ガンファイト・トレーニング
僕は、射撃場へ続く壁際を歩いて行くと、光る壁に密着された太陽光発電パネルがずらりと並んでいる。
ダンジョンでは、太陽光発電の他にも、壁の中から大小20本近い川が安定的に流れ込んでいるのを利用した水力発電があり、エネルギーは安定的に供給されている。おかげで、ダンジョンのファンタジーっぽい生活の中にも家電製品は普及していて、現実側と生活に大差無い。
太陽光パネルを護る土壕壁が続く射撃場に着くと、丁度誰も居なかったので、モンスターの核の大きさを想定した約10cmぐらいの丸い鉄板でできた的を、15m20m30mの位置に複数準備した。
現代戦、特にCQBと呼ばれる近接戦闘では、建物内や、市街地の狭い場所を想定した射撃練習になり、過去の練習方法から変化している。現代の紛争地域…市街地戦で練り上げられた戦闘ノウハウは、近距離で相手より早く、かつ正確に撃つかを要求する。
昔のように、コンクリートの射撃場で紙の的をじっくり良く狙って当てる練習法は、あまりやらなくなった。紙の的を使うのは、超至近距離のCQC練習用のダンボール的ぐらいだ。それに、ケチの社長の方針で、屋外射撃施設で何回でも使える鉄板に撃ち込むのが安上がりらしい。
それにダンジョンだと現実側との物流が限られてるので、ここではダンボールも簡単に使い捨て出来ない。なので、代わりに、ゴーレムを的に使っている。
土塊の人形に、魔導技術でプログラムした魔石を埋め込むとゴーレムを作れる。魔石さえ破壊しなければ、タフなので何発でも撃ち込めるし、破壊した部位はすぐに修復されるので安上がりだ。
ダンジョンや都内で戦闘をする僕達が、入隊してから泣くほど訓練されてきたのは、最先端の特殊部隊が行う実戦の訓練方法だった。なにせ教官が陸上自衛隊第一空挺団現役隊員や、米国NAVY SEALsと言った、危険地帯専門の特殊部隊の軍人だったから、要求される内容が半端じゃなかった。
本当に泣きべそかきながらやらされたのを思い出し、吐きそうになる。
それでもここ数年、バックアップ要員をしていたせいで、昨夜、黒妖犬を相手にした時、見事に訓練をサボっていた悪い成果が出てしまい、危うく命を落としかけた上に、凶悪な俺様の出現を許してトラブルを起こしてしまう。
と言う訳で、折角の早起きだし、大規模クエストが近いのに、今のままだと不味すぎると、さすがの僕でも気がついたので、1人練習をすることにしました。
防音イヤーマフを耳にかけ、アサルトライフルのM4A1と、ハンドガンのガバメント1911タクティカル仕様を準備する。
同じM4系アサルトライフルでも、米軍の特殊部隊が使っているヘッケラー&コックのHK416みたいな、水に漬け込んでも暴発しないタフなアサルトライフルが欲しいと、一度社長に嘆願を出した所、高いから駄目とあっさり断られ、改造パーツとかメンテナンス部品がお安く手に入るM4A1を9年間ずっと使い続けている。せめてモダンAK47でも良いのに、社長はケチだから望み薄だ。
最初は、3つ並んだ的から後ろ向きに立ち、M4A1を下に銃を垂らした状態でタイマーのブザー音に合わせて後方へ向き直し、槍を構えるように左手で銃身のレイル部分を押さえ込むコスタ撃ちと呼ばれる射撃方法を練習する。
コスタ撃ちは、発砲時の反動で銃口が跳ね上がるのを押さえ込んで、次弾の射線修正が素早くできるメリットがあり、近接戦闘で有効とされている。
ピッ!
