第40話:残す価値のある商売、王都でもう一つの仕事
星環暦1284年・炎冠月≪第6月≫30日――朝
ヴァルモント公爵家・王都邸
鏡の前に立ったシェリィは、最後に耳元へ指を添えた。
そこには、大后アストリッドから贈られた一対のイヤリングが輝いている。
大粒のダイヤモンドを用いた特注品であり、エレノアから贈られた扇の意匠と色合いに合わせて仕立てられたものだった。
そしてテーブルの上には、最高級のシルクに繊細な黄金細工を施し、王家の紋章をさりげなく組み込んだ扇が置かれている。
15歳の頃から大切にしてきた、エレノアからの贈り物だった。
シェリィは扇を手に取ると、静かに閉じたまま胸元へ添えた。
今日は王都を発つ前の挨拶の日である。
昨日の夜、同じ人々と笑いながら食卓を囲んだばかりだった。
それでも、家族として過ごす時間と、出立する者として礼を尽くすことは別だった。
「お嬢様、お馬車の用意が整いました」
扉の外から声がかかる。
「分かりました。参ります」
シェリィは鏡に映る自分をもう一度確かめた。
王都を去るための装いであるはずなのに、不思議と別れのための装いには見えなかった。
耳元と手元には、ここに自分を待つ人がいるという証がある。
そのことを、昨日までより少しだけ素直に受け取れるようになっていた。
◇
セレスティア王宮・大后宮・私的応接室
「まあ」
シェリィが入室した瞬間、アストリッドの視線は真っ先にその耳元へ向かった。
「そのイヤリングを着けてきてくれたのですね」
シェリィは微笑み、一礼する。
「はい。大切にしております」
「そう」
アストリッドはそれ以上大げさなことは言わなかった。
けれど、その表情が僅かに柔らかくなったことをシェリィは見逃さなかった。
傍らにはエルフリーデが控えている。
「本日は、アスタリアへ戻る前に改めてご挨拶申し上げたく参りました」
「昨夜あれほど話したというのに、律儀な子ですね」
「昨夜は家族としてお招きいただきました。今日は出立のご挨拶ですから」
「そういうところは昔から変わりませんね」
アストリッドは笑った。
そして、すぐにシェリィの顔をじっと見る。
「魔力のことは覚えていますね?」
「はい」
「少し戻ったからといって、確かめようとして無理に使ってはいけませんよ」
「承知しております。自分から無理に引き出すつもりはございません」
「よろしい」
アストリッドは満足そうに頷いた。
「では、次に会った時にまた診ましょう」
「お願いいたします、お祖母様」
シェリィが頭を下げると、アストリッドは少しだけ間を置いた。
「シェリィ」
「はい?」
「帰ってくる場所の一つがここにもあることを、忘れないように」
昨日と同じ意味を持つ言葉だった。
だが今度のシェリィは迷わなかった。
「はい。また参ります」
その返事を聞き、アストリッドは穏やかに微笑んだ。
◇
セレスティア王宮・国王私的応接室
「まあ、その扇」
エレノアはシェリィの姿を見るなり、すぐに気づいた。
シェリィは手にしていた扇をそっと開く。
最高級のシルクに施された黄金細工が光を受け、その中に王家の紋章が控えめに浮かび上がった。
「王妃陛下からいただいた大切な品ですので」
エレノアの表情が柔らかくなる。
「今も使ってくれているのですね」
「もちろんでございます」
「贈った時は、あなたもまだ随分小さかったのに」
「15歳でした」
「私から見れば十分に小さいのです」
「それを言われますと反論できません」
エレノアが楽しそうに笑った。
隣ではアーサーが、そのやり取りを見ながら腕を組んでいる。
やがてシェリィは扇を閉じ、姿勢を正した。
「国王陛下、王妃陛下。王都滞在中は格別のご配慮を賜り、ありがとうございました」
昨夜の「アーサーおじ様」とは違う。
今ここにいるのは、王国の君主と王妃だった。
アーサーもそれに応じるように表情を改めた。
「王国としても、今回のお前の働きには感謝している。アスタリアへ戻ってからも、無理だけはするな」
