#12『雷鳴』
【前回まで】
ゼンたちを静かに脅かす王宮の陰謀と工作。
天才官僚ロータスはゼンとフィーナを殺すために莫大な金を必要とした。
そのロータスの上席である内務局局長ルミシスは、ひとり予算会議に挑む。
「7,000万G」
御前会議でルミシスが死を賭けて発表した懸賞金額にどの局幹部たちが顔を見回した。
この金額を皇帝の前で話すだけでも常人なら前夜に卒倒するであろう。しかしルミシスは涼しい顔で説明を続ける。
そして更に金は要ると言う。
運搬や手配にかかる紙や印刷、その他諸費用を合わせて合計その金額『9,875万G』と平然と要求した。
それを聞いた財務省の局長が震えながら激しく罵る。
「ルミシス、この金額の桁を間違えているなら貴様はバカだ…しかし本気で言っているなら更に大バカだ」
しかしそこはルミシス。
まるで道端で知人と挨拶をかわす程度の表情でこれを退ける。
「財務局長…ここは御前ですよ?」
ハっとして皇帝陛下に非礼を詫びる財務局長に、ルミシスはそうではないと言う。
「私が皇帝陛下の前で金額の桁を間違えることはあり得ません」
(こいつ…正気じゃない)
財務局長がそう思うのは当然だった。
国家運営における昨年の年間予算は約8,000万Gだったからだ。
ちなみにギルドにとっての高額報酬はその人の価値観によるが、5,000Gと聞きつければ我先にと目を血走らせ魔界だろうがあの世でも行く者が多い。
この前代未聞の予算に対してルミシスの才能をこよなく愛している皇帝ネオマはようやく口を開く。
「勝算は?」
これに対してニヤっと笑うルミシスの真髄はここからであった。
実はロータスの案を行政化するためにかかる費用とは他に、その金の使い方をひとり考えていた。
「いきなりは予算は使いません。まずは手配書を刷ってばら撒くのはこの中央都市から…この中央から範囲を広げていきます。この磁石をゼンとフィーナたち"賊"とします…」
みんなルミシスがつまんでいる磁石に注目した。
磁石のゼンたちはセレメントから拡大する手配書が拡がるごとにどんどんと追い詰められていく。
その逃げる様をルミシスは揶揄うように狂気じみた一人芝居を演じる。
「大変だ!ここも手配書だ!あ、ここも手配書が回ってきた!あははは!どんどんと逃げていきますね?」
そして徐々に"ゼンたち"が地図の隅っこに追いやられていくと誰かが呟いた。
「……魔界?」
ルミシスは狂気に取り憑かれたように磁石を勢いよく黒板に投げつける。"ゼンたち"は粉々となった。
「その通りです!」
その奇行にネオマ以外の高級官僚たちは肩を震わせて驚く。
ルミシスに憑き物が落ちたようにいつもの口調に戻る。
「賊には魔界で消えてもらいます。そして、懸賞金外の経費の半分は精度の高い目撃情報に支払います。」
ルミシスは国民の監視によってゼンたちを人間社会から追放せよ、ということだった。
これはロータスの案ではなく、ルミシスのオリジナルだった。
段々と外へ外へ逃げていくゼンたち。
その間に絶望して死んでも良し、討たれても良し、ここまではロータスの考えだったが、ルミシスは更に上をいった。
ゼンたちには魔界で死んで貰えばいい、
なぜなら魔族には金を払わなくてもいいからだ。
そして、仮にゼンが噂されている以上の強さを発揮して魔族を殲滅するならそれもそれで良し、と考えた。
どちらにせよ王国は金は用意をするがあくまで見せびらかすだけで、金に目が眩むギルドたちに幻の金をぶら下げ、真の狙いは市井の人々にたった1,000万G程度を使ってゼンたちを監視して外に追いやる、ということだと言う。
ルミシスは言う。
「ケイミュー閣下曰く、もしゼンを殺すために差し向ける軍事編成は20個大隊…兵站も考慮すれば当然我が国だけでは足りませんよね?姉妹国、従属国にも要請が必要になります。」
戦術の神様と謳われたケイミューの言葉だけに文官たちは沈痛する。
その場合、仮に半年でかかる軍事費のみの予算をルミシスは財務局長に生徒に質問するように求めた。
「正確に計算したわけではないですが、およそ…およそ…9,000万G以上に…なるかと…」
皇帝は静かに頷き、この狂った値をゼンたちにベッドした。
ルミシスは命を賭けた勝負に勝利した。
のちに、この御前会議は『国家雷鳴』と呼ばれ、伝説のように語り継がれた ━━━
【次回予告】
ルミシスたち王宮が仕掛けをする中、
呑気なゼンとフィーナは美味そうな匂いにつられ、
ある国に立ち寄る。
次回予告7月16日




