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稀代の悪を目指しましょう  作者: 同田貫
天使と悪魔と
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大義名分を得ましょう

ムツキの手紙作戦が不発に終わり、ぶーたれていること一週間。

ついに代表のフェルナンドより号令がかかった。



都市防衛戦力以外のヤハウェの私兵達は隊伍を組み、財力にものをいわせて傭兵達を大量に雇用し、戦力の拡充を図っていた。

色とりどりの戦旗が宙を舞い、軍装も装備もまちまちの集団が街道へと進発していく。


隊商達を軍列の中心に据え、その周辺には兵隊の壁が列をなす。

その光景が地平線の彼方まで続く、まさに総力戦と呼ぶに相応しいだろう。


整備された街道をゆっくりと進み、騎馬隊も歩兵の速さに合わせている。その目的地はローグ連合国との国境線に程近い、ユメミ草の生産地。


だが、それはあくまでもついでだ。

今回彼らの神経を苛立たせ、こちら側の誘いに呼び込むことこそ真の狙いだ。

ちまちまとした襲撃ではなく、本腰を入れた大軍を投入してくると予想される。


だが決してこちらからは仕掛けず、あちらの出方を伺う。手を出したのなら本土防衛の大義名分を得る事ができ、ローグ連合国領への領土侵犯を行うのが筋書きなのだそうだ。

ベルへルミナ帝国とローグ連合国との代理戦争といってもよく、口実探しの一環だろう。



由緒ある我が国伝来の土地の奪還やら。

不当に扱われている自国民の保護の為やら。

交易路の安全確保の為やら。



過去にも様々な因縁をつけては、会戦を繰り返している両国。前回はローグ連合国に大敗している帝国が、是が非でも勝利したいのだろう。



ノースフェラ平野にてヤハウェ軍は停止し、ローグ連合国の対帝国要塞線の目と鼻の先で、これ見よがしに演習を開始した。

だが、対するローグ連合国は要塞線に戦力を集中させたものの、それ以上の動きはみせない。



「はぁー、また待機。待機、待機でみんな我慢が好きね。どうして戦わないのかしら?」


「政治的判断というやつですかね先生。細かいことは私にはわかりませんが…」


「暫くは均衡状態が続くさムツキ、それに戦争なんて愚か者がするものさ。起きないのならそれが一番いい事だよ、誰も不幸にならない」



「愚か者ね…」

「他者との意見が合わず、その存在が許せない。自分の意に沿わないから屈服させたい、支配して

滅茶苦茶に掻き回してやりたい。糞の投げ合いはいつまでも続くと、私は思うわ」


「糞の投げ合い?その言い方癪だな…」


「コモレビ、もっと自分に素直になりなよ。どうしてそう善人ぶる必要があるんだい?自分を偽わるなんて虚しいだけよ」


「「………」」


「…あっ、あのー、私お水持ってきますね」


自分の主張を曲げないコモレビと、その意見にすぐさま噛み付くムツキ。

その両者の間で板挟みになるシズネ。

だが、そんなコモレビの願いとは裏腹に戦端は突如として開かれることとなる。



ローグ連合国側の領内で村を焼き討ちにしていた帝国の一部隊が、ローグ連合国の部隊と戦闘を開始、それに合わせて全軍がなし崩し的に巻き込まれ、戦線が拡大していく。

どちらが先に攻撃したかなど、最前線の兵士には関係ないようだった。



白地に赤い獅子の旗印の帝国軍が、雪崩をうって連合国領内に侵入を開始し、それに呼応するかの如く、苛烈な攻撃を加える連合軍。



「「「かかれっーーー!!」」」



お互いが撃ち合う弓矢が空を真っ黒に染め上げて、大地に赤い染みを増やしていく。

矢避けの盾はすぐさま針山と化し、戦死した兵士の遺体には数十本単位で矢が深々と刺さっている。


矢の応酬の後、歩兵に先行して重装の騎馬隊が敵陣に楔を打ち込むべく、猛然とおそいかかる。

加速し自重と合わさった鉄の兵隊が、地上にいる歩兵を紙切れの様に粉砕し、歩兵もまた騎兵を射殺して槍衾で串刺しにしていた。



どこもかしこも血みどろで、先陣に加わった部隊の死傷者は凄まじいものだった。

戦いはより激しく、より沢山の血を求めていた。








「報告!」

「我が軍左翼の部隊、帝国に向けて突貫!それを潰走させたとのこと!」


「ふん帝国め安い挑発だが、奴等の死骸を積み上げてやれ!蹂躙せよ!」


「はっ!」


「主力を前面に押し出し、左右も併せて前進!長期戦など意識するな、短期決戦だ!要塞線の部隊には警戒レベルを上げろと厳命せよ!」


前回の会戦の悪夢を思いださせてやれ。

息巻く指揮官と士官達、彼らの士気は最高潮に到達している様子だった。

戦場を離れた場所から観察する二人の悪魔祓いは、自分達の装備を確認しながら世間話している。



「ヨハン爺、例の奴等いるかな?」


「いるだろうさ、いてくれなきゃ儂らは給料泥棒になってしまう。様子見しながら気配を探るさ」


「なーなー爺さん、気配がわかるならあっちも俺達の

事探知できるんじゃないか?」


「そうだのー、覗かれてるだろうさ。まぁ悪魔達は総じて、傲慢ちきで自信家と相場が決まっとる。それに自分からわざわざ楽しみを減らす真似はせんさ」



「深淵を覗く時、深淵もまたこちらを覗いているってやつだな!ワクワクするな爺さん!」



「起き上がりや地縛霊、小さな怪異ばかりだったしのー。腕が鳴るわい、一騎討ちにこだわるタイプだとなおいいんだがのー」




連合軍も後方から続々と軍勢を集結させている。

帝国軍も手を緩めるつもりはないらしい。


長い長い一日はまだ始まったばかりだ。

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