第五話 レッテル
「マーティーさーん!」
走りながら片手を振って言ったら、マーティさんがこっちを見て頬を緩めた。
それからすぐにマーティさんと、ディティナのところに着いた。
「ちゃんと言ってきたのかい?」
「うん、ちゃんと言ってきたよ」
「いい子だねぇ」
そういってマーティさんはあたしの頭を撫でた。
以前と変わらない、少しだけ悲しそうな微笑みを浮かべて。
「えへへ。ありがと、マーティさん。じゃ、いってきます」
あたしは軽く飛んで、鐙を足がかりにしてまた飛んで、ディティナの背に乗った。
それを見てた、マーティさんはなぜか小さく笑った。
「あぁ。いってらっしゃい。気をつけるんだよ?」
「はぁーい! 行こ、ディティナ?」
あたしの声にディティナはゆっくり、歩き始めて、振り落とさない程度に速度を上げてくれた。
彼女には、あたしが王都に行きたいって伝えてるから、王都の方向に走ってくれている。
つまりあたし、手綱を持っているだけ。
そのせいか、マーティさんの悲しい微笑みが、お父様たちとかぶって頭の中に浮かんだ。
『あたしは、皆の不安や悲しみをどうすることもできない』
それを悟ったのは、お兄様が居なくなって、一か月してからだった。
だってあたし。
不思議な文字を見た後に、落ち込んでいるお父様たち皆に言ったの。
『お兄様は生きてるの、だから元気出して』って。
でも皆は、少しだけ驚いて、悲しそうに笑うの。
『そうだね。そうだといいね』っていって。
絶対信じてない顔だった。
だからあたし。
一生懸命、不思議な文字のことを説明したんだ。
でも、お父様とお母様ったら、心配してお医者様を呼んだのよ?!
もう、信じらんない!!
だからしばらくお父様たちと口きかなかったもん。
でも、そうしたら余計落ち込んじゃったから、結局あたしが折れたんだけどさ……。
まぁ。そのせいもあって、あたしはそのことを誰にも言わないことにしたの。
どうせまた、お医者様を呼んでくるだろうしね。
「ねぇディティナ。どうしたら皆に『お兄様が生きてる』って信じてもらえると思う?」
あたしはなんとなく、一定の速度で走ってくれている彼女に聞いた。
『見つければいいのよ』
そんな風に言われた気がした。
まぁ、さっきも言ったように、あたしが勝手に思ってるんだろうけどね。
暇だから話しつづけるよ?
当たり前じゃん!
はたから見たら痛い子でも良いもん。
どうせ痛い子ってレッテル張られてるもんね!
もう気にしないもん!!
「でもね。手がかりはお兄様がザバオルの樹液の解毒方法を知っていたことだけなんだよ?」
『十分じゃない。もうそれが唯一自生する国には突き止めたでしょう?』
自信満々な感じのディティナに、あたしはちょっとだけムッとした。
「そうだけどさ……ここから北の最果て。極寒の雪国だよ? 調べに行けるはずないじゃん」
ついすねた口調になったのは、無視することにする。
そしたらなんかディティナが笑ったように感じた。
『そうね……ここからだと、いくつもの国を渡らなくてはいけないものね」
「うん。でもさ、それに問題はお父様だよ。あたしが一人で旅に出たいなんて言っても許してくれるわけないよ」
それに、心配かけたくないし。
でも、誰も心配させない事なんて無理だし、何よりあたしはお兄様を見つけて、お兄様のせいで悲しい顔をしてる人に笑顔を取り戻してほしい。
それだけなんだ。
『そんなに落ち込まないで、ニコラ。あなたの人生なのよ? あなたがやりたいことをやりなさい』
「ディティナ……。ありがと。あたし、も少し考えてみる」
あたしの言葉に彼女は嬉しそうにして、速度を上げた。
心地よい風が頬を、髪を撫でていく。
しばらくして、あたしたちは王都に着いた。




