魔法の使い方は様々
「貴女に人の心はないのか……?」
砦を発った日の夜遅くに無事屋敷へ戻り、まだ起きていたクロード様にルーベウスさん、アレックスさんに報告後自室で簡単な食事をとってから汗を流して就寝。
そして、翌朝に食堂で朝食をとるということで眠気と戦いながらクロード様と一緒に入ったら先にいたグレイデル卿の開口一番がこれだった。
「朝からどうしました? 粗相でもされました?」
「違う! 庭のことだ! 何なんだアレは、人の庭に悍ましいものを並べないでくれ!」
「庭? ああ、ならず者の氷漬け……略してなら漬けのことですか」
「食べ物みたいに言うな!」
朝から元気ねえ。砦に行くときはしおらしかったのに、急にどうしたのかしら。まだ反抗期続いてる?
「うめき声が耳に残って昨日は全然寝つけなかった……寝ても悪夢で目が覚めたんだぞ……!」
「三日以上氷漬けのままですので風邪でも引きましたかね。さすがに死なれては気分が悪いので、魔法で……あ、火魔法が使える兵士達の練習台として溶かしてもらえるようアレックスさんにお願いしましょうか」
「発想が鬼畜‼」
頭を抱えるほどかしら? 別に火炙りにするつもりないし、どうせ火魔法で溶かすなら訓練の一環でやれば兵士達も経験値が増えて一石二鳥だと思うのだけど。
「悪いことする人に容赦なんていりませんよ? 再犯を防ぐには、トラウマを植えつけるくらいの気概で叩きのめさないと」
「見てるこっちもトラウマになりそうなんだが……⁉」
「そこは心を強く持ちましょう。戦争に比べたら全然生温いですよ?」
「ぐっ……」
偉そうなこと言いつつ私も戦争経験があるわけじゃないけどね。でも、あれで音を上げるようじゃいつか戦場に立ったときどうなるかわからない。
ここまで驚くのは予想外だったけど、辺境伯家の人間として多少の荒事には早い内から慣れていかないと。
「レイラさんの言う通りですよ」
言いながら入ってきたのは車椅子のクレア様。私はもちろん、グレイデル卿も驚いた表情で迎えた。
「は、母上! 部屋から出てもよろしいのですか?」
「ええ。ずっとベッドの上では息が詰まるもの。食事くらいは食堂でとりたいわ」
見たところ、まだまだ足りないけど前よりは魔力も回復している。歩行は難しいけど、食事くらいなら大丈夫といったところかしら。他の筋肉は可動の都度強化魔法で補って……と無理のない範囲で器用に使っている。
この使い方、私よりずっと上手だわ。攻撃魔法とは違うけど、すごく綺麗な魔力の流れ方をしている。
そういえば、身体強化と魔法強化って支援系であるけど自身ならともかく、他人に使うとき大丈夫なのかしら……?
「おはよう、ユーリ、レイラさん、クロードさん」
「おはようございます、クレア様」
「おはようございます」
そこでようやくグレイデル卿も挨拶してないことに気付いたようで、慌ててこちらに向いた。
「お、おはよう……ございます」
挨拶は大事だもんね。まさか朝一番で人の心はないのか、なんて言われるとは思わなかったわ。
ふと、グレイデル卿の車椅子に目がいき首を傾げる。
「グレイデル卿、杖から車椅子移動に戻ったのですか?」
砦に行く前は杖でリハビリするって言ってたはずだけど、まだ早かったのかしら?
