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第一話 好きになっても良いですか?


「あ、あの……あなたのこと、好きになっても良いですか?」

「えっ……あ、すみません。遠慮します」

「……えっ」

「……え?」


 滝本アキ、高校二年生。これが好きな人──守沢レイくんとの初めての会話。

 開始五秒で……おれは、フラれた。



 ◇ ◇ ◇



 カラスが「かーかー」じゃなくて「あほーあほー」って鳴いている放課後。ノリとミヤとシンのいつメン三人と寄り道したカラオケでは、なぜかおれの『反省会』を開かれていた。

 いや、ほんとは「アキ、フラれたらしい」って慰めてくれるはずだったんだよ? 反省会じゃなくて、残念会のはずだった。なのに、おれが守沢くんとした会話を話した瞬間、三人の顔が「おい、やってんな」ってやつに変わって、気づいたらカラオケの狭い個室で一対三の面接みたいになっていた。


「そりゃそうだろ」

「文句言うな」

「急に『好き』とか言われたら怖いって」

「違うよ。こいつ、『好きになってもいいですか?』って聞いたんだよ」

「許可制なの? 意味分かんねぇ」

「もういっそのこと諦めた方が良い」


 みんなが口々にひどいことを言う中で、おれはメロンソーダをずずっと啜る。

 今月のお小遣いがもうほとんどないから、ドリンクバーしか頼めないんだけど、おれが反省するならむしろこっちの方じゃない? なんて思ったりして。


「あっ、また別のこと考えてる」

「集中しろ。お前、アホで一個のことしか考えられないんだから」

「そんなんだからフラれるんだぞ」


 だんだん分からなくなってくる。おれは今、叱られてるのかな? それともバトウされてるのかな?


(みんなひどい……おれ、傷心中なんだけど!?)


 なんて思っていたら、いつメンの中の一人・シンが腕を組んで言った。


「逆に聞くけどさ。それでどうしてうまくいくと思ったわけ?」

「えっ……」

「聞き方変える。なんで告白したの?」


 なんでって……なんでだっけ? シンに聞かれて、おれは初めて考える。

 初めて話すってなったら、急に緊張して、頭が真っ白になって……気づいたら「好きになってもいいですか?」って言っていて……。


「……あれ? もしかして理由、無かった……?」


 おれが顔を真っ青にすると、三人はそろって大きなため息を吐く。


「アキって、本当にアホだよなぁ……」


 シンラツな言葉に「うぅ……」と唸る。けれど言い返せなかった。だって、本当にそうだから。

 おれは昔から、頭が良くなかった。






 学校の成績は、いつも絶対にビリだった。

 いや、別に勉強が嫌いとかじゃないんだよ? 新しいことを知るのは好きだし、予習も復習もちゃんとやってるし、通知表にも「学習態度は良好」、「宿題もきちんとやってくる」って毎回書かれるくらいには真面目なんだ。それに見た目も金髪のせいか、なんか似てるって理由で「ゴールデン・レトリバーみたい」なんて言われる。

 ゴールデン・レトリバーって、頭の良いワンコだよね? つまり頭良さそうに見えるってことだよね? なのに、授業はついていけないし、宿題はほぼ全部間違ってるし、テストは赤点常連。なんていうか……「頑張ってるのにできないタイプのバカ」って感じ。

 中学のとき、担任の先生に言われたことがある。


 ──滝本はさ……人よりちょっと、効率が悪いのかもしれないな。


 授業はちゃんと出てるし、宿題もやってるし、真面目なのに成績が伸びない理由を相談したら、先生はすっごく真剣な顔でそう言ったんだ。

「効率が悪い」って、悪口じゃないらしい。人には得意不得意があって、おれの場合はたまたま勉強が不得意だっただけ。あとは、段取りとか、論理とか、状況を広く見るとか、そういうのも苦手らしい。

 ……まぁ、そうだよね。

 友達の名前の漢字が思い出せなかったり、おつかいで簡単な計算ができなかったり、電話しながらメモ取れなかったり、言われたことと違う行動しちゃったり。……そういうことが、今までいっぱいあった。

 そして、そのたびに思ったんだ。「おれってほんと、頭悪いよな」って。そしてそれと同じくらい思ったんだ──「頭が良いって、良いなぁ……」って。

 おれがすごく苦労してることを、賢い人たちはきっとさらっとやっちゃうんだろう。羨ましくないわけがないし、憧れないわけがない。

 だから、いつの間にかおれの好きなタイプは決まっていた。


 〝頭が良い人〟。


 そして──今日。その「頭の良い人」に、初めて話しかけて、初めてフラれた。それもたった五秒で、あっさりと。







「──で、どうすんの?」


 カラオケのソファにだら〜っと寝そべっていると、ノリがおれの頬をつんつんする。


「このまま諦めんの? それとも、またやんの?」

「またやるって……何を?」

「リベンジだよ。リベンジ」

「『リベンジ』ってことは、また告白するってこと?」


 考えもしなかったことに、おれは目を丸くする。

 そうか。フラれて残念な気持ちでいたけれど、別に全部が終わってしまったわけじゃないんだ。「まだ諦めない」という選択肢が、おれにはある。


「つっても、フラれたの数時間前だぞ」

「今日中に再挑戦考えるやつ初めて見たわ」

「気持ちが落ち着いてからでいいんだぞ、アキ」

「いや、こういうのはすぐに行動に移した方が良いって!」

「鉄は熱いうちになんたらって言うもんな!」


 三人が好き勝手に言ってるけど、どこか楽しそうなのが分かる。

 おれのことになると、この三人はいつもこうだった。呆れながら、笑いながら、でもちゃんとおれを見ていてくれる。ちょっとバカなおれを、今日まで見捨てないでくれていた。

 そして、そんなみんなの前だからこそ、おれはこの本心を声に出すことができた。


「……もう一回、話したいなって思ってる」


 その瞬間、三人の顔が同時にニヤッとした。まるで「そうこなくっちゃな!」って言わんばかりに、「任せとけ!」って腕まくりするみたいに。


「よし、それでこそ男だ。アキ!」

「反省会終~了~」

「次は作戦会議だな」

「アキ、覚悟しとけよ」


 そうしてこうして、おれの『告白リベンジ大計画』は幕を開けたのだった。


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