「ありがとうございます」
「それと――」
そこでアーサーの声が少しだけ変わった。
「昨日も言ったが、仕事がなくてもたまには顔を見せろ」
エレノアが横を見る。
「あなた、それを言いたくて待っていたでしょう?」
「別にそういうわけではない」
「そうでしょうか?」
「王妃まで私をからかうな」
シェリィは思わず笑った。
「はい、アーサーおじ様」
国王の顔が一瞬で緩んだ。
エレノアはその様子を見て、何も言わず微笑んでいた。
◇
セレスティア王宮・王太子執務室
「今日中に発つのか?」
ジュリアンの問いに、シェリィは頷いた。
「王都商業ギルド組合と王国銀行本店へご挨拶を済ませましたら、王都邸へ戻り、明朝にはアスタリアへ向かう予定でおります」
「そうか」
ジュリアンは僅かに名残惜しそうな表情を見せたが、引き留める言葉は口にしなかった。
「こちらは任せろ」
「お願いいたします」
昨日と同じ短いやり取り。
それだけで、お互いに何を任せているかは十分に分かっていた。
シェリィは一礼する。
この時点で彼女は、本当に翌朝には王都を出るつもりだった。
◇
王都商業ギルド組合・本部
王都商業ギルド組合では、組合幹部たちがシェリィを迎えた。
今回の金融混乱では、多くの商会が資金繰りに苦しみ、組合もまた膨大な調整業務に追われていた。
シェリィはまず、正式に頭を下げた。
「今回の混乱では、組合の皆様に多大なご尽力をいただきました。アスタリア側の救援物資だけで王都の商流を支えられたわけではございません。商人同士をつなぎ、取引を整理してくださった皆様の働きがあってこそです」
組合側の代表者が恐縮したように首を振った。
「むしろ我々の方こそ、アスタリア大商会には助けられました。あの状況で通常価格を崩さず商品を出していただいたことは、王都の市場にとって大きな意味がございました」
「ありがとうございます」
一通りの挨拶を終え、シェリィが席を立とうとした時だった。
「シェリィ様」
組合幹部の一人が呼び止めた。
「はい?」
「お帰りになる前に、一つご相談したいことがございます」
その声色に、シェリィは再び腰を下ろした。
「伺います」
机の上へ数冊の帳簿と資料が置かれる。
「今回、不渡りを出した商会の整理を進めております。その中に――」
幹部は少し言葉を選んだ。
「清算するには惜しい商会がございます」
シェリィの視線が資料へ落ちる。
そこに記されている商会は、いずれも長年王都で営業を続けてきたところだった。
過去数年の売上。
主要取引先。
従業員数。
保有倉庫。
仕入れ網。
売掛金。
そして今回の不渡り発生時期。
シェリィはページをめくる速度を少しずつ落とした。
「こちらの商会は、今回以前に大きな支払い事故を起こした記録がありませんね」
「はい」
「営業利益も出ています」
「その通りです」
「それなのに倒れかけた」
シェリィは数字を追う。
高値で仕入れた商品の代金支払いが先に来た。
一方で、売掛金の回収は王都の混乱によって遅れた。
帳簿上では利益が出ている。
だが、支払いに使える現金がその時だけ足りなかった。
シェリィは顔を上げた。
「商売そのものに失敗したわけではないのですね」
「我々もそう判断しております」
「経営者による資金流用は?」
「現時点では確認されておりません」
「第2王子派との資金関係は?」
「これらについては、現在確認できる範囲では関与が見つかっておりません」
シェリィは資料を閉じた。
「こちらをお借りしてもよろしいでしょうか」
「もちろんでございます」
それ以上は言わなかった。
助けるとも、買うとも。
ただ、資料を受け取った。
◇
王都・王国銀行本店
王国銀行本店では、今回の金融混乱についてより数字に近い話が続いた。
シェリィは、混乱の最中にも通常の審査基準を維持したことについて謝意を伝えた。
「市場が不安定な時ほど、銀行が審査基準を恣意的に変えないことには意味がございます」
銀行側の責任者は頷いた。
