目的地
セイフティゾーンに着くとすぐに中継基地の設営を行う。
社長達が準備をしている間に、消費したM4の弾丸を補充する。
隠密の加護を発動したままなので、社長達から見えてはいないが、決められた位置で作業をしているので、お互いに邪魔にはならない。
ザッ……「社長、準備は出来ました、いつ出ますか?」
月宮班長が、無線で社長に呼びかける。
ザザッ……「月宮、ちょっと待って……っく、ん、繋がった」
社長が軽く白目を剥きながら、魔鏡に自分の意識をコネクトしている。
魔鏡に映る情報を全員で見ながら、社長の言葉の続きを待つ。
「見えた。目標まで3km、彼らは、相変わらず動いてないわね、周りにも異常が見当たらない。途中にいるモンスターの反応も少ないから、こちらからのナビゲートで安全に目的地までいける。よし、出動してもらうわ」
ザッッ「「了解」」
「ジムニー2台はここで待機。目標の確保ができ次第救助に向かう。それでは、二班は作戦に移れ」
ザッッ「「了解、出発」」
少女達は、短めのスカートを翻して歩きだす。
僕達は、黒闇の靄の中、徒歩で3km先の目標まで移動を開始した。
◆◇◆
ザッ……「母カピバラより子カピバラ、母カピバラより子カピバラ聞こえるか?」
ザッザ……「子カピバラより母カピバラ、聞こえます」
ザッ……「2時方向、500m先、ダークホグが2体歩いて来ている。そのままだと200m先で接敵する。一度隠れてやり過ごせ」
ザッザ……「了解」
月宮班長が、小型の魔鏡を確認して、岩陰に入ってダークホグをやり過ごした。
こんな調子で移動を続け、目標の手前200mまで来た所で、先頭を歩く穂の香さんが左手を上げ、ハンドサインで全員を停止する。
ザッ「こちら小カピバラより、母カピバラ聞こえますか」
ザザッ「こちら母カピバラ、子カピバラ聞こえる」
ザッザザ「子カピバラ現地手前200mに到着、携帯型魔鏡観測で、周辺に異常は見当たらない。そちらの観測ではどうか?」
ザッ「周辺にモンスターの反応は無いが、油断するな。テケテケは動き出すまで反応しないぞ、注意しろ」
ザザ「子カピバラ了解、これより散開、包囲する」
月宮班長の合図で、僕達は、半月状に散開して目標へと歩き出した。
ゆっくり慎重に足を地面に下ろして歩く。隠密の加護を発動していても、現役特殊部隊員の指導で叩き込まれた基本の動きは確実に行う。
◆◇◆
50m手前まで進んだ所で、全員の脚が止まる。
M4の上に装着したサーマルビジョンが、異常な光景を映し出していた。
月宮班長がハンドサインで全員を停止させる。
僕達がサーマルビジョン越しに見ていた物は、倒れた1人の人間の影……どうやらこの影の温度から生存者が倒れいるのが確認された、そしてもう1つ……
……高さ2mはある巨大なスライム状の物体がすぐ近くにあった。
スライム状の物体からは、見覚えのあるカーボンヘルメットを被った頭部を5個生やしている。
「……ウウkヅ…ダィエ……ラヴァkギッ…ギギg」
耳を澄ませると、5つの頭部から言葉にならない言葉が漏れている……
「クソッ」
月宮班長の呟く声が聴こえる。
ザザ「子カピバラより母カピバラ、目標を見つけた、一班は全滅、全員テケテケに食われている。救護対象者らしき人間は、近くに倒れているが生存している」
……
月宮班長からの無線連絡に、少しの間を置いて、社長からの返信が届く。
ザッ「母カピバラより、子カピバラ、確認した。救護対象者を回収して後退せよ」
ザッ「了解」
僕達、超越者の中で合言葉になっているのは、『夜闇でテケテケの足音を聴いたら全速力で逃げろ』だ。今回の一班は要救護者が居たため逃げ切れ無かったのだろう。
