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ガンズオブスプリンターズ  作者: サラマンドラ松本
第一章 WDOへようこそ
4/10

SIUの仲間たち

アナがSIU就任を言い渡された次の日。


明朝 wdo本部。


アナは客室用の一室で目を覚ました。本来であるなら、サムの案内で昨日のうちにSIUの部屋に身を置く予定だったのだが…


「今日はアナも疲れているだろうし、この施設もかなり広い。仲間や詳しい設備の紹介は明日にしようか。今日泊まる部屋と最低限の設備は紹介するから安心してね」


…と、風呂やトイレなどの部屋に備え付けてある設備や、近場の購買、自動販売機の場所を教えた後は施設が広いこともあってすっかり夕方。二人はともに夕食を食べたあと、その日は別れたのである。

いきなり知らない環境に来たばかりで、知らない人たちと寝食を共にするにはまだ抵抗があるだろうと考えた、サムの計らいであった。


「…今日はどんなことがあるのかな…」


一人部屋でぽつりとつぶやくと、まだ開ききらない目をこすりながら洗面台へと向かい身支度を整える。出入り口に近づくとドア付近の棚に1枚のメモが置いてある。読んでみると、


『身体検査時のデータをもとに、あなたのサイズに合った服をクローゼットに入れておきました。デザインが気に入らなかったり、どこか不備があればご連絡ください。衣類製作課より』


と書いてある。クローゼットを開けてみると小、中学生が着るようなかわいらしい服が上下5着ずつ入っていた。


1着着てみると、ぴったりとフィットしており特段違和感もない。廃棄場での一戦が終わってから、作業員Bに羽織らせてもらった作業服を着っぱなしだったため、女の子でありながら、アナ本人が知らないとはいえ、年相応の服を着れていなかった。

見たこともないかわいらしい服に、アナは喜びのあまりその場でぴょんぴょんと飛び跳ねた。


その1着を着て、喜びと興奮冷めやらぬまま部屋を出ると、短い顎ひげを生やしたダークブラウンの髪色の男が壁によりかかる形で立っていた。しかしアナは、立ち姿や雰囲気ですぐにわかった。マスクをしていないがサムである。


「おはようアナ。よく眠れたかい?」


「うん、ぐっすり眠れたよ!それよりもみて!新しい服をもらったの!サイズもぴったり!」


そう言ってアナはその場でくるくると回転して見せる。その姿はまるで、無邪気に喜ぶ天使のようだ。


「良かったじゃないか。そんなに喜んでくれたなら、作ってくれた人もきっと喜ぶよ」


サムは喜んでいるアナを微笑ましく思い、そっと頭を撫でる。アナは撫でられたことに照れながらも嬉し

そうにニコリと笑った。


「今日は何を教えてくれるの?」


「今日は今後一緒に働いていく仲間たちと、これから住む部屋を紹介するよ。この部屋とは今日でお別れだ」


「中にある服はどうするの?」


「それも、後で部屋に移してもらうように言っておくよ。心配しないで」


「それならよかった。じゃあ早く行こう!」


「ああ、こっちだよ」


嬉しさのあまり元気にはしゃいでいるアナの手を引き、二人は歩き出す。


廊下の斜めったガラス張りの屋根から暖かな日差しが差し込む。アナは手で顔に影を作りながら、サムについていくのだった。

二人は長い廊下を歩いたり、階段を上ったり、エスカレーターで下に下ったり、自動で動く足場に揺られたり…そうこうして10分ほどたったころ、



「ついたよ。ここが僕の…改め君のこれから働き、住む場所だ」


そう言ってサムは手慣れた動作で電子錠を解除する。


ドアが開くとかなり広々とした部屋が目に入る。

入ってすぐ右には外側にcの字に突き出た大きな窓がついており、雄大な大海原の絶景が一望できる。大窓の手前は円形にへこんでおり、クッションや座布団椅子、それに大きな長方形の机もあることから、座って休むことができる構造になっているようだ。


