時の間違い……確信の一歩。最初の妖精従き(フィニアン)と契約妖精の誕生によって、その景色は色を変える。

 通じなかった言語が意味を持ち、異なった文化が交じり合う。

 祭事も文化の一つだ。妖精の文化が人間の側に取り込まれれば、お祭り事もその意味合いを変える。

 その時代から妖精と言う存在はこの世界のはんぶんとしての意味を持ち始め、妖精憑き(フィジー)や妖精従きといった存在は忌避と興味の間に挟まれて時代を下る。

 やがて妖精という存在の研究が進むにつれて、妖精従きなどの存在も数を増やし特別性が失われる。

 その傍らで想像豊かな人たちの手によって多種多様な物語が描かれ、そこに人間と並び立つ者──立ちはだかるものとして異種族である妖精が姿を現し始める。

 そうして人間と妖精の交流は時を刻み、互いの文化を侵食して現代へと繋がるのだ。

 更に言えば途中でエルフと言う存在も現れて、その頃には人間と妖精の関係は磐石になっていた事から、今度はエルフに対して強い風当たりが出来上がったりするのだがそれは一旦置いておくとしよう。

 全てが分かった後に裏を返せば、祭事の成り立ちも、その意味合いもよく理解できる。けれどその時代に生きた先人達にとっては試行錯誤の繰り返しで、景色を変える手段の一つだったのだろう。

 祭事と妖精……今では少なくない数でエルフや精霊と言う存在も絡んで来る世界に根付く文化。

 現代では娯楽程度にしか考えられていないからこそ、その価値に気付くまでに幾つもの考察を重ねたのがジャッキーの一件だ。

 ならば逆に考えて、そう言った昔からある祭事に視点を向ければ新たな情報が得られるかもしれないという思考。もっと言えば、過去の歴史を遡るという事は、アルフヘイムと言う存在が囁かれていた時代に近づくという事で────


「どこから手をつけよう……」


 広がった選択肢は幾つもの可能性を描き出してクラウスの想像を鮮やかにさせる。


「また何か面倒臭い事に頭突っ込んでるわね……?」

「今回は本当に骨が折れるかも。妖精変調からこっち、色々と考えさせられることが多くて……」

「いい気味よ」


 呟きにユーリアが答えて。辛い道程を口にすれば当然のようにユーリアは機嫌がよくなった。

 彼女も随分いい性格をしていると変わらない評価を下せば、視界に彼女の父親を見つける。

 クラウスが気付くのと同時、向こうもこちらを見つけて挨拶を向けてくる。


「おや? 今日は一体……あぁ、国王陛下からの召喚かな?」

「そんなところです。ハインツ大将は見回りですか?」

「何、随分と迷惑を掛けたみたいだからね」

「その後はどうですか?」

「順調だよ。最大の誤算は変わらないがね」


 ニーナとハインツの会話を横に、ジャッキーに言葉を向けると彼はクラウスをまっすぐ見つめて答える。

 リーザの方に確認を取ってみると彼女も普通に頷く。どうやら本当にどうにかなったらしい。

 ジャック・オー・ランタン。アルフヘイムや妖精の転生に深く関わって来るだろう存在はクラウスにとっても見過ごせない。

 幾つもの視点がクラウスの景色で重なる中で、クラウスと言う存在だけは確固たる意思でその中心に存在する。


「さて、余り引き止めても悪いかな」

「はい、それでは」

「先輩、私はここで」

「ん、頑張りなさい」


 今一度自分の立ち位置、全ての情報を客観視して最大の目標を胸に刻み込む。

 その傍らでユーリアが輪から外れて、軍の仕事へと一歩を踏み出した。

 学院へ戻る道中、サウィンの色に染まる町の景色を眺めながら言葉を交わす。


「しかしクラウス君は何で無駄に背負い込むのかしらね」

「……今回の件ですか? そこに関しては今回だけに限りませんが……理由は簡単で知らないことが怖いからですよ」

「別に知っていることで話を解決しようと言う意図では無いということか?」

「解決も、できればして恩を売りたい程度のあわよくばはありますけれど、僕の夢にはまだまだ知らなければならない事が沢山あるんです。それを直前になって慌てたくないから、今からこうして知ることが出来る情報を集めて回ってるだけです」


 ニーナの疑問はこれまでクラウスが首を突っ込んできた問題への向き合い方の問い。

 クラウスが何か裏があって全てを解決に導いているのでは無いだろうか……。もっと言えば事件の全ての原因はクラウスにあって、だからこそ自分で事件を起こしては完璧に解決してその信頼を押し売りしているのでは無いか……。

 確かにニーナの考えるように話の結末はクラウスにとって都合のいいように転がっている。けれどそれはクラウスの意図したものでは無いし、全てがクラウスの匙加減一つで操られているわけでもない。


「僕はこの通り、情報至上主義ですから。事件が起きたときにそれに関する情報を集めれば解決できない問題は無いと思っています。根拠のない感情論で突っ走ってその場限りのいいわけで乗り切るのが性に合わないと言えば分かってもらえますか?」

「……確かに考えて行動するのは悪くないわよ。けれどクラウス君はいつだって都合のいい解決策ばかりを提示してないかって事よ」


 流石にその疑問は言いがかりに過ぎる。

 けれどいい機会だ、しっかりと答えてクラウスと言う存在を改めて認識してもらうとしよう。


「それはそう事が運ぶように過程の辻褄を合わせて必要な情報をいつも追いかけているからですよ。言ってしまえば集めた情報が偶然に組み合わさって出来た解決策です」


 クラウスはいつだって問題の解決を最終目標にはしていない。解決した先に何があるか、何を求める事ができるのか。

 ただの損得勘定で物事を語って、必要ならば過程を埋める情報を探し回っているだけだ。


「例え話になりますが、とある数式を解きたかったらそれを解くための公式を習いますよね?」

「それが社会に出たとき必要になる可能性がある以上、教員達は教えるでしょうね」

「けれどそれは与えられたものをどうにか覚えているかに過ぎません。この場合、解きたいという気持ちはあっても公式を覚えたいという気持ちが少ない場合が多いわけですよ」

「あれか? 学ぶ姿勢とかっていう話か?」

「そうだね」


 テオの言葉に頷いて、分かりやすい言葉を借りて紡ぐ。


「学ぶ姿勢がない者に新しい事を教えても意味がありません。けれど自分から学ぶ姿勢を持っている者は他人に教えられる前に自分で調べるはずです。もしそれが本当に必要な事ならば、ですけれど」

