第二話「Aランク冒険者俺様、三人で出発する」
この世界で“冒険者”ってのは、だいたい先天スキル――
生まれつき何かしら特別な力を持ってる奴らのことだ。魔法が得意なやつもいれば、怪力、治癒、鋭い勘や、時には意味不明な能力まで、色々いる。
普通の農民や職人が一生持たない力を、生まれつき持った「選ばれし者」。
まあ、つまり――俺様みたいな「選ばれし者」のことだ。
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ブロックに三日間の休暇を出したその翌日、俺たち「ブラッドウルフ隊」は新たな依頼を探して、冒険者ギルドへ足を運んでいた。
ギルド本部は朝から活気であふれている。受付前の広間には、今日も冒険者どもがごった返し、依頼掲示板には新しい仕事の張り紙が並ぶ。
まあ、俺達には関係ない。Aランクともなれば、専属の担当者がつくし、依頼も専用の応接室でゆっくり選べる。
下っ端どもが掲示板の前で押し合いへし合いしているのを、コーヒー片手に眺めるのが最近の俺の密かな楽しみだ。
「実際にはAランクって、危険な魔物退治や迷宮探索の仕事を押し付けられるだけなんですけどね。優遇はたしかにされるんですけど……」
シルビアが何か言った気がしたが、まあ大したことではないだろう。
Aランクってのは、ギルドに登録してる冒険者のうち上位五パーセントくらい。
ベテランや精鋭だけが届く、“一目置かれる存在”ってやつだ。
町を歩けば冒険者仲間から羨望のまなざしを向けられるし、依頼主やギルドからも信用される。
「さあて、今日はどんな依頼を選ぶかねえ……」
これがAランクの余裕ってやつよ――などと、心の中でニヤついていると、
「おはようございますっ! 『ブラッドウルフ隊』の皆さま、本日担当させていただきます、ギルドのサラです!」
パタンとドアが開いて、真新しい制服に身を包んだ小柄な女性――新人職員っぽいギルドのサラが、両手いっぱいに依頼書類を抱えて現れた。
「どうもどうも、お疲れさま。俺たちの担当は今日から君か?」
俺が余裕たっぷりに訊くと、サラは慣れない手つきで書類をテーブルに並べ始めた。
「はい! まだ研修中でして、至らない点も多いかと思いますが、精一杯がんばりますので!」
「まあ、Aランクパーティの世話をできるなんて、そうそうないぞ。しっかり頼むぜ?」
隣でシルビアとロッタが「ああ……」と複雑そうな目で俺とサラを交互に見ている。
「本日お勧めできる依頼はこちらです!」
サラが一枚一枚丁寧に説明を始める。商隊の護衛、貴族の屋敷の魔物退治、さらには新しく発見された小規模ダンジョンの探索依頼まで。
「へえ、どれも面白そうだな……。やっぱりAランクともなると選択肢が違うな」
俺が書類をペラペラとめくると、サラが控えめに説明を続ける。
「ただ、防御役の方がお休み中ということなので、護衛依頼や前線が必要な案件は難易度が高いかもしれません……」
「大丈夫大丈夫、俺の“危機察知”で十分カバーできる。なあ?」
得意げに言うと、ロッタがそっと口元に手を当てて呟く。
「本当にカバーできるなら、盗賊アジト奇襲失敗は起きなかったと思うけど……」
「な、なんか言ったか?」
「ううん、なんでも」
一方、シルビアは少し心配そうな顔で依頼票を眺めていた。
「私としても、人数が居ない今、あまり大きな護衛依頼よりも、調査系の方が安全かと……」
俺は軽く鼻で笑う。
「ま、慎重すぎても面白くないだろ。ここは俺の勘に任せて――」
そこでサラが、少し慌てた様子で口を挟んだ。
「あ、あの……護衛依頼に関しては、過去に隊列の崩れが原因で重大事故が……。一応、ご注意いただければと思いまして!」
「ふっ、心配ご無用だって。Aランク様を信じな」
「そ、そうですよね……!」
サラはまだ慣れない敬語でペコペコ頭を下げる。
サラが心配そうな顔で俺たちを見送る中、
「ブラッドウルフ隊」は三人だけで新たな冒険へと歩き出した。
まあ普通なら、盾役がいないパーティなんて危なっかしくて仕方がない。
だが、俺様の“危機察知”があれば話は別だ。
こっちは精鋭、そっちは心配性――ま、どっちが正しいか、すぐ分かる。
「よし、三人で充分だ。むしろ無駄が減って快適だな!」
そう思いながら、俺は朝日に照らされる大通りを自信満々に歩き出す。
(やっぱり、ブロックなんて最初から必要なかったんだよな……)
俺の頭の中では、すでに奴の休暇が明けたら今度こそ追放してやると決意を固めていた。