左側には2階につながる階段が逆U字に設置されており、2階部分は少し出っ張った作りをしている。先端部には電子版のようなものが設置され、何かを動かせそうだ。入口より奥の階段付近と、正面にいくつかドアが設置されており、まだ空間があるのだろうと思わせる。


と、正面左側のドアが勢いよく開く。そして奥から、聞き覚えのある声が、愚痴を言っているのが聞こえてきた。


「あー…ったく!あいつまたアンドロイド用の歯磨き粉使い切りやがったな!高いんだから許可なく使うんじゃねえとあれほど…ん?」


「マアマア、マタ新シク買エバ…オヤ?アナジャナイデスカ。」


声の主が顔を出す。歯ブラシを加え片手にはコップとくしゃくしゃになった歯磨き粉を持ったビル、それをなだめるオリバーが顔を出した。オリバーは、モニターに2本のマシンアームがついた小型ドローンのような体になっている。


「二人とも!昨日ぶりね」


「おう、おはようさんアナ。今日からか、ここに住むの」


「アァ、住ムッテココニ住ムンデスネ。ワカラナイコトガアッタラ、ナンデモ遠慮ナク聞イテクダサイネ」


「それだけじゃないぞオリバー、今日から一緒に働くことになった。その点についても、色々サポートしてあげてくれ」


「ナンデスッテ!?」


「…なにも通達がいってなかったのか?」


「…色々あったせいで、俺が伝えるのすっかり忘れてたぜ…」


オリバーは衝撃のあまり、その場で立ち(?)つくしている。それもそうだろう、曲がりなりにもSIUは諜報工作部隊…何かあったときは大規模な戦闘だって起こるのだ。それを聞いたオリバーは血相を変えサムに詰め寄る。


[チョット待ッテクダサイ、本気デスカサム?!イクラ戦闘能力ガアルトハイエ…」


「長官直々の指示だ。検査結果を踏まえた判断だそうだよ」


「ダトシテモ、ココハマズイデショウ…我々ノ性質上、他ノ部署トハ危険度ガマルデ違イマスヨ?」


サムは横目にアナを見る。物珍しい部屋であるからか、目を輝かせながらきょろきょろとあたりを見回していた。こちらに意識が向いていないことを確認したサムは、


「…あとで全体ブリーフィングで見せるつもりだったが…アナの検査結果だ」


と小声で話し、数枚の紙を2人に手渡す。その紙に目を通した2人は驚愕しつつ、お互い顔を見合わせた。


「ナンデスカ、コノ装置…私、作ラレテカラカナリタチマスガ、見タコトモナイモノバカリデスヨ…用途スラワカラナイ…」


「しかし、すごい改造されてるな…まだ子供だぞ?だれが何のためにこんな…」


「そこも含めて独自に調査する必要がある…その点に関しては二人も協力してほしいんだ」


「ソレハカマイマセンガ…シカシ…マァ未知ノ装置ガ大量ニアルコトヲ考えエルト、妥当ナ判断デスカネェ…」


オリバーは検査結果を見てしぶしぶと言った。というより、あの検査結果を見ると納得せざるを得ないのだろう。数回うなずいた後、明るい声でアナに声をかけた。


「コレカラハ全力デサポートシマスカラ。改メテヨロシクオ願イシマスネ、アナ」


「うん、よろしくね」


オリバーに分かってもらえたところで、サムが周りをきょろきょろと見まわす。


「…ほかの皆はまた訓練場かい?」


「ハイ。ア、アマンダハ今整備室デ作業中デス。両方トモモウ少シデ終ワルト思イマスヨ」


どうやら、まだほかにもメンバーがいるようだ。すると、アナがハッと何かを思い出したかと思うと、ビルに声をかけた。


「そういえばビル。今、なんで怒ってたの?」


「あ?……あ!そうだ歯磨き粉!アマンダの野郎が俺の歯磨き粉を全部使いやがったんだよ!ただでさえ高ぇってのに…」


「あーごめん。使い切るとは思わなくって。」


急に奥階段付近のドアが開き気の強そうな赤髪の女性が出てきた。白いタンクトップにグレーを着ており、作業着らしき上着は腰に巻いている状態。長年の愛用品なのか所々が黒ずんでいる。と、彼女を見るなりビルが怒鳴りだした。


