あの子の所在を探りましょう
ミザリーと数人の従僕が並んで歩く。
だが、彼女は不機嫌な表情だ。
やっとの思いで着いたヤハウェに噂の魔女は既に居らず、雲隠れしたかの如く行方知れずだ。
都市は一悶着あったのか、あちこちから噴煙が立ち登り、死体が雑多に放置されている。
野犬とカラスが何処かから集まり屍肉を啄ばんでいる。都市がどうなろうが、人が勝手に自滅しようが我々には関係ない。
私の今の関心事は魔女だ。
友達になれたらいいなとか、敵対しても血湧き肉躍る闘争が楽しめる。
どちらに転んでも愉快な喜劇になるはず、だったのに額に青筋を浮かべたままのミザリー。
「おかしいなぁ、どうしてかな?」
「私と彼女が出逢うのに、何が足りなかったのかしら?ねぇ、なんでかな?」
「「………」」
押し黙るしかない従僕達。
彼女の怒りに染まった瞳が、一人の従僕を捉えるとひたひたと近づいていく。
彼女は感情の起伏が激しい。
気分屋といってもよいかもしれないが、以前にも八つ当たりで従僕を惨殺した事がある。
空腹時や我慢ならない事があると、彼女の凶暴性が一段と増していく。
これは悪癖だが、彼女は治す気は無いらしい。
欲しいものは力で奪え、というのが持論の彼女。
「お待ちを、ミザリー様」
「魔女殿を追うならば、人手が必要になるでしょう。みだりに減らすのはいかがなものかと存じ上げますが?」
「ほぉ?」
「一従僕でしかないお前が、主人に意見するの?考え違いをしているのか!」
「確かに我々は貴方様の従僕ですが、貴方様の最善を想ってこそです。気に入らないならばその爪で私を切り裂けばよいでしょう」
「…ふー、わかったわ。知恵者のお前を失うのは惜しい、何か方策があるんだろう?」
クスリと微笑みミザリーの瞳が元の柔和なものに戻ると、とりあえず安堵する従僕達。
意見した古参の従僕も、最悪を覚悟したがなんとか首の皮一枚繋がった。
「私が思いますに、魔女殿はこの街そのものに興味を失い、新たな獲物を探す旅に出たと愚考します。帝国領内ではなく、新天地。つまりは隣国か他所の国かと思いますが」
「なるほど、なるほど」
「では、ローグ連合国方面へか?」
「いえ、あちらは異端審問官の化け物狩りが盛んです。我々の同業なら避けるでしょうね、となると近場であるゴートレニア国かと」
「ゴートレニアか…、我々にも縁深い国だ」
「…あぁそれと少し寄り道していい?懐かしい友人の匂いがするから、挨拶してくる」
「ミザリー様のご友人?」
「我々の仲間が随分とお世話になりました…」
「では、我々は陽動で騒ぎを起こしてヤハウェの駐屯兵と遊んでおります。お気をつけて」
「あぁ、お前達もな?」
「「はっ!」」
四方へと散らばる従僕達を見送るミザリー。
彼女の視線の先には白い法衣を纏う二人組、その片割れには見覚えがある。
あんなに髪が真っ白になって、私を熱心に探していたのか?
かつて私が見逃した若者が…。
魔女さんには袖にされたが、珍しい子を見つけた。憎しみに満ちた瞳で、私に挑戦し続ける愛しい愛しい恋人さん。
ヤハウェに立ち寄り、ムツキ達を追っていたのはミザリー達だけではなかった。
怪物狩りを専門とする悪魔祓いの二人も、ヤハウェの地に辿り着いていた。
ヨハン爺はしきりに怪物達の匂いの痕跡を探しているが、その動きは不審者のそれだ。
辺りの匂いを嗅ぎ、地面を擦り、明後日の方向を見つめたりととうとうボケたかと錯覚する。
周りからの白い目が痛い。
「ヨハン爺、なんか見えた?」
「話かけるでないウィリアム!」
「怪物も、儂らと同じ動物じゃ。必ず足跡や痕跡を残すものなんじゃ。自己顕示欲の強い者は殺人を、傲慢不遜な奴は洗脳をかけたり、怪物にはそれぞれ癖があるのでな!」
「…左様ですか」
この偏屈爺さんは確かに腕はいいが、時折みせる奇怪な行動が煙たがれている節がある。
この歳になっても現場で活躍しているのは、凄まじい執念が理由の一つだ。
若かりし頃、ヨハン爺さんとパーティを組んでいた四人の若者達が、放蕩貴族と呼ばれる吸血鬼に遭遇し、爺さんだけが生き残ってしまった。
いや、爺さん曰くわざと見逃されたそうだ。
力無く倒れる仲間に自分もまた膝を折り、吸血鬼に敗れ去った自分を許せずに、化物達に挑み続ける爺さん。勝ったり負けたりを繰り返す。
癒えぬ傷を負い、身体中がぼろぼろだ。
だが歩みを止めない。
後悔や懺悔などもあるのだろう。
罪滅ぼしや贖罪の意味もある気がする。
そんな爺さんの表情が突然強張り、周囲の光が不自然に歪められ、辺りに突然夜の帳が下りた。
小さな暗がりからは、全身黒尽くめの貴婦人が優雅に佇んでいる。
ウィリアムの存在は無視され、旧友に久々に会ったかの如く貴婦人が挨拶してくる。
「ご機嫌ようヨハン、貴方のお友達はお元気かしら?シワが増えたわね?」
「あぁ元気だよミザリー、そういうあんたは当時のままだな。何故今更儂の前に現れた?」
「別に、ただなんとなくよ。どれだけ可愛いヨハンができるか試したくなって、ね」
「なんとなくね、気紛れが自分の身を滅ぼす事をわからせてやるわい」
ニタニタと小馬鹿にした表情のミザリーと、必死になって吸血鬼を打倒する方法を模索するヨハン爺。彼等の闘争は始まったばかりだ。
お互いにムツキ達の動向を探る事を忘れており、気付くのに更に半日を要した。