「つまりクラウスにとってこれまでに問題が解決できたのは、クラウスの夢に必要な情報がそこにあったからと言うわけか?」

「そうですね。必要だったから調べて、学んだ。その情報が問題の解決にも役立ちそうだったので首を突っ込んで恩を売った……。事実は少し逆で、恩を売りたくて首を突っ込んだら分からない単語が出てきたのでそれを調べた。そうしたら、それが僕の夢を支える情報の一つになった、と言うところですけど」


 もちろん調べても何の夢の特にもならない情報も存在した。例えばローザリンデの一件で脳裏を過ぎった月桂樹の収穫時期とか……。


妖精変調(フィーリエーション)からこちらでおきた問題は全て妖精に関する未知の出来事でしたから、先輩の目には都合のいい結末を導き出したように見えたかもしれませんけれど。僕にとっては想像と偶然が折り重なって成しえた景色だったというわけです。もちろん僕一人の力で手繰り寄せた結末じゃない事は把握してますけどね」


 言って、アルやフィーナに視線を向ける。

 特にアルからはとても重要な情報を幾つも受け取っている。その真偽を見極めるのがクラウスの役割だという事も認識している。


「後はどれだけやる気があるかですね」

「一番の問題点だろ、それ」


 テオの呆れた声音に笑う。


「まぁ、やる気があってもどうにもならない結果や現実は存在するんですけどね」


 例えばこの身を流れる血とか……。


「それをどうにか出来たら、その時にクラウス君を人外に認定してあげるわよ」

「ありがとうございます」


 お願いだから人の手の届かないところには行くなと。

 言葉の裏にそう感じたクラウスは皮肉よりも彼女の素直な気持ちだと覚えて感謝を述べておく。


「それから理不尽に対する答えを一つ。もし全てが僕の思惑だとしたら、こんな大きな問題は起きませんし、委員会も作られはしなかったでしょうね」

「そりゃそうだ」


 テオの同意を貰って自分の存在を再確認する。

 ようやくこれでクラウスの周りに燻る疑念は晴れただろうか。後は意図して起こしている人間関係の渦だけ。

 思い返してその着地地点を見据えれば、気付けば学院まで戻ってきていた。

 集中している時の時間の流れは何故か不平等に早いものだと嘆きつつ寮に戻ると、寮母に呼び止められる。

 何事かと振り返れば手渡されたのは一枚の紙切れ。なにやら伝言らしい。城に行っている最中に誰か来たのだろう。

 文面に通せばそこに書いてあった名前は、アンネ。少し記憶を遡れば、そういえば彼女に頼み事をしていたのだと思い返す。

 そろそろクラウスの処理能力も限界が近いかと景色の変化に理由を投げれば、直ぐに今後の予定は埋まった。


「クラウス、この後なんだが…………何か用事でも入ったか?」

「ん? ……うん」


 ならばどんな風にその景色を作り出そうかと考えていると背中に幼馴染の声が刺さる。服装はいつの間にか私服へと変わっていた。

 どうやらどこか遊びにでも誘おうとしてくれたらしい。ありがたい話だが優先順位は変えられない。


「遊びに行くのまた今度でいい?」

「あぁ、クラウスの都合がつくときに声かけてくれ」

「ありがと。代わりと言ったら何だけど、ニーナ先輩なら暇してると思うよ?」

「……クラウスのその有無を言わせない一択提示は尊敬するよ」

「どうも」


 褒め言葉だと受け取って幼馴染を見送るとクラウスは自室へ向かう。


「……とりあえず妖精の転生とか妖精変調に対する対策とかは一旦保留にして、アルフヘイムについて調査しないとね」

「また本の世界を旅するんですか?」

「ここから先はそう簡単に行かないと思うわよ」


 フィーナとアルの言葉に呼吸を整えて答える。


「それでも必要な事だよ。僕の野望のために知らなくちゃいけない。……もちろん二人はついてきてくれるでしょ?」


 笑顔で告げればフィーナは待ってましたとばかりに胸を張って。アルは呆れたように溜息を零してそれぞれ答えてくれたのだった。




 ブランデンブルク城から戻ったクラウスは自室の本を幾つも広げて、そこに眠る情報を整理し始める。

 そろそろクラウスの処理能力も限界だ。外部に出力して記憶ではなく記録として残すべく、繋がる幾つもの情報を文字に綴る。

 妖精、幽霊、幻想生物、エルフ、アルフヘイム、妖精王、妖精変調、妖精術、魂魄理論、妖性……。

 大まかに括っても十以上存在する分類にクラウスが知る知識を全て繋げていく。

 単語が一つ増える事に相関図の如く描き出される景色が倍以上に増えていく。

 そんな一仕事を終えたのが日が傾きかけた頃。書き出した情報量を改めて見直してよくもまぁこれだけの事を興味だけで覚えたと。加えて偶発的に起きる騒動を解決してこられたと今までの自分を褒めたくなる。