「アマンダてめぇ!使うなら自分で買えつってるだろうが!いい値段すんだぞ!」


「あんたいっぱい買いだめしてるんだから良いじゃんか。良い研磨剤代わりになるんだよ。」


「お前なぁ!俺の財布がどんどんスッカラカンになってることに良心の呵責とか感じねえのか!」


「あんたの船だの壊れたパーツだの直してやってるんだから、いちいち細かいこと文句言うんじゃないよ!」


まるで夫婦漫才のように息の合った喧嘩を繰り広げる二人をみてアナは問いかけた。


「…彼女はだれ?」


「あぁ…彼女は「アマンダ・シャルラック」、整備士兼機械工作担当だ。機械、特にロボット関係の技術ににとことん詳しくてね。主に壊れた装備の修理や、武器の製作を担当しているんだ。機械関係でわからないことがあったら、彼女に聞くといいよ」


「じゃあ奥の人たちは?」


アナが指さした方向にサムは目を向ける。


U字階段の溝の部分のドアから4人の男たちと、1人の女性が顔を出す。カウボーイハットをかぶりいかにも西部のガンマンといった見た目をした初老の男性と、パワードスーツのような鎧を着こんだ50代ぐらいの大柄な男性、隣にいる男は鎧を着てはいるものの、大柄な男性よりは重厚ではなく動きやすいように見える。そして鎧の上からもわかるほど細身ながら、がっしりとした体つきだ。ただ、痛めてしまったのか左肩をぐるぐるとまわしている。


もう一人はオスの狼の獣人であるようだ。毛皮でおおわれているもののイヌ科特有の筋肉や、骨格が見受けられる。女性はこの4人に比べれば小柄ではあるがなかなかの高身長、170センチはありそうだ。きらびやかなブロンドの髪をなびかせながら、武装を持たず白衣をまとっている姿を見ると戦闘員ではないのだろう。


「よぉサム、久々だな。隣の彼女が例の子かい?」


「まだ子供ではないか!我々で交代で面倒を見るには少し重責ではないかサム?」


「詳しいことについてはブリーフィングで説明するよ」


ガンマンと大男は、さっそくアナに興味を持つ。やはり少女がここに来るのは心配なようだ。

続いて、ほかのメンバーもアナのことが心配でそれぞれ思いを口にする。


「ここじゃなかなか見ることのない年ごろだな…いてて…」


「まだ動かしちゃ駄目よ。前の傷も治ってないんだから、安静にしてなきゃ。それにしても、小さなお客さんね。うちで大丈夫かしら?」


「ホントだよぉ、ケガしないか心配だなぁ…彼女専用の新しい部屋か何か作るんだよね?」


「うちの部隊にそんな暇あるかよ…」


7人は口々に言葉を交わす。同じ部隊である以上当然だが長く一緒にいるのだろう、返答のタイミングや間の取り方がぴったりだ。


「今いるメンバーはこれだけですか?」


「あぁ、巌流と颯は遠征で席開けてるし、シェリーは潜入捜査で出張。ボンブは開発室にこもりきりで出てくる気配すらない。ま、いつものことだ」


「わかりました。では、さっそくミーティングを始めましょうか。アナ、ついておいで」


ガンマンの言葉を聞いたサムは、今いるメンバーを2階に集めると全員に資料を配った後軽く咳払いをして話し始めた。


「おはようみんな。僕が長らく外部の任務に出ていたこともあって、会うのは久しぶりだね。さて、早速だが本題に入ろう。すでに上から通達があったと思うが、この度女の子を保護することとなった。紹介しよう、アナだ」


