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ガンズオブスプリンターズ  作者: サラマンドラ松本
第一章 WDOへようこそ
4/24

長官たちの気持ち

ビルがアナの面倒を見つつ、サムの愛恵里を待ち望んでいた同時刻。


WDO本部 長官室


「失礼します」


「入れ」


室内の声に促され、サムは入室する。広い室内に、入口とは反対側にある窓から、登り始めの日の光りが差し込む。入口より少し高い場所にある幅のある長方形のデスクを3人の人物が囲み、サムを待ち構えていた。


「遅くなってしまい申し訳ありません、お呼びでしょうか、京極長官、パーシアス長官、ハンドラー長官」


「構わんよ。帰還して早々の呼び出しすまないなサム。まずはガーデハイトでの調査任務、ご苦労だった。何か不穏な動きはあったか?」


「今のところ、新たな動きは各勢力共に見受けられませんでした。ただ、気になることが…先ほど報告したとおり、廃棄場ブラボーのD-4セクターにて、アンドロイド36体が再び稼働し、職員に襲い掛かるという事案が発生しました。全機体は機能が停止したのを確認したうえで回収班が回収したため、詳しいことは後ほどわかるかと思われます。」


「ふむ…見落としにしては数が多すぎる。それにまず真っ先に襲い掛かってきたというのも妙だね。何世代のものかはわかるかい?」


「確認した限りでは、第3世代のものが大半であり、数機ほど第2世代が混じっている、といった感じです、パーシアス長官」


「そうか…その件に関しては引き続きマークしてもらうとしよう。頼んだぞ。」


「了解いたしました。それでは私はこれで…」


「待ちなさい!」


ひとしきりの報告を終え、退出しようとしたサムをハンドラー長官が呼び止める。


「…はい、なんでしょうか」


「貴方が本部に連れ帰ってきたあの女の子…あの子は何者なのですか?」


「は…先ほど報告した廃棄場の一件で保護した子供でして、職員の話によると、自分たちを守るためにアンドロイドと戦ってくれたと報告が…」


「詳しい戦闘内容は?」


「えー…背中から、複数の浮遊物体を出現させ、ビームのようなものを放射したと…」


「それで、なぜ引き取ろうと考えた?」


「はい。万が一のことを考えると、我々の手の行き届く場所で保護したほうが安全かと考えました。お三方の一時的な許可もいただきましたので、連れ帰った次第です」


「そうか…その理由ならば正しい判断だね。それに合理性と彼女のことを考えた、実に君らしいとも言える」


「今回ばかりは人情を織り交ぜて話す内容ではないでしょう…この結果を見て恐ろしいと感じないのですか?」


「彼女が完全な機械であるならばまだしも、血と心が通う立派な生き物だよ。だのにその物言いは少し早計であるとは思わないかい?ハンドラー」


「あ、あの長官方、『結果』というのは…?それと先ほどから何について話しているのですか?」


何のことか把握していないサムの前にある書見台のような装置から、一つの紙束が出てくる。


「まずはそれを見てくれ。それは、先ほど届いた彼女の各種検査結果のデータなのだが…実に驚いたよ」


「驚いた…?」


「当然でしょう。まぁ資料を見ながら聞いてください。まず、血液中に超量のゲノムワンが検出されました。つまり、彼女は「超人」というわけです。特異な能力は今のところ見受けられてはいませんがね」


「それと、検査で得たゲノムワンを含める全ての細胞から、未知の元素が検出されたんだ。調べたところ未知の金属でコーティングされているらしい。我々のデータベースであらゆる元素と照合したが、どれも少しも合致しなかった。まったくの新元素ということだね」


「そしてレントゲン結果ですが…報告に合った通りです。腰の部分に複数の小型兵器が確認されました。しかも、体のあらゆる個所に、未知の装置や兵器らしきものが内蔵されています…それに、各内臓器官にも何かしらの手が加わっている…正に人型兵器ですよ…」


「だからと言ってあの意見は早とちり過ぎるんじゃないかい?」


「ですから…」


またも議論を始めた2人に構うことなく、資料に目を通していたサムも絶句する。まだ幼い少女が、自分が想像していた以上に体全体に改造が施されていることを知り、怒りを隠しきれないでいた。



