WDO
ガーデハイト合衆国 深夜2時。
アンドロイド処理施設の一件から数時間。サムとアナは、指定された回収場所へと向かう車に揺られていた。
「これからどこにいくの?」
ふいにアナが疑問を投げかける。そんな突然の質問に、サムは笑顔で答えた。
「普段僕が働いてるところに行くんだ。少し遠いところだけど、住むところもいろんな設備もある。広々とした良いところだよ」
「そっか…」
緊張しているのか、少しよそよそしくもじもじしているアナを見て、サムはそっと頭を撫でる。
「大丈夫!少し癖はあるけどいいやつもたくさんいる。きっと気に入ってくれるよ!」
「…うん」
アナの顔にうっすらと笑みが浮かぶ。サムの言葉を聞き、少し安心することができたのだろう。その笑顔をみてサムもほっと安堵のため息を漏らした。
(それにしても…こんな年端もいかない少女が何で廃棄場なんかに…?捨て子だろうか?そこも含めて、調査する必要があるな…)
サムが考えていると、車が停車した。よくわからずきょろょろしているアナを「降りよっか」とサムは促し、車から降車する。
長時間車内にいた分なまった体を、背伸びをしてほぐしつつ辺りを見回すと、自分達が先刻までいた処理場が豆粒ほどの大きさになっている。どうやらかなり遠くの山の頂上のようだ。
辺りは大きめの家を建てられそうなほど綺麗にひらけているが、それ以外には目ぼしいものは見つからない。正真正銘ただの山である。
すると、背後から「それでは、私はここで失礼いたします」という声がした。振り返ると、運転手が軽く一礼をし、足早に車に乗り込むと再びエンジンを鳴らし、もと来た道を去っていってしまった。
「なんでこんなところに来たの?」
「ここからは乗り物を変えるんだ。ただ、少し大きな乗り物でね、来やすいように開けた場所に来たんだよ。これから来る乗り物はもしかしたら、アナが記憶を思い出しても見たことがないんじゃないかな」
「そんなに珍しいものなの?」
「珍しいというか、一般じゃめったに見れないというか…」
2人が話していると遠くから微かに「コオォォ」という音が聞こえてくる。
アナが辺りを見回すと、遠くの空からなにかが飛んでくるのが見えた。数秒と経たないうちに微かな音は轟音に変わり、遠方にあった物体が見る間に自分達の眼前に現れる。
見た目は大型の軍用輸送機のようではあるが、通常のものより明らかに大きい。機体後部に二機、巨大な翼に合計四機の、大型ジェットエンジンが備わっており、青い光を煌々と輝かせている。先ほどアナたちが見たとおり、かなりの速度で飛行できるようだ。
機体前面下部には、マシンガンが2問搭載されており、これを喰らえば並みの生物はひとたまりもないだろう。
アナが呆然と眺めていると、機体は二人の真上で停止、ゆっくりと下降してきた。強風によって乱れた髪を、手でくしくしと直しながら、アナは問いかける。
「これはなに…?」
「これは僕たちの組織の乗り物さ。これからはこれに乗って移動する。見ての通り、とてつもない速度で移動できるんだよ」
「VTOL戦闘機ってこと?」
「あ、あぁそうだよ。…よく知ってるね?さっきの廃棄場でその言葉を聞いたのかい?」
「ううん、ただ、なんとなく頭にこの言葉が浮かんだの。…なんでだろ?」
「言葉の意味はわかるかい?」
「わかんない……サムわかる?」
「あぁ、知ってるよ。あとで教えてあげるね」
突然アナから発せられた単語に、サムは驚きながらも笑顔で答える。アナの興味がまた戦闘機に移ったのを見て、サムは思考を巡らせた。
(なぜ意味すら分からないのに、日常生活では聞かないだろう単語が出てきた?しかも、戦闘機の種類を即座にVTOL機だと言い当てた……それに……)