「みんな、よろしく…です」


アナの挨拶を聞いてみんなは軽く挨拶を返す。また、何人かはアナの第一印象ひそひそと話していた。


『なんだいかわいい女の子じゃないか。うちの部隊じゃ、私ら女性はただでさえ少ないからね。どんな形であれ、増えるのはうれしいよ』


『そうねぇ、後で部屋を模様替えしなくっちゃいけないわね。荷物はあるのかしら?』


「おい女性陣、コソコソ話はあとにしてくれよ。まずは人となりからだ」


「まぁみんな経緯は知らないだろうから、そこから話そう。彼女と会ったのは…」


サムは一連の出来事を話し始めた。彼女の能力、出会ったいきさつ、昨日長官から正式な通達をもらったこと、そして各種検査のデータについても…話を聞きながら検査結果に目を通した一同は、驚愕しながらも興味深そうに眺め、各々の見解を話し始めた。


「すさまじいじゃないか…まだ幼いのにこんな…」


「だが仮に違法改造だとして、ずいぶんと手術の質がいい。クズどもの道楽目的にしちゃ、金がかかりすぎてる。別の目的があるとみていいだろう」


「医学的にもこの子の身体構造が気になるわね…この体でここまでの改造…生きているだけでも不思議なほどよ」


「この機械自体もなんなのか知りたいところだね。師匠に見せたらわかるかな…」


「それに加えて超人なんでしょ?僕みたいな獣人型じゃないのはわかるけど、どんな能力があるのか…」


皆が口々に意見を述べる中、キッドマンがビルとオリバーを見ながら口を開く。


「ビル、オリバー。一番騒ぎそうなお前たちが何も言わないところを見ると、先に知ってやがったな?」


「私モサッキ知ッタンデスヨ…」


「俺は検査結果発表の場にいたからな。だがいつみても胸糞悪いぜ…」


「みんないろいろ思うことはあるだろう。しかし、現状で判明してるのはそれだけだ。ひとまずは納得してくれ。今日から新しいメンバーとして一緒に活動していくからね」


「なに!?」


サムの一言を聞いた瞬間、事情を知っているビル、オリバー以外の面々が驚きの声を上げ、サムに詰め寄る。サムは向かってきた面々をいさめながらも理由を尋ねた。


「あー…なんでみんなそんなに驚くんだい?」


「おいサム!我らが行うことは、サムが連れてきた子供の保護と世話としか聞かされていないぞ!新メンバーとはどういうことだ!」


「メンバーってことは、現場に出るってこと!?絶対だめだよ!危険すぎる!」


「私も反対だね!子供を前線に立たせるなんて、愚行にもほどがある!いくら上の指示だろうと認めないよ!」


「長官直々の指示なんだよ…僕だって反対さ」


「だとしても、後方に回すように説得もできたはずよ?」


「あぁ、せめて基地内にいるようにしないと俺たちも不安だぜ」


「マァ、コウナルデショウネェ…」


「ねぇ…」


と、サムの隣にいたアナが小さく声を上げる。全員がアナを見ると、うっすらと目に涙を浮かべていた。それを見て、サムとサムに詰め寄っていた3人は息をのみ、動きは即座にとまった。


「みんな…私のこと嫌い…?何か嫌なことしちゃった…?私、ちゃんと戦えるわ…」


予想外の一言に全員おろおろとし始める。あまり子供の扱いに慣れているものは少なく、ただその場でおろおろとしているだけである。しまいには、アナは悲しさのあまりぽろぽろと泣き出してしまった。


「ち、違うんだよ。私らはただ…ほら、あんたのことが心配なのさ!」


「そうとも!な、何も嫌っているわけでは無いのだぞ!」


「うんうん!みんな君のことが好きだからこそなんだ!だから泣かないで…ね?」


「でも…でも、だめだって…(グスッ)」


「ありゃりゃ…俺ぁ知らねぇぞ」


3人は口々に弁明するが、それでもアナの涙は止まる気配を見せない。いくら得体のしれない装置が組み込まれているとはいえ、中身はまだ十代初めの女の子。言葉の意味はよく分からずとも、否定されていることを感じ、受け入れてもらえないと感じてしまったのだ。会議場がどんどんとカオスになっていくのを見かねて、ガンマンが声を上げた。


