第一話「バカンス、黒幕に潰される」
スタンピードは終わった。街は無事。俺たちは英雄――らしい。
ギルドからもらえる報酬は……俺たち史上過去最高の大金。報酬袋を持ち上げると、ざらりと金貨が擦れ合う音がした。となれば、やることはひとつしかない。
「――というわけで、俺たちブラッドウルフ隊は、しばらくバカンスに入ります!」
「温泉!」
「スイーツ!」
「アルコール!」
ギルドの応接室に響く喜びの三重奏。俺は堂々と宣言した。
隊員全員一致。異論なし。清々しいほどの賛成ムードである。
命がけの仕事のあとくらい、羽を伸ばして何が悪い。俺たちは奴隷じゃねえんだ。
休暇を――というか、働きたいときにだけ働くで良いのが冒険者だろ!
ちなみに「一人ずつ交代で休む」案も検討されたが――
《危機察知》が鳴ったため、却下された。
放っておくとみんながシャレにならないレベルで散財するからだ。
いや、マジで。一晩で報酬三ヶ月分溶かした実績がある。全員が。俺以外。
「ただし、財布は俺様が預かる!」
「「「ええ~~っ!?」」」
ブーイングの嵐。しかし、お前らの金遣いの荒さは災害レベルなんだよ。
「……あの、盛り上がっているところ申し訳ありませんが――」
ギルド支部長代理、ミーナ=クレイスが声をかけてくる。
「な、何を言っても無駄だからな! 俺たちは今度こそ休む! 休んでやるんだ!」
反射的に声を上げる俺。というか、もう反射で防御態勢に入る時点で、俺たち働きすぎじゃない?
「……ですが、実はまだ、スタンピードの指揮系統に関する調査が未解決でして」
ミーナは手元の書類を置き、静かに顔を上げる。
「今回のスタンピード。あれほど統率された動きは自然発生とは思えません。
おそらく何者かが背後で糸を引いていた……にもかかわらず、今のところ手がかりはゼロです」
……ああ、言ってたな、指揮系統ありっぽいやつ。てっきりもうギルドの方で調べてると思ってたが。
「へー。それは大変だなー。がんばってくれよ」
完全に他人事モードで返す俺。だって今は心がバカンスなんだ。魂が休暇を求めている。
――その瞬間だった。
ビリッ、と背筋を走る嫌な感覚。
(……おい、マジか)
《危機察知》、発動。
しかも徐々に、警報のレベルが上がっていく。
まるで「逃げるな、これはヤバいぞ」と言わんばかりに、神経をビリビリと刺激してくる。
「……ガイルさん。黒幕探しに、ご協力いただけませんか」
ミーナの静かな問いに、思わず俺は顔を背けた。
「い、いやいやいやいや。他に優秀なパーティいるだろ!? 俺たちより強いやつとか! 賢いやつとか! 勤勉なやつとか!!」
助けを求めるように隊員に目をやる。シルビア、ロッタ、ブロック。
全員が目を逸らした。全力で“やりたくないです”という意思表示だ。俺もだよ。
だが――
ビリビリビリビリビリッ!
まるで電撃のように、警報が俺の頭を殴ってきた。
あ、これあかんやつだ。逃げようとしたら死ぬ系のやつだ。
「ちくしょう!! なんで毎回、俺たちだけこんな目に……!」
机をドンと叩く俺。ロッタは苦笑し、シルビアは「アチャー……」な表情。
ブロックに至っては「隊長のスキルならしょうがないねー」とか言ってる。お前ら諦めんなよ。
「……正直、他のパーティには頼めません」
ミーナは言葉を続ける。
「地下通路の発見、排水作戦の発案、現場での柔軟な対応……あなた方の働きがなければ、街は壊滅していたかもしれません。
今回も、ガイルさんの《危機察知》があれば何か見えるかもしれない。そう考えています」
……そんなこと言われても、こっちは休みたいんだよ。休ませろ、頼む。
「しばらくはこの街に滞在しながら、通常依頼をこなしつつ、黒幕探しにご協力いただければ」
「……しゃーねぇな……」
しぶしぶ了承する俺。まるで借金を背負った主人公みたいな顔をしてるんだろうな、今の俺。
こうして、俺たちの“長期バカンス計画”は――開始前に、あっさり潰えた。
なあ黒幕。てめぇ、いったいどこのどいつだよ。
こっちはな、湯けむり温泉旅館でスイーツ食べて酔いつぶれて、ブロックが裸で風呂場を走り回って怒られるという平和な休日を夢見てたんだぞ?
全部、お前のせいだ。
――こうして、俺たちの新たな地獄が幕を開けたのだった。