サムがちらりとアナのほうを見る。先ほどアナがVTOLと答える直前に彼女の目がきらりと水色に輝くのをサムは見逃してはいなかった。
(あの光かた……明らかに機械的なものだ。違法なサイボーグ手術の被害者か?それなら納得がいくけど、不確定要素が多いな…その線も当たってみるか…)
サムが仮説を立てつつ考えているとバトルホークからアナウンスの声が響く。
「レディースアーンドジェントルメーン!こんな真夜中に、ビルリアン航空をご利用いただきありがとうございまーす!さぁそんなとこで突っ立ってくっちゃべってんなよ、さっさと中に入ってくれ!」
アナウンスが終わると、翼のジェットが地面側に噴射し、機体下部から着陸用の脚が三脚展開、地面にゆっくりと着陸する。と同時に、後部のハッチがガシュゥという重々しい音を立て、ゆっくりと開いた。
サムは「アナ、おいで」と声をかけると「ふぅ」と一息ついたのち、ゆっくりと乗り込んでいった。サムの姿を見て、アナも少し慌てながらもトタトタと機体に乗り込む。
先ほどまで外見を見て驚いていたアナは、内部を見てさらに目を輝かせる。
機内は思いのほか広々としている。まるでマンションの一室のようだ。コックピット側の空間は、縦長のハイテクな見た目のテーブルを中心に、いくつか部屋のように区切られている。
ハッチ側の壁には、大小さまざまな見たこともないような機械や、銃や剣などの武器、恐らく修理に用いるであろう道具が所狭しと置かれていた。
直線上に見えるコックピット部分には、広い正面窓に少し間隔をあけて席が2つ設置されており、席同士の間には中くらいのモニターが設置されている。
初めて見るものばかりのアナは、目をキラキラと輝かせながら、あたりをキョロキョロとせわしなく見まわす。
と、先ほどのアナウンスと同じ声が機内に響く。
「まったく、こんな時間に呼びつけやがって。いくらアンドロイドとはいえ、俺にも生活というものがあってだな……あん?その子、誰だ?」
コックピットの座席をくるりと回転させ顔をのぞかせた声の主。白い表面装甲に黒い配線や関節パーツをのぞかせており、オレンジと水色の目を輝かせた人型アンドロイドが、足を組んで乗っていた。
「オヤ、サムノ他ニモ、オ客サンガイルミタイデスネ」
続いて、落ち着いた電子音のような声が聞こえてきた。コックピットをよく見ると、中央モニターに水色の目のような縦線が2本入った映像が映し出されている。恐らくあれが声の主だろう。
「2人とも、紹介するよ。この子はアナ、出動先で保護した女の子だ。しばらくウチで預かることになった。アナ、彼は【B2674RU】、通称『ビル』だ。仲良くしてあげてね。それと、モニターの彼は『オリバー』。任務などの補佐をしてくれる、頼れるAIだ」
「ハジメマシテ。ヨロシクオネガイシマス。Msアナ」
「なんでぇ、人を保育園児みたいに紹介しやがって…」
サムに悪態をつくビルに、アナは臆することなく質問を始めた。
「この乗り物はなんていう名前なの?」
「輸送特化型戦闘機「バトルホーク」…イッテシマエバ、銃ノ撃テル移動用飛行機デスネ」
「もっと良い言い方あるだろ……なんだ?なんか俺の顔についてるか?」
刺さるような視線に気づき、サムがアナを見ると、なぜかやたらとビルを見つめている。
その光景を不思議に感じたサムが、アナに話しかけた。
「どうかしたかい?アナ」
「……廃棄場にいたのと違う」
「廃棄場?」
「ここの近くのとこだよ。たしか、廃棄場ブラボーだったかな……」
「あぁ、あそこのぁ『第3世代』のやつしかやってねぇからな。そりゃ違うだろうよ」
「第3世代?」
「”機械対戦”トイウ、大キナ争イガ終ワッテカラスグニ造ラレタアンドロイドノコトデスヨ」
「一つ勉強になったな、お嬢ちゃん」