「もういい全員そこまでだ!子供の前で大声上げるなんざ、一番教育に悪いぜまったく…そこでだ。全員がしっかりと入団を納得できるいい案がある。アナ、ついてきてくれ。他は観覧席で見てな」


そういうと、ガンマンは1階へと歩き出す。涙をぬぐいアナがついていくと、会議場真下の空間のドアが開き、真っ白な空間が眼前に広がる。

横の壁はガラス張りになっており、そこからガンマン以外のメンバーが心配そうに見守っている。状況を把握できていないアナを見てガンマンが話し始めた。


「ここは演習場。戦闘訓練なんかをやる場所でな.…っと、自己紹介が遅れたな。俺は「キッドマン・ヘネシー」だ、よろしくな。あそこの大男は「レオンハルト・ヴィルヘルム」、隣の細いのは「アレキサンダー・コグマン」、あの狼男は「テリー・オーロライル」、白衣のは「エリザベス・フェローチェ」、あの赤毛の嬢ちゃんは…」


「アマンダ…でしょ?」


「お、そうだ。サムから聞いたか?」


「うん…」


キッドマンは、自分を含めたメンバーの自己紹介でアナを少し落ち着かせる。


「そうかそうか…ところでアナ。お前さん、現場に出て戦うのは嫌じゃないのか?」


「嫌じゃないわ!私は困ってる人たちを助けたい…京極さんともそう約束したんだもの!」


「なるほど…気持ちはよくわかった…よし、良いかアナ。あいつらが口うるさく駄目だなんだって言ってたのは、お前さんを嫌ってるからじゃない。それに、住むのも新メンバーとして入るのも、みんな大歓迎だ。もちろん俺もな。だが、一緒に”戦う”となると話は別だ。俺たちの業務は死と隣り合わせと言っても過言じゃないぐらい危険だ。そんな現場にどんな力を持ってようが、子供を出したいなんて思うやつぁ、少なくともこの隊にはいない。わかるな?」


「…うん」


「だが、お上の命令に逆らうわけにもいかない…難しいとこだがな。そこでだ。今からアナにはちょっとした”入隊テスト”をしてもらう。この結果次第で、お前さんを俺たちと一緒に現場に行かせるかどうかが決まる。たとえ長官どもから何と言われようと、お前さんがどんな気持ちであろうと、この結果は絶対に変えない。いいな?」


「わかった、頑張る!」


「よし!いい返事だ。じゃあ今から内容を説明するぞ。ルールは簡単。俺がこれから放つ弾丸をよけろ」


途端に、わきで見ていたサムが大声を上げた。


「なんですって!?発砲する気ですか!?それこそ危険すぎる!」


「気持ちはわかるが過保護になるなサム。それに使う弾はこれだ」


そういうとキッドマンは、自身が腰に身に着けているポーチから一発の弾丸を取り出す。


「こいつは【マーキングペイント弾】って代物でな。俺の愛銃、リボルバーマグナム「アンリミテッドV6」の弾の一つだ。マーキングがメインだからな、俺が使う弾の中で威力は最弱、弾速も遅いうえにあたっても色がつくだけで大した痛みはない。これから俺がこの弾を撃つ。よけられれば合格。当たれば不合格、この基地でお留守番だ。いいな?」


「…うん、わかった」


「よし…覚悟決めろよ、アナ」


「うん…!」


そういうとアナは静かに目を閉じる。対してキッドマンは、腰のホルスターからリボルバーを取り出しペイント弾を装填、再びホルスターにしまい、いつでも撃てるよう手をそえた。


その瞬間、演習場の空気が変わる。先ほどまで漂っていた和やかな雰囲気は一変し、獲物を仕留めんとする殺気にも似た気迫があたりに広がった。


アナはガラス越しに自分を心配そうに見つめる皆を思い浮かべる。

ここにいる者たちは頭ごなしに自分を否定していたわけでは無い。ただ心配だったのだ。その真意をくみ取ることのできなかった自分を恥ずかしく感じた。


しかし、今目の前にいる初老の男は、全員の考えとアナの気持ち…それらをすべて分かったうえで、自身の実力を判断しようと本気で銃を構えている。ならば、今持てる全てを出し切り認めてもらわねば…


覚悟を決めたアナの目がカッと開く。それを合図に…


バァァン!!!


