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第二話「できればバカンスしながら調査したい」

 

「それじゃあ、まずは――状況を整理しましょうか」


 ギルドの応接室。

 テーブルの上には地図、報告書、筆記用具……と、なぜか観光パンフレット。


「はいっ!」

 ロッタが元気よく手を挙げた。


「まずは名物料理のお店を――」


「観光するな!」

 俺は即座に突っ込む。


「ちょっとくらいバカンス味があってもいいじゃないですか! 調査と称して街を歩き回るとか!」


「それはつまり観光だろが!」


「なら、“観光しながら調査”でどう? 一石二鳥だよ!」


「字面じゃねえんだよ! 内容を問題にしてるんだよ!」


「胃袋から真実を暴く……! 隊長! 俺も良いと思うよ!!」

 真顔で頷くブロック。


「ではその方向で話題の飲食店をピックアップしますね」


 ミーナまで乗ってきた! だまされるなミーナ! こいつ絶対ただ飯食いたいだけだ!


 ……と思ったら、ミーナは無言でパンフレットを一枚、ロッタの手から没収した。


「……さて、冗談はさておき、改めて。スタンピードの指揮系統を掌握していた黒幕の正体を探るにあたり、皆さんの協力が必要です」


 やっと本題に入ったか。

 こっちは協力する気はある。というか、スキル的に逃げられないしな。


「で、問題は……どうやって探すかだよな」


 俺がそう言うと、シルビアが腕を組みながら頷いた。


「……《危機察知》スキルを、逆に使えないかしら」


「逆に?」


「たとえば、名簿を読み上げて、反応が出る名前を探すとか。疑わしい人の顔写真を見せていって、スキルが反応するかどうか確認するとか」


「おい待て、それ《危機察知》を“スキル式指名手配書”にする気か?」


「そうよ。だって一番早いでしょ?」


 ……合理主義すぎる。


「そんなに便利だったら、苦労してねぇんだよこっちは!」


「でも実際、危機の予兆は正確でしょ? だったら使わない手はないわ」


「ちょっとスキルに頼りすぎだろ!? 俺の気持ちも察しろよ!!」


「じゃあ“気配を感じたら指差し確認”とか? 誰かにピクッと反応したら取り押さえるの」


「それもう俺の神経が爆発するまでに犯人に会わなきゃいけないやつじゃねえか!」


「のんびり観光しながらでいいわよ?」


「楽しめねえよ!!」


 俺のツッコミがむなしく響くなか、ミーナが静かに手元の地図に視線を落とした。


「現状、最も有力な推測は――“黒幕はこの街および周辺のどこかに潜伏している”ということです」


「つまり、俺たちがここにいる間に動いてくる可能性があるってことか」


「ええ。そのとき、ガイルさんの《危機察知》が、何かを感じ取るかもしれません」


「つまり、また働けと……」


「バカンスしながらでもいいですよ?」


「それ、さっきシルビアが言ったやつ!!」


 そんな俺の叫びをよそに、ロッタはすでに新しいパンフレットを開いていた。

 おい、どこから持ってきた。


「温泉街の裏道にある“隠れ家カフェ”が気になるんですけどー!」


「胃袋から真実を暴く……作戦、続行だ!!」


 こ、こいつら……


「……そもそも」

 シルビアが話を戻すように口を開いた。


「《危機察知》スキルが警報を鳴らしてるのって、“黒幕が見つけられないと危険”だからよね?」


「ああ、そうだろうな」


「で、何の危険?」


「そりゃ……俺の命が危ないってことだろ」


「……それが、分からないのよね」


「は?」


「仮に、黒幕がこの街にいるとして――ガイルが他の街に移動したらどうなるの? スキルの警報は止まる?」


「え、いや……さすがに止まるだろ。逃げれば……」


 俺はちょっと想像してみる。

 オーレアンを出て、山越え、谷越え、別の街へ到着。

 宿に泊まって、温泉入って、スイーツ食って、昼寝して――


 ビリビリビリビリッ!!


「…………あ」


「……継続してるの?」


「ああ、スキルは鳴りっぱなしだ」


「――ねえ、分かってる?」


 シルビアの声が、急に冷たくなった。


「それってつまり――“黒幕が、ガイルをピンポイントで狙ってる”可能性があるってことよ? この街じゃなくてガイルを追いかけてるってこと」


「…………はあああああ!?」


 思わず俺は立ち上がった。イスがガタンと音を立てる。


「なんで俺!? おかしいだろ!? 俺、黒幕に恨まれるようなことしてないぞ!? ていうか誰だよ黒幕!」


「隊長、何か思い当たる節は?」

 ブロックがやたら穏やかな声で聞いてきた。


「ない!! 俺、真面目に依頼こなしてただけだぞ!」


「リーダー、意外と真面目だもんね」

 ロッタはうなずいてくれている。おまえは良いやつだよ!


「そう? “適当に生き延びてきただけ”じゃない?」


「それは言い過ぎだろ!!?」


「うーん……でもその、“何もしてなさすぎる”のが逆に目立ってたりして」


「なにそれ!? 理不尽すぎない!?」


「まあまあ」

 ブロックがニッコリ笑う。


「とりあえず今日は休んで、明日から“のんびり捜査”始めようよ。温泉とか挟みながら」


「挟むな温泉を!!」


「じゃあさ、スイーツならどう!?」


「挟むなスイーツも!!」


 俺は頭を抱えるしかなかった。

 休暇どころか、命が狙われてるとか言われてるのに、こいつらは胃袋の話しかしない。


 ……なあ黒幕。

 てめえ、いったいどこのどいつだよ。

 俺が何をしたっていうんだよ――いや、何もしてねぇけどさ!!


 この先どうなるか分からないけど……せめて俺の胃袋くらいは平和であってほしい。


「――まさかとは思うけど、ガイルのスキルが黒幕にバレてる……?」


 シルビアの呟きは、俺の耳には届かなかった。

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