#40『魔族』
━━ 魔族とは何か?
一般的には人間を遥かに凌駕する魔力や身体能力を持ち、魔王を頂点とした独自の王国や軍団を形成しているコミュニティを形成している。
そして人間との対立が激しく、縄張り争いや思想の違いから、常に戦争状態にあるとされている。
しかし魔王はこう言う。
「人間こそ真の魔の者たちである」
その言葉の意味をユラソル伯爵逮捕事件を通じて描いていく。
そして、この物語はようやく終焉へ向かう。
◆
ユラソルが狂ったように大笑いしながら連行されていく様子をある武官が横目で見ている。
(果たしてこの先このセレメントはどうなるのか?)
その一点を心配しているのは王家騎士団団長にして軍事機関トップである将軍ブレアであった。
ブレアの目線の先はルミシスを捉えている。
この騒動の3時間前に戸を叩いたのはルミシスだった。
普段全く縁のない文官の、それも実質トップが自ら訪れたため、その後に控えた会議をキャンセルしてルミシスの応対をした。
ブレアを訪れた内容は言葉としては非常に簡潔だが、その中身の異常さに戦慄した。
「ユラソルを逮捕して欲しい」
既に逮捕状も請求されており、ユラソルの弟であるネオマ皇帝のサインまで周到に用意されている。
逮捕だけなら警備局に任せるのが筋だが、貴賤にうるさい社会で賎民は貴族に触れることができない。
その点ブレアの出自は東の最果てエルシア国の第3王子であることから、少し遠いが辿ればユラソルの血脈につながる。
理屈も手続きも問題ないため断る理由がない。
(しかし困る……)
セレメントの軍隊は将軍であるブレアを中心とした正統派が大多数を占める。
しかし、中にはブレアにこそ不満はないが野心にギラつく将校たちがおり、その連中を刺激するのを憂慮した。
「ネオマ様が崩御されればユラソル様が王位に就くだろう」
そう囁く連中がいるのは、ネオマに子供がおらず、側室も持たなかった。
そこに注目した彼らは一縷の望みをかけてユラソルに近づいた。
この世界の住人はみな等しく王政信奉者であるが、それは皇室に忠誠を誓うのであって、ネオマそのものの信奉者ではない。
ユラソルは黒い物が好きだったため、彼らもユラソルにアピールするため、何かしら黒の衣類を身につけていた。
そのため親ユラソルたちは「黒曜派」とも呼ばれている。
(割れなければいいが……)
そのブレアの杞憂は当たってしまった。
逮捕された翌日の軍営は大混乱した。
特に黒曜派は発狂状態に近かった。
「ブレア将軍に渡しておけ」
と、軍の管理部に殴り書きの辞表を叩きつけ、さっさと軍を辞めてしまった者もそれなりにいた。
(しかし、あれだけ権力欲に飢えていた連中は、今後どこで何をするのか?)
ブレアは彼らの行く末を純粋に心配をしたが、
ルミシスは別の感想しかなかった。
(軍はまた招集すればいい、それよりユラソルの汚職に加担した奴らが必ずいる。それを根こそぎ捕まえて一掃してしまおう)
当初はそのように考えていた。
確かに退役した黒曜派の軍人は単にユラソルの王政復帰を夢想家だらけだが、数人はこの国費横領の片棒を担いだ者たちもいた。
その者たちはどこへ目指したのか?
「一大事でございます!ユラソル伯爵が逮捕されました!」
誰にも聞かれないであろう、エレメント近くの森林の奥にある洞窟でその第一報がもたらされた。
ある異形の者に報告したのは、黒曜派急先鋒だったコンフォートだった。
「ユラソル殿が?ふむ……」
恐ろしく耳が長い男が、コンフォートの報告に対して何やら考えごとをしている。
「一考の猶予もございません!急ぎ救出頂かなければ我らの企みが王国に暴かれてしまいます!」
「……」
「メルコ様!急ぎ魔王様にご報告しなければ皆様も危ない目に遭われてしまいますよ!?」
「コンフォート様のお味方はどちらへ?」
「この洞窟の外で控えております!」
「そうですか……かこしこまりました。参りましょう」
逸るコンフォートとは別にメルコと呼ばれる男ははのそのそとゆっくり歩いて着いていく。
コンフォートの背中に向けてメルコが声を発した。
「今後はどうなられる?」
小声だが洞窟のためよく響いた。
「おそらくは、軍法会議にかけられ金の流れがあきらかになるでしょう。おそらく一次受けした商人は露見されているかと。その次の二次受け商人の団体まで辿り着けば……」
「何日で我々に辿り着くだろうか?」
「小賢しいルミシスのことですから、一週間もあれば……」
最悪のケースを想像したコンフォートは言葉に詰まるが、振り払うようにメルコに縋りついた。
「……そうなれば国の守りは鉄壁に近くなるやもしれません。ですので一刻も早くエレメントに攻め込みましょう!」
「……たしかに、その通りですな」
出口が近づき長く暗い先に、一点の松明の灯りが見えてきた。
コンフォートは勇ましくもやや小声で、入口で待っていた仲間たちに駆け寄り励ました。
「聞け!話はまとまった!メルコ様が立ち上がってくださることになった!」
「おぉっ!!」
暗闇から歓声が上ったが、その肝心のメルコの歩みは遅く、まだ出口から出てこない。
「計算は狂ったが、メルコ様率いる軍団がエレメントの王宮を包囲し、予定通りネオマ様を隠密に処し、その後すぐ解放したユラソル様を皇帝陛下にご即位して頂く!」
コンフォート含めた4人は肩を叩き合い、苦節2年の計画がもう寸前となったことを実感した。
「随分と危ない橋を何回も渡ったが、いよいよユラソル様が皇帝か……長かった……」
「もしや我々この4人は……四天王と呼ばれるかもしれんな?ははははっ!」
未来の四天王たちの笑い声が止んだのは、その2秒後だった。
重力が逆さまになったように4人が空中に浮かび上がり、仮初の四天王たちに混乱が生じた。
「な……なんだ!?」
「まさか禍力?どこかに禍動士が潜んでいるぞ!」
「メルコ様!メルコ様はご無事ですか!?」
ようやく洞窟の入口から現れたメルコが、面倒臭そうに返事をした。
「あぁ、私は無事だ」
「メルコ様!お気をつけください!禍動士がどこかに潜んでおり、卑劣にも我らは術にかかっております!」
「見ればわかる……と言うより、それは私がやっているからな」
「えっ……?」
メルコが何かを唱えると、凄まじい突風巻き起こり、彼らは無惨にも刃の風の中で細切れになって死んでしまった。悲鳴すらなかった。
「そうか、人間たちの中では禍動と呼ぶのだったな……正しくは『魔法』だ」
フードを取ると水色の肌をした人型の魔族だった。
彼らの挽肉になった死体の上をズカズカと歩き出したあと飛び去った。
「そうか、見事に看破されたか。どうやら王宮にはルミシスの他に頭のキレる者がいるようだな。コンフォートの言う通りすぐにでも攻めかかるとしよう」
メルコは羽を羽ばたかせ、魔族の王へ報告を急いだ。
以前まで40話完結とありましたが、皆様が読みやすいように少し細切れにした文字数で投稿しております。
そのため、もうちょーーーーっとだけ続きます。
もう少しだけお付き合い頂ければ幸いです。