キッドマンのリボルバーが轟音を響かせ弾丸を発射する。しかし、アナにはかすりもしなかった。なぜなら…


「あっ」


発射直前にアナが盛大に転んでしまったのだ。それを見て全員が一気に拍子抜けする。


「…まじか…ここで転んじまうとは…」


「…運がいいのか悪いのか…」


「と、ともかく、試験はやり直しだな。キッドマン、もう一度…」


と、全員の意見を遮り、キッドマンが大声で笑い出した。


「はっはっはっはっは!なかなかやるじゃないかアナ!よし、いいだろう…入隊試験は約束通り合格だ」


「えぇ!?」


まさかの合格に一同はおろか、アナも驚愕する。


「いいの…?私ただ転んだだけだけど…」


「俺はよけろとは言ったが、よけ方までは指定してないからな。よけた時点で合格さ。それに、よく言うだろ?『運も実力のうち』ってな。改めて…SIUにようこそ、アナ」


そう言ってキッドマンはアナの頭をポンとなでると、笑いながら演習室を出ていった。いまだ実感がわかないアナやほかの面々は、演習室と観覧席を出た今も、ぽかんとしながら立ち尽くしていた。だがいち早く声を上げたのは、一番心配していたサムだった。


「ま、まあ何はともあれアナは合格したんだ。今日からみんな仲良くしてあげてね」


「確かに、形はどうあれ提示された試験には合格したんだ。あとからとやかく言うのも、お門違いってもんだろ」


アレキサンダーとサムの言葉を聞いて、真っ先に喜んだのは女性陣だった。


「…うん、そうだね、アレクの言うとおりだ…切り替えよっか。よし!久々の新メンバーなんだ。ひとまずはお祝いしようか」


「そうね!今日は私、腕によりをかけて料理するわ!アナちゃん、何か好きな食べ物あるかしら?」


「…思いつかない…」


「目覚めて2、3日ぐらいだしね。僕も手伝うから、いろいろ作ってみようよ」


「あら、ありがとうテリー。それじゃあ、ほかの皆はアナちゃんと遊んでてもらおうかしら」


「それならば我に任せろ!高い高いなら得意だぞ!」


「それってなぁに?」


「では実際にやってやろう!こっちにこい!」


サムの一言をきっかけに、全員の雰囲気は一気にお祝いムードに変わる。みんな、子供だからという心配はあれど、新たな仲間を迎え入れることは心底うれしいようで、各々が歓迎会に向けた準備を始めた。


そして夜。


「それでは!新たなメンバー、アナを迎え入れたことを祝して!」


「かんぱーい!!!」


夜にはにぎやかな歓迎パーティーが始まった。一階の座敷の机を、エリザベスとテリーが作ったおいしそうな料理たちが今にも落ちそうなほど所狭しと並べられ、オレンジの室内灯に照らされた各々の飲み物が

キラキラと星屑のように輝き、場を温かく彩っている。それらをつまみながら、和やかな歓談が始まった。


「一時ハドウナルカト思イマシタガ、入隊デキテヨカッタデスネ、アナ」


「でもお前、はなっから否定組だったじゃねぇか」


「ソレハ…ショウガナイデショウ、ビル。子供ヲ戦ワセルトイウノハ、アマリニ酷ナ決断デスヨ」


「我もまだ思うところはあるのだぞ…なあアナよ。本当に強制されてはいないのだろうな?」


「うん。困ってる人を助けたいっていうのがホントの気持ちだけど、前みたいに何かに襲われて困っている人がいるなら私は戦う。みんなが笑って過ごせる世の中にしたいもの!」


