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傭兵の国盗り物語短編集  作者: ドラキュラ
22/37

貸し借り無し

 「・・・・・・・・」


 私ことソアラ・デュ・ファン・プロテウス宮廷侍女は渡された手紙---恋文を黙って読んだ。


 直ぐ前では男が息を飲んでおり、上手く隠れた積もりらしいけど身体の一部が丸見えの男達にも視線をやった。


 「この程度の文章で私を口説き落とせると思ったの?」


 以前と少しも変わらない。


 場所と雰囲気は良しだけどね。


 「春風は何処までも優しく、人々を癒して行く。愛しい貴方もまた春風のように私を癒してくれる。

  だから、どうか私を何時までも癒し続けて下さい。

  その身で私を抱き締めて、私と愛という春を育みましょう。

  どうか、この私だけの春風となって下さい」


 まだ続きがあるけど似たような文章で最後まで読む気にはなれない。


 ビリビリ!!


 小刻みな音を立て、手紙は破れて空を舞う。


 「ああ!!」


 『おお!!』


 男の声と茂みに隠れたつもりの男達が悲鳴を上げる。


 もっとも茂みに隠れていた男達は歓喜の悲鳴だった。


 恐らく自分達以外の男もという・・・・情けない気持ちからでしょうね。


 「私を口説き落とすなら・・・・もう少しマシな文章にしなさい」


 短絡的で同じような文章続きで飽きてしまうわ。


 「そ、そんな・・・・そんな!!」


 引き裂かれた手紙に膝をつき呆然とする男。


 逆に茂みの男達は「やった!!」と酷い事を言い祝い合った。


 もう付き合い切れないわ。


 「そろそろ仕事に戻らせてもらうわよ・・・・アーロンに茶を淹れないといけないから」


 『え?』


 皆の声が重なり私を見る。


 『いま、アーロンと言わなかった?』


 「貴方達みたいに女に現を抜かす奴らには関係ないわよ」


 言うだけ言い、私は去る。


 早く行かないと他の侍女達に取られてしまう。


 足が速くなる。


 私が彼に茶を出して良いのよ。


 足速に休憩所へ行くと・・・・・・・・


 「やぁ、ソアラ」


 嗚呼、いつ見ても格好良いと見える顔。


 鍛え抜かれた身体は鋼鉄のよう。


 それなのに声は何処までも優しい・・・・・・・・


 「アーロン・・・・・・・・」


 私の想い人にして宮廷中の侍女達を翻弄する男。


 アーロン・クリフ。


 元獅子頭軍団の一員で現在は衛兵をしている。


 必然と私達とも接する時間があり、皆の心を一人占めしているの。


 無意識に・・・・・・・・


 性質が悪いけど、魅力的なのが心憎いわ。


 「直ぐに茶を出すわね」


 「良いよ。仕事だったんだろ?」


 本当は貴方の旧上官達から告白されていたのよ?


 これでも公爵の娘で引く手数多に求婚者が居るんだから。


 中には親衛騎士団の団長ロックス・ド・ツー・マレル侯爵も居る。


 でも、私達の評価は最低最悪。


 貴方とは天と地も差があるわ。


 私を殴って貴方にやられてからは益々悪いわよ。


 アーロンは少し右脚を引き摺って身体を移動させた。


 「・・・・・・・・」


 「気にしないで良いよ」


 彼は苦笑して私を見るが、私は首を横に振る。


 「私が貴方を獅子頭軍団から・・・・・・・・」


 「君のせいじゃない」


 強い口調でアーロンは否定した。


 「あれはロックスが悪い。婦女子を殴るなど男として最低だ」


 だから・・・・・・・・


 「私は義憤に駆られ決闘したんだ。あれは仕方ないんだ」


 「でも、貴方は私の為に・・・・・・・・」


 「君の為じゃない。借りを返す為だよ」


 何だか冷たく否定された気がする。


 私の為じゃない・・・・・・・・


 だけど、そんな冷たく断じる貴方でさえ私は好きで堪らない。


 これだけ重症なんて・・・・・・・・


 悪くない。


 だって、こんなに人を好きになった事なんて無かった。


 「・・・・やっぱり貴方は良い男よ」


 「何か言ったかい?」


 「ううん。それより茶を淹れるから待ってて」


 彼が断る前に私は茶を用意した。


 あの頃---ロックスと彼が戦った時を思い出して・・・・・・・・

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 「最初に言っておく。この私に勝てると思っているのか?」


