過去語りをしましょう
少年は飢えていた。
少年以外の村人たちも飢えていた。
泥水をすすり、雑草を食み、家畜を食べ、その家畜の骨すらも食べ尽くしていた。
動くのもなんだか億劫だ。
村は今緩やかな滅びを迎えている…。
飢饉などの天災ではなく人災でだ。
帝国軍という人の形をしたイナゴ共が、人民から食料と金を巻き上げ、徴収する税すらも比率を大幅に引き上げた。軍人として若者達も奪われ、村の中には女子供に老人達だけだ。
なんとかギリギリのラインで税を払っているのに、国の徴収官達は足りない足りないと連呼するばかりで、更に搾り出そうとする。
皆王弟やら皇太子やらの長い国の内戦に疲れていた。内戦が終結したら世の中変わると思っていたが、悲惨になるばかりでむしろ悪化した。
国は自分達の命を蔑ろにした。
「みんな覚悟を決めるべ…」
村の寄合で村長代理の老人が村人の顔をみつめる。払う税もなく、備蓄もなく。作物も不作。
荒れ果てた大地に、貯水池の水すら干枯らび、私達の心身の様に荒れ果てている。
帝国は自分達の命を奪おうとするのなら…。
答えは一つだけだ。
古い武具を身に纏い、日用品で武装し、鍬や包丁を研ぎ直し、鍋も盾がわりにした。
松明は掲げず、暗がりには食糧を取り戻すべく決起した村人達の顔が並ぶ。
「村長、最初はどこを?」
「…最初は帝国のゴマすり役人だべ」
深夜の寝静まった時間を見計らい、役人の屋敷へ続々と侵入する村人。
柵を壊し、門扉を打ち砕き、見張りを撲殺し、命乞いする役人達も晒し首にし、贅の限りを尽くしたその家族達も壁から吊るした。皆同罪だ。
年も性別も関係ない。
こいつらは人の皮を被った畜生共だ。
生かしておけば、また悪さする…!
思えば、皆このあたりからまともではなかった。
倉庫には皆が飢えているのに、沢山の食糧が山積みされていた。こんな量の食糧見た事ない。
貪り食べ、腹を満たしでもまだ足りない…。
まだまだ腹の虫が治らない。
これは私のだ、他の奴には渡さない…。
「この食糧、村長である儂が管理する」
「これは私が見つけたの!だから私のよ!」
「うるさいこの淫売!あんたの旦那同様意地汚い奴だね、私のだってば!」
「…何ですって?」
「事実じゃない!」
この食糧を誰が管理するかで、今度は村人たちの間で内乱が起こった。
まともな思考ができないでいる。
夜明け前には随分と静かになったが、数人の村の子供達が片隅に隠れて震えている。
大人達が皆殺し合いをしている。
「×××××!」
「ここはダメだ。何処か別のところにいこう!」
「けど…何処に?」
「どこだっていい!早く!」
狂った様な笑い声がする。
通りを闊歩する見知った人は正気じゃない、鍬の先には誰かの首が刺さっている。
その誰かを確認することはできなかった。
怖くて、恐ろしくて身がすくむ。
ここにもいずれ騒ぎを聞いた帝国軍が鎮圧にくるはずだ、忙がないと…。
帝都の方向とは逆に走り、小川で喉を潤して、また走りに走り。足が棒になるまで走った。
辿り着いた隊商の荷馬車で盗み食いしていたところをあえなく捕まった。
「…おうちびっこ、貴族さんの果物は美味かったか?事情があるにしろ俺達も仕事なんでな、お前達を連行する。いいな?」
「どこにいくのですか?」
「…ヤハウェだよちびっこ」
…………
今までの経緯がフラッシュバックする。
これは走馬灯なのだろうか?
段々と見知らぬ人が近づいてくる。
訳も解らず縛られ、隣の人が順々に殺されている。きっと僕も殺されてしまうのかな?
目を閉じて覚悟を決めるが、心臓の鼓動が早くなる。もっと色々したかった。
「こんにちはご同輩、ご機嫌いかが?」
「…僕は食べても、美味しくないですよ。筋ばって、きっと不味いです…」
挨拶してきた女性が収容所で噂になっていた魔女なんだろう。少年は食べても美味しくないと必死になってアピールしたが、彼女はその様子がおかしかったのか小さく笑っていた。
「ふふふ、別に食べてしまう訳じゃないわ。ただちょっぴり苦い薬を飲んでもらうだけよ」
「…毒、でしょうか?」
「さぁどうかしら?後は君の運次第かな。私達の同族になるか、隣の人と一緒にあの世へ旅立つか人生楽しまないと損でしょ?」
有無を言わせず左右の兵隊に肩を掴まれ、口を無理矢理広げられ、薬と呼ばれるものが流しこまれた。最期の瞬間を覚悟したが…、意外にも苦味がある程度だなと認識した時には視界が暗転し、地面に転がっていた。あぁやっぱり毒じゃないか…。
『オ腹空イタ…、オ腹減ッタ…』
『じゃあ沢山ご馳走してあげる。もう要らないくらい沢山、沢山ね』
『本当ニ?本当ノ?』
誰かの声がする。
誰かはわからないけど、暖かい声。
少年は気持ちよさそうに熟睡し、寝息をたてている。シズネの時とは違い、急激な変化ではなくゆっくりとした反応だ。
「ムツキ先生っ、これは!?」
「うん…新しい怪人よ」
「覚醒するまで時間がいるかもしれないわ。それと残りはもういらないかな…。マクベスにももう囚人達は不要と伝えないと、ね」
「では、なり損ないに対処させます先生」
「えぇ粛々とね」
その日以来、誘いの館への囚人輸送は唐突に打ち切りとなった。
行方不明になった大勢の囚人の犠牲と引き換えに、戦力充実を図ることに成功したムツキ達。
なり損ないの数は300名にまで増加し、怪人も新たに一人確保した。
やりたい事が増えた気がする今日この頃だ。