「子供に…まだ小さな少女になんてことを…」


「…サム、君は彼女を最初何者だと思っていたのだね」


「は…違法なサイボーグ手術を無理やりさせられた孤児か誘拐された子供だと…」


「なるほど、二人はこの意見についてどう思う?」


サムとの会話すらお構いなしに議論している長官2人に、京極は問いかける。


「ありえませんね。体外的な手術を施してこうなったのであれば、違法だろうと公的な手術だろうと、ここまできれいに癒着するのは今の技術水準では考えられません。しかも子供…初めから組み込んだうえで設計されない限りは不可能です」


「その点に関してはハンドラーと同意見だ。生物学的にもここまで適合しているのを見ると、元から組み込まれているとみるのが妥当だろうね」


「それで、先ほどから何について議論しているのですか。かなり熱が入っているようですが」


京極は少し言葉を詰まらせながらも答える。その答えは、サム、ビル、オリバーの3人が最も危惧していた言葉だった。


「これらの結果をもとにした、彼女の処遇だ。現時点で経過観察1票……殺害が1票だ」


「なんですって!?」


それを聞いて、ついにサムも怒りをあらわにした。


「あの子はまだ子供なんですよ!いったいどういう考え方をしたら年端もいかない女の子を殺害しようなどと思えるのですか!!」


「殺害を提案したのは私です」


「なぜなんですか!納得のいく説明をしてください!」


「簡単なことです。先ほど我々が言ったように、機械の癒着率を見ると、元からああなるように設計されない限りあり得ない…つまり、兵器として作られたとみていいでしょう。もし彼女が、我々の敵対組織や、凶悪なテロリストが作り上げたものだとしたら?この基地に着た瞬間に総攻撃を開始したら?先ほども言ったとおり、彼女に組み込まれているものすべてが全くの未知なのです。どれだけの破壊能力があるかわからないのですよ」


「現に今、彼女は攻撃していないではないですか!!」


「ただの結果論にすぎません!この本部の構造をすべて把握したら攻撃を開始するのかもしれないんですよ!そうなれば、施設やインフラはおろか、非戦闘員を含めた人命まで失ってしまうかもしれない…そうなればWDOは事実上の崩壊です!もしWDOが陥落すれば、だれが世界の平和を守るのですか!世界は大きな抑止力を失い、各地で紛争やテロ行為が頻発するかもしれない!また混沌の時代に逆戻りだ!!…長期的にあらゆる可能性を考慮すれば今が、事が起こる前に未然に防げる最後のチャンスです。最悪の結末に行きつく可能性が1ミリでもあるならば、私はどんな非道な決断でもしましょう。たとえ子供を殺すことになったとしても…」


「しかし!」


「そもそもサム、一部しか機能がわからなかったとはいえ、君はなぜ、この基地に彼女を招き入れようと考えたのです?敵対勢力の潜入工作とは考えなかったのですか?もし考えが至らなかったのであれば、慎重派の君にしては珍しいミスですね」


「それは…」


「私はサムと同意見…殺害には反対だ。どんな状態であろうと仮にも生物、それに、言葉の通じる年端もいかない女の子だよ?ならばあらゆることを学び力を培うことができる。君の考えも、抱いている憂いもわかる。だが、今のうちに我々がきちんと教育し、彼女の持つ力を最大限平和のために生かせるようにすることこそ、平和の守護者たる我々WDOの役目ではないのかね?ハンドラー」


「もし彼女が何らかの形で我々に牙をむいたらどうするのです?先ほども言いましたが、我々には対処出来かねる。仮に抑えられたとしても、損害は計り知れない…ここの陥落だけは絶対に避けなくてはならない。でしょう?」


「パーシアス長官の言う通りです。彼女はまだ幼い少女だ!これから我々が正しく教育を重ねていけば、司令が思うような最悪の結果にはならないかもしれないでしょう!」


「では今はどうです?今後は教育でどうにかなるかもしれないでしょうが、今この瞬間にでも彼女が攻撃を始めた場合、あなたは対処できると?」


「それは……」


「そう、貴方も私も、ここにいる誰も適切に対処できない。だからこそ私は破壊を提言したのです」


「…」


意見が真っ二つに割れ、なおも二人の議論は続く。これ以上何も言い返すことができずに、サムはこぶしを握り締めていた。と、そこへ京極の克が入る。


「二人とも、もういいだろう。意見は十分わかった。しかしながら、WDO長官法3項に基づけば、事実上の最終決定権は現在私にある。そして私の意見だが…彼女も一人の少女、人間だ。見た目だけだとしてもな。到着してすぐに暴れていないとこを見るに、対話の余地は十分にあると確信している。だからこそ、破壊するか否かの判断は、私が直に彼女と話してからにしようと思う。異論ないかね?」


