前奏曲
いつからかそれは避けられぬ運命に変わっていた。
二人の間に蟠る暗黙の了解になっていた。
いつかは訪れる別れの時。出会った時から避け得ぬと覚悟した深い思い。
重ねた記憶は鮮烈な色と──音と──匂いに彩られて、景色を記憶と共に刻み込む。
どれほどの思いがそこに込められているだろうか。
どれほどの願いがそこに秘められているだろうか。
きっと当人達でさえ全てを理解するには遠いほど、沢山の時間が紡がれたのだろう。
今となっては全てよき思い出だ。
「ねぇ────」
「なぁに…………?」
音は震えて空気を揺らし、彼女の笑顔を辛くさせる。
「楽しかった?」
「もちろん」
問い掛けは自分の胸にも響く。
「嬉しかった?」
「もちろん」
彼女の言葉が、ただ意味だけを持って音になる。
「あたしで、よかった……?」
「……えぇ、もちろんっ」
笑顔に笑い返せば、頬を温かい涙が伝った。
彼女が満足してくれるなら、それがあたしにとっての最上だ。それがあたしにとっての楽しさだ。嬉しさだ。
小さな体で、大きく抱えきれないそれを、抱きしめる。
「ありがとうね……」
「うん、ありがとうっ」
彼女に向けて──自分に向けて。
何より彼女に出会えた運命に向けて──心より感謝する。
「満足でいっぱいの、人生だったわ」
そうして浮かべた笑顔に、あたしは小さく「うん」と頷いた。