そんな疑問を持っていたらグレイデル卿は眉を顰めて恨めしげに私を見た。
「誰かが庭に悍ましいものを並べてくれたおかげで驚いたのでな」
「ああ、驚いて転んで足を捻ってしまったのですか」
「誰のせいだと……!」
睨まれてしまったけど、私のせいかしら? ……私のせいでもあるか。使用人も腰を抜かしたりしたようだし。
とはいえ、敵を生きたまま無傷で拘束するならあれが一番安全で手っ取り早かったし。
「絶対に逃げられない案があればそちらを採用してもらって構いませんよ。屋敷の皆さんや街の人達の安全を最優先に考えると、私のやり方では現状が最善だっただけですから」
「……」
そう答えると、グレイデル卿は黙ってしまった。子供相手に意地悪な言い方をしてしまったかもしれない。
クレア様も来たところで人数が揃い、給仕が続々と皿を並べていく。グレイデル卿は普通の食事になったようだけど、クレア様はスープとパンに少量のサラダとまだ療養食に近いメニューだった。
(あ、あのスープとサラダ……)
クレア様とグレイデル卿の朝食に使用されている具材に鳥肉を見つけ、後ろに控えている料理人に目を向ける。視線に気付いたのか、相手は軽く会釈して返した。
スープには食べやすいようホロホロに煮込み、サラダにも茹でて細かく刻んだ魔鳥の肉が見える。昨夜に持ち帰ってルーベウスさんに渡したお肉は無事厨房の料理人に渡ったようだ。朝食に出したということは、昨夜の内に肉の味を確かめて大丈夫だと認められたからだろう。辺境伯が持たせたとはいえ、療養中の夫人に魔獣の肉を出していいか不安は抱くわよね。
「この肉……牛ではないようだが、初めて食べる肉質だな」
「私が持ち帰った魔獣の肉ですね」
「ぐふっ!」
独りごちた言葉に答えると、グレイデル卿は吹き出しそうになりつつも貴族の体面を保つためか何とか耐え抜いた。自分の胸を何度か叩いた後、水の入ったコップで一気に飲み下す。
そして、青い顔をしながら私を睨むように見た。
「魔獣の、肉……⁉」
「魔獣といっても鳥型の魔獣です。鳥肉らしくあっさりした質感でしたでしょう? 砦でも鳥肉パーティーしたんですよ」
「鳥でも魔獣だろう⁉ そんなもの食べて何かあったらどうするつもりなんだ!」
「辺境伯様も側近の方も兵士さん達も美味しく頂きましたよ? こちらだって、辺境伯様の許可を頂き凍らせて持ち帰り、料理長がきちんと確認した上で皆さんが食べやすいよう調理されています」
何か問題が?と首を傾げると、グレイデル卿は戦慄きながら眉を寄せて黙った。私を非難することは、父親が許可したことに異を唱えると同義だと気付いたのだろう。
魔物や魔獣を食べるのは普通だと聞いたけど、グレイデル領ではそうでもなかったのかしら?
「もしかして、魔獣肉初体験でした?」
「き……貴族が食べるものではないと……」
あ〜、もしかしてまたモルカさんの入れ知恵かしら。高貴な人間が魔物や魔獣なんか食べたらダメだ、とかどうとか。
専属侍女なら一緒にいる時間も家族より長いだろうし、あることないこと吹き込まれていたんだろうな。
黙々と食事を進めていたクレア様が穏やかに嗜める。
「ユーリ。魔獣の肉も立派な食糧です。卑下するものではありませんよ」
「はい……」
「毒持ちでも危険な部位を避ければ食べられますしね」
「いや……それは普通に食べたくない……」
この様子だと、魚介類にも偏見持ってそう。調理前のイカタコや蟹、ウニや海老とか見たら驚くだろうな~。この世界にもいるわよね? ファンタジーで海の魔物っていったらクラーケンが有名だと思うけど、いたりするのかしら?
「グレイデル卿、いつか新鮮な海の幸を贈りますね!」
「……ものすごく嫌な予感しかしないから遠慮する……!」
私の思惑がわかったのか、顔を引き攣らせて断られてしまった。グレイデル卿はリアクションが大きいので見てて飽きないのよね。今まであまり外に出たことなさそうだし、これからは色々なものを見て体験して驚かせ……もとい、経験を積んでもらわないと。
(もしかして、子どもらしい遊びとかも未経験だったりするのかしら?)
見ていると、無理して背伸びしている印象がある。貴族の嫡男だから仕方ないにしても、人間なのだからたまの息抜きは必要だろう。
グレイデル卿の魔力が安定するまでまだ掛かるだろうし、色々聞いておこう。指導の方針もあるし。
そんなことを考えながら食事を進めていると、クロード様の視線が刺さって首を傾げた。
「魔獣の話、後で詳しく」
「あ、はい……」
そういえば、クロード様に魔鳥討伐に参加したこと話してなかったっけ……。