WDO長官法3項 WDO内部の緊急時を除く最高意思決定において、3人の長官票のうち、過半数の票を獲得したほうの意見を採用するというものだ。現在京極は、どちらにも賛同していない状況であったのだ。


「京極長官…」


「お前も来い、サム。そのほうが彼女の本音を聞き出せそうだ」


そう言いながら京極が席を立つと「ならば、我々も向かってみましょうか」とほか2人も立ち上がる。結局、全員でアナがどんな人間なのかを見ることとなった。4人は、重い足取りで検査室に向かうのだった。


そして現在、アナとビルは二人仲良くしりとりをしながら、サムが来るのを待っていた。


「次はらだよ」


「ら……ら……ら?ら…っあ!ラマヌジャン!」


「んがついたからビルの負け。これで私の3勝ね」


「だぁぁクッソまた負けた…ら攻めはさすがにきついぜ…」


「ねぇ、もっかいやろう、ビル。次はあなたからでいいから」


「ならその前に、だれか呼んできて酒を持ってこさせてくれ…これ以上シラフでやってると……脳の回路ショートしちまうよ…」


そんなことを話していると、廊下の奥からついに待ち人が現れた。


「お待たせアナ!」


「サム!」


会えたことのあまりの嬉しさに、アナは思わずサムに抱きつく。


「遅いよ…私ずーっと待ってたんだから!」


「ごめんよ…話が長引いちゃってね…検査お疲れ様!よく頑張ったね!」


2人がにこやかに話していると、頭から若干白い煙を出しながら、ビルが悪態をつく。


「遅いぞこんちくしょう!何を長話してやがった!」


「悪いビル…何で頭から煙が出てるんだ?」


「話せば長くなる…」


と、雑談をしたタイミングでビルがこっそりと話す。


「それで…長官たちなんて言ってた?こんな長引いたんだ、あんまよくない方向言ったんじゃねぇのか…?」


「それなんだが実は…」


「それはあとで私から説明しよう」


サムが話そうとするのをかき消すように、廊下の奥から太く、凛とした声が響く。


アナが廊下の奥に目をやると、3人の人物が歩いてきた。190ほどの体躯にゴツゴツとした体つき、白銀の髪色と同色の顎髭を生やした目つきの鋭い初老の大男と、その大男よりもさらに大きいワシの頭をしたボディビルダーのような体つきの人物、この中では最小だが、それでもサムと同じぐらいの背丈はあろう銀色を基調としたボディカラーのアンドロイドが現れた。


初老の大男は、アナの目の前に立つやいなや鋭い眼光をこちらに向け、話し始めた。


「初めまして。私はWDO3長官が一人、京極源一郎だ。このワシの頭をしているのが「パーシアス・コーウェル」、こちらのアンドロイドが「ハンドラー」、二人とも私と同じ長官だ。君がアナだな?」


「うん、初めまして。京…極さん?」


「あぁ、では引き伸ばすのもなんだから、単刀直入に聞こう。アナ、まず君は自分の力どう使いたいと思っている?」


「力…?」


「廃棄場でみせたものもそうだが、君が現在無自覚に持っている力は、強大だ。使い方によっては国を、世界をも滅ぼせるほどのな。君はそんな力を何のために使う?誰が為か?それとも、我が為か?」


その言葉を聞きアナは押し黙る。しかし、アナにはたった一つの信念があった。少し間を置き決心をすると、アナは京極に思いをぶつけた。


「私は…自分が持ってるその…力っていうのはよくわかってない…」


「ほう?」


「わかってないけど…たくさんのアンドロイドがいたとこ…あそこで私は、襲われそうになった人を助けたいと感じた。助けなきゃと思ったの。そしたらあんなことになったけど…でも、とっさに助けたときに感じたの。私は困ってる誰かを助けるために生まれたって。私は、この気持ちを大切にしたい。私は誰かのために力を使いたい!」


アナは声を張り上げ、源一郎の鋭い目を見つめる。その眼には一切の曇りがなく、強い決意の表れがごとく水色に輝いていた。と、途端に源一郎は大きな声で笑い始めた。そして再びアナに問う。