と、突然アナが少しほほを膨らませながら、ぶすっとしてビルに言い放つ。
「お嬢ちゃんじゃない!私はアナ!」
「わーってるよ、ただ、お嬢ちゃんのほうが呼びやすかったんでな。…そんなに気を悪くするとは思わなかったぜ……次からは名前で呼ぶよ。悪かったな。……ま、なんだ。そこら辺に座ってのんびりしててくれ。すぐに出発するぞ、アナ。……アメちゃんいるか?」
そう言うと、ビルは座席のポケットからアメを取り出し、軽く振って見せる。サムは「もらっておくよ、どうも」と受け取ると、アナを座席に誘導し話しかける。
「ごめんね。あんな感じだけど悪いやつではないんだ……ほら、アメだよ。せっかくくれたんだし、これを食べて機嫌直しておくれ」
「…うん、ありがとう」
「お礼なら、ビルにも言ってあげてね。彼、ああ見えてお礼を言われるのが好きなんだ」
「…わかった」
アナは、機体後部の小窓がある座席に座り、外の景色を眺めながらアメの包装をとり、口に含む。芳醇な柑橘系の甘みと、清潔感のある若干の酸味が口に十分広がると、アナはまたまた目を輝かせ、足をパタつかせながら、コロコロと口の中で転がした。
その光景を見届け、サムも席に着く。と、機体のハッチがゆっくりと閉じ、けたたましいエンジン音が再びうなり始める。アナがコックピットを見ると、ビルが天井部のスイッチやメータを手慣れた動きでいじっているのが見えた。
それからすぐに操縦桿らしきものを握ると
「さぁ発進だ。かな~り早いからな、舌かむんじゃないぞ!お2人さん!」
その掛け声とともに、機体が徐々に上昇し、一気に加速する。
窓から外を眺めていたアナは、猛スピードで流れていく景色に興奮しているのか、窓に割れんばかりに顔を押し付けながら、流れ去る景色を見て喜んでいた。その様子を見たサムは機嫌を直してくれたことに安どのため息をつくのだった。
しばらくして。飛行速度が安定すると、サムはコックピットに向かいビルたちに話しかけた。
「それで?ビルリアン航空機長さん?いつごろ到着のご予定で?」
「茶化すなよ、ったく……そうだなぁ。ここがガーデハイトの東側だから……3時間前後ぐらいか。まぁそこそこ時間がかかるな。あの嬢ちゃんと一緒にくつろいでな」
「アナタモデスヨ、サム。アトハ私ガヤリマス。任セテクダサイ」
「そうかぁ?…んじゃ、お言葉に甘えて……」
そう言うと、ビルは「ギギギ」と、関節部から機械特有の音を出しながら大きく伸びをする。そのまま椅子を後部側に少し回転させると深く腰掛け、肘沖のストッカーにおいてあるカップを手に取り、中に入っている少しぬるいコーヒーをすすると、深いため息をついた。
そんなビルを見て、サムは「フッ」と笑うと、改めてお礼を述べる。
「2人ともこんな遅くにありがとう。到着まで僕もゆっくりしてるよ…」
「ちょい待ち」
クルリと後ろを振り返ったサムを、ビルが引き止める。
「あの嬢ちゃん何モンだ?そこらの孤児なら、そのテの施設に面倒見てもらえばいいだけの話だろ。あの戦争からかなりたったとはいえ、戦争関連孤児がまだまだ多いせいで、あの周辺にも施設はたくさんあった。だのにわざわざ引き取るなんてことしたんだ、なんか理由があるんだろ?」
「……実はね…」
サムは処理施設の職員から聞いた話を、そのまま二人に話した。
「背中カラ浮遊物体ガ…デスカ……ニワカニハ信ジガタイデスネ…」
「もし本当なら、確かに孤児院に置くわけにはいかねえわな……」
「あぁ。兵器と思しきその浮遊物体が、何かのはずみで作動したら大変だろ?周囲の危険も考慮して、うちで保護、検査して、場合によっては引き取ることにしたんだ。それに、さっき一目見ただけでこの戦闘機をVTOLだと言い当てた。言葉の意味すら分からないのにだ。まるで何らかのスキャン装置でも備わっているみたいに。あながち、作業員の方々の話も本当かもしれないと思ってね」
