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アマーリア

私はとある子爵令嬢です。母は社交界の華と言われるほどの美貌の持ち主ですが、私は父に似て真っ直ぐな黒髪にすみれ色の瞳でキツい顔立ちをしています。

妹達も誰も母に似ず、父や祖母の遺伝子を受け継いでしまったようで、父を始め回りの人にはみんながっかりされて育ちました。

両親に連れられて出席するお茶会も大嫌いでした。大人は皆、母に似なくて残念だったねと言うからです。子供だからわからないとでも思っているのか、母の美貌に妬んでそう言っているのかはわかりませんが、幼い私の心はボロボロでした。

ですが、必死に弱い姿は見せまいと強がって生きていました。

逆に、妹達は気の弱い子に育ってしまい、いつも私の影に隠れるようになりました。

母は優しかったと思います。確かに私に似ていないけど、貴方はとても魅力的よといつも慰めを言ってくれました。

ですが、天使のような美貌の母にそう言われても、逆に虚しくなるだけでした。


ある日のお茶会で、私は運命の出会いをしました。相手は侯爵家の嫡男でした。お互い一目惚れをし、すぐに仲良くなりましたが、家に戻ると母に彼は侯爵家の嫡男様だから結婚は出来ないんだと教えられました。

初めて母を通してではなく、私そのものを見てくれる人だったので、結婚出来ないと知ってとても悲しかったです。

幼い恋心に蓋をして忘れようとしましたが、彼は会う度に私に可愛い、好きだと言ってくれて、とてもじゃないけど忘れることも諦めることも出来なくなっていきました。


13歳になって出席したお茶会で、初めて彼の婚約者を見かけました。

とても清楚で可愛らしく、素敵な女の子でした。ですが、いつもの様に彼は私のもとへ来て、綺麗だの愛してるだの言うものだから、回りは婚約者さんを見て嘲笑っていました。

許せませんでした。そんな事を言う回りの人達も、言わせてしまう自分自身も……

それからずっとこのままの状態でいるわけにもいかないので、自分の心と向き合うことにしました。

私は彼女から奪ってまで彼と一緒にいたいのか?答えは否でした……私は自分に自信が無くて、いつも誉めてくれる彼といることがただ心地いいだけだったのです。

自分の自尊心を守るためだけに、彼を利用していたのです。自分の本心に気付き、私は彼との決別を決心しました。

ですが、突然母が弟を出産後亡くなってしまったのです。私達一家は悲しみに暮れました。

悲しくて悲しくて悲しくて……ですが心のどこかで、これでこれ以上美しい母と比べられずに済むと言う安堵感も生まれました。そして、そんな自分に嫌悪もしました。

母の死後は幼い弟の為に急いで乳母を雇ったりと大変でした。父も最愛の母を亡くし、何も手につかないようになってしまったので、色々な人に助けてもらい、何とか生活していました。

身も心も疲れ果てている所に、彼の優しさは心地よく、決別すると決めたのについついずるずると甘えてしまいました。


2年が経った頃、彼の婚約者はすっかり素敵なご令嬢に成長し、大好きな彼のために頑張ったのだと一目でわかりました。

私もずいぶん落ち着いたので、今度こそ決別しようと決心したのですが、彼が「エミリアが15歳になったらすぐに結婚することにした。結婚したらすぐに私の愛人になって欲しい。」と言い出しました。