「しかし、その結果として救えなかった商会があったことも事実です」
「銀行がすべてを救うことはできません」
シェリィは静かに答えた。
「返済可能性を無視して融資を続ければ、今度は預金者と他の取引先を危険にさらします」
「その点をご理解いただけるのは助かります」
話は今後の決済網へ移り、保証金・準備金・信用審査・王国銀行との清算手順などが確認された。
そして会談が終わりかけた時、銀行側の責任者が一冊の資料をシェリィの前へ置いた。
「実は、もう一つお伝えしておきたいことがございます」
シェリィは資料へ目を向けた。
「何でしょう?」
「今回不渡りを出した商会の中に、清算するには惜しい商会がございます」
シェリィの手が止まった。
同じ言葉。
ほんの少し前、王都商業ギルド組合でも聞いたばかりだった。
彼女は資料を開く。
そこには過去の返済履歴・借入残高・担保評価・売掛債権・過去の決済履歴が並んでいた。
数枚めくったところで、シェリィの目が細くなる。
「……こちらの商会」
「はい」
「こちらも」
さらにページをめくる。
「この商会もですね」
銀行側の責任者が不思議そうに見る。
シェリィは持参していた組合資料を取り出し、机の上へ並べた。
「王都商業ギルド組合からいただいた資料にも、同じ商会名があります」
「それは……」
責任者も身を乗り出した。
商業ギルド組合は、顧客・技術・仕入れ網・従業員・現場の評判から価値を見ている。
王国銀行は、返済履歴・信用・債権・資産・資金の流れから価値を見ている。
まったく違う立場の2つの組織が、同じ商会を「残す価値がある」と判断している。
偶然と片づけるには、重なりが多すぎた。
シェリィはしばらく資料を見つめていた。
「この資料もお借りできますか?」
「もちろんです」
シェリィは2冊を重ねた。
頭の中では、すでに次の問いが生まれていた。
助けられるかどうかではない。
助けてよいのか。
そして、助けるならどうするべきなのか。
◇
セレスティア王宮・王太子執務室
その日の午後――
予定にはなかった2度目の訪問となった。
ジュリアンは戻ってきたシェリィを見るなり、眉を上げた。
「忘れ物でもしたか?」
「いいえ」
「では、出発が惜しくなったか?」
「殿下」
「冗談だ」
シェリィは持っていた資料を机の上へ置いた。
「ご相談したいことがございます」
ジュリアンの表情が変わった。
「聞こう」
シェリィは王都商業ギルド組合と王国銀行本店で聞いた内容を順番に説明した。
そして最後に3つの疑問を並べた。
「第一に、これらの商会をアスタリア大商会が支援、あるいは取得することに法的な問題がないか」
ジュリアンは黙って聞いている。
「第二に、たとえ法的に問題がなくても、国民や王都の商人からどのように見えるか」
シェリィの声が少し低くなる。
「今回の王都の混乱に、アスタリア側の商流調整が影響していないとは申しません。その後に不渡りを出した商会を取得すれば、『弱らせてから安く買った』と受け取られる可能性がございます」
ジュリアンがゆっくり頷く。
「そして第三に、救済によってアスタリア大商会そのものへ過大な負担が生じないか」
シェリィは資料に手を置いた。
「資金だけではありません。経理・人員・監査・管理能力まで含めてです。助けた結果、アスタリアまで弱くなっては本末転倒です」
ジュリアンは少し考えた後、席を立った。
「これは私一人に聞く話ではないな」
「私もそう思います」
「少し待て」
ジュリアンは控えていた官吏へ指示を出した。
呼ばれたのは2人だった。
法務院を率いるエリアス・アルヴェルト法務卿。
そして商務院を率いるクラウディア・メルク商務卿。
◇
同所・しばらく後
資料を読み終えたエリアスが、最初に口を開いた。
「結論から申し上げます」
シェリィが視線を向ける。
「これらの商会を支援することも、適法な手続きを経て取得することも、それ自体は禁止されておりません」
シェリィは小さく頷いた。