ジャッバンッカンッバンッバッカンッ……
電光掲示板にタイムは、5:36秒。撃ち直しもあったので遅い。
ジャリッ
ピッ!「ふっ」ジャッバンッバッカンッバンッ……
5:09秒……まだ遅い。
何度か同じ動きを繰り返したが、久しぶりだったので、かなりの初弾が鉄板の的から外れ、時間をロスしている。
会社から支給された練習用の弾数は、予め決められているので、昼から隊のメンバーと合同で訓練の予定もあるし、実銃の感を取り戻したら、一度トレーニング用エアガンに切り替える必要があるかもしれない。社長がケチなので世知辛い。
次に、M4A1で3箇所の的を撃ち、素早く腰のガバメントへ切り替えて撃つスイッチングのトレーニングに移る。
ガンバッグの中からトレーニング用のエアガンとマガジンを取り出し、クイックローダーでBB弾を入れて行く。
実弾射撃の感覚も大事だけど、どれだけ素早く正確に銃を握りかえられるかの練習なので、トレーニングウエポンで十分だ。
トレーニングウエポンを使って、昼前までたっぷり汗を流すと、ようやく弾を当てる感覚がつかめてきて、初弾で9割り程度当るようになってきていた。
◆◇◆
昼前まで、メインアームのM4A1からガバメントへのスイッチングの練習をして過ごしていると、うちのカピバラ隊2班のメンバーも、ダンジョン用の制服に着替えて射撃場にやって来た。
「あら、カナン君、早い時間から来てたみたいだね」
「月島班長、おはようございます、K9達に起こされちゃいまして眼が覚めちゃったので……ははは」
「困ったものね。カナン君、動物に好かれるんだもんしょうが無いわ」
「です、かね、あははは……」
僕が曖昧な笑いを返している内に、見た目の年齢は30代ぐらい髭を伸ばした長身の白人男性がやって来る。カピバラ清掃代行の一班に所属するステーブさんだ。
うちの一班は、元特殊部隊にいた人と、超越者能力を持った元自衛隊員の混成チームになっている。ちゃんと軍隊としての訓練を受けている本職の人達だ。
ステーブさんが元居たのは、米国海軍特殊部隊NAVY SEALs。世界の紛争地域で最も危険な場所へ潜入する部隊だ。
極東担当の在韓米軍に配備されたNAVY SEALsチーム5の分隊の1つに所属してたが、分隊が、ダンジョン探索隊警備に派遣されてきて強制クエストに巻き込まれ、ダンジョンに縛られてしまった。
その後、大規模クエストで分隊が壊滅した今、生き残った彼は、米軍を退役し、カピバラ清掃代行に入社している。
彼は、カピバラ隊の任務の他にも、普段は赤坂プレスセンターに居住して、米軍との連絡調整役と、ダンジョンでの警護アドバイザーや、探索隊の教官をしている人だ。
本人はどうも、ダンジョンでの冒険的な警護任務を喜んでいるふしがあり、銃を撃てる環境を楽しんでいる。
「元気にしてたかいカナン君、久しぶりだね」
「お久しぶりです、スティーブさん」
スティーブ教官は、ダンジョン時間もかなり長いので日本語がペラペラだ。狂人科学者の助手とは違うみたいです。
スティーブ教官が、僕の顔を観て口を開いた。
「カナン君、サラ、久しぶり一緒に練習しよう。M4に持ち替えなさい」
「あ、はい」
スティーブ教官は、現役のNAVY SEALs隊員と一緒に訓練をして、現役の訓練方法をアップデートしてくれている。練習に付き合ってくれるのは、とても頼もしい。
サラが急いで準備を済ませてる間に、僕はスティーブ教官と一緒に、動きをプログラムしたゴーレムを3体用意して配置する。ゴーレム以外の鉄板の的も配置が済むと、射撃場のセッティング準備ができた。
◆僕とサラ、ステーブ教官3人の実弾練習◆
実戦を想定した訓練を今からやる。僕達3人は、的から後ろ向きに立った状態からスタートした。
ビー!
ブザーが鳴ると、予めプログラムされた土塊のゴーレムが飛び出てきて、土の塊を投げてくる。練習用なので、石のように致命傷は無いけど、加護の無い生身で当ると骨折もありうる攻撃だ。
「Contact!」教官のスティーブが叫ぶ。
「「コピー」」サラと僕の2人が返事をする。
スティーブ教官の号令に合わせて、3人は、体を小さくしながら左足に重心を起き、右足で弧を描くように回して後方を向き直す。
隣のサラも、制服のスカートを遠心力で舞わしながら射撃姿勢に入った。
僕達は、地面に膝立ちになると、身体を低くしながら槍を突き出すようにM4A1を構え、ダットサイトを覗き込むと、素早く射撃を開始する。
バンババンバンバババンッ……
3人の一斉射で、粘土で出来たゴーレムの胸部から上がはじけ飛び、一体目が倒れる。すぐに二体目が反対側から出てきて粘土の塊を投げようと振りかぶる。
「Move!Move!」ステーブ教官が、移動を促す。
「カバーリング」僕が叫び、援護射撃を伝えた。
