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傭兵の国盗り物語短編集  作者: ドラキュラ
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父からの餞別

 モンマントルの路地裏には武器屋がある。


 もちろん非合法な店で警察に袖の下を渡しているから成り立っているの。


 この世は持ちつ持れつ。


 そうテツヤおじ様は言っていたし、私もそう思っている・・・・・・・・


 タクシーの運転手と一緒に私は中に入った。


 懐かしい感じがして私は眼を細める。


 客は居て私を見るなり口笛を吹く。


 胸糞悪くて私は眉を潜めるが・・・・・・・・


 「お嬢ちゃん!?」


 白髪が混ざった金髪の男性が来て、胸糞悪い気持ちは薄れた・・・・・・・・


 昔に比べれば少し老けたけど面影は何時までも残っている。


 「お久し振りです」


 私は丁寧に頭を下げた。


 「ほ、本当に・・・・お嬢ちゃんか?」


 武器屋のおじ様は近付いて、私を凝視した。


 「はい。アメリカ空軍第23空軍所属の少佐ジネット・アラミスです」


 旧姓と元いた職場を言うと・・・・・・・・


 「・・・・奥に来てくれ」


 おじ様は眉を潜めながら私と運転手を奥へ案内する。


 奥へ行くとコーヒーと椅が用意されて、有り難く受け取った。


 「あれから十年以上、かな?」


 おじ様は煙草---ジタンに火を点けながら聞いてきた。


 「はい。ここに来たのは報告があるからです」


 「・・・・話してくれ」


 紫煙を吐きながら、おじ様は神妙な顔で言った。


 私はアメリカに行ってからの事を話し出す。


 アメリカの夫婦とは円満な親子関係で幸福だった。


 「でも、数年前に養母は死にました」


 それから養父も病気になった。


 今は莫大な金こそ掛るが、最高の病院に入れて最高の治療を施していると説明する。


 「そうか。しかし、アメリカ空軍少佐なら給料は良いだろ?」


 出来るなら堅気の職---争いとは無縁の職に就いて欲しかった・・・・・・・・


 口に出さなくても言葉から滲み出ていた。


 「養父の影響で飛行機が好きになったんです。本当のパパも好きでしたから・・・・・・・・」


 これは嘘じゃない。


 養父は民間飛行機会社でパイロットだった。


 本当のパパも飛行機が好きだったから自然と飛行機に興味を持ったの。


 それを言えば2人は納得した。


 昔を思い出しながら・・・・・・・・


 「確かに君の実父---アランも飛行機が好きだったな。それなら嫌々だが納得できるぜ」


 「あぁ。それに必然と女は後方任務だ」


 だから危険な眼に遭わないと2人は言った。


 これで良い男でも捕まえて子を産めば親も安心して天国へ行けると言うが・・・・・・・・


 「・・・・その報告ですが今は空軍を辞めてPMCに居ます」


 意を決して言い・・・・繰り出された平手を甘んじて受け入れる。


 パシンッ・・・・・・・・


 乾いた音が店内に響き渡り、左頬に鈍い痛みを感じ出した。


 でも私を打った、おじ様は・・・・泣く程に痛がっていた。


 悲しいから・・・・・・・・


 私が、おじ様達の願いを踏み躙ったから。


 「こっの・・・・馬鹿野郎!!馬鹿娘が!!」


 おじ様は泣きながら私をもう一度、平手打ちした。


 今度は右頬だけど・・・・おじ様の方が痛がっている。


 タクシーの運転手も殴らないけど非難する眼差しで私を見ていた。


 「何で自分から地獄に堕ちるような道を歩んだ!!」


 両頬を殴っても、まだ殴り足りないけど、おじ様は平手打ちをやらず私を怒鳴りつける。


 「・・・・ごめんなさい」


 私は謝る。


 謝るしかない。


 皆が私を思い考えてやってくれたのに自ら壊した事に対して・・・・・・・・


 「謝るなら最初からやるな!この馬鹿娘・・・・アランの願いを叶えようとしたあいつの気持ちを裏切ったんだぞ!!」


 おじ様の言いたい事は解かっています・・・・・・・・


 テツヤおじ様が私を大切にして、堅気の人生を送らせようとしたのは・・・・・・・・


 「でも、私は決めたんです!!」


 また意を決して叫ぶ。


 皆が私を思い、堅気の人生を送らせようとしてくれた。


 それには感謝します。


 だけど・・・・・・・・


 「私はテツヤおじ様の力になりたいんです!!」


 パパをテツヤおじ様は信頼して、最後まで助けようとしてくれた。


 じゃあテツヤおじ様を誰が助けるんですか?


