第十話 優しい
まぁ、驚かないけどさ。
でも結構深いみたい。
結構力入れて切ったんだろうな……。
痛そう……。
…………あたし、スティアナ様が手首切った時、お見舞いに行かなくてよかった。
だって、スティアナ様に『なんで死なせてくれないの?』って、焦点の合わない目で言われたら…………。
間違いなく泣く。
ルファネスさん、ごめんなさい。
『お兄さんなんだからしっかりしなよ』って思ったことを謝る。
うん。
今度会ったら謝ろう。
今度、今度ね?
…………でも謝ったら調子に乗るよね?
絶対調子に乗って「だろだろ~」っていってくるよね?
……めんどくさそう…………。
ううん。
めんどくさい。
よし、ルファネスさんがウィルロットさんの手を煩わせない、立派な王様になったら言おっと。
………………ルファネスさんが立派な王様に……。
ダメだ。
想像できないよ……。
「ニコちゃん」
明るい声で呼ばれて、あたしはレティさんの方を向いた。
レティさんは、ちょこっとだけ笑って人差し指を立てると、唇の前にかざした。
なんで【シー】のポーズしてるの?
あたし、しゃべってないよ?
とっても静かだよ?
訳が分からなくて、小首を傾げたら、レティさんが『困ったな』って顔をしたの。
それから、唇にかざしてた人差し指をスティアナ様に向けて、『あれあれ』って指さして、またその指を唇にかざした。
あぁ。
なるほど!
『手首について聞いちゃだめ』ってことだね?
聞かないよ?
何度も言うけどルファネスさんから聞いて知ってるからね。
だからあたしは、そういう意味も込めて自分の左手首を指さして、その指をレティさんと同じように、唇にかざしてみた。
ら。レティさん、すっごく笑顔で頷いたよ。
あぁそうそう。
忘れてたけど、ルファネスさんはなんで『様』づけじゃなのか。
それはね。
スティアナ様のお兄さんだって認めたくないからだよ?
だって、スティアナ様はいつもこんなに一生懸命で、つらい時も笑ってて、おしとやかだし、言葉づかいも素敵だし、何より綺麗だし、優しいし、優しいんだから!
これぞ王族って感じなの!
絵に書いたようなお姫様!!
…………え?
『優しい』を二回言ったって?
何言ってんの?
二回なんかじゃ足りないよ?
何十回言っても足りないんだもん!
まぁ、その点。
ルファネスさんはスティアナ様と違って、ちゃらんぽらんだし、すぐお仕事放棄して逃げ出すし、自己陶酔症患者だし、ナルシストだしでめんどくさいの。
ウィルロットさん、ホントにすごいと思うの。
だってあたしだったら絶対無理だもん。
我慢できないもん。
さすが、執事さんが育ての親なだけあるね!
まぁ、ルファネスさんの側近になるまでこんな風に怒ったりしなかったんだけどな……。
ていうか。
執事さんみたいで怖いよ……。
ホントに。
あたし怒られてないのに、怒られてるみたいに感じるの。
だいたい、ルファネスさんが素直に仕事してれば、ウィルロットさんは怒ったりしないんだから大人しく仕事してよ!