「あたしがいない間に随分と調べたわね」

「調べる事でアルに近づける気がしたからね。それから知らないことで笑われたくなかったし」

「やっぱりクラウスでよかった……」


 安堵したアルの声に小さく笑う。


「それで、アンネさんが持ってくるのはここですよね?」


 フィーナが綴った文字を指を差す。

 そこに書かれた文字は、アルフヘイム。


「僕の調べたものと相違がない部分はほぼ確定してそうだと覚え直し。必要ならアルにも話を振るから」

「答えられるものしか答えないから」

「今はそれで充分だよ」


 一体アルはこの世界のどんな秘密を知っているのか。問い質したくなる気持ちは確かに存在する。

 けれど今それを知ったところで、クラウスは動けなくなるだけだ。

 答えを先に教えられては過程を埋めるだけの単純な作業になってしまう。それにその視点は妖精の側から見た答えだ。

 クラウスが欲するのは人間にも妖精にも……そしてエルフや幻想生物にも納得の通る唯一つの真実。

 だからこそクラウスは人間だけの視点には頼りたくないし、人間の視点も大事にしたい。

 何より一般論で、世界のはんぶんは人間なのだから。


「……さて、とりあえず綺麗にしようか。そろそろアンネさんも来る頃だし」


 疼いた衝動を理性で押し殺して行動の糧にする。

 そうして部屋を片付け終えた頃に扉が叩かれる。中に招けばアンネは安心したように息を漏らした。


「……もしかして急いできた? よかったらお風呂使う?」

「開口一番それはどうかと思うよ。後違うから、ただ単に少し緊張してるだけ」


 珍しい口撃だと考えたのも一瞬。続いた髪を弄る仕草で本心かと納得してしっかりと一線を引く。

 飲み物を用意して腰を下ろせば、アンネはどこか上の空でクラウスの方を見つめてきた。


「…………どうかした?」

「……いや、何だか色々失敗したなぁって。分かってても期待してる自分がいることが恥ずかしいというか…………」

「同情するわけじゃないけど、大丈夫?」

「思ってるならそういう言葉掛けないでよ……。ほんっとままならない…………」


 机に伏せって呟くアンネは少しだけ艶かしく。少しだけ短い後ろ髪から覗く首筋が差し込む陽光で照らされて、少しだけ居心地が悪くなった。


「それで、頼んだ調べ物はどうなったかな?」

「…………ん」


 投げやりに取り出した書類の束。口端から漏れる溜息に隠しきれない色気を感じて溜息を吐く。


「……あんまり感傷に浸ってると役目取り上げるよ?」

「それもいいかなぁ…………」


 綴られた文章に目を通しながら言葉を交わすと彼女は疲れたように零す。

 ……自己嫌悪に耐えられなくなったのだろうか。


「何て言うか……何だろこれ。無茶苦茶にしたいし、されたいし……」


 どうやら随分と溜め込んでいるようだ。

 それからそろそろ危ない発言をしている事に気がついて欲しい。許されているというのはクラウスにとって居心地の悪いものだ。


「もやもやするぅ…………」


 かといってクラウスから何か返せるわけでもなく。返したところで助長するだけでやはり八方塞だ。

 と言うかそろそろ爆弾発言が飛び出そうで怖い。


「────キスしたい」


 ほらきた。

 後で相棒の機嫌を取るクラウスの身にもなって欲しい。


「しないよ。付き合ってるわけでもないんだし」

「だーっ、もう! イライラするっ!」


 今まで溜め込んできた分の癇癪だろうか。どう考えても原因がクラウスにある以上どうする事もできないのが辛いところだ。


「……ごめん、帰る」

「…………アンネさん」

「何っ」


 悪態を吐くだけ吐いて立ち上がるアンネ。その背中に声を掛けて呼び止める。

 取れるべき手は悪手ばかり。ならば全てを壊すための破壊の一手を提示する。


「一回役目外そうか」

「…………………………うん」


 募った感情は彼女自身に向けて。やがて柔らかく波打つ髪をくしゃりと掴んだアンネは小さく頷いて部屋を出て行った。

 男性的意見からして感情的になった異性ほど手に負えないものは無い。特にこちらが冷静であればあるほど相手の神経を逆撫でする。

 ならばまだ理性が残っているうちに距離を置くべきだと。

 彼女もきっと分かっていて、けれどぶつけるほかなかった感情の一部が先程の一幕だ。

 別にクラウスは彼女を責めないし、当然の事だと思っている。

 だからこそ、早くその責任をクラウスに丸投げして欲しいのだ。


「相変わらず面倒臭い…………」


 アルの呟きに笑顔を返してそれから手元の紙の束に視線を戻す。

 とりあえずアンネの事は一旦保留だ。彼女が答えを出すまではクラウスから首を突っ込むべき事はない。

 割り切って思考を目の前に。

 彼女の持ってきたオーベロンやタイターニア、アルフヘイムに関する彼女なりの見解。

 引用した文献が似ているのだから見解も似るのだろうが、見る者が違えば見落としていた視点があるかもしれない。特にファクト女史の語った『ニーベルングの指環』についてはまだ何かあるらしいのだ。

 クラウスも万能ではない。だから見落としもすれば勘違いもする。その死角を埋めるための彼女の見解だ。

 先程書き出した情報と比べつつ読み進めていくと、クラウスの視界から漏れていた単語が一つ浮かび上がる。


「…………そう言う事か」


 続けて綴られたその根拠。可能性と推論。

 アンネの新たな視点がクラウスの持っている情報を裏から肯定して、表舞台へと引き摺り出す。

 全く、ややこしい事この上ない。偶然とは言え出来すぎている……。

 クラウスの集めた情報の中できっと一番引っかかっていた単語が、たった一つの名前で繋がって切れなくなる。


「どうやって調べよう…………」


 目を背ける事ができなくなった問題に、方法論を想像して早くも暗澹(あんたん)たる気持ちに溺れていく。


「これ解決しない限りはアルフヘイムの肯定なんてさせないから」

「もちろんそのつもりだよ。……けど寄りにも寄ってエルフだなんて…………」


 エルフ。アールヴと言う古い名を持ち、妖精と似た異能を操り、アルフヘイムと言う名によってその存在を否定され続けてきた種族。それがよもや本当にアルフヘイムの源泉から連なる系譜だとは思いもしなかった。

