Chapter・・・005 何も知らない町
この街では、大きな事件が起きた記憶がない。庭のことも、草むらの事も、変わってしまった人たちの事も、すべて、【よくある話】として処理された。
主人公は、その町を離れる日、気づいたことがあった。
この場所が守ってきたのは、真実ではなく、何も知らない状態だった・・・・。
この町は、騒音もなく、治安も悪くない。大きな事件という噂も耳にしない。私はこの町を出ることにした。
理由を聞かれると、少し困る。仕事・人間関係でもない。
ここにいると、何も考えなくなる気がしてならなかった。
いくつかの「触れない話題」がある。
使われなくなった庭・誰も通らない道、変化した人々。どれも、説明はしないまま日常に組み込まれている。
「昔、ちょっとね」、「もう、終わったこと」、「別に・・・」それらの言葉が町を守っている。
ある意味優秀、知らなければ怖くない。考えなければ疑わずに済む。
正しさも痛みも、全部遠くへ追いやられる。この町で暮らす人たちは穏やかだ。
怒らない、悲しまない、喜ばない。
それは何も知らないからだ。知ろうとしない。
引っ越しの日、私は町を振り返った。
何も変わらない景色、整えられた日常、私は知っている。
積み重ねた沈黙の上に静けさが上乗せされている。
誰も悪くない、間違っていない。
駅のホームでふと不安になる。
この町を出ても、別の形で存在するのではないか?
庭のある町、草むらがある町、変わっていく人々。
どこにでも・・・・・。
知らないままでいることより、知ろうとして傷つくほうを選びたい。
それが正しいか、どうかはわからない。
ただ、何も知らない町には戻れない。きっと・・・。