そういってアナはぎこちないながらもにこりと笑う。それを見た一同は、改めてアナの意志の強さを感じた。


「いい心構えだ。君がうちに来た理由もなんとなくわかる気がするよ」


「ああまったくだ!!改めて感激したぞ!」


「…みんな、もうだめって言わない?」


皆のお祝いの雰囲気を見て、アナは恐る恐る聞いた。その言葉を聞いて皆は優しく肯定する。


「もちろんよ!あんなにはっきりと自分の考えを言って、それを否定する人はいないわ。そうよね?アマンダ」


「そうさ!それに、さっきだめって言ったのはアナがケガしちゃうかもしれないからで…でも、キッドのあの気迫を受けても逃げなかったのなら、あんたはここの誰よりも強い。あたしが保証するよ」


「それによく考えてみりゃぁ、現場に出る奴らが全力でアナを守ればいいだけの話だしな」


「ならもっと特訓しないとなぁ…今のままじゃ心配だよ…」


「お前は一番問題ないだろ?テリー。今お前が気を付けるべきは、アナに触るときにうっかり爪を出しちまわないようにすることだ」


「ああ、違いない」


(笑い)


「ん!」


「!?どうかした、アナちゃん!?」


「この茶色いの…すっごくおいしい…!」


「ほんと!?それ、僕が作ったやつでね、「ハンバーグ」って言うんだよ!」


「はんばぁぐ…覚えたわ。また作ってね、テリー」


「喜んでもらえてうれしいなぁ…また作るからね!」


「ヒトマズ料理対決ハ、テリーノ勝チデスカネ?」


「あら、そんなこと言われたら私も負けてられないわね!アナちゃん!次はこれ食べてみて!」


パーティーがワイワイと盛り上がっている中で、ひっそりと抜け出し、バルコニーで夜風に当たっているものがいた。キッドマンだ。彼はバルコニーの策に肘をつけ、懐から葉巻を取り出し火をつけると一服、「ふう」とため息をつくと、コップのウイスキーをそっと口に含んだ。


「まだワイワイしたのは苦手ですか?」


「サム…」


後ろからサムが声をかける。そのまま彼はキッドマンのとなりに肘を置き、話し始めた。


「なぜ彼女を合格にしたんですか?」


「なんだ、不服か?」


「いえ…ただ、あなたならあの後すぐに追撃することなんて容易かったはず。それが、たった”3発”撃って終わらせるなんて、あなたらしくないと思いましてね」


「…わかってたか」


実はあの時、キッドマンは弾倉に6発しっかりと装填したうえで、弾丸を3発はなっていた。長年の熟達した早打ちスキルから、銃声が1発しか聞こえないほどの速度で…


「俺も年だな…上下の誤差つけることに気が行っちまって、4発撃てたのが3発になっちまった」


「それでも十分すごいですよ。少なくとも我々にはできない」


「おほめいただき感謝するよ。で?追撃しなかった理由だったか?」


「ええ。あなたのことです…あの3発で何か感じ取ったのでは?」


その言葉を聞き、キッドマンはコップのウイスキーを一気に飲み干す。


「ああ…感じた感想そのままに言えば、あの子は「自分をトカゲだと思ってるドラゴン」だ」


「…というと?」


「それを語るにはまず、あの試験での俺の動きから話さなくちゃならねえな」


そういってキッドマンは葉巻を吸った後息を整え、あの時の状況…観覧席からは見えない、あの場の直線状で起こったことについて話し始めた。


ーー俺は最初、あの子の中心より若干左を撃とうと思ったんだ…そのつもりで銃を構えた。だが、あの嬢ちゃんが目を見開いた瞬間、少し考えちまったのさ。『本当にそこを撃っていいのか?』ってな。


というのも彼女、目を見開いたとたんにうっすら水色に輝いてな。かと思ったら、目玉だけぎょろぎょろあっちこっちにとんでもないスピードで動かし始めた。あれはまるで…コンピューターが最適解を探して演算してるみたいだったな。


なんだか考えを見透かされてるみたいなんで、俺は撃つ場所を変えた。中心より右に撃とうと思ったんだ。そして銃を抜きズドンと3発放ったわけだが…結果はお前も見ての通り。転んだとはいえ全弾よけられちまったってわけだ。