「そうか!その言葉に偽りはないな!君の気持ちはよく分かった。…よし、決めたぞ。私はパーシアス長官の意見に賛同する!」


それを聞いたサムは、安心からへなへなとその場に崩れ落ちてしまった。しかしハンドラーは納得がいっていないようで、源一郎に駆け寄り耳打ちを始めた。


「本気ですか京極さん…もし被害が出れば…」


「彼女の言葉に嘘偽りは見られない。真に人を助けたいという意志すらも感じられた。我々に敵対行動をとっていない以上、今はその気持ちは尊重するべきだ。責任は私が取る」


「ありがとうございます!長官!」


「ただし条件がある。サム、君は彼女の面倒をみてもらう。彼女は極端に君になついていることを考えると、君が彼女の世話役に適任だろう。それが条件だ」


「なに!?」


ビルが驚くのも無理はない。今までも数人いたが、WDOにおいての世話役…それは前線から退くことを意味していた。フルフェイスマスクをしているため顔は見えないが、その指示を聞いたサムの寂しそうな顔は察するに余りあるだろう。


「ちょっと待ってくれよ京極長官!そりゃあまりに酷だぜ!成果だって上げてんだ、何とかならねえか!?」


「…わかりました。その任務、謹んでお受けします」


「おい!」


会話を聞いたアナも、サムに駆け寄る。


「待ってサム!私あなたに迷惑をかけるくらいなら…」


「いいんだよアナ。君がここにいられるならそれでいい。これから、たくさんのことを学んでいこう。僕が精いっぱいサポートするからさ」


「でも…」


三人の間で流れるしんみりとした空気を見て、パーシアス長官は咳ばらいをしながら三人の考えを訂正する。


「三人とも、何か勘違いをしているんじゃないかね?サム、君は一線を退くんじゃないぞ。彼女と行動を共に行動してもらうだけだ」


「行動を共に…?」


「…何か勘違いをされているようだから、正式に命令しよう。アナ、君は今この瞬間から、ご家族や詳しい素性が判明するまでの間、wdoの職員として働いてもらう。そして君の配属先だが、サム、ビルと同じ特殊諜報工作部隊「SIU」に配属とする」


「わたしが…?」


「なに!?」


「これから数々の任務をこなしていくだろう。そこで自分の力を知り、使いこなせるように鍛錬すると良い。サムやビル、並びにほかのメンバーたちが助けになるはずだ。君の理念と信念、私に言った言葉を忘れずに、世界の治安維持に励め」


「…はい、頑張ります」


怖そうな人に自身を認めてもらったこと、そして何よりこれからもサムと一緒にいれることを知り、アナの顔に決意と安どの色が浮かぶ。当のSIU職員であるサムとビルは、考えてもみなかった提案をされ、驚愕のあまり開いた口が塞がらないでいた。しかし、どんな形であれ、アナが無事に迎え入れられたことを改めて実感し心の底からの安どのため息をついた。


「まさかの通告だが…まぁともかくアナが無事ならよかった、これからよろしくな、アナ」


「うん!」


三人が喜びながら話しているのを見て、長官たちは、「では、我々は戻るとしようか」という源一郎の一言で長官室へ歩き出した。と、最後尾を歩くハンドラーの元へサムが駆け寄ってきた。


「長官、先ほどの無礼な物言い、大変失礼いたしました」


謝罪を受けたハンドラーは、サムの背後でビルと笑顔で会話しているアナをちらりと見て口を開く。


「…気にしなくて結構ですよ。ああなるのは当然のことです。ただ、一つ誤解のないように言っておきます。私は彼女が嫌いなわけではありません。しかし、私の中で彼女の命一つと世界の平穏を天秤にかけたとき、傾いたのが後者だったというだけです。彼女の処遇に関してはこれ以上何も言いませんが、私の考える”最悪”が来ないように、しっかりと教育してください。いいですね」


「はい、全力で取り組むことをお約束します」


その言葉を聞いたハンドラーは笑みを浮かべ一瞥すると、くるりと後ろを振り向き歩いて行った。


こうして正式にwdoの職員として迎えられたアナ。これから起こるであろう様々な事件と、どう向き合い、どうやって力を使っていくのだろうか。そんな思いを胸に、サムは期待と不安の入り混じったまなざしをアナに向けるのだった。


to be continued

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