 いや、少し前にイェニー女史からもエルフの系譜を辿れといわれたのだったか。考えたくなかったという方が正しいかもしれない。

 ────エルフはエルフじゃない

 確かに彼女との見解は認めている。けれどそれはエルフでは無いというだけで、妖精と言う存在と繋がるとは思わなかった。いや、思いたくなかったのかもしれない。

 もしそうなればどちらかがどちらかに引っ張られてしまうから。

 どちらかの存在を否定してそれを世界の真実に書き換えてしまわなければならないから。

 血の否定。歴史の否定。

 今になってようやくクラウスの歩む道が途方のないものだと気付かされる。


「……それでもクラウスさんに逃げ道はありません」

「えぇ、女との約束を反故にはできないでしょう?」

「あぁ、そうだ」


 けれど引けない。引いたところでどこへ向かうというのだ。

 それにフィーナやアルの望みだけではない。

 クラウスの意思で集めた者達にしっかりと示しをつけねば。


「大丈夫。エルフも妖精も、悪いようにはしないよ」


 言葉にして逃げ道を叩き壊す。

 逆に考えればいいのだ。クラウスだからできる役目だと。クラウスにしか出来ない役目だと。

 そう錯覚すれば罪悪感も消え失せる。

 それに答えも最初から一つだ。


「……とりあえずこれは保留。その時になったら真偽を確かめるよ」

「クラウスがそれでいいならいいわよ。ただし後から自分の首を絞めてもあたしは知らないから」

「覚悟はもう出来てるよ」


 都合のいい笑顔で全てを記憶の奥に仕舞いこんで思考を一新する。

 今できる事をするとしよう。特にどうなっても必要な事は今手元に存在する。


「フィーナ、王妃殿下から貰った術式を片付けようか」

「もうですか?」

「出来る事から、だよ」


 静かに腰を上げてアンネが持ってきた紙の束を机の棚に仕舞うと一つ伸びをする。

 考えるのは行動すべき時でいい。今はまだ、そのための準備段階だ。

 深呼吸一つ。それから敬愛すべき彼女から受け継いだ創り掛けに、クラウスの色を付け始めたのだった。




 アンネの報告から目を背けた翌日。

 少しばかり過ごしやすくなった学院での生活は僅かの奇異と変わらない疑いや嫌悪の視線を孕んで時を刻む。

 今更クラウスに対する視線は気にするほどでもない。これはクラウスの世界にのみ許された常識だ。

 問題にならなければそれでいい。

 マルクスが裏で糸を引いた一件で、クラウスに対する大体の思惑は分かった。収穫と言えば収穫だ。

 分かれば簡単、後はその導火線に火をつけないように、いつもの如くのらりくらりとこの身を駒として風説の中を空気となって漂うだけだ。

 そんな日常。変わらない景色はどこか安心感を纏っていつものように流れていく。

 クラウスの抱える独り相撲な悩みとは裏腹に、視界に映る色はどうやらまた少し匂いを変えたようで。ジャッキーの一件を終えての学院側の今後の方針を練る為に集まった生徒会室は、何やら賑やかな様子になっていた。


「ユーリ、そこ字が間違ってる」

「……どうも。アンネはもう少し食べ方に気を使ったら?」

「え? 嘘、どこっ? どこに付いてるっ?」


 クラウスは余り気にしていなかったがそう言えば近々座学の中間考査だ。

 授業で習った内容はその時間だけで八割方頭の中に記憶するクラウスの記憶能力は過去にテオに異常だと指摘されたことがある。が、そこまで勉強をしなくてもまぁまぁの点数が取れてしまう生徒と言うのはいるもので、クラウスもきっとそのうちの一人なのだろうと試験勉強に勤しむユーリアの様子を横目に、勝手に備わっている無意識の記憶能力のよさに感謝をしてお菓子を口に放り込む。

 けれどその記憶能力もここ半年ほどずっと続けていれば疲労が見え始めたようで、『ニーベルングの指環』でも見落としをしていたほどだ。

 そんなどうにか助けられてきた記憶能力に休暇を出すべく今はただ暢気に日常を謳歌する。

 相も変わらずユーリアは座学についてはもう一歩。……別にちょっとした知識不足なら愛嬌の一つだろうと深く考える事を放棄して心の中で応援だけを送っておく。


「お飲み物用意しますね」

「…………あぁ」

「白いカップにお砂糖はなしー♪」


 ユーリアから視線を外せば次に目に入ったのはヴォルフとレベッカ。

 アンネもそうだがどうして委員会の会議に部外者がいるのかと言う疑問は抱いたら負けだろうか?

 考える事も億劫な気がしてそれに関する情報を一切切り捨てる。自分の平和は自分で作り出すべきだ。

 どこか困ったようなヴォルフ。彼の目の前には可愛らしく包装された焼き菓子の袋が存在していた。

 レベッカがヴォルフの為に焼いてきたらしい。

 美味しそうではある。実際美味しいのだろう。それに今食べる事を咎めたりはしない。今は昼休みだ。昼食を食べ終えた後だというなら自由だろう。

 けれど一応会議中ではあるはずだ。

 仲がいい様子に嫉妬するわけでは無いが、解せない。ヴォルフも時を改めればいいものを、何故容認しているのだろうか。

 景色にはレベッカの自作なのだろう小唄が混じる。


「テオー、ひーまー」

「少しだけ解放していただけませんか? でないと書類に署め────」

「やーっ。……そうだ、今度どこに遊びに行こうかっ?」


 それからテオとニーナ。

 まず語るべきはニーナだろうか。

 彼女は今椅子に座り机に向かうテオに後ろから覆い被さって耳元で囁き、彼の作業をこれでもかと妨害していた。

 随分な密着具合。彼女には恥じらいと言うものがないのだろうか。それともクラウス達の事は既に視界の外なのだろうか。

 肩に顔を乗せられたテオは鬱陶しそうにしつつも満更では無い様子で、その頬は少しだけ染まっている。恐らく当たっているのだろう……何がとは言わないのが情けだ。

 小さな抵抗も通ると思っていないのか、集中を乱されつつもどうにか彼は生徒会の書類に目を通す。お願いだからそこは委員会の資料であって欲しかった。

 ぐるりと回した視界で特に目に付くところだけ挙げてもこの有様だ。ここまであからさまだと慣れていても独り身が少し寒い。


「フィーナ、それ三つ目」

「うっ…………いえ、妖精は太りませんからっ……!」

「クラウス、少し髪伸びた?」

「痛い痛いっ」


 仕方なく繋がりを求めてフィーナをからかえば、彼女はチョコレートの乗ったマフィンを抱えて小さく唸る。別に太らないのは知っているが、クラウスの分が減るのは少し切ない。どうでもいいがフィーナが食べているそれは恐らくニーナが持ってきたものだ。来た時には既にあったものだから推論だが……。

 そんな風に言葉を向けた矢先、頭の上に座っていたアルがクラウスの前髪を掴んでぶら下がる。滞空なしで引っ張られたために頭が前に持っていかれて口から小さな抗議が漏れた。

 顔の前にぶら下がり、空を掻いてぱたぱたと揺れるアルの小さな足にに手のひらを差し出してやりながら後ろ髪を触る。

 確かに少し伸びたかもしれない。近々切りに行くとしよう。

 そんな日常の予定を立てられるほど落ち着いた景色に一つ息を落として、思考を平坦に伸ばす。

 きっとこれもまた一時の安らぎ。

 クラウスの理想はまだ叶っていないし、そのための努力も途中。

 その内また面倒臭い話が舞い込んできて、必要であるならばクラウスは首を突っ込んで……。

 後何度想像に難くないやり取りを終えれば目標に辿り着く事ができるのだろうか。そう自問自答して自分の存在を見失いかける。


「クラウス、目が死んでるわよ」

「いつものことだよ」


 そんな風に考えていると静かにクラウスの肩に座るアルが小さく呟く。


「…………何考えてるか知らないけれど、もう少し実感しなさい。この光景は貴方が作り出したものよ。貴方が描いた、理想の景色よ」


 ……本当に何もしていないのだろうか。もしかして記憶を覗いたのでは?