僕は、援護射撃のためゴーレムが振りかぶっている腕の付け根を狙い、セミオートで弾丸を叩き込むとゴーレムの腕が吹き飛ぶ。移動する2人への援護射撃が上手くできている。
うちの会社では、アサルトライフルで基本的にフルオート射撃はあまりやらない、セミオート射撃を素早く指で連射する。僕自身も体感的にこの方が当てやすい。
スティーブ教官とサラが僕の後ろに回り込むように走り出している。サラが後ろを通る時、僕の肩を叩いて移動の合図を送ってくる。サラの長い髪が顔の横をかすめ、甘い臭いがコルダイト火薬の匂いと混ざり合う。
バンバババンバンバンバン
僕の肩をサラが叩いた時には、スティーブ教官は、左にある遮蔽物へと走り込み、僕達への援護射撃を開始していた。
ババババンバババン
「Covering!Left! Move!Move!」
僕は、スティーブ教官が入った遮蔽物の左にある別の遮蔽物へと移動し、2人の反対の左側から顔を出してゴーレム以外の鉄板の的も撃ち倒す。この時、左撃ち用に銃を素早くスイッチして構えている。
「Reloading!」ステーブ教官の声。
「カバーリング」サラの援護の声。
サラが発砲するたび、彼女の制服のスカーフと長い髪が叩かれるように揺れる。
チッシャッ
ババババババンババン
スティーブ教官が遮蔽物に隠れてM4A1の弾倉交換を始めたので、僕とサラが援護射撃の弾幕を張る。援護射撃をしているサラの弾倉も、そろそろ空になる頃だと当たりを付けた。
バババンバンババンバンバン
シュッパンッカシュッ
「Ready!」
スティーブ教官が弾倉交換が終了した合図がきた。サラが弾倉交換をする合図を送る。
「リローディン」
「Covering!」
チッシャッ
今度は、サラが弾倉交換を叫んで遮蔽物に隠れると、スティーブ教官と僕の2人が返事をして援護射撃を開始する。
ババババンバババン
シュッパンッカシュッ。
サラが制服の上から着込んだ、タクティカルベストのマグポーチから、マガジンを引き出し弾倉交換を済ますと、空マガジンを左腰後ろのダンプポーチへ仕舞いながら、射撃を開始する。
「レディイ」
「OK Im Moving!」
スティーブ教官が、さらに有利な場所を確保するため、右前の遮蔽物へと駆け込んで行く。
バババンバンバン
「カバーリング」
僕とサラの2人で援護射撃の弾幕を貼ると、ゴーレムの両腕が吹き飛んだ。
スティーブ教官が前進して遮蔽物へ入ると、すぐに二体目のゴーレムを撃ち倒した。
「Ready」
この場合の準備完了は目標だった敵を倒した合図だ。3人は、左右確認で顔を振る。鉄板の的も全部倒れている。敵が残って居ないのを確認。
「Ok continue forward」
「コピー」
3人は、M4A1を構えた状態で、物陰から中腰になって前へ移動する。この時、頭の上下運動を押さえ込むよう、膝と腰のバネを使って歩く。歩いている間に僕も弾倉交換を行った。
前方で何かが動くのが目に入る。
「Contact!」
三体目のゴーレムが飛び出してきてこちらへ突撃をしてきていた。戦闘中は最後まで油断はできない。
ババババンバババン……
スティーブ教官の接敵の合図と共に、前からくるゴーレムへ歩きながらM4A1の弾倉が空になるまで射撃する。この時点でゴーレムは形を崩して倒れているけど、訓練のため、倒れた土の塊に弾丸を撃ち込んでいく。
「Empty!Sidearm」
3人共弾倉が空になり、腰のデュークホルスターからサイドアームのガバメントを引き抜く。
両手でガバメントを握りながら胸の高さまで持ち上げると、前に突き出すように構えた。この時両方の親指同士が直列に重なるように銃を握り込む。素早く引き金を連射する。
バババンバババンババン
「Clear」「クリア」
3人で左右確認を行いながら、弾倉交換を行って訓練は終了した。
パチパチパチ
拍手が聞こえてきた方向に振り向くと、うちの隊のメンバーだった。
「カナン君すごーい」「上手くなったやん」「カナンきゅんかっこいい」「兄様私を抱いてもいいのだぞ」
若干名わけの分からない事を喋っている奴がいるが、どうやら褒められているらしい。
「ありがとうございます」
「練習場では、いい動きをするのにねえ」「ほんまやわ、『僕』の時もその動きができたらねえ」「カナンきゅんが頼れるようになったらいいのになあ」「駄目な兄様も私の物」
「はあ、すいません」
色々と非道く言われているが、本当の事なので言い返せない。僕は、戦闘現場でどうしても恐怖に竦んで練習の動きができなくなる。
はあ……練習の通りに動けたらなあ……
ピンポンパンポーン
凄く申し訳ない気持ちになって、高い天井を眺めていたとき、間の抜けたチャイムがあたり一帯に鳴った。