あまりの事に言葉を失っているうちに彼は約束だよと去ってしまいました。

彼は愛していると言いながら、妻ではなく最初から愛人にする気だったようです。まぁ身分も低いので仕方の無いことでしょうが、正直腹が立ちました。

私の事もエミリア様の事もバカにしているとしか思えませんでした。


本妻であるエミリア様の影に隠れて、常に日陰から2人を見ることになる自分を想像すると、辛くて仕方ありませんでした。

きっとエミリア様はいつもこれ以上に苦しかった事でしょう……弟も大きくなってきたし、私は2人の前から姿を消すことにしました。

おそらく父は侯爵家の愛人になると言うと喜んで私を差し出す事でしょう。なので、家族にも気付かれずにこっそりと出ていく事にしました。

街に出て、どこか遠い土地での仕事を斡旋してくれる人はいないかと探し、感じのいい夫婦と出会いました。

その夫婦も数日後、この街を出て働きに行くところだと言うので、一緒に働かせてもらえるようにお願いしてくれるそうです。

当日待ち合わせをし、最後にエミリア様に「彼をお願いします。今まで申し訳ありませんでした。」と手紙を送り、夫婦と共に出発しました。


その後は……ええ、ご想像の通り、感じのいい夫婦だと思っていたのに見事に有り金を全部取られて遠い地の娼館へ売られてしまいました。

子爵家へ連絡して欲しいと言っても誰も相手にしてくれず、戻る手段も無く、生きるためには働くしかありませんでした。

生きている意味もわかりませんでしたけどね……

よく考えたものです、あのまま彼の愛人になるのと今の生活、どっちが辛いことだろうなと……


20歳の冬、私は流行り病であっさり死んでしまいました。

ですが色々未練があったからでしょうか?成仏できずにふらふらと霊体のまま侯爵家へ来てしまいました。

そこでは想像を絶する事態が起こっていて驚きました!彼は夜な夜な愛人達をアマーリアと呼びながら抱き、エミリア様は自分の子供だけではなく、愛人の子供まで一緒に育てていました

正直初めて彼の行為を見た時は、自分が霊体な事は棚にあげて、あまりのホラーさに叫んでしまいました。

まさか自分の名前を呼びながら別の女性を抱いているとは……エミリア様にも同じだと知った時は涙が溢れて止まりませんでした。

私さえ消えれば2人は幸せになると思っていたのに、上手くいかないものですね……


それからも彼等を見守り続けましたが、状況は悪化するばかりのように思えました。

エミリア様は立派なもので、11人の子供達を差別することなく立派に育て上げ、誰からも尊敬される淑女となられました。

ですがある日、私の肖像画を実家から買い取ったと言って家族の肖像画が並ぶ部屋に飾られた時は、さすがに少し気弱になっていました……

もう、私の肖像画を売るなんて無神経すぎると怒り心頭で実家へ行ってみると、これまた酷い有り様でした。

母に似た可愛らしい娘を可愛がるあまり、家計は火の車となっていました。私に似た姉の方が父親である弟を諌めていましたが、全く取り合わず、次から次に欲しがるままに買い与えていました。

私に似た娘は冷遇され、母に似た娘は我が儘放題で、非常に気分が悪くなりました。

だからと言って霊体の私にはどうすることも出来ませんけどね……


ある日ついに事件は起こりましたが、彼が娘を差し出せば助けてくれると言いました。私は、この私に似た娘を彼のもとへ送れば、この子を助けてくれるんじゃないかと閃きました。

ですがしつこいようですが霊体です。悩んだ結果、この中では一番霊感の強い甥の耳元で「妹の代わりに姉を差し出せばいいんじゃないか」と何度も何度も言いました。

伝わったのかはわかりませんが、甥がその通りに言ってくれたおかげで、姉の方を彼のもとへ送ることになりました。

彼に会うとき、姉に重なってみたら無事私に見えたようで、息子の妻にしてくれることになりました。

ずっと見ていたので彼の4男の性格は知っています。きっとこれで幸せになってくれることでしょう。

姉の方は私が重なってしまったせいか、酷く疲れてしまったので、もう二度とこんなことはしないと誓いました。

それから、彼もエミリア様も姪に良くしてくれました。彼もようやく私の亡霊から解放されたのを見届けたので、もう思い残すことは……ありました。

妹の方がちょっと心配ですね……まぁちょっとした嫌がらせは何とか私の力で防いでみましたが、防ぎきれなくても全く堪えていないようなので大丈夫かな?

この子の幸せも見届けるために、もう少しこの世界にいてみようかな……

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