 そう感じてしまうほど的確な彼女の言葉に笑みを浮かべる。

 クラウスが作り出した光景。確かにその通りだろう。

 アルフヘイムと言う夢があって、そこに辿り着くためのこの道程。その途中で偶然出来上がった一幕。客観視すれば日常の一部だと割り切ってしまえるが、アルの言葉で何故かそう簡単に切り離せない光景になる。

 同時に、そこに自分がどんな関係で繋がっているのか……何をしてこれたのかと思い返して納得する。

 先程感じた寂寥感。それはこの先クラウスが直面して然るべき──孤独だ。

 クラウスはいつも一線を引いて行動して来た。今こうして考えているクラウスも、この景色に並ぶ駒の一つでクラウスと言う人間ではない。

 そこにクラウスの意思は存在しない。クラウスと言うクォーターは存在しない。

 だからそう、これはそこに自分がいることへの忌避と嫌悪だ。

 その寂しさこそが、クラウスと共にあるべき唯一の感情だ。

 けれど同時にそのクラウスと言う駒がいない景色を想像する事ができない自分がいる事に気付く。

 一線を引いて、客観視して、駒としてどこまでも機械的に判断を下してきた。同時に、他人に合わせて動いてきた。

 そのために他人を知る必要があった。知っている中でやりやすそうな相手を選んできた。自分がやりやすい方法を選択してきた。

 それがいつしか彼らと彼女達に強制してきた罪悪感で固められて、責任として最後まで見届けるもう一人の自分を作り出したのだろう。

 それがきっと、この景色から自分を排除できない最大の理由。

 いつかは切らないといけない関係の糸。けれど今となっては自分では切れない繋がり。

 どうしてこんなところまで紡いできてしまったのかと己の愚かさを嘲笑って必要性を裏返す。

 切れないのなら繋がっている事を利用するとしよう。どこまでも自分の為に、どこまでも彼らと彼女達の為に。最後まで巻き込んで理不尽で振り回してやろう。

 ……面倒臭いがそれがクラウスに出来る選んだことへの罪滅ぼしだ。


「そうだな…………そうするよ……」


 呟いて理想の着地地点をもっと未来に伸ばす。

 もしかしたら心のどこかで気付いていたのかもしれない……アルフヘイムでは終われないという想像に色が付いた気がして吐きそうなほどの酩酊に苛まれる。

 遠い…………とてつもなく遠い理想。

 まだまだ十分の一ほどしか歩んでいない道程を振り返って夢想する。

 ならば、そう。目を背ける理由を探していた真実も中間地点の一つに数えられる。

 出来すぎた理想の道のりと真実の未来を最終到達地点に設定する。

 全ての物語がたった一つの結末に集約するように……。全てに理由をつけて矛盾のないたった一つの答えだけを導くために。


「さて、先輩。そろそろ会議始めないと時間無くなりますよ」

「えー?」

「我が儘は聞きませんよ」


 思考を一新して腰を上げると景色に一石を投じる。

 とりあえず今を前に進めよう。それから変わった景色を利用するだけだ。

 今までと変わらない自分なりのやり方に従って言葉を繰る。

 そうすればいつものようにクラウスを取り戻すことができた気がした。

 慣れた感慨で必要最低限の確認だけを振って最終的な結論だけを受け取ると、これはニーナの丸投げだと理由を押し付けて一人で文面に纏める。

 彼女も分かって任せているのだろう。時折こちらを窺っていた彼女だったが結局最後まで自分から手を出す事はしなかった。どうしてこんな面倒臭がりの人物が少し前まで視線の棘に晒されて生徒会長の座を降りなかったのか不思議でならない。

 この頃、胸の内に蟠る感情がそろそろ爆発しそうな気がしてならないクラウスだ。

 そんな苛立ちを空気のために飲み込んで全て書類に記し終えると彼女の前に突き出す。


「……纏めておきましたから、あとは署名だけお願いします」

「んー? あー、はいはいっ」


 煽ってるとしか思えない生返事。……今度テオにニーナの陰口でも吹き込んでおこうか。

 我ながら陰険な仕返しの方法に怒りの溜飲を下げて生徒会室を後にする。すると後を賑やかに談笑しながらユーリアとアンネが着いて来た。

 背中に感じるのは視線。一つはどこか申し訳なさそうな、こちらを窺うようなもの。もう一つは何故か苛立ちを募らせたもの。

 前者は一応想像が付くが後者は心当たりがない。何か彼女の気に障る事をしただろうか?

 考えても、どうにも納得が導き出せずに疑問だけが渦巻いて胸の内に蟠る。

 仕様がないので一度落ち着くためにお手洗いに。廊下に出ればそこには何故かユーリアが一人壁に背を預けて立っていた。


「ねぇクラウス。アンネに何かしたでしょ?」

「ぅん? ……えっと…………」


 何やら雰囲気が普通なそれではなかったので静かに通り過ぎようとしたところ、まるで銃口でも突きつけるような声音で声を掛けてくる彼女。

 思わず足を止めて振り返れば、彼女の紫苑の瞳は怖いほど色を無くしクラウスだけを射抜く。

 とりあえず間を埋める言葉を漏らしながら思考を巡らせれば彼女の言葉を読み解く鍵を一つだけ見つける。

 アンネ。そこに関して彼女の機嫌が悪いのであれば恐らく昨日の事だろう。喋ったのか訊き出したかなんてのは彼女にとって些細な事。クラウスにとっては重要な事……。


「……惚けるつもり?」

「分かったっ、話すよ」


 だからその今にも拘束して尋問を始めそうな危ない雰囲気を仕舞って欲しい。

 深呼吸一つ。それから教室に向かって歩き出しながら素直に昨日あった事を話す。流石にこの彼女に隠し事ができるとは思わなかった。軍人さんコワイ。


「…………と、そんな感じ。……もしかして返礼のお問い合わせかな?」

「いい根性してるじゃない……仇討、雪辱、報復、復讐…………。どれがいい?」

「ほぼ全部同じだよ、ユーリア……」


 どうにか矛先を丸めてみようと試みるが逆効果。静かに白旗を上げて降参の意を示す。後多分、選べばそれぞれクラウスに降りかかる災厄が異なるのだろう。よくもまぁそれだけ物騒な事を思いつくものだ。