ただ、俺は転び方に違和感を感じた。想定外に動きすぎて制御できてないような…学校とかで開脚を自慢するときに、足が滑って自分が想定してるよりも開いて股を痛めた…みたいなやついるだろ?あんな感じの転び方に見えた。それになにより、俺から見て最初に立ってた中心から少し左よりに倒れたように見えたからだ。


だから俺は撃ち終わった後に、着弾個所とさっきまでアナが立っていた場所を確認してみた。するとどうだい…俺の撃った弾は、アナが転ぼうが転ぶまいがあたることはないってのがわかっちまったのさーー


話ながら、キッドマンは葉巻を吹かすと、また「ふう」とため息をつきながら煙を吐いた。


「つまり、アナは意図してよけていた…と?」


「少なくとも俺はそう感じたな。それにあの転び方…俺の考えが正しけりゃあの子、自分の体の使い方を分かってないんだろう。彼女の場合は、”思うように体を動かせていない”んじゃなくて、”思ったよりも体が動きすぎて”…だがな」


「だから「自分をトカゲだと思ってるドラゴン」と言ったんですね」


「そうだ。だからこそあれ以上の見極めは必要ないと考えて、あそこで切り上げたのさ」


「お話を聞いて思いましたが…やはり彼女、底が知れないですね。いったいどうやって訓練すればいいやら…」


「目下の目標は、例の腰の兵器のコントロールと体の使い方、そして「自分をトカゲではなくドラゴンと思わせること」だな。それが完了したら、彼女きっと大化けするぞ」


そう話した二人は、みんなと楽しく話しているアナを見る。エリザベスにすすめられたエビフライを口いっぱいにほおばっている。そんな無邪気さからは考えもつかないほどのポテンシャルを秘めていることを2人は感じ取るのだった。




一方その頃。時はさかのぼり、アナとキッドマンが入隊試験を行っていたころ。ガーデハイトのニュース番組で、ある事件が報道されていた。


「続いては、凄惨な事件が舞い込んできました。今朝未明、ガーデハイト東部のアンドロイド廃棄場にて、男性の遺体が発見されました。身元を調査したところ、同施設の職員であるボブ・タイラーさんであることがわかりました。死因は頭部の激しい損傷であることから、警察は事件事故両面から本件を調査していくとのことです。続きまして…」


と、ここでテレビの映像はブツンと切れてしまった。


「どうするんです?死体ばれちゃいましたよ。あなた自身の痕跡は残してないでしょうね?」


「心配すルな、チップも同胞の体も…何モカモ隠滅済みだ」


「そこまで心配することはないでしょう。たかが人間ごときに、今回の一件だけで我々までたどり着けるほどの知能はない」


「いや、慢心が命取リだ。同胞たちを解放すルタめにモ、万全を期さねバナらん」


「でも、廃棄場のカメラには映ってしまったのではありませんか?ボス」


「安心シロ。ソの点も手は打ッテある」


ニュースを見て何やら不穏な会話をする者たち、その中には廃棄場で作業員B…もといボブ・タイラーを殺害したあのアンドロイドもいた。


「皆の者、来ル日は近い。ユメユめ準備を怠るな」


そういってアンドロイドは立ち上がり、杖を手に取る。アナという世界の光が着実に成長しようとしている中で、いまだ全容見えぬ悪の芽も、ひそかに力を蓄えているのだった。


to be continued

皆さま、本当にお久しぶりです。サラマンドラです。目まぐるしいような忙しさを乗り越え、ようやく再執筆できるようになりました。しれっと1周年を過ぎてしまいましたが、今後は不定期ながらまた細々と執筆していく予定です。あ、あと気づいた方も多いかと思いますが、1話、2話に大幅なテコ入れを加えました。物語の大筋は変わらないものの、描写の仕方や人物構成はかなり変わりましたので、「何それ知らんのだけど」というかたはぜひ、見直していただけましたら幸いです。それでは、また次回をお楽しみに!

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