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「……ところで、炎青さんはどうしてリディオント国に? このお店も趣味と言っていましたが、本業は何をされているんですか?」
「本業は鍛冶屋だよ。ここにいるのは、まあ出稼ぎみたいなものかな」
「鍛冶屋……」
「何をするにもお金が必要なのは、世の常だよね~」
「ですね……」
炎青さんも私と同じ理由でこの街に来たのね……。このお店は客が来てないけど、趣味ならいいのかしら?
「レイラさんもどうしてシヴィアに? 小説ではなかった展開だけど」
「あ、はい。私もお仕事で魔石販売に」
「へえ、魔石! そっか、四属性魔法が使えたっけ。こっちじゃ魔法は貴重だし、考えたね」
「クロード様が教えてくださったんです」
「なるほど」
すると、隣でテーブルに突っ伏して聞いていた鈴ちゃんが興味ありそうに私を見た。ピクピクと尻尾が動いている。
「にゃ……ませきって、あのキラキラしたいし……?」
「ええ、そうよ。ええと……これね」
鞄から箱を取り出し、余っていた魔石を取り出す。それを見るなり鈴ちゃんが飛び起きて食い入るように見つめた。
「わにゃ……ピカピカしてる、きれい……!」
「おおー、これは確かに質がいいね」
炎青さんとサラムさんも覗き込んで、何だか恥ずかしく思っていると……ふと、サラムさんの指が赤の魔石を摘まんだ。
「……火魔法だな」
「はい」
「ちょっと、サラム?」
炎青さんが声を掛けるけど、サラムさんは魔石を眺めていたかと思うと――それを口に放り込んだ。
「あっ」
「にゃ!」
「あー……」
私達三人の声を気にすることなくサラムさんの口の中で魔石が砕かれる音が鳴り、そのまま火魔法が発動する。それを味わうように口を動かしたかと思うと、ごくんと喉が動いた。
呆れた様子で炎青さんがナプキンを渡して、サラムさんはそこに砕いた魔石を吐き出す。
「まったく、精霊様がつまみ食いなんてしないでくれよ。ごめんね、レイラさん。サラムは火が好きだから……」
「い、いえ。驚きましたけど、私は別に怒ってませんので」
余り物だし、石の形も歪な物だったから問題なし。
魔石を食べる人なんて初めて見たわ……。同じ精霊のディーネだってやらなかったもの。
「ませき……おいしいの?」
「あー、鈴はダメ。硬いし不味いしもし割れたら大怪我じゃすまないよ」
他の魔石を見て匂いを嗅ぐ鈴ちゃんを炎青さんが宥め、改めてサラムさんに向く。
「で、火の精霊サラマンダー様としてはお味はいかがかな?」
「悪くねえな。結晶でもいける」
舌なめずりをしてこちらを見るサラムさんに首を傾げる。
……もしかして、魔結晶を求められてる?
「すみません、魔結晶はまだ作っていなくて」
「……そうか」
あ、ちょっと残念そう。サラムさん、お腹空いてるのかしら。精霊に空腹はないってディーネは言ってたけど、同属性魔法はスイーツ感覚で食べるって言ってたわね……。
「いやいや、あったらまた食べる気? 魔結晶の値段知ってるの? そんなことされたら店が潰れるんだけどー」
「知るか、潰れちまえこんな店」
「それは困ります……」
和食が食べられなくなるのは困るわ。
もう既に店内がボロボロで危ういって言うのに……。
「普段は魔石見ても興味ないのに、いきなり食べるってことはレイラさんの魔法はかなり美味しいってことだね。精霊たらしだね~」
「オイ……!」
「は、はあ……喜んでもらえたなら幸いです……?」
精霊たらしって……言い方。
ま、まあ気に入ってもらえたならいいか。
「あ~、でもレイラさんの魔石使ってみたかったなあ。サラムが気に入るくらいなら質もいいし、長く持続するだろうな~」
「……遠回しにねだってんじゃねえ、見苦しい」
「あっ、サラムだって視線で結晶欲しそうにしてたじゃんか。魔法が欲しいなら直接貰えばいいのに」
……えーと、盛り上がってるけど置いてかれてるわ。私の魔石や魔法の話なのに……。
魔石は高いから、さすがの炎青さんも手は出し辛いのね。
「あの、炎青さんは魔石が欲しくて、サラムさんは火魔法が食べたいということでしょうか……?」
「え、くれるの?」
「くれんのか?」
二人同時に振り向かれ、その勢いに肩が跳ねる。予想以上の反応に、思わず頷いてしまった。
「え、ええ。空の石を用意してもらえれば後は魔法を入れるだけですし、魔力も余裕があるので大規模魔法でなければ問題ありません」
「あ、空の石ね! あるよ~!」
足取り軽く奥へ入っていった炎青さんを見ていると、サラムさんの視線が突き刺さる。……これは、無言の催促? 今すぐ魔法寄越せってこと?
