第二十五話 微笑み
お母様の笑顔が見れるなんて、もしかして、夢かな?
夢だったらヤダな……。
でも、もしこれが夢だったら、起きて、お母様に「大好きだよ」って笑顔で言おう。
あたしはそう考えて、お母様にきつく抱き着いた。
「ううん。なんでもないの。あ! そうそう、今日ね、お父様に勝ったんだ!!」
抱き着く力を弱めて、お母様を見上げて言った。
そしたらお母様。
何のことか解らないみたいで、きょとんとしてた。
だから、武術大会でお父様と戦ったことを言ったの。
そしたら、ぱちぱちって瞬きをして、驚いた顔になったかと思うと、きつく抱きしめられた。
「まぁ! すごい、すごいわニコ!!」
「えへへ」
ちょっと苦しいけど、お母様が嬉しそうだからいいや。
「うん。無駄のない動きで、見ていて楽しかったよ。おめでとう、ニコ」
いつの間にか近くに居たお兄様に、頭を撫でられた。
てか、お兄様見てたんだ……。
だから、あそこに居たのかな?
まぁ、気にしない。
だって褒めてくれたからね。
「ありがとう、お兄様。ところで、さっきウェルコットさんと一緒だったよね? ウェルコットさんは?」
「あ。ウェルコットは国において来た。今忙しくてね」
困った顔で笑うお兄様。
きっと忙しいのは本当だろうな……。
でも、『置いて来た』って変だよね?
まるで一回帰ったみたい……。
「……『おいて来た』の? 『帰らせた』んじゃなくって?」
「あ、違った……。ニコの言うとおり、先に帰っておくように言ったんだよ」
一瞬目を泳がせたお兄様は、慌てた様子でそういって、何かに気づいたように「ほら、ウェルは魔導師だから」って言ったの。
……お兄様。
あたし、魔導師自体知らないから…………。
「って、あれ? お兄様もしかして、また何処か行っちゃうの……?」
「う~ん。……そうだね。そうなっちゃうのかな」
お兄様は、また困った顔で笑って、頬をかいた。
「どうして?! せっかく帰ってきたのに!」
「……ごめんね。全部終わったら。ちゃんと帰ってくるから…………」
お兄様はそう言って、今度は困った顔じゃなくて、笑みを浮かべたんだ。
その笑みは、あたしが拾われて初めて見た。
あの、心が温かくなる、陽だまりのような優しい笑顔だった。
でもその笑顔は反則。
だって、無条件で信じちゃいそうになるから……。
「絶対帰ってきてね……?」
「あぁ、約束するよ。……ところでニコ。この二年間、声が聞こえる以外に、変なことはない?」
……変なこと。
そんな無いけど、もしかして……。
「し……、身長が、ぜんぜん伸びないこと、かな……?」
「うん、それは見ればわかる」
満面の笑みでお兄様があたしの言葉、切り捨てた?!
しかも、お母様は笑顔で何も言わずに頭を撫でるし!
お母様は許すけど!
でもお兄様!
そこは『そんなことないよ』じゃないの?!
「ひどい!! 一センチ伸びたもん!!」
ついムキなって叫ぶと、お兄様が俯いて、肩を小刻みに震わせ始めた。
つまり……。
笑てる…………!
「なに笑ってんのさ。お兄様……!!」
「……そ、それ以外で、何か、ある…………?」
笑いをこらえながら言うお兄様。
もう。
自分の身長がちゃんと伸びたからって、馬鹿にして!!
「っ~~~もうないよっ! ふん!!」
あたしはそう言ってお母様の体に顔を押し付けた。




