↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/53

尾賀さんの決断



 休憩も終了し泰助と尾賀さんは再び本屋の仕事に戻った。

ただ、泰助は尾賀さんに菫との関係をあれこれと聞かれたことに、それが何故なのか理由がよく分からず少し不思議に感じるところがあった。


菫との関係を聞かれるなんて入学した1年生の時以来だな。今じゃ誰も聞いてこないのにどうしたんだろ? 最近もしやと思っていたが… そうか!


とうとう尾賀さんは俺のことを意識し始めたな。だから俺の近くにいつもいる菫のことが気になる…


ムフフフ… そうか、そう言うことか… 


もう直ぐだ、もうすぐ俺はSランクおっぱいをこの手にGETできる。

どうしようどうしよう… 尾賀さんに付き合ってほしいなんて言われたら… えへっ…


いつもの癖ですぐにおっぱい揉ませてと言ってしまいそうになる… それはダメだ。

彼女から揉んでいいよと言わせなくては… 果たしてそれまで我慢できるか?… 不安だ。



泰助は尾賀さんの複雑な心境など全く知る由もなく「とらぬ狸の皮算用」で脳内を幸福感で満たしていた。


ヤバい… 想像だけで脳汁が出てきてしまう。

とにかく今は尾賀さんに良い所を見せなければ…


泰助はやる気満々。仕事を頑張って尾賀さんに自分の凄さをアピールしようと考える。

それから泰助は今まで以上にてきぱきと仕事をこなすが、これではまだ足りぬと思いあることを思いつく。


 泰助は倉庫に引きこもりカラーペンを手にとって何やらもぞもぞと一生懸命紙に書いている。

出来あがった紙をちょうどいい大きさのコルクボードに張り、自信に満ちた表情でそのコルクボードをある場所に設置した。


その内容は人気小説やコミック本の内容解説。

本屋には週刊や月間ランキングごとに本が並べられてある場所があるのだが、それぞれの本の中身までは紹介されていない。そこで泰助は販売促進のためランクインしている本の解説を紙に書いて分かりやすいように掲示することにした。


本の中身を解説する文章、すなわちレビューだが… 泰助が小説などを読むはずもなく解説はネットに載っていた読者感想をまるパクリ… それを泰助は面白おかしく一部をアレンジして書きまとめた。



 するとお客さんは泰助の書いた解説を結構真剣に眺め、中にはそれにつられて買い求める人も現れる。泰助のこの行動には尾賀さんもびっくり。


「柳瀬君ってこんな才能あるんだ…」普通に感心する。

これに気を良くした泰助、次は最も自信のあるコーナーに手を出す… すなわちエッチな本。

この解説だけはインターネットの検索を使用せず自力で全てを記載することができる。


しかもこの手の本はランキングなどされるはずもなく、ひっそりと売られているものだが、泰助は自分の主観100%でランキングを行い事細かに内容の批評まで書いている。



泰助が書いた解説にひっそりと集まってくるのは… 当然思春期を迎えたいたいけな中学・高校生たち。泰助はそこで力説を行う。


「諸君! やがて彼女ができたときに必要な知識をいつ身に着ける? 今でしょ?」

「おおおぅ~!」


湧きあがる歓声… もはや泰助は皆から教祖として崇められる。


泰助の演説を聞いた若者たち…

最後には皆一様に涙を流し感動の面持ちでエロ本を片手に持ち、レジへと巡礼者のごとき列を作って並びに来る。


その巡礼者のレジを担当するのは… 尾賀さん。



柳瀬君… お願い、もう本当にやめて…

何で私がエッチな本を買う男の子たちの行列をさばかないといけないの…

それにどうしてこの子たちは泣いてるの? なにに感動してるの?

恥かしいから本当にもうやめて… 私も涙が出そう…

尾賀さんは絶望感にさいなまれていた。



泰助は自分が出した成果に大満足…

自信満々で尾賀さんの喜ぶ表情を見ようと思い尾賀さんの方を見てみると…


尾賀さんは照れているような感じで俯きながらぷるぷると両肩を震わせてレジに没頭している。

それにふと表情が見えたとき、瞳に涙が滲んでいたような気がした。


「やったぁ~ 尾賀さんは感動するあまり涙を流して震えている~」

泰助はそんな尾賀さんを見て大満足であった。



 しかし、実際にはエッチな本を持った若い男子がレジ前に行列を作っている風景があまりにも情けなく、他のお客さんに見られたくないという恥かしさと、そんなレジを担当している情けない自分を鑑みて深い悲しみと絶望感に打ちひしがれ、どこからともなく湧き上がる怒りで両肩をプルプルと震わせる尾賀さんの姿がそこにあった。


