血痕?
『チュン、チュン、チチチチチチ……』
「うーん……」
明るい朝日と、小鳥の鳴き声に、菜穂の意識は少しずつ浮上していく。
何も身に纏っていない菜穂は、眉間に皺を寄せながら毛布を引っ張り寝返りを打った。コロンと横に転がったため背中が丸見えになり、肌に寒さを感じたのかわずかにぶるっと震える。
「んー、もうちょっと……寝かせて……」
半寝ぼけ状態でぶつぶつと呟いた菜穂は、目を閉じたまま瞼を擦ると今度は反対側に転がった。ピクピクと瞼が動いていて、今にも起きそうである。
菜穂は突然、大きな欠伸をすると、その場で伸びをしてゆっくりと目を開いた。
「ふぁあーあ、よく寝た……」
眠そうなぼんやりとした様子で数回瞬きをしてから、ゴシゴシと瞼を擦る。
一瞬、菜穂は自分がどこにいるのか分からず、キョトンと首を傾げたのだが、すぐにハッと大きく目を開いて勢いよく起き上がろうとした。
「痛っ!? くぅ……こ、腰が……」
だが、腰に鈍痛が走ったため、菜穂は起き上がる事ができずにすぐにベッドに逆戻りした。何となく全身が気だるい感じもする。
菜穂は、うつ伏せでお尻を高くした姿勢のままじっとして唸った。
「うぅー……何で現実にも、腰が痛いの?!」
(おまけに喉も痛いし……。あの変態俺様エロサド王め! 本当に何度も何度もキスしまくって……。男の癖に色気ありすぎなんだってばー!)
昨日の事を思い出して真っ赤になりながら、勘違いしたままの菜穂は、ぶつぶつと心の中で文句を言っていた。
頭の中に、昨日の事がよみがえってきて耳まで真っ赤になっていく。菜穂は、必死に首を振って恥ずかし過ぎる記憶を頭から追い出そうとした。
(もう、私の馬鹿ばかバカー! あんなの変態のゲイ狼にちょっと舐められただけだと思って、早く忘れるのよー!)
うつ伏せ状態のまま自分の頭をポカポカ叩いた菜穂は、腰を擦りながらそろそろと身体を起こしていった。
急に動かさなければ、どうやら腰の痛みも何とか我慢できる。
菜穂は手を伸ばして、ベッドサイドにおいてあった水差しとグラスを手に取り、水を注ぐとペロッと舐めてから一気に飲み干した。酷く渇いていた喉が潤い、イガイガ感も少しひいていく。
「はぁーっ、生き返る……」
ホッとしたように息を吐いた菜穂は、更に水を飲んでから、改めて自分の姿を確認して溜息をついた。
ベッドに座っている菜穂の姿は、肩に毛布がかかっているだけで下着さえも身に着けていない。
(やっぱり、裸だ……。でも、身体はベタベタしないよね……。もしかして、身体拭いてくれたとか? あの俺様王が!?)
一瞬何を想像したのか、顔を赤くした菜穂であったが、「無いないナイ」と呟くと首を大きくぶんぶんと振った。
そうして、すぐにヘレネとクリュタイメストラの双子姉妹の顔を脳裏に浮かべ、勝手に納得して頷くのであった。
(うんうん、ヘレさんとクリュさんが綺麗にしてくれたのね。でも、それにしても……昨日、キスの途中から全然記憶がないんだけど……まさか、最後までしちゃった? でも、あんまり痛い感じはしないから、してないかも? うー、どうなんだろう……夢とごちゃ混ぜになってもう訳分かんないよ。まさか、王様本人に「ヤリました?」なんて聞けるかー!)
昨日の事を必死に思い出そうとしながら、菜穂は赤くなったり青くなったりして、表情をコロコロと変えた。
(ダメだ。本当に全然、思い出せない……)
菜穂は、ガクッと項垂れて深く溜息をついた。
ふと、視界に皺の寄っているシーツが目に入る。その瞬間、菜穂はビックリして目を大きく開き、ピシッと固まった。
「っ?!」
菜穂の目に入ったものは、赤黒いシミであった。
真っ白いシーツの上に似つかわしくないシミが点々とついていた。どう見ても、血のようである。
「けっ……けっ……血痕!?」
菜穂は、サーッと血の気を引かせて全てを悟ったような表情をすると、ハハッと力なく笑った。
(私……やっちゃったんだ……。別にバージンのままバージンロードを歩きたいとか、始めては結婚した相手となんて、夢を抱いていたわけではないけど……よりにもよって、何で初めてを全然覚えていないのよー! もう、私の馬鹿ばかバカー!)
そうして毛布にくるまった状態で、大きな勘違いをした菜穂は自分の頭を小突きながら叫ぶのであった。
「変態エロサド王のバカ野郎!」
菜穂が大声で叫んだ瞬間、扉がノックされた。
菜穂は、ハッと扉の方向を反射的に見つめる。
「ナーオ様、お目覚めですか?」
「ナーオ様、起きたでちゅうね?」
「あ、はい、起きています!」
菜穂は、声の主がヘレネとクリュタイメストラの双子姉妹だと分かると、ホッと緊張の顔を緩め、返事をかえした。
すると、すぐに二人から返事がかえってくる。
「ナーオ様、失礼します」
「ナーオ様、今から入るでちゅ!」
そうして、扉が開いて、二人が菜穂のすぐ側までやってきた。




