1/35
000 寂しがり屋の魔法使い
この世界に現れた、一番最初の魔法使い。
彼は少女に「どこから来たの?」と尋ねられて、楽園からと答えたらしい。
エルザがその伝説を聞いたのは、たった5つのときだった。
その頃はまだ元気だった、優しく美しい母が、その日なぜ、自分にこう尋ねたのかは、15年経った今でも分からない。
「ねえ、エルザ。その魔法使いさんは、どうしてこっちの世界にやって来たんだろうね」
6つも年上の、双子の姉たちがお勉強に励むこの時間。
遊んでくれる相手がいなくて、暇を持てあましたエルザが、母の部屋に突撃するのはいつものことだった。
「うー……わかんない。おなかが、すいてたのかなぁ」
ベッドの上に腰かけて、足をぶらぶらさせながら、エルザはそう、首を傾げる。
「ふふふ、そうかもしれないね。きっとそこには、おいしい食べ物がなかったんだわ」
「かあさまも、そうおもうの?」
振り返ると、枕にもたれてニコニコしていた母は「うーん」と少しの間、考え込んだ。
「どうだろう。かあさまはねぇ……その魔法使いさんは、もしかしたら」
絵本を閉じて、母は笑った。
「寂しかったのかもしれないね」