「ただし、条件があります」
「お願いいたします」
「犯罪捜査の対象となっている資産、凍結命令が出ている資産には触れないこと。既存債権者の権利を害さないこと。所有者との正式な合意、または必要な整理手続きを経ること。そして何より、取得価格をアスタリア大商会だけで決定しないことです」
「第三者査定を入れるべき、と」
「はい」
エリアスは静かに資料を指で押さえた。
「重要なのは、取得することそのものではありません。数年後に誰かから疑義を向けられた時、公正な手続だったと記録によって証明できる状態にしておくことです」
シェリィは深く頷いた。
「同意いたします」
次にジュリアンが口を開く。
「法的に可能でも、見え方については君の懸念どおりだ」
シェリィは黙って続きを待った。
「アスタリアが王都向けの商流を絞った。その後で、不渡りを出した商会を買った。この2点だけを取り出せば、悪意ある説明はいくらでも作れる」
「はい」
「だから隠すな」
ジュリアンの声は明確だった。
「選定基準も、第三者査定を入れたことも、債権者の権利を守ったことも、従業員を残すことも、必要なら説明できるようにしておけ」
「透明性そのものを防御にする、と」
「そうだ。後から美辞麗句を並べるより、最初から見せられる手続にしておいた方が強い」
シェリィの口元に僅かな笑みが浮かんだ。
「殿下らしいご意見です」
「褒めているのか?」
「もちろんでございます」
「今の間は怪しいな」
そのやり取りを聞いていたクラウディアが、小さく笑った。
だが彼女はすぐに資料へ視線を戻した。
「私は、もう一つ懸念があります」
「何でしょう?」
「すべてをアスタリア大商会本体へ入れることです」
シェリィの眉が僅かに動く。
クラウディアは続けた。
「こちらは物流を主体とする商会。こちらは食品卸。こちらは繊維。そしてこちらは倉庫業です」
資料を1枚ずつ指す。
「商売の性質が違います。それぞれの現場には、それぞれの経験と判断があります。それをすべてアスタリア大商会の一つの帳簿、一つの指揮系統へ押し込めれば――」
「本体の管理能力が先に限界へ達する」
シェリィが答えた。
「その通りです」
クラウディアは頷く。
「それぞれを商会として残してはいかがでしょう」
シェリィが目を上げた。
「商会として?」
「はい。アスタリア大商会が資本を入れ、経営権を持つ。しかし商号・従業員・既存の顧客・仕入れ網・専門性は残すのです」
ジュリアンも興味深そうに聞いている。
クラウディアは紙を1枚引き寄せた。
「日常の営業と専門分野の経営は、それぞれの商会に任せる。一方で財務基準・会計・内部監査・法務・信用管理・大口の資金調達はアスタリア大商会が支える」
シェリィの視線が紙の上を追う。
「つまり、独立した商会として営業を続けながら、アスタリア大商会の傘下へ入れる」
「その形です」
「子商会……」
シェリィが小さく呟いた。
クラウディアが頷く。
「良い呼び方だと思います」
シェリィはしばらく何も言わなかった。
頭の中で資金・人材・権限・監査・信用保証の流れを組み立てている。
やがて資料を1冊閉じた。
「採用します」
即答だった。
ただし、その直後に言葉を加える。
「しかし、無条件ではありません」
エリアスとクラウディアが同時にシェリィを見る。
「犯罪への関与がないこと。本業に継続する価値があること。従業員・技術・取引網を残す意味があること。アスタリアの支援によって再建可能であること。第三者査定を受け入れること。債権者との整理に応じること。そして、アスタリアの会計・監査基準を受け入れること」
クラウディアが満足そうに頷いた。
「それならば、本体への危険もかなり抑えられます」
「候補商会すべてを救うつもりはありません」
シェリィは、商業ギルド組合と銀行から受け取った2冊の資料を重ねた。
「自力で再建できる商会は、自分たちで立ってもらうべきです。アスタリアが必要以上に市場を抱え込む理由はありません」
