悪魔祓いと踊りましょう
戦いは長引くばかりだ。
一進一退の攻防が続き、ノースフェラ平野部は血溜まりで真っ赤に染まっている。
三日経っても決着がつかず、四日目になり後方に控えていた予備隊も前線に動員しても、決定打とはならなかった。
両軍共に戦死者の数が徐々に無視出来ない数となりはじめ、じわじわと睨み合いながらも後退をしている。
互いに一定の戦果を出したいが、上層部の意向には逆らえきれないジレンマがある。
有利な条件で講和か休戦協定を結びたい。
その野心が兵士達に無用な犠牲を増やしている。
ヤハウェの殿軍の部隊に、ムツキ達率いる部隊が組み込まれ奮戦している。
当初はその実力が疑問視されていたが、今じゃ中核部隊の一角を立派に勤め上げている。
ローグ連合国の部隊も、殿軍には名の通った部隊を配置していた為に、退却戦ながらも苛烈な消耗戦となっていた。身体に血の匂いがこびりつく。
だが、斬っても斬っても矢で撃ち倒しても、後から後から敵兵が行く手を阻む様に陣形を絶えず変化させて、こちらを消耗させてくる。
出口なんてあるのだろうか?
長い長いトンネルの中の様に出口を求めて彷徨い歩く、ローグ連合も意地になっている。
有力な兵士をこの機会に打ち倒す為に。
「前列と後列隊列入れ替えよ!」
「寄せてくる敵だけ対処せよ、こちらから仕掛けるのは禁ずる!」
「「…おうっ!」」
疲弊気味になりつつある兵士達を鼓舞し、戦い続けるのにも限界がある。
現場指揮官にも焦りがみえる中、青地に星の紋章のローグ連合軍が雲霞の如く迫る。
敵軍の采配がいいのか、陣形に切れ目がない。
舌打ちしたくなる状況だ。
執拗に囲まれ、コモレビ達の部隊は、殿軍の中からも孤立しつつあった。
互いに背中を預け、がっしりと方陣を組みながら、粘り強い抵抗を続けていた。
組み込まれた傭兵達も、動きに合わせて連携で連合軍の部隊と渡りあっている。
即席にしてはなかなか息を合わせてくれる。
シズネとムツキは方陣の外に出て単騎で渡り合い
、消耗したら方陣の中へ戻るという作業を繰り返しているところだった。
「…状況はっ?」
「寄せ集めだけど、頑張っているところだよ!負傷者もいるがまだやれる。そっちの首尾は?」
「手薄な箇所を探していましたが、むこうは逃すつもりはないみたいです。忌々しいことに」
「もう一回いくよシズネ!今度は私が右、シズネは左側から対応して!」
「はい先生!コモレビさんも耐えてね!」
「わかってるよ!そっちも無理するなよ!」
「えぇ」
「はいっ!」
一息つき、再び矢のように飛び出す二人。
状況は悪くなる一方で、嫌な考えが脳裏をよぎるが、コモレビは彼女達を信じている。
彼女達なら大丈夫、やわではないはずだ。
一方のムツキとシズネは新手の部隊の中から、白装束姿の嫌な気配を感じとっていた。
背筋がぞわぞわし、自分達をねっとり舐め回すように視姦するおぞましい気配。
地面が一瞬光ったかと思うと爆発し、煙の中から嫌な気配の元凶が姿を現す。
「お初にお目にかかる悪魔殿。私はローグ連合国所属悪魔祓いのヨハン、こちらに控えるのが我が弟子のウィリアムそちらの名前は?」
「これはご丁寧に、はじめまして強き者。私はムツキ、こちらは私の友人で仲間のシズネ」
「貴方達には私はどう見える?」
「けっ、人喰い悪魔が偉そうに吠えるな!この世界の異物は排除してやる!」
「先生の邪魔は、させない!」
猛然と襲い掛かるウィリアムを、横合いから迎撃するシズネ。
自然と二人は一騎討ちのような形となり、初手から全力の攻防が繰り広げられている。
シズネが火焔を打ち出し、ウィリアムが外套でひらりと回避すると、ナイフでシズネへと肉薄している。しかもそのナイフはただのナイフではなかった。
「…ぐっ!」
「貴様っ、私に何をした?」
「ただ斬りつけただけさ?司祭様が清めたナイフさ、さぞかし効くだろう?」
「もっとご馳走してやるよっ!悪魔憑き!」
「妙な名前で呼ぶな!私はシズネよ!」
肩のあたりの切傷は、たいした怪我ではないのだが、火傷のようにズキズキと疼く。
清めたナイフと言っていたが、毒でも塗ってあるかのように身体が熱い。
その戦闘の音を合図に、ムツキとヨハンも戦いを開始するが、会話していた段階でヨハンが先に仕掛けていた。
小さな結界にムツキを閉じ込め、その上から聖水を振りかけてきた。
「へぇー、腕がたつわね白装束さん。女性の柔肌を剥ぐなんて、ほんと侮れないな」
「それがあんたの正体かの?何者にもなれるあんたが、何者かわからない姿をしとるの。まるで漆黒の闇なそのものじゃ、形ある影かの?」
「…私ヲソンナ目デ見ルナ」
「私ハ私。ソレ以上モソレ以下モナイ、ジジイ、私ノ姿ヲ見タンダ。覚悟シロ…」
「ほっほっ、熱烈な愛情表現だの」
「見るなと言われると、見たくなるのが人の本質じゃて。もっと観察させておくれお若いのや?」
「ジジイ…、覚悟シロ」
ムツキが普段化けている女性の姿が、聖水を浴びた箇所だけは剥がれて黒い影が露出している。
衆目にこの姿を晒されたのが侮辱だと感じたムツキは、激昂し自身の影を触手のようにしならせ、結界を粉々にするとヨハンへ迫る。
触手を断ち切り、光のオーラで身体を覆うヨハンに触手が競り負けた。
だが連合軍の兵士の死体を取り込み、次々に触手の数を増やして対応するムツキ。
現実離れした戦いに、現場の兵士達の手が止まり、両者の戦いを見守る。
いったい私達は何者と戦っているのかと…。




