8 これにて一件落着(笑)
「小金井ハルはルイと同じ学校という関りがあった。だがルイの特異性に気付かなかったので見逃したが、ようやく気付いて手に入れようとした。ルイは恐らくボスが手を施したモノの一つだったんだろう。案山子みたいなもんだ、そこまで役には立たないから放っておかれたみたいだな。小金井ハルは小野寺達がなんとかした。今回やたらと『神』が絡んできたが、この国は神と化け物のラインが微妙だ。なんかよくわからないものが多い。名乗った者勝ちだな」
「この人痴漢ですって言われたら終わりみたいな感じですね」
笛吹の絶妙な例えに山吹が笑う。結構的を射てるなと思ったのだ。
「あの二人は雑魚だったが、ガチでやばかったのが水木樋だ。葛薫、水木樋、この二人は正当な、という表現が合っているかわからんが神の遠縁や子孫にあたる。葛薫は地方の神の無茶苦茶遠い親戚の子孫でいろいろ見聞きできるだけだが、水木樋はレベチだ。あいつはマジモンの神の子孫だからな。話に出てきたバカ強い神じゃないが、そこそこに凄まじい神の直系なんだよ。水木家に籍を置いてはいるが、本来は違う血筋だ。間違っても調べて本名呼ぶんじゃないぞ、手が付けられなくなる」
「こっわ」
二人は小さく呟く。どおりで、と納得もできた。だが、あくまで彼は「人間」なのだ。とてつもない存在ではあったが、人かそれ以外かと聞かれるとやはり人だなと思う。
後ろでカタカタ、と音が鳴る。どうやら神の心臓の「保管容器」が今の話を聞いて何かリアクションしたようだが誰も振り向かない。興味がない。なんとなく、なんだそれ聞いてないと驚いてるんじゃないかな、という感じだ。
「とりあえずあとは佐藤に任せて私達は通常業務に戻る。田中がやたらとパワーアイテム作って来たから少しだけ案件が減る、と言いたいところだが。ユピテみたいに作ったままほっとかれてる案件は多いだろう。しばらくはいつもと変わらん。他には」
「大丈夫です」
「俺も特にはないです」
「部外者をここに入れた件は顛末書の提出だけだ」
そう言うと大月は上の階にある自分のデスクへと戻っていった。顛末書一枚とはかなり寛大な処分と言える。状況判断してこの内容なら山吹たちが言うことはもう何もない。じゃあ書類作成するかな、とパソコンを立ち上げる山吹に笛吹はそういえば、と尋ねる。
「山吹さん何で心臓ないんですか」
「邪魔だから捨てた」
「そうですか」
それ以上興味がわかなかったらしく追及はしなかった。大雑把と見せかけて思慮深い山吹の事だ、そうするのが最善と考えたのなら言う事は特にない。
通常とは違う事件を扱いその証拠品を保管、管理する。その管理はあくまで人間でなければならない。人ならざるものが管理などしたら、田中のようにろくでもないものになるに決まっている。
だからここに勤めているのは「人」だ。例外は一名いるが「人みたいなもんだから大丈夫」というゆるいルールのもと働いている。
だが、もしかしたら。人ならざる者から言わせたら。
お前たちこそ化け物じゃないか、と言われるかもしれない。そう、目が訴えている。
「ウザイからその証拠品しまってくれ。集中できない」
「はいはい。場所は?」
「番号まだ下りてきてないからてきとうに」
「そうですねえ。じゃあここでいいじゃないですか」
そう言って笛吹がしまったのは、掃除用具入れのロッカーだった。パタン、と閉めると気配も視線も遮断される。付箋で「神の心臓保管中」と貼り紙をした。
「そういや腹減ってた」
「何か買ってきますよ。何がいいですか」
「歯が溶けそうなくらいクソ甘い何か」
「わかりました。黒糖入りソイラテバニラキャラメルヘーゼルナッツトッピングオンザジャージーミルクアイスビターチョコソースフラペチーノダブルキングサイズですかね」
「なにそれ、悪魔召喚の呪文か何か?」
「一個で二日分のカロリーが摂れる画期的なフラペチーノです。行ってきます」
素直に飲み物を買いに行った笛吹を見送り、山吹は小さく笑う。そういえば、笛吹の「コトバ」は内蔵にダメージくるんだった、と。今こうして普通に会話しているが、神の心臓の「容器」は大丈夫だろうか。たぶん無茶苦茶痛いはずなんだよな、俺は慣れてるから気にした事ないけど。そんなことを考え、まあどうでもいいか、と書類作成にとりかかるのだった。
後日、予定通りもともとあった方の神の心臓を佐藤に渡した。先日話した内容どおり今後も有益な情報提供などを条件に。佐藤は高級そうな木箱を持ってきており、そこに入れると鞄にしまう。彼なりに入れ物を用意していたようだ。そこで山吹はふと思った事を聞いてみる。
「もしかして水木樋を動かしたの佐藤さん?」
「正解、よくわかったね。まあ彼のボスにちょっかい出すための交換条件をしたのさ」
「やめてくださいよ、びっくりしたじゃないですか」
「社会勉強だよ。君らの環境は特殊だ、こういう奴もいるよっていうね。この間話してみてちょっと危なっかしいなって思ったから、まあおっちゃんの余計なおせっかいだと思って。緊褌一番っていうでしょ」
「小難しい言い回ししないで気を引き締めるって言ってくださいよ」
「意味わかってるじゃないですか」
二人の会話にツッコミを入れた笛吹はじっと佐藤を見つめたが、結局その後何も言わないままだった。何か思うところがあったようだが、言っても無意味だと思ったようだ。
「君らが所属する部署は必要なんだよ、この先もずっと。過去何回かヘマをしてきたから、そろそろこの辺できちんとした組織になってもらわないと困る。ま、今はアイツが課長やってるから大丈夫だとは思うけど一応ね。アドバイスと釘を刺すって意味での顔合わせでもあったし」
佐藤はそれだけ言うとじゃあ、と歩き出した。取引は完了し二人は署に戻る。いろいろあったが自分たちがやることは変わらない。今回特定のケースに時間をかけ過ぎたので本来進めなければいけない承認がたまっている。小野寺達調査チームも通常業務に戻るので、次から次へと証拠品がおりてくるはずだ。
「有給取ろうかと思ってたけど一旦置いとくかな。今だったらやる気スイッチ入ってるから、何個か仕事片づけられそうだ」
「そうですね。鬱陶しいのが消えてやっと落ち着きましたし」
「お、神の心臓の保管番号きたぞ。やーっと保管できる」
パソコンでメールを見ながら山吹がそう言うと、番号を確認した笛吹が立ち上がる。
「じゃあしまってきます」
エレベーターに乗って下におりた笛吹は掃除用具入れに入れていた神の心臓を容器ごと取り出した。保管場所はそれほど遠くないので徒歩だ。抱えるのも疲れる、というかあまり素手で触りたくないなと思ったので籠が付いた台車に入れた。これが終わったら次の仕事が待っている。
ふと視線を感じて見れば、苦悶の表情を浮かべながらぎょろぎょろとこちらを睨む目。
「そういえば思い出した。お前の事嫌いだった」
その言葉と同時に容器の上の部分がはじけ飛ぶ。容器が多少壊れようが形が変わろうが問題はない、心臓が無事なら。何事もなかったかのように笛吹は歩き出した。
ケースNo.9gp0998mov
特殊課襲撃事件の発端となった模倣品の神の心臓を容器ごと保管。
備考:形が崩れているが保管には問題ない
<了>