「あの、お店の中で魔法は危ないので……。鈴ちゃんもいますし」
「…………」
お店はどうでもいいと一蹴されそうだけど、鈴ちゃんの存在をさりげなく伝えたらサラムさんの開きかけた口が引き結ばれた。
……鈴ちゃんのおかげでお店の炎上は免れたみたい。サラムさん、そんなに火魔法食べたいのね……。
「街の外ならいいんだな」
「そうですね、人に見られない場所でしたらどこでも構いませんよ」
「……わかった。後にする」
ふい、と顔を背けて思案するように視線が別のところに向いた。どこにするのか考えているようだ。
その間に炎青さんが戻ってきて、私の前に透明の石がいくつか置かれた。
「とりあえず四個あったから持ってきちゃったけど、一個でも十分だからね?」
「……嘘つけ」
ボソッとサラムさんが呟くけど、人の事が言えないと理解してるのかいつもの迫力はない。それでもツッコミを入れるのはサラムさんらしいわ。
私は置かれた石を取って、魔法を込めた。三人の視線が集中して気にはなったけど、今の私なら多少注目されてもコントロールがぶれることはない。
まず一つ、と置くと鈴ちゃんは大きな赤い瞳を開いて火の魔石を穴が空くほど見つめた。
「に、にゃ……きれい! ぴかぴか!」
「おお~、お見事! 宝石みたいだねえ、質もいいし使うのが勿体ないくらいだ」
「使わないなら食うぞ」
「使うよ!?」
手を出そうとしたサラムさんから守るように素早く魔石を奪う。……炎青さんがあんなに速く動いたの、初めて見たわ。
「残りも全部火魔法でいいのですか?」
「え、いいの? じゃあ、一つは火で、残りは水と風をお願いできるかい?」
「わかりました」
「注文多いだろ……」
「頼めるなら頼んでおかないとね!」
胸を張る炎青さんにサラムさんが呆れた目を向けるのを見つつ、私は頼まれた魔石を持ってそれぞれの魔法を込めた。
「……これで全部ですね」
最後の魔石を置いて、息をつく。これで大丈夫かな?
「うんうん、めっちゃ綺麗。これはいい道具になりそうだよー」
「道具?」
「はい、鈴」
四つの魔石の内、風属性を含んだ緑の魔石を鈴ちゃんに手渡す。
鈴ちゃんは目を輝かせて炎青さんを見た。
「りん、もらっていいの?」
「今、作ってる飾りに緑の宝石が使いたいって言ってたでしょ。使ってみたら」
「あ……にゃ、でも……」
嬉しそうに尻尾を振っていた鈴ちゃんは、何かに気付いたように私を見上げる。
「……ああ、私なら全然構わないわよ。使ってくれるなら嬉しいわ」
「にゃ! あ、ありがとございます……え、えんも!」
「はいはい。完成したらレイラさんに見せてあげなねー」
「にゃん!」
もふもふの手で魔石を大事に持つと、鈴ちゃんは椅子から飛び降りるなり店の奥へと走っていった。
あの様子から、早速作りに行くみたいね。どんな飾りになるのか楽しみだわ。
「……で、今のお前にその魔石の代金が払えんのか? まさかタダで貰うなんて真似はしねえよなぁ?」
「お、おおう……」
いそいそと魔石をしまった炎青さんにすかさずサラムさんのツッコミが入る。
……私は気にしないのだけどね。本当に魔石って高級品なのね……。
「あ、ではお食事の代わりというのはいかがでしょう?」
「魔石一つでどんだけ飯が食えると思ってんだよ。割に合わねえだろ」
「私にとって和食は魔石でも足りないくらいの贅沢品ですから。魔石一つで炎青さんの手料理が頂けるなら、安いものですよ!」
過剰でもなんでもなく力説すると、炎青さんが細い目を開けて驚いた顔をした。
そして、自分の頬に手を当てたかと思うと女性のように腰をくねらせる。
「うわ~、レイラさんってば僕もたらしちゃう? ヤバいね、本当に結婚しちゃう?」
「馬鹿か」
「あ、そんなこと言って。もし結婚したらサラムも毎日彼女から火魔法貰えるんだよ?」
「……………む」
ちら、とサラムさんの目が私に向く。
悪くないと思っている顔に見えるのは気のせいかしら……どれだけ火魔法が好きなのだろう。
「あはは……それはともかく、魔石のお金はいりませんので。代わりに、またお食事作ってくださいね」
「オッケー! 腕を振るうよ~」
「なので、サラムさんもこのお店を壊さないでくださいね?」
「俺に言うな、この馬鹿に言え」
鼻を鳴らして顔を背けるサラムさんに苦笑し、私は二人に別れの挨拶をすると店を出た。
思ったより長居してしまったわ。炎青さんとサラムさんのやり取り、お笑いみたいで見てて飽きないのよね。
……なんて言ったらサラムさん、絶対怒るわよね。
店を出て少し歩くと、昨日と同じようにディーネが現れて人の姿になりながら地面へと着地する。
「待たせちゃったかしら、ごめんね」
「ううん、ボクもさっき戻ってきたから」
「どこかへ行っていたの?」
「暇潰しにクロードの様子見に行ったよ」
「クロード様の……そう」
クロード様の名前を聞いて、思わず胸を押さえる。
……私、クロード様と会ったらどう接したらいいのだろう。彼は私に好意を抱いてしまっているのだろうか。
けど、私が彼を好きにならなければ恋人にはならないし……私には魔法が掛かっているから感情の起伏は薄いはず。だから、私が必要以上に何かしなければ恋仲になるなんてことはない。
今まで通りで大丈夫……よね。
「レイラ? クロードが気になる?」
「え? あ……ちょっとね、元気にしていたかしら?」
「うん。ボーッとしながら畑に水をあげてたよ」
「そう……」
「あと腕輪を気にしてた」
魔石作りに連日魔法を使ったものね。腕輪の存在が当たり前になっていて機能をすっかり忘れていたわ……。
ま、約束通り畑に水をやってくれているし元気そうなら問題ないわね。
「そっか、じゃあやることは全部やったし街へ行きましょう。お金も手に入ったし、スイーツ巡りするわよ!」
「わーい、行こ行こー!」
ややこしいことは考えない。今はこのシヴィアでしか出来ないことをするだけよ。
そんなわけで気合いを入れ、私とディーネは飲食店通りへと向かった。