「最初から悪いのは僕だって自覚してるつもりだよ。その上でアンネさんが僕に責任を負わせてくれないから僕は何も出来ないってだけ」

「そんなことだろうと思った……。何であんなに責任感が強いんだか」


 ……それはもしや天然で言っているのだろうか。だとしたらユーリアも半分同罪な気がする。


「で、話を聞いてくれた事に感謝して、お願いが一つだけ」

「どうせクラウスの都合のいいようにアンネを言い包めて欲しいんでしょ?」


 勘が鋭すぎるのも困りものだと笑顔で返せば、彼女は大きく溜息で答えてくれた。

 分かっていて、クラウスに聞きに来てくれるのだから頭が上がらない。


「見返りは何がいい?」

「その顔が見られれば他には何も要らないわよ」


 何よりも高く付いた頼み事だと納得して彼女に全てを任せる。

 そうして幾つかの言葉を交わして教室に戻れば、入り口に凭れ掛ったアンネが寂しそうに待っていた。足音に気付いたか顔を上げてこちらを見つけるや否や悪巧みをするように笑顔を浮かべる彼女。

 流石にそれは分かり易すぎると隣のユーリアを見れば、彼女はまた一つ溜息を零していた。

 アンネに腕を引かれて教室へ入っていくユーリア。そんな二人を眺めながら彼女の思惑を胸の内だけで広げる。

 アンネはクラウスとの関係をどうすればいいかを分かっていて、その上でユーリアとクラウスが接点を持つようにまた道化を演じている。その被った仮面をクラウスは利用して、ユーリアはきっと見えない振りをしている。

 既に約束されたも同然の結末と、彼女にとっては一大事の大舞台と。

 二つの景色が重なってそこまでの道程を着々と作り上げていく。

 後どれ程の時間こうして居られるか分からない中で、たった一つの答えだけを求めて必死に全てを手繰り寄せる。

 何ができるだろう。どうすればいいだろう。

 たった二人の為に足掻く周りの景色に感謝をしながらクラウスは一人そのときの為に言葉を整える。

 全ての思いに答えるために、ただ純粋な気持ちだけを胸に秘めて。




 そんな日常を過ごせば時間はクラウスだけを置いて無情にも進む。

 教室で交わされる言葉はいつも通りの中身のないものと、教員の眠りへ誘う長い文言。

 その場限りの言葉達は相槌を打った先からその意味を磨耗させて雰囲気の中に溶けていく。他愛のない、何よりも掛け替えのない貴重な時間。

 クラウスには早々許されない自由の時間。

 教室内の景色も相変わらずクラウスにだけは少しだけ冷たくて。事務的な事以外では早々踏み越えられないクラウスの周りの境界線はいつも通りに稼動して。

 時折アンネやユーリアから飛んでくる飛び道具の目標をすりかえれば、あとはこの頃の敵であり友である分厚い書史を紐解く毎日だ。

 特にアンネに任せていた調べ物の結果を受け取った日からは妖精術についての専門書を読み込んでいる。

 彼女の齎した情報はクラウスが描けなかった視点に色を付け、景色を想像させるほどに理想を現実的に……道程を長くさせた。

 だからこそ、今はこれ以上深く調べる事を避けて、クラウスはクラウス個人の身になる技術的な方面へとようやく手を伸ばす事ができたのだ。

 アルフヘイムについては知れば知るほどその意味から視線を逸らすことが難しくなる。結果それはこの世界を覆す可能性へと繋がり、同時に妖精という存在を暴き立てる真実の剣となる。

 そんなアルフヘイムへの探求は、まだ早いというクラウス個人の結論だ。知れば、準備も整っていないうちから無理難題に直面し、その立証を背負い込むだけ。そんな無謀はクラウスの得意分野ではない。

 然るべき準備と然るべき時の為に、今はまだクラウスには早いという判断だ。

 それらのアルフヘイムや妖精の真実に繋がる準備の一環として、クラウスが選んだのが妖精術の知識だ。

 妖精術……それを繰るための妖精力は妖精という存在を語る上で外せない要因だ。

 視界を広げて異能と言う点で見れば、エルフの扱う精霊術との区別や繋がりを発見する事に結びつく。

 それに、クラウスの手元には今、アスタロス王妃殿下から授かった術式の元がある。これをクラウスが完成させる事も彼女の意思と言えばそうだ。クラウスは彼女のいざと言うときの代替品なのだ。

 クラウス個人の求める知識と、求められている結果。二つを満たしつつ、その上クラウスの野望を構成する一柱にもなり得る要素。どこかできっちりと学ばなければならないものであるのは確かで、その必要性を問われているのだから今優先すべき事柄なのだ。

 ならば順当に順応に。いつも通り学ぶ姿勢を原動力として自分第一にやるべき事をするだけだ。

 それがいつしかクラウスを助ける知識になると言い聞かせて。


「面倒臭いわね。人間も早く自分一人で妖精術が作れるようになればいいのに」

「世界には出来る人もいるみたいだけどね。目的が高度になるほどにその難度は増す……。何か一つを追及しようとすれば直面する壁だよ。人間にとって妖精術の構築は特にその壁が分厚いだけ。いつかそうなる日も来るとは思うけどね」

