アマイモ畑
「あっ!領主様だ!」
村の入り口付近にいた村人が叫びました。
今は夏真っ盛り。近くにいた村人達が汗だくの顔を上げ、領主の馬車を認めると一斉に手を振りました。
この村の領主は、夏の一番暑い時期にアマイモの生育を確認しに来ています。
馬車が止まり、扉が開きました。馬車の中から領主、夫人、息子の3人が降りてきました。
「皆さん、暑い中ご苦労様です。」
そう口を開いたのは領主であるジェラルド・ガルシア辺境伯だった。高身長でとても穏やかな笑顔が眩しいイケおじである。女性陣はジェラルドを見るたびに年齢関係なく顔を赤らめる。
そんなジェラルドの横にはフレデリカ夫人が並ぶ。つり目で勝ち気な雰囲気を醸し出しているが、実は気弱でジェラルドの横を歩いてはいるもののあまり言葉を発しない。そして夫婦の後ろには父親似の息子のキールがついていく。
「領主様、遠い所お越しくださりありがとうございます。今年もアマイモの生育は順調でございます。」
慣れた様子でジェラルドを案内するのは村長だ。
「アマイモは国王陛下が毎年楽しみにしている。今年も順調で何よりだ。」
ジェラルドは満足そうに報告を聞いた。そして村長とジェラルド夫婦と息子はアマイモ畑へ歩いて向かった。先程馬車から降りた場所から歩いてすぐに青々と茂ったアマイモの葉が見えた。
「うわー!何年か前に来た時も広いと思いましたが、さらに広くなってますね。」
キールは久々に見たアマイモ畑に感動を覚えた。
年々収穫量が増えるアマイモは最初はとても小さな畑で育てられていた。それがいつの間にか村の面積の何倍もの広さになり、見渡す限りのアマイモ畑になっていた。
そしてそのアマイモ畑の中にはたくさんの人影が見える。生育を確認したり雑草を抜いたり、動物に食べられたりしていないかなど丁寧に確認しているのだ。
「領主様、アマイモの生育は順調なのですが、今年は害獣の被害がいつもより多いのです。罠を仕掛けていますし、罠にもかかっているのですがそれでも一向に減らないのです。このままいけば収穫量に影響が出るのも間違いないかと思われます。」
「なるほど…。先月隣の領地で洪水が起きたそうだ。ここからもそう遠くはない場所だ。もしかするとそれが原因で動物達が住処がなくなり餌を求めてこちらまで来てしまっているのかもしれない。」
自然災害が起きてしまうのは仕方のない事であるし、それに伴う動物達の移動もやむなしだ。だからといって対策をしないわけにもいかない。ジェラルドが色々と頭を巡らせていると足下に何かの気配を感じた。足下を見ればそこには茶色の猫がいた。
「おお!リリではないか。元気だったか?」
いつの間にか足下にいて頭を足に擦り付けていた。ニャーと一声鳴くとどこかへ歩き出す。ジェラルドがその方向へ目を移すとそこにリーザが立っていた。
「おや、領主様。もういらっしゃっていたのですね。」
リーザは村の入り口で迎えるはずだったのにと笑う。ジェラルドはそんなリーザを見つめた。
「お仕事ご苦労様です。もうあなたもお年なのだから隠居されてもよろしいのでは?」
「あらあら、確かに体力は落ちましたがまだまだ元気よ。領主様、今回は素敵な殿方と一緒にいらしたのね?」
リーザはジェラルドの後ろに目を向ける。
「キール様お久しぶりです。まだまだ子供だと思っていたけれど、もう何歳になったのかしら?」
「リーザさんお久しぶりです。今年で27になりました。」
リーザの問いににこやかに答えるキール。リーザからすればまだまだ子供のように見えるかもしれないがと付け足す。
「いえいえ、立派になられて…。領主様がいなくなっても心配ないわね。」
リーザはジェラルドに目を向け笑顔を作った。
村長はリーザの言動にヒヤヒヤしていたが、ジェラルドはガハハと大袈裟に笑っただけだった。
「奥様。難しい話は男性陣に任せて私達はお茶にでもいたしませんか?」
リーザは足下にいたリリをひょいと持ち上げながらフレデリカ夫人を誘う。フレデリカ夫人はジェラルドとアイコンタクトを取り、リーザの誘いを快く受けた。
「そうそう、王都で人気のお茶をお持ちしましたのよ!ぜひリーザさんに飲んでいただきたくて!」
「あら、そうなの?とても楽しみだわ!」
2人は楽しそうに話しながら村の方へ歩いていく。
2人の背中を見送ると、村長とジェラルドとキールの3人は害獣対策について話し合うのだった。




