第二話 公爵一家
次に、目を覚ました時。
公爵様に抱えられて、大きなお家の前にいたの。
訳が分からなくて、きょろきょろしたあたしに、公爵様は言った。
『起きたかい? 窮屈だろうけど、もうすぐ家に入るからこのままでいてね』
公爵様のその言葉にあたしは頷く。
そして、公爵様が扉を開けてお家の中に入る。
少しして、髪が長くて、茶色のような不思議な目をした女の人。奥様と、公爵様に似た綺麗な青い瞳の男の子。若様。
その後ろに女の人と違う茶色の瞳をした男の人。執事さんが現れた。
執事さんは、あたしを一瞥し、どこかにいく。
すこし悲しかった。
でも、あたしを見た奥様は驚いた顔をしてたかと思うと、急に泣いて抱き着いて来た。
訳が分からず驚いていると、しばらくしてどこかに行った執事さんが、泣いてる奥様に『用意が出来ました』っていう。
奥様はその言葉で、『お風呂に行きましょう』っていったの。
それで気づいた。
執事さんはお風呂の準備をしに行ったんだって。
まじまじと見ていたせいか、執事さんがこちらを向いて、ふわりとほほ笑んだ。
捨てられてからこっち、こんなにやさしい笑顔を向けられたのは初めてだった。
ぼんやりそんなことを考えていると、公爵様から若様に抱えられていた。
軽く驚いていると、若様が笑う。
心が温かくなる、陽だまりのような優しい笑顔で。
そして、若様にお風呂場まで抱えて行かれ、奥様と共にお風呂に入った。
お風呂から上がり、身なりを整えられ、奥様に優しく手を引かれ、共に広いリビングに行く。
奥様は私をやわらかいソファーに座らせて、前のテーブルに執事さんが温かいスープと、お肉と野菜の挟まれたパンの載った皿を置いた。
小首をかしげたあたしに、奥様が『お腹、すいているでしょう?』といって、それを食べるように勧める。
渋るあたしに、若様が笑って、『大丈夫だよ。毒なんてはいってない』っていって、そのスープを一口飲んだ。
この人は何の心配をしているんだろう。と思ったが、若様が笑ってスプーンにスープを掬って、こちらに向けてくる。
その様子を公爵様たちはじっと見ていた。
よけい食べにくいな。と思いつつ口をあけ、スープを飲む。
おいしい。と素直な感想が口から洩れ、じっと見つめていた公爵様たちは嬉しそうな顔をしていた。
若様が微笑んで、再びスープを掬って口元に持ってきたので、自分で食べれるよ? っていったら、若様はしばらくぽかんとして、笑いだす。
つられるように公爵様が笑い、奥様が小さく笑って、執事さんは顔をそらし、笑いをこらえているのか肩が震えていた。
なんで皆が笑っているのか解らず、小首をかしげる。
しばらくして、若様があたしに『名前は?』って聞いた。
ニコラ。と伝えると、若様は笑って『よろしくニコラ。君のお兄さんになるロジャードだよ』っていったの。
あたしはどういうことか解らずにいると、若様はあたしの頭を撫でて、『これから僕たちの家族だよ』と優しい声で言った。
その言葉が嬉しかった。
なのに涙があふれて、視界がかすむ。
ぬぐってもぬぐっても、それは止まらなかった。
こうして、化け物だったあたしは、公爵家の娘・ニコラになった。