「この調子だと随分先になりそうですね」

「あたしには人間の付き合い方のほうが難しいわよ」


 アルの言葉に笑みが零れる。

 人間にとって妖精術の構築は大いなる目標で。妖精にとっては人間を理解する事こそが最大の疑問で。

 きっとどこかで答えを見るだろう結末は、想像ができないほど遠くに存在している気がした。


「……後一つ助言するなら、妖精術を作りたいなら妖精力を無意識に扱えるようになるのが一番よ」

「それは初耳だね……。日常的に使ってれば感覚の一部になるかな?」

「どうかしらね。呼吸と同程度まで意識、無意識を切り替えられるなら可能性はあると思うけれど」


 婉曲的な放棄の進言をどうにか可能性の一部として認識して目標を設定する。

 真人間なら難しいかもしれない。けれどクラウスはウォーターだ。妖精の血があるならそれが刺激されるかもしれないと自分に掛ける妖精術の候補を探る。


「とりあえず日常で害のないところ…………浮遊術式とかずっと掛けててみようか。別にこの体が浮くわけじゃないし」

「やるのはいいけれどフィーナにその維持を頼らない事ね。自分で術式を展開して、それを自分だけで維持する……それをずっと続けるのは随分の苦行よ?」

「可能性がないわけじゃないんでしょ?」

「それはそうだけど…………」


 どこか躊躇うようなアルの声音。そんな彼女にフィーナが口を挟む。


「クラウスさんは意外と頑固者ですからね。一度決めた事をそう簡単には曲げませんよ?」

「それくらいあたしも分かってるわよ……」

「だったら止めるんじゃなくて手助けをしてあげるのが一番の方法じゃないですか? 何かあったらわたしたちがどうにかすればいいんですっ」


 根拠のない自信は彼女のやる気に彩られてアルの口から溜息を引っ張り出す。

 やがて折れた彼女は顔を上げると早口で捲くし立てる。


「……いい? クラウスは周りほど妖精力に愛されてないんだから無理はしないこと。フィーナもクラウスの変化にだけは注意してなさい。何かあったら直ぐに言うのよ? その時はあたしも力を貸すからっ」

「…………アルってわたしより心配性ですよね……?」

「う、うるさいわねっ。何かあってからじゃ遅いから言ってんの! 何か問題あるっ?」


 フィーナに指摘されて顔を背けるアル。

 言葉にすれば怒るだろうが、そうして頬を染める彼女は可愛らしくて、それから少しだけ世話焼きな母親のようだとクラウスは思うのだった。




              *   *   *




「次の予定は?」


 廊下を歩きながら後ろをついて来る長年の友に語りかける。

 彼は立場を考えてか人目に付くところでは隣に並んではくれない。そんな忠実な相棒の声を耳が捉える。


「少し時間を挟んでコルヌ伯爵との会談です。それまではしばらくですが自由な時間がありますが……何か希望はございますか、ヒルデベルト国王陛下」


 ヒルデベルト国王。多くの者がその名を呼ぶときには今みたいに陛下と付けられるこの国の主。それが今の自分だ。

 少し後ろに控えるのは最も信頼する右腕、ハンス・クルサ。齢64を迎える、この頃禿頭になりつつある頭髪をよく気にしている古くからの友人だ。

 彼について語るのならまず話の取っ掛かりとして彼が妖精の見えない者と言う事だろうか。

 ハンスは幼い頃からの付き合いだが、妖精と交信できない事で今までいくらか苦労してきている。

 特にこの世界では妖精は景色のはんぶんで。国に繋がる者として世界のはんぶんを殆ど知らないというのは大きな足枷になる。

 小さい頃から国に仕える者として育ってきた彼は妖精が見えないことで幾つもの不利を被ってきた。

 けれどそんな彼だからこそ、妖精が見えない者として貴重な視点を持ち、誰よりも理解しようと努力をしてきた人物だ。

 国と民。どちらがどうあるべきと言う水掛け論をするつもりは無い。

 ただ民の言葉を代弁する者として、きっとどこかで不完全な人間一人を支えるためにヒルデベルトは彼を近くに起用した。

 そんな建前と、それからただ仲がいいと言う本心と。

 二つの無理を押し通して、彼には助けられている。幼少の(みぎり)の出会いには感謝をするばかりだ。

 彼の言葉に考えるように顎を撫でる。動作に重く豪奢な外套がゆらりと揺れた。


「……どれくらい取れそうだ?」

「午餐の後、一刻ほど……」


 どうやら随分と余裕のある予定らしい。そうなるように都合を付けてくれたのだろう。誤解をされても困るが、彼に実務の管理を任せておいて正解だったと小さく笑う。

 朝聞かされた今日の予定を思い返して、そういえばそんな事を言っていた気もすると思い返す。


「なら、そうだな…………。久方ぶりにリンダの機嫌でも伺いにいくとするか」

「後ほど都合の確認をしておきます」

「うむ。任せる」


 鷹揚に頷いて彼に一任する。

 いつもの関係だ。…………今度その労を労うとしようか。

 少ない自由をどうにか繰って想像を馳せる。

 考えるのは楽しい。身分上、想像が現実になるのは一割あるかないかが現実だが。

 この身は既に意思など遠に捨てたのだと寂しく思いつつ、脳裏を過ぎった記憶を言葉にする。


「……そう言えば、今朝予定を聞かされたときに近々何か大きな予定があると言っておったが、何の話だったかの?」

「四ヶ国会議でございます」

「……あぁ、そうだそうだ。どうにも朝は低血圧で記憶に難があるな」


 ヒルデベルトの傍付きとして一線を引いている彼からは打てば響くような返答は無い。

 もう少し遊びがあってもいいと常々思うヒルデベルトだが、彼からしてみれば仕方ないのだろう。

 彼はいつだって結果を求められている。結果を出せなければヒルデベルトの期待に答え続けられないから。彼なりの精一杯なのだろう。

 遊べるはずもないかと同情しながら小さく息を零す。

 とりあえず気楽で対等な会話は当分見送りだ。今は目の前に控えた四大国での会議に向けて準備を進めるほかは無い。

 会議の議題は確か妖精変調に関するものだったように思う。妖精変調の発覚以降、どこの国も起こる問題の対応に追われていて、ブランデンブルクもつい数日前まで城内が慌しかった。

 そんな色々な大変なことが重なって時が経過し、妖精変調が世界に知れてから一月とちょっと。ようやく各国の都合がついたために開催される事となったのが今度の会談だ。

 きっと今後どうするかと言った話し合いや、具体的な解決策の模索になるのだろう。そういう意味では小耳に挟んだヒルデベルトの最愛……ローザリンデの試みが現状の打開に繋がると信じている。