「ソノコト、”長官タチ”ニハ報告シタノデスカ?」
「報告はした……が、『とにかく検査をしてから今後の方針を決める』の一点張りでね」
「長官たちにしちゃ、ずいぶん雑な指示だな。検査結果いかんじゃ何かする気なのか…?」
「わからないが……まだ少女だ。あの3人は、平和のためならどんな手段もとる。非道な決断をしないことを祈るよ……」
「トニカク、今ハ到着スルマデ待ツシカナイトイウコトデス。マダシバラクカカルノデ、2人モユックリシテイテクダサイ。」
「おう、頼んだぜ」
そう言って、ビルは席を立つ。その拍子にサムの肩をポンとたたくと
「その心配が杞憂に終わるといいな。サム」
「ああ……」
そう言いながら、3人はアナのほうを見る。いつの間にか眠ってしまっていたようで、座席にもたれかかってスウスウと寝息を立てていた。
自分の中にある一抹の不安感を押し殺しながら、サムはアナにそっと毛布を掛け、自身も眠りにつくのだった。
しばらくして…
「皆サン、ソロソロ到着シマスヨ。降リルゴ準備ヲオ願イシマス」
オリバーのアナウンスで、3人が目を覚ます。
アナは小さいあくびを一つしたあと、眠気眼をこすりながら外を見る。その瞬間、驚きで数秒前まで居座っていた眠気はどこかへ吹き飛んでしまった。
日の出に照らされながら見えてきた海に浮かぶ、巨大で自然豊かな島。しかし、豊かな緑に似つかない超巨大な高層ビル型の建造物が、はるか遠方に見える島の中心部分に、天高くそびえたっていた。
その建造物を取り囲むように様々な建物が建てられており、それらをつなぐ道路をジープや輸送車、戦車らしき車両がせわしなく行き来している。
発着場らしき場所には大量の航空機が格納されており、今アナたちが乗っているような戦闘機のようなものも見受けられた。島の沿岸部には大小さまざまな船が行き来しており、巨大な戦艦から軍用ボートなどが停泊している。
この島自体が、まるで大国の軍隊の基地のような物々しさを見せていた。
「ここは…?」
「俺たちWDOの本部さ。お嬢ちゃ…アナ。詳しい場所は部外秘で言えないがね」
そう言うとビルは機内の無線を用いて誰かと話し始めた。恐らく着陸についての話をしているのだろう。
「サム…」
「悪いが、今はまだ僕も話せないんだ。ごめんよ」
「そっか…」
アナは不安そうにうつむく。それも無理はない、今から行くところの詳細が不明なうえに、何をされるかすらわからないのだ。そんなアナを見て、サムは励まそうと言葉をかける。
「でもねアナ。”今は”言えないだけなんだ。君の名前やそのほか詳しいことがわかるまで、アナにはここに住んでもらうことになる。だから、ある程度のことはあとで教えるよ」
「…うん、わかった。楽しみにしてるね」
そんな会話をしていると、バトルホークがガタンと揺れる。どうやら無事着陸したようだ。「ガコン」という音とともに後部ハッチがゆっくりと開き、3人はバトルホークから降りる。
アナの眼前に広がるは、先ほど飛行機から見えた巨大建造物。見たところ、その中腹あたりにいるようだ。地面からは離れているものの、どうやら航空機の発着場のとしても機能するらしく、ほかにも複数の小型航空機が発着している。
すると、数人の職員と思わしき人達がこちらに駆け寄ってきた。中には、ビルや廃棄場で見た物とはまた別の形のアンドロイドもいる。
「皆様、長旅お疲れ様でした。オリバーとビルは一旦任務終了です。それと…そこのお嬢さん。これから…」
「私はアナ、ちゃんと名前があるの」
少しあっけにとられる職員に、ビルはそっと耳打ちをした。
「彼女、サムからつけてもらった名前が気に入ってるらしいんだ。名前で呼んでやってくれ」