「作戦を決める、カピバラ9とカピバラ8は、救護対象者を回収。カピバラ10とカピバラ7は眼を使って、テケテケの核の位置を確認」
「「了解」」
僕とサラは、眼を使って、実体化しているテケテケの核の位置を探った。
巨大スライムのテケテケの核の位置は、ほぼ中心に存在しているのが見える。
多分5.56x45mm NATO弾は、分厚い粘液状の肉に阻まれて届かない、下手をすれば、大太刀の魔剣でも貫けるか賭けになるサイズだ。
「カピバラ6、テケテケの核を確認したけど、巨体のほぼ中央だから、コイツの弾は通りませんよ」
僕は、無理だろうと手持ちのM4を指差しながら、観測結果を月宮班長に伝えた。
「解った、カピバラ10《カナン》とカピバラ7は、魔剣の準備。救護対象者を回収時、私達の姿は見えないが救護対象者の姿は、テケテケから見えているだろうから、テケテケの足止めを頼むわ」
「了解」
僕たちは、月宮班長の合図で配置に着いた。
桜ちゃんと穂の香さんは、テケテケの巨体から離れた場所に倒れている救護対象者へ駆け寄って連れ出す役割。
僕とサラは、テケテケとの間に走り込んで魔剣を使った攻撃と牽制。あわよくば、テケテケの核を魔剣で破壊する。
月宮班長の左手が上がる。その手をゆっくりと下ろすと、カピバラ隊の全員が動きだした。
一歩、二歩。ゆっくりと近づく。
僕とサラは、魔剣を出している。僕の大太刀に対して、サラの魔剣は細身の西洋剣が浮かんでいる。
横目で桜ちゃんの小さな手が要救護者に触れるのを確認すると、僕達もテケテケが動き出した時にすぐ攻撃できる位置で魔剣を構えた。
穂の香さんが要救護者の容体を確認している。40代ぐらいの中年の男性、スーツ姿。身長と体重は僕と同じぐらい。穂の香さんと桜ちゃんなら肉体強化されているので楽々連れて行けるだろう。
容体は、どうやら意識を失っているだけのようだ。
逃げるだけならどうにかなる。
「開始っ」
月宮班長の号令で、全員が動き出す。
穂の香さんが、ゆっくりと中年男性を抱きかかえる。
テケテケに動きは無い。
僕達も唾を飲み込んでテケテケの動きに注視している。
桜ちゃんが、穂の香さんのサポートで、後ろから男性を支え、運びやすいよう体勢を整える。
ピクッ
テケテケに変化。
やはりタダでは、帰らせてくれないらしい。
スライム状の体表面に何かが浮かんでくる。
ボトッボトポト……
バスケットボールぐらいの大きさの眼がいくつも浮かび上がる。
眼の浮き上がるのに押し出されるように、一班の隊員の頭が下に落ちた。
パチッパチパチパチ……
テケテケの表面の眼が、一斉に開き、辺りを確認し始める。
すぐに要救護者の男性へと、全ての視線を向けた。
穂の香さんが、男性を抱えてゆっくりと動くの合わせて、テケテケの体表面へさらに異様な物が浮かび上がってくる。
人の足……1…2…3……無数の足が生えてくる。
無数の脚が、テケテケの巨体を浮き上がらせている。
僕の中に湧き上がる恐怖で、自分の身体が硬直するのを自覚する。
「兄様、左側の足を、私は右側を落とす」
「あっリョ了解」
サラの声に意識を取り戻し、大太刀を振りかぶる。
ザンッ……ドシャッ
テケテケの左側の足を吹き飛ばす。反対側でサラも、西洋剣をテケテケの足に撃ち込むと、無数の脚に支えられていたテケテケの巨体がバランスを失い、また地面に音を立てて落ちた。
穂の香さんと、桜ちゃんはすでに後退を始めていた。
しばらく、書けなくなっていたのですが、スローペースで更新を進めます