 誰も助けてくれない。


 だから・・・・・・・・


 「私がテツヤおじ様を助けます。それで地獄に堕ちるなら一緒に堕ちます」


 『・・・・・・・・』


 2人は何も言わないが、私の意志を感じ取った気はする。


 「歳は・・・・取りたくないな」


 武器屋のおじ様が苦笑して呟く。


 「あんなに可愛かった天使が・・・・今じゃ戦天使になっちまった」


 「あぁ。それに比べて俺達は老い耄れだ。歳は取りたくないが、この娘が成長したんだ」


 それを改めて見れば・・・・老いるのも仕方ない。


 「お前さんの気持ちは解かった」


 「おじ様・・・・・・・・」


 「俺達が今さら言っても聞かないだろ?昔から意固地な所があったからな」


 「はい。上司にも止められました」


 『君のような将来有望な将校がみすみすPMCに入る事はない』


 でも、それはアメリカ空軍にとって痛手だから。


 最近ではPMCにヘッド・ハンティングされて「金の無駄遣い」となっている。


 それをさせないと知っているだけに過ぎない。


 決して私を考えて言っているんじゃない。


 だから私は空軍を止めた。


 その間に色々と嫌がらせを受けたのはあるけど、もう既に私は忘れている。


 「そうか・・・・で、これからどうするんだ?」


 短くなったジタンを、おじ様は灰皿に捨て尋ねる。


 「ヨーロッパの会社に入社したので、暫くはヨーロッパで暮らします。経費は会社が特別に出してくれました」


 私みたいな若手空軍少佐をヘッド・ハンティングして気分上昇中で多少の我儘は許してくれたのよ。


 「流石は天使だ。昔から可愛い容姿で男を虜にしたからな」


 「おい、それはセクハラだぞ」


 武器屋のおじ様をタクシーの運転手が戒める。


 「良いじゃねぇか。俺達にとっては娘みたいなもんだ」


 「実の娘にもセクハラは通用するんだぞ」


 「何っ?はぁ・・・・一昔前なら、これ位の発言は何でも無かったのにな」


 「時代だよ。時代。まぁ、良いじゃねぇか。それより前の話、どうだ?」


 「ああ、BARの男と3人で組んだ店か。資金は何とかなるが場所はどうするんだ?」


 「そこなんだよな。というか、お嬢ちゃんに餞別をくれてやらねぇといけねぇな」


 「おっと、そうだったな。さて・・・・何が良いかな?」


 2人は私に餞別を上げようと言ったが私は急いで謝辞しようとした。


 「あの、別に餞別なんて・・・・・・・・」


 もともと皆の気持ちを踏み躙ったんだから餞別なんて貰える資格は無い。


 「良いんだよ。娘が一人立ちしたんだ。親代わりを自認しているんだ」


 それなら餞別を上げるのが親の務めである。


 「ちょっと待ってな。確か、良い銃があった筈だ」


 武器屋のおじ様は更に奥へと消えてしまう。


 「私、あの・・・・・・・・」


 「さっき言われただろ?俺達は嬢ちゃんの親を自認しているんだ」


 「でも、私は・・・・・・・・」

 

 「お嬢ちゃんは、これから厳しい道を歩む。PMCだから、人命より利益第一だ」


 仲間が負傷しても助ける事は稀だし、葬式だって果たして出来るか判らない。


 「だから・・・・これは俺達の餞別だ」


 俺は別の物を後で用意するとタクシーの運転手は言った。


 そして暫く待っていると・・・・・・・・


 「お待たせだ」


 おじ様が木箱を持ってきた。


 上質な木と漆を塗っている・・・・・・・・


 「日本の客が特注を注文したんだが、肝心の客が警察の御厄介になってな」


 売れなかったとおじ様は言う。


 私が木箱を開けて中を見ると・・・・・・・・


 「これは・・・・・・・・」


 黒い銃身と溝が掘られており、他の部分も磨き上げられている。


 恐らく中身は熟練工が加工して精度の良い部品を組み合わせているに違いない。


 「コルト社の最高級品---“コルト ゴールドカップナショナルマッチ”だ」


 おじ様が銃の名前を言う。


 コルト社のパイソンと並ぶ高級銃で、私の読み通り熟練工と精度の良い部品で出来ている。


 「標的射撃なんかの競技用に向けられた物だが、依頼人の注文で実戦にも使えるぜ」


 口径は45.A.C.P弾を使い、弾数はマガジンに7発で、銃本体に1発の計8発。


 ホルスターまで一緒だった。


 革製で抜き打ち用の物で、安全止革のスナップ・ボタンは力を込めれば強制的に外れる角度にされている。


 とことん手が込んでいる。


 でも、日本では一般人が銃を持つなんて有り得ない。


 という事は・・・・・・・・


 「如何わしい客、ですか?」


 これを注文したのは・・・・・・・・


 「らしいぜ。まぁ、一度も触っていないから安心しな」


 「本当に良いんですか?こんな高級品を貰って」


 「あぁ。良いぜ。少なくとも、あいつのよりはマシだ。ただし、間違っても自分に向かって撃つなよ」


 あくまでも他人に向けて撃て、とおじ様は言い私は力強く頷いた。


 それから数週間はヨーロッパで過ごした後に私は中東へと飛行機で向かった。


 おじ様達から貰った餞別を身に付けて・・・・・・・・


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