 何よりヒルデベルトが見初めた唯一だ。失敗は無い。

 気になると言えば、この頃彼女の体調が傾いできているというところだろうか。

 考えたくない話だが、どちらが先か────

 段々と近づいてきている足音を聞こえない振りをしながら、今は前だけを見据える。

 今できる事を。国として、世界の為に──彼女の願いの為に、やるべき事を。

 王の責務は国にあり。

 一度王位を退いたこの身が、我が儘を突き通し第29代国王として成すべき事を成す。

 それが全てであり、唯一つの答えだ。

 そうして幾つか考え事をしながら昼食を食べて。一つ休憩を挟んだ後、最愛の元へと向かう。

 ハンスからは先程都合がついたと連絡を貰った。彼は今彼がやるべき仕事をしているために隣には居ない。

 城内を一人で歩くというのも久々だと感じながら目的地へ。

 扉を前に足を止めればその場を預かる女中が慌てたように声を掛けてきた。


「お、お話は聞いておりますっ。どうぞ中へっ」

「うむ、ありがとう」


 見慣れない顔。どうやら新人らしい。初々しくて危なっかしい。誰もが持つ初心の時期だ。

 学ぶ事が多いだろう。出来る事ならそのまま学び続けてしっかりと国に仕えて欲しいものだと、新顔を記憶に留めつつ四度の扉を叩く音。遅れて響いた迎えの言葉に扉を押し開くと、彼女は部屋の中心で寝具から上半身を起こし窓の外を眺めていた。

 近くによって声を掛ける。


「体調はいいのか?」

「ええ。今日は絶好調よ」


 こちらを向きながら優しく笑って答えるローザリンデ。仕草に白縹(しろきはなだ)の波打つ長髪がゆらりと揺れる。

 こんなところに居ても彼女は彼女らしく佇んでいて、しばらく会えていなかった間の時間が愛しさで満たされていく。


「仕事の方は一段落?」

「近々大きいのが一つ。四大国が集まっての会談だ」

「そう…………」


 問いに答えれば、彼女は視線を再び窓の外へと向ける。一体どんな景色を想像しているのだろう。何を見ているのだろう。

 求める気持ちが彼女の心の中を覗きそうになって、やめる。

 それは彼女との約束の反故だ。

 記憶を遡って、過去に交わした約束を思い出す。


 ──貴方は私の為に。私は貴方の為に


 ──そうすれば私達はいつまでもお互いを助けていられる。愛していられる


 ──だからお願い。私の心を考えないで


 ──私も貴方の心を考えないから


 それは彼女と交わした最初で最後の約束。

 相手の心の為でなく、ただ相手の為に自分を捧げる。深く考える前に行動で示せ。

 研究者として実直な結果を求めていた彼女が信条にしていた曲がらない志。

 突きつけられた誓約に頷いて、彼女はアスタロスの姓を受け入れた。

 その約束を反故にしたとき、きっとローザリンデは是非もなくヒルデベルトを拒絶する。ヒルデベルトも、ローザリンデを拒絶する。

 絶対の不可侵にして、絶対の信頼。

 それが彼女との唯一のつながりだ。


「だったら、これは貴方の役に立つかしら……?」


 記憶の旅を終えて現実に帰ってくれば、彼女は細く白い腕を伸ばして一つの方陣を展開する。


「これは妖精変調の対抗策。妖精を妖精のままにして、この世界に留まらせる私達人間の自己満足の理」


 ヒルデベルトが触れようと手を伸ばす。けれど方陣に触れる前にローザリンデが掻き消した。


「まだ完成はしていないけれど、お墨付きは貰ってるわ」

「……いつ頃完成しそうだ?」

「…………いつでも」


 気紛れを言うはずは無い。ならば事実で、それは何よりヒルデベルトのためだと気付く。

 全てはヒルデベルトのために。

 納得して信頼に答えを返す。


「だったら会談が終わってからにするとしよう。その方が色々と都合がいい」

「あら……これまた悪い事を考える」


 惚けた声に小さく笑うと、彼女も肩を僅かに揺らした。

 そうなるように「いつでも」なんて意地悪な言葉を使ったのは誰だと。彼女らしい小さな意地に気付いて、けれどそれを指摘しない事も同罪か。

 僅かな時間を共有して互いの事を記憶の中に刻み込む。

 後どれだけこんな時間が残されているのか。少しだけ想像を馳せて、それから首を振った。

 どれだけであろうと関係ない。何れは訪れるその時だ。考えるのは直面した時でいい。

 これまで幾度も考えては納得した持論を思い返すのと同時、部屋の扉が叩かれる。ローザリンデが中へ招くと、顔を見せたのはハンスだった。


「お取り込み中失礼致します。陛下、午後の予定についてご相談が」

「ふむ、もうそんな時間か」


 視界を回して、そういえばここには時計がなかったのだと思い返す。

 深呼吸一つ。そうして気持ちを切り替えるとローザリンデに言葉を残す。


「それでは行ってくるよ」

「お気をつけて」


 変わらない微笑で彩って彼女が答える。

 彼女の信頼を裏切らないためにも、ただひたすらにやるべき事をやるだけだ。

 納得を生み出して、彼女の聖域を後にする。


「無理を言って悪かった。お陰で一つ、会談への準備が進められた」

「それは何よりでございます。……それで、午後からの予定ですが────」


 ハンスの変わらない姿勢にいつも通りを取り戻しながら歩みを進める。

 この歩みは彼女の為の一歩。自分自身のための一歩。

 世界に干渉すること、国を動かす事が、今自分に出来る事。

 ならば出来る事ならば、しなければならない事で、他にできる者がいないのだからしょうがない。

 全ての責任を背負って、ヒルデベルト・アスタロスが成すだけの事。

 それが王としての、ローザリンデのはんぶんとしてのやるべき事。

 反芻すればもう迷わない。後はまだ見ぬ結末へ向けて歩みを止めないだけだ。


「……と言う感じです。問題ありませんか?」

「大丈夫だ。わしはヒルデベルトだからな」


 いつもの口癖で答えて我が道を進む。

 それがヒルデベルト・アスタロスに許された道ならば、信じて進むだけだ。

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