一通りレジを済ませると尾賀さんは慌てて泰助の方にやって来て


「明日出す週刊誌の整理を倉庫でやって欲しい」


そう言って泰助を倉庫の方へと追いやった。

このままではこの本屋がピンクの本屋として世間に認定されてしまう。


泰助は尾賀さんに良い所を見せようと仕事を普段の2倍頑張った。

結果、尾賀さんは普段の仕事の4倍疲れた。



 その日はそれから泰助もおとなしくしていたため、何事もなくもうすぐ閉店となる時間を迎えた。

大学生のバイトももう上がっており、今は尾賀さんと泰助の二人で店番をしている。

そろそろ店を閉めようかという時間となったが、入荷予定の週刊誌がまだ届かない。


明日発売なので荷物が届いてから、急いで店頭に並べる準備をしておかなければいけないのだが、トラックが遅れていると電話が入った。


「トラックが来るまで俺も残るよ」

泰助が尾賀さんにそう言うと、


「ごめんね、そうしてくれる…」

尾賀さんは申し訳なさそうに泰助に残ってくれるように頼んだ。



 やがてトラックが到着して雑誌を倉庫に運び入れ、明日の準備を整え終わると時間はもう夜の10時。尾賀さんは遅くまで残ってくれた泰助にコーヒーでも飲んでちょっと休んでから帰ってと言ったので泰助は尾賀さんの家に上がることになる。


尾賀さんが淹れてくれたコーヒーを二人で飲みながら少し話していたが、時間も時間だけに泰助も尾賀さんも話しながらだんだん意識が遠のいていき、やがて二人ともテーブルに突っ伏すような感じで寝てしまっていた。



泰助が体に当たるクーラーからの冷たい風に体をぶるっと震わせて起きると時間はもう12時前。


ヤバい… 電話もしてないし帰ったら母ちゃんに何を言われる事やら。

さて帰ろうかと思ったが、尾賀さんはまだテーブルにもたれて寝ている。

流石にこのままで放っておくのもなんだかな… 


泰助はどうしようか迷ったが、尾賀さんをそっと抱きあげて静かにソファーに寝かせた。

そしてソファーカバーのシーツを上から掛け、クッションを持ってきてそっと頭を持ち上げてその下に敷く。


大きなソファーの上で尾賀さんは仰向けになりゆったりと寝ることができている。

尾賀さんの上にかけられたシーツの一部だけが盛り上がる… それは尾賀さんのおっぱい。

思わず手が出そうになるが、泰助は必死に我慢する。


「黙って勝手に触るのは俺の主義に反する」


泰助はおっぱいハンターとしてのプライドで自制していた。

ただ、クッションを枕にするために尾賀さんの頭を持ち上げたので、ついでだと思い尾賀さんの頭を優しく撫でてみた。菫とは違いセミロングの尾賀さんの髪は撫でた感じもやはり異なる。


それに無邪気な顔で寝ている尾賀さんの表情を見ているともう少し撫でていたいと思う気持ちになる。泰助は少しの間、そうして尾賀さんの頭を撫でた後、そっと玄関を開けて静かに自宅へと帰っていった。



 泰助が玄関の扉を閉めると尾賀さんの目は直ぐに開いた。尾賀さんは泰助に抱きかかえられてソファーに移されるときから本当は目覚めていた。


泰助に抱き抱えられるときに目を覚ましてびっくりしたが、そのままもう一度目を閉じて寝ているふりをした。


ソファーに寝かされてふと気づく… 私は柳瀬君と触れている…

だが、恐怖を感じることや嫌な気は全くしない。


そんな自分の変化に驚いていると、自分の頭に泰助が手を置いている。

なにをするのかな?… そう思っていると優しく頭を撫で始めた。


最初は驚いたが、その内にあることを思い出す。

昔の彼に乱暴される前、大好きだった彼に優しく抱きしめてもらいそっと頭を撫でられたときのこと…


そのことを思い出し急に涙が出てきそうになった。

そんなことを思い出しているうちに泰助は静かに家を出ていく。


寝ている私の胸にそっと触れても気づかれないと思い触ってくるのかな… そんなことも思ったりしたが、柳瀬君は優しく頭を撫でるだけでそのまま帰っていった。


やっぱり柳瀬君だ…



尾賀さんはその時に思った。

次は私から柳瀬君に触れよう… そしてそれができればその次は…


柳瀬君から離れよう… 柳瀬君を烏丸さんに返そう…。


そして私ももう一度男の人と普通に接してみよう。

そうしないともう自分の気持ちが抑えきれなくなる。


泰助からの好意を本当は受けたいが、菫のことを考えるとそれは絶対に出来ない…

そんな複雑な心境から出された答えが、泰助から離れようというものであった。




そう言えば…

柳瀬君、なんだか私の頭を撫でながらぶつぶつ言ってたような気が…

たぶん私の事を気遣って何か言葉をかけてくれてたんだろな。



尾賀さんはそう思っていた…

しかし泰助が寝ている尾賀さんに実際に語りかけていた言葉とは…


「柳瀬君のことが好き…柳瀬君のことが好き…柳瀬君のことが好き…」


泰助は「擦り込み」を狙っていた。

寝ている耳元でかすかに囁かれる言葉が無意識のうちに記憶に残ってしまう…

尾賀さんの潜在意識に自分のことを好きだという印象を植え付けようとする究極のセコい手を泰助は使った。


こんな芸の細かいことをやってみようというアイデアにはよく気付く。

しかし、既に尾賀さんにかなり好かれている事には全く気付けていない泰助であった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。