第二十二話 『お母さん』
それから、あたしはキッシュを食べ終え、フォークを下す。
で、隣に座ってるマーティさんの方を向く。
「ごちそうさま! マーティさん、すっごくおいしかった!!」
「そりゃよかった。ニコちゃんが『おいしい』って言ってくれて。おばちゃん嬉しいよ」
マーティさんが、あたしの頭を優しくなでてくれた。
でも、マーティさんはいつもなんでか、寂しそうな顔をするの。
理由を聞きたくなるけど、我慢する。
だって、それに触れてはいけない気がするから。
ついでに、ずいぶん前にうわさで、『他国の人間にたった一人の子供を殺された』って聞いたから。
マーティさんの悲しい顔は、これが原因だと思う。
でもね。
あたし、マーティさん大好きだから、そんな悲しい顔はして欲しくない。
それはあたしのわがままで、自己満足だってわかってる。
でも、マーティさんの笑顔が大好きだから。
あたしはマーティさんに抱き着く。
それで、悲しい顔が一瞬でもなくなるから。
「マーティさん大好き!」
「おや。じゃぁ、キッシュとあたし、どっちが好きだい?」
「もちろん、マーティさん!」
「……うれしいね。ありがとよ、ニコちゃん」
マーティさんは、一瞬だけ悲しい顔をしたけど、徐々に顔をほころばせてくれた。
普通のお母さんって、こんな風に笑うのかな……。
あたしの『本当の』母親は……認めたくないけど、産んでくれた人。
でも、抱きしめてくれたリルアー・セメロが、あたしの母親だって胸を張って言えるよ。
父親はもちろん。
エルウィス・セメロただ一人。
でもね。
この二人は普通で区切ったら、他の人がかわいそうだと思うの。
だって、お父様は家の中限定の変人でしょ?
お母様は……初めて見たときから全然変わってない。
年齢は三十後半過ぎてる。
それで、お兄様と同い年くらいに見えるの。
あとね。
お母様はたまに、母親らしい顔の時もあるけど、なんか……似合わない。
どうせなら、無邪気に笑ってる方が似合うと思う……。
俗に言う『童顔』ってやつなんだろうね。
「……ゃん。……コちゃん、ニコちゃん!」
「は! えっ、ギルデさん。どうしたですか?」
マーティさんに抱き着いたまま、自分の世界に入り込み過ぎた!
ごめんなさいマーティさん、ギルデさん……。
「……晩御飯の話をだよ」
あたしはマーティさんから離れて、軽い自己嫌悪してたら、ギルデさんがちょっぴり笑ってた。
「あ、はい。いつものように、お父様たちより早く食べて、寝ます」
「わかった、用意しておくよ」
ギルデさんは、つかったお皿を重ねて、そのうえにフォークを四本まとめて、立ち上がる。
それから、洗い場に行って、それを洗い始めた。
「あ自分でできるですよ?」
「ダメ。これは僕の仕事」
即答された。
速攻で却下された……。
仕事って言われたら引き下がるしかないんだよね……。
皆仕事に責任感を持ってるから。
「……わかったです」
「それならよろしい」
ギルデさんが背中を向けたまま言った。
そういえば、執事さんがいないよね。
どこ行ったのかな?
「……ギルデさん。執事さん、いないですね」
「まだだと思うよ」
「……『まだ』?」
「あ。た、多分壊れてたりしてる道具がないか点検してるんだと思うよ!!」
慌てて振り返って、一息に言ったギルデさん。
最初らへんが気になるんだけど。
なんでどもったの。
てか、最初の『あ』は何?
「…………」
「なに、ニコちゃん。その疑いの目は」
「……別に…………」
「あ。そういえば、洗濯物取り入れるんでしょ?」
片手の人差し指をたてるギルデさん。
変だ。
絶対変だよ!
「……ニコちゃーん。僕の話聞いてる?」
「聞いてるですよ?」
「マーティさん、リディ! 笑ってないで助け舟ぐらい出してくださいよ!!」
ギルデさんの言葉で二人が笑ってることに気づいた。
なんで二人とも笑ってるの?
「だって、ギルデさんの口から出た言葉でしょぉ?」
「そうだな。自分のしりぬぐいくらい、自分でしな」
げたげた笑う二人に、ギルデさんがうなだれて言った。
「……薄情もの…………」
「「なんとでも」」
二人は人を小ばかにしたような顔で、ギルデさんに言った。
なんかギルデさん、かわいそうになってきた。
「あたし、取入れに行ってくるです」
そういってキッチンをでて、あたしは乾いているであろう洗濯物を、取り入れるため、庭に向かった。