ジュリアンが尋ねる。
「では、何を基準に取る?」
シェリィは資料へ目を落とした。
「商会を買い集めたいわけではありません」
一度、言葉を切る。
「残す価値のある商売を、残します」
室内が静かになった。
それは救済だけでも、買収だけでもなかった。
技術を残す。
雇用を残す。
信用を残す。
長年かけて築かれた商流を残す。
そして、その代わりに今まで不足していた財務管理と信用基盤をアスタリアが与える。
シェリィの頭の中で、新しい商会の形が少しずつ輪郭を持ち始めていた。
◇
相談を終え、エリアスとクラウディアが退出した後。
ジュリアンがシェリィを見る。
「それで?」
「何でしょう?」
「明朝の出発だ」
シェリィは一瞬だけ黙った。
それから、小さく息を吐く。
「延期いたします」
「やはりな」
「最初の候補商会について、少なくとも帳簿・債務・人員・取引先・資産の確認までは済ませます」
「何日かかる?」
「まだ分かりません」
ジュリアンが苦笑する。
「今朝は帰る気満々だったのにな」
「私もそのつもりでした」
シェリィはそう答えた後、持参していた鞄から2通の封書を取り出した。
「殿下」
「何だ?」
「最後に、お願いがございます」
1通を右手に。
もう1通を左手に。
「こちらを大后陛下へ。そしてこちらを、国王陛下と王妃陛下へお渡しいただけますでしょうか」
ジュリアンは2通を受け取った。
「内容は?」
「本日、出立のご挨拶を申し上げたばかりですので、予定変更をお伝えしておきたく存じます」
ジュリアンは封書を眺める。
「何と書いた?」
シェリィは少しだけ照れたように答えた。
「どちらにも、同じことを」
書状には、短くこう記されていた。
王都で、もう少しだけやるべきことができてしまいました。
そのため、アスタリアへ戻るのは少し先になりそうです。
帰還する際には、改めてご挨拶に伺います。
ジュリアンは読み上げられた内容を聞き、僅かに笑った。
「祖母上は喜ぶだろうな」
「なぜでございますか?」
「お前がもう少し王都にいるからだ」
「仕事でございます」
「分かっている」
ジュリアンは2通の封書を丁寧に重ねた。
「だが祖母上にとっては、そこはあまり重要ではないだろう」
シェリィは少し考えた後、反論するのをやめた。
「……否定できません」
「国王夫妻にも私から渡しておく」
「お願いいたします」
シェリィは立ち上がり、一礼した。
王太子執務室を出る時、その腕の中には朝には持っていなかった2冊の資料があった。
一つは王都商業ギルド組合から。
もう一つは王国銀行本店から。
どちらにも、同じ商会の名がいくつも記されていた。
清算すれば帳簿は閉じる。
債務を整理し、資産を売り、看板を下ろせば、それで商会としては終わる。
だが、帳簿の向こうには人がいる。
働き続けてきた従業員がいる。
家族がいる。
長年かけて身につけた技術がある。
仕入れ先との信用がある。
顧客とのつながりがある。
何年も何十年もかけて作られた商売の道がある。
たった一度、不渡りを起こした。
その数字だけで、それらすべてに価値がなくなったわけではない。
シェリィは歩きながら、重ねた資料へ視線を落とした。
アスタリアへ帰る日は、少しだけ先になった。
その代わり王都で、もう一つ。
残すべきものを残すための仕事が始まろうとしていた。
お読みいただきありがとうございます。
アスタリアへ戻るはずだったシェリィは、王都商業ギルド組合と王国銀行本店という異なる立場の双方から、「清算するには惜しい商会」が存在することを知らされました。救えるからすぐに救うのではなく、法的な問題・世間からの見え方・アスタリア大商会自身への負担まで確認したうえで選んだのは、それぞれの商会の名前や人材、技術、取引網を残す「子商会」という形です。王都を発つ予定は少し延びましたが、その分、新しい商会の形が動き始めます。
続きが気になりましたら、ブックマーク・評価で応援いただけると嬉しいです。