 演習場に静かな・・・・吐き気がする声が木霊する。


 「勝つ云々ではない。これは貴様という男に対する私のケジメだ」


 「ふん。下らんな」


 胸糞悪い声を出すのは親衛騎士団総騎士団長ロックス・ド・ツー・マレル。


 亡父の後を継いで総騎士団長になった男で、容姿端麗にして騎士道に通じる若き騎士・・・・と表では言われている。


 裏では女を漁って、釣った魚には餌をやらない。


 おまけに下らない問題を起こし次に決闘を必ず起こす問題児で知られているわ。


 だけど彼は私も口説いてきたの。


 王室の庶子を末裔に持つ私を女にして新興貴族である自家の箔付けにするのが狙いよ。


 でも解っていたから手厳しく振ってやったけど・・・・殴られたわ。


 『この私を袖にして!!』


 女みたいに怒ったけど、私だって怒る。


 直ぐにでも叩きのめそうと思った所で・・・・・・・・


 現在、槍と盾を構える男---アーロンに止められたの。


 『女性を殴るなど・・・・恥を知れ』


 そう言って彼はロックスを殴った。


 一階級の獅子頭軍団の兵士が親衛騎士団の団長を殴ったのよ。


 本当なら極刑だけど、それを彼は許さず決闘で決着をつける事になった。


 「もう一度、言っておく。土下座して私の足に口付けしたら許してやるぞ?」


 「断る。貴様こそ約束は守れ。今後二度とソアラに近付くな」


 「ふんっ・・・・身の程知らずが!!」


 ロックスが愛剣---バスタードソードを振り上げて、アーロンに突進する。


 振り下ろされたバスタードソードをアーロンは盾で防ぐ。


 そして槍の柄で足払いをしようとした。


 しかし、最低男でも総騎士団長だけある。


 軽々と避けて間合いを取った。


 「少しは出来るな。集団で戦うしか能が無い奴等と思っていたが」


 「戦は集団で互いに庇い合ってこそ勝つ。貴様の掲げる騎士道は仮初の騎士道だ」


 女に手を上げる時点で・・・・・・・・


 私は2人の戦いを見て、胸が熱くなる。


 1人の女を巡って男が戦う。


 女なら憧れを抱く。


 でも、現実は違う。


 「アーロン、あんな最低男をコテンパンに倒して!!」


 どちらにも味方できず慌てたりしない。


 本当に好きな相手を応援する。


 「勿論だ」


 私の願いをアーロンは聞き入れる。


 「ソアラ・・・・終わったら覚悟しろ」


 「もう一度だけ言って上げる。世の女が貴方を全員、好いているなんて思わない事ね」


 自惚れるな。


 「ソアラの言う通りだ。そして男も貴様のような輩は嫌いと思い知れ!!」


 アーロンが槍でロックスを攻めた。


 「ちっ!!」


 ロックスは防戦一方になって攻守逆転・・・・と思えた。


 だけど・・・・・・・・


 「ぐっ・・・・・・・・」


 「な!?」


 ロックスはあろう事か・・・・忍ばせていた砂をアーロンの顔に投げた。


 そして・・・・・・・・


 「貰った!!」


 彼の脚を切る。


 「何が騎士道よ!この最低男!!」


 私は余りの事に激昂する。


 騎士道を守っていると大口叩いて・・・・・・・・


 しかし、それ以上にアーロンは怒っていた。


 「・・・・もう我慢の限界だ」


 盾を捨て槍一本を装備して、両手で構える。


 「片脚が使えないで勝てるのか?」


 勝者の笑みを浮かべる最低男にアーロンは冷たい眼で見る。


 そして・・・・・・・・


 「ッ!!」


 アーロンが突っ込んでロックスは横に避けた。


 しかし、それを彼は想定しており槍を思い切り横に払う。


 「ぐが!!」


 最低男は力一杯に振られた槍に腹を殴られて・・・・壁に激突する。


 そのままアーロンは石突きで、最低男のナニがある部分を力一杯突いた。


 「これで・・・・婦女子を泣かす事は出来まい」


 冷たく言い切る彼・・・・素敵だった。


 でも、私は瞼が熱い。


 だって・・・・・・・・


 「ごめんなさい・・・・・・・・」


 貴方の脚が・・・・・・・・


 「君のせいじゃない」


 アーロンは優しく私の瞼を撫でてくれた。


 それが私には嬉しくて嬉しくて堪らなかった・・・・・・・・


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