絶望の淵に立ちましょう
ムツキの周りにいた仲間達が、次々に脱落してゆく。酔狂な自分に付き従ってくれた勇者達。
自分の寂しさを埋める為の存在といえばそれまでだが、彼女にとってかけがえのないものへ変化していたのには自分でも驚いた。
なにより、また…。
『誕生したての時と同じ状態だ』
『白骨だらけの平原で、私だけが孤独に…』
『自分だけ世界の枠の外にいる様な』
『淋しい、寂しい、さみしい、サミシイ…』
そう思えば思うほど、彼女の思考回路はぐちゃぐちゃになり、視界が暗転する。
仲間を失い、虚脱状態の様に佇むムツキ。
頑強に粘る彼女がみせたあからさまな隙に、罠も承知でベル隊の兵士が突撃する。
「魔女覚悟っ!」
「皇太子の操り人形が!」
「ベルヘルミナに仇なす逆賊め!」
「うぅ、うぅっうう…、うう」
動物の唸り声の様な声を上げるムツキ。
顔や胸、腕に足、腰に脇腹、背中には幾つも刀剣が突き刺され、身体に貫通している。
されるがままに槍や剣で刺突され、崩れた身体の一部からは、黒い靄の様な彼女の本体が顔を覗かせ、国軍の兵士を観察している。
幾つも顔が暗がりに浮かんでいる様な。
虚ろな眼で眺める様な。
夜道に不意に人の気配がする様な、形容し難い何かが蠢き、彼女の中を這いずり回っている。
彼女一人に対し、国軍のベル隊は数百人規模で包囲し、ここで討ち取る覚悟をみせている。
過剰戦力とみえるが、得体の知れない奴には当然の処置といえるだろう。
だが動きの止まっていたムツキが、再び身体を揺り動かしながら、近場の兵士と敵対する。
ゆっくりゆっくり足を運び、皮の破けた内側から
彼等の必死な行動を嘲笑う様に。
「…ふふふ、あははは!」
「何がおかしい魔女?」
「だってさ…」
「私は魔女に見えるか?私はお前達にとって、一体何に見えるか。誰か私に教えてみろっ!」
ヒステリックに叫ぶムツキに、日々戦場に身を置く兵士達が後退り気味になる。
彼女は何者なのか?
本人すらわからないなら、自分達には答えようがない問題だ。不幸にも一番手前に陣取っていた兵士とムツキの視線が絡み、首筋を撫でられる。
撫でられた側は生きた心地がしない。
「さぁ優しい貴方、教えて?」
「し、知るか!魔女じゃないなら怪物の類だ…」
それが彼のこの世の最期の言葉だった。
にじり寄るというよりか、壁にでも背中を預けるように身体と首が分離していた。
答えを求めて、更なる問い掛けを行う。
「うーんありきたりな解答、零点。はい次」
「化け物め、こっちに来るな」
こんども外れ。
退屈だ、酷く退屈だ。まるで手紙の返事を楽しみに待っていたのに、数日焦らされた挙句便りが戻ってこない様な、反応の無さだ。
問い掛けた人の頭を一回転させた。
「つまらないつまらない、もっと私を満足させる気概のある奴はいないの?ね、お隣の方?」
「………」
「あら?勢いあまって殺してしまった?これは失敬、ついねわざとじゃないの、本当よ?」
振り上げた手の余波で、隣の方は面白い身体の形になって崩れ落ちた。けどこの人達は降伏するという選択肢はない、無論私も…。
なら答えを得るまで、こちらと向こうの我慢比べ。
兵隊達が口々に叫び、臨戦態勢を維持している。
「まともじゃない、イかれてる…」
「各員散開、距離をとれ!」
「散らばって必ず一対一になるな!」
禅問答の様に『私は誰?』を繰り返すムツキ。
自身の黒い影を巧みに操り、赤い血の池を量産していく。私の出自を、私の事を、私を知っている奴を求めて、ただただ惨殺劇を行う。
本人はいたって普通に、周りからは精神異常者か快楽殺人者の類に扱われていたが…。
絶対的な強者として戦場に君臨していたムツキだが、彼女の終わりは唐突だった。
作者が演劇の結末を変えたかの様に。
まず自分の黒い影が機能不全に陥り、ただの影同然となった。自分の崩れた手足は再生しなくなり、身体が異様に重い。妙に息苦しさもある…。
これはなんだろう?
『…あれ?おかしいな』
これまで蓄積していた傷が、身体から噴き出る様に現れ始め、仰向けに倒れて動けない。
どういう現象だろうか?
自分の知らない事態に直面しポカンとしていると、あれよあれよと国軍に身体を拘束され、手枷や足枷をつけられてしまった。
情けない格好で縛られ、鉄製の檻のある馬車へと連行され、尋問官が得意げな表情だ。
腹立たしい事に…。
「ここまでだ、…魔女」
「魔女の末路はいつだって一緒だ。その身を業火で浄化する以外に道はない、裁判の判決を待たなくとも、お前は火刑になるだろう」
「それは素敵ね、…とっても」
「強がるな魔女、お前はもう終わった存在だ」
「魔女、魔女と連呼しないでほしいな」
「私は貴方達の隣人よ、何かを願う時、何かを欲した時、恋人の様に貴方の側にいるの」
「それが私よ?」
「そーかい魔女さん…」
魔女ムツキの捕縛。
帝都ベルへの人民広場にて公開処刑予定。
その報は帝国全土に駆け巡り、彼女の信奉者や関係者の耳にも入る事となる。
無論コモレビ達にも…。
ムツキを収監した馬車は帝都を目指す。




