おまけ「ゼノの供述」
私はゼノ。
オーレアンで発生したスタンピードの黒幕ということになっている。
気が付くと私は捕らえられていた。
そうか、私はガイルに破れたのだな。
目覚めた私は、即座に≪全知≫を使い、あの時何があったのかを理解した。
「……仲間、か」
思わずこぼれた言葉に、私は苦笑いする。
それは、私の人生には縁の無いものだったからだ。
思えば全てはあの時から変わってしまった。
≪魅了≫スキルを奪った、あの時から……
あの男、今ではこの都市のギルドの支部長に上り詰めたアイツから≪魅了≫のスキルを奪ったのは、もう15年も前になるだろうか。
あの頃は、自分でもスキルの詳細が分かっていなかった。
ただ、何かに対する飢えだけはあった。
今思えば、スキルを奪うことを≪強奪≫のスキルが欲していたのだろう。
彼の持つ何かに嫉妬し、≪強奪≫のスキルが命じるままに奪い……そしてパーティから追放した。他のメンバーを、奪ったばかりの≪魅了≫で操り、無能と糾弾し……後ろめたさから、私も逃げるように別の都市に拠点を変えた。
それが初めてのスキル強奪だった。
≪魅了≫がギルドで禁止されている事を知ったのは、奪ってからしばらく後のことだった。バレてはいけないと思った。≪強奪≫も、もはや使うまいと思っていた。
だが、どういうわけか、私とパーティを組んだものの中には、人間のクズといっていいような奴が混じることが多かった。そして、そういう奴に限って、とてつもなく強力なスキルを持っていたのだ。
こんな奴に強力なスキルを持たせておくわけにはいかない。その時の私は、正義感を免罪符にスキル強奪を正当化していた。今、思い返せば、≪強奪≫の求めに応じるままにスキルを奪っていただけのかもしれない。
そうして私は数々のスキルを元の持ち主に気づかれることすらなく奪い、力を増していった。
特に≪全知≫のスキルは、私に正しい道を指示していてくれた。≪全知≫を手に入れてからは、≪強奪≫の”飢え”を抑える方法も分かったし、世の中を危険に陥れるような危険なスキル保持者を見つけることも容易になった。
そうして15年が経ったころ、私が昔、≪魅了≫のスキルを奪ってしまったあの男がギルドで出世し、ギルド支部のトップにまで上り詰めたことを知る。正直、少しだけ気持ちが楽になった。私の罪が消えるわけでは無いが、スキルを奪った事でアイツの人生が滅茶苦茶になったわけでは無いと思えたからだ。
そして、罪滅ぼしに一度だけ、アイツが危機に陥ることがあれば助けようと考えたのだ。自己満足以外の何物でもないが、人知れず、危機が起きた事すら気が付く前に。
≪全知≫に問いかけ、オーレアンにスタンピードの危機が迫っていることを知ったのはこの時だった。
そして、移動時間を考えると、対処するには本当にギリギリのタイミングであったのだ。
***
「――そうして、どうにか≪ダンジョンマスター≫の持ち主からスキルを奪い取り、スタンピードを最も被害の少ない方法で処理をした。その過程でガイルの≪スキル≫の存在を知り……後の事は君の方が良く知っているだろう」
「なるほどな。で、真偽のほどは……嘘も誤魔化しも無いって事か。まいったな。これじゃお前を殺せないじゃねえか」
そして、今、私はオーレアンギルドの地下でアイツと対峙していた。私は拘束され、すでに≪魅了≫は封じられていた。真偽を判定するスキルを持つ男もアイツの隣にいた。だから、一切の噓偽り無くこれまでの話を正直にしたつもりだ。
「殺すなら殺せばいい。君にはその権利がある」
「口ではそう言っても、殺されないことは≪全知≫で確認ずみってか。まったくズルいやつだぜ」
真偽を判定するスキルを持つ男が退出し、アイツと二人だけが取り残された。
≪全知≫を使い、生き残るために最善のセリフを私は口にしたが、目の前の男には見抜かれていたようだ。スキル無しでギルドの支部長になった男が無能であるわけもなかったな。あるいはその反応すらも≪全知≫の想定内なのかもしれなかったが。
「まあいい。処分を言い渡す。まず財産は没収。ダンジョンにあったお宝はギルドと冒険者のもんだ。そして、お前さんの身柄はブラッドウルフ隊に預けることにする。最初は針の筵だろうが、せいぜい上手くやってくれや」
「もとよりダンジョンの財宝は前の≪ダンジョンマスター≫の持ち物だし、それでは罰にならないのではないか」
「さあな。……あいつらは目立ちすぎた。これから大変だろうからし、案外、牢にでも入ってた方が楽だったかもしれんぞ」
確かにそれはありえる話だ。すぐに≪全知≫で確認をしようとして――すぐにやめた。ガイルに関連することに対して、≪全知≫は無意味だからだ。
「……お前には感謝している部分もあるんだ。もし俺が≪魅了≫のスキルを自覚していたら、力に溺れて堕落しなかった自信は無いからな。特別なスキルが無かったからこそ努力を続けることができた。ほんのりモテる力くらいは残しておいてくれても……とは思わんでも無いがな」
「……すまない」
アイツの予想外の言葉に、私は、その一言を返すのがやっとだった。複雑な思いが胸によぎる。
「ま、ちょっとでも悪いと思ってるなら……腰に回復魔法でも掛けてってくれ。お前さんなら≪全知≫使って上手いこと治す方法も分かるんだろうからな」
***
――ビリビリと脳髄への痛みが走る。
あの時、ガイルと敵対した時の記憶がよみがえる。
強奪したガイルのスキルが発するものに違いなかった。
どうやら、自由にガイルと私の間を行き来できるようになったようだ。
そう答えを教えてくれる≪全知≫も、心なしか萎縮しているように感じる。
”逆らってはいけない”そう言っているように感じる。
だが、どういうことだろうか。
このスキルは、”所有者”に破滅を導くもののはず。
だが、今はガイルに逆らうものを破滅に導くかのような――――
これにて本当に完結です。
初めて十万文字以上書きました。二か月かかりました。大変でした……
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