「なるほど、あー……(咳払い)失礼しました。ではアナさん、これから各種検査を行いますので、私たちについてきてください」
「サムは…?」
「フランシスさんは…」
「僕は少しこの人たちと話したら顔を出すよ。心配しなくても、すぐ会えるさ」
「わかった…またあとでね」
「うん、またね」
会話を終えると、アナは2人の職員とともに施設に入っていく。
と、アナは何かを思い出したかのように振り返り、大声で叫んだ。
「ビル!アメありがとう!とってもおいしかった!」
「あ!?お、おぉ、喜んでくれたならよかったぜ!検査が終わったら、またやるからな!」
自身に向けられる言葉ではないだろうと思っていたビルは、思わず面食らってしまった。そして、その言葉を聞いたアナは、年相応のにこっとした無邪気な笑顔を見せると、職員に連れられて建物の中に入っていった。
その後姿を、サムとビル、取り外されたパッドの中に移っているオリバーは、不安そうなまなざしで見つめていた。
「…まさかお礼を言われるとはな……ずいぶんいい子じゃねえか」
「デスネ…キット、アノ子ナラ大丈夫デスヨ。今ハ待チマショウ」
「あぁ…だといいんだけど…」
三人が話していると、一人の職員がサムに駆け寄ってきた。
「そういえばフランシスさん、先ほど長官方が「至急長官室にくるように」とおっしゃっておりました」
「やっぱりな……まずは気張れよサム」
「あぁ、行ってくるよ」
二人の職員とともに施設の内部に入ったアナは、「わあぁ」と思わず感嘆の声を上げる。
今いる場所で20階はあるであろう高さであるにもかかわらず吹き抜けとなっているのを見ると、まだここは下層のようだ。一番上の天窓になっている天井からは、先ほどよりも少し高く上った日の光が差し込み、施設全体を暖かく照らしはじめていた。
「見てみてサム!すごくきれ……あ……」
そう。今ここにサムはいない。あとで会えると言っていたとはいえ、いつ来るかすらもわからない。その事実を改めて認識したアナの面持ちは、施設の明るさとは裏腹に暗いものとなってしまった。
そんな暗い雰囲気を払しょくしようと、職員の一人が明るいトーンでこれからのことを話し出す。
「これからアナさんにはいくつかの身体検査をしてもらいます。途中で注射もされてしまいますが……それ以外に痛いことはないと思います。それにすぐ終わりますから、もしかしたら終わり次第サムさんに早めに会えるかもしれませんよ」
「…そうなの?」
「もしかしたら、ね。でも絶対来るとは思うから、早めに検査を終わらせて一緒にサムさんを待ってよっか」
「…うん……」
その言葉を聞き、アナの顔にうっすらと明るさが戻る。それとちょうど同タイミングで、検査室に到着したらしく、部屋の中から女性の職員が顔を出した。
「あら、来たわね。じゃあアナちゃん、ここからはお姉さんが一緒について検査するわ。よろしくね。お二人は、検査が終了するまでここで待機していてください」
「了解しました」
そう言うと女性職員はアナの手を引き、検査室に入っていった。そのまま検査室のドアが閉まるのを見ると、職員BがAを小突く。
「何が早めに会えるだ!長官から呼び出し食らったんだから、すぐには来れないだろうが!」
「そうでも言わないとあの子がかわいそうだろ!見たかあの悲しそうな顔!俺、子供が悲しそうな顔してるの耐えられねぇんだよ!」
「ったく、考えなしに物言いやがって……まぁ、フランシス隊長のことだからすぐ終わるか……」
「ただなぁ……長官たち結構深刻そうだったからなぁ……大丈夫かなぁ……」
しばらくして
無事にアナの各種検査が終了し、あとは結果報告を待つのみとなった。
3人は検査室の前にあるベンチに腰掛けてサムを待っている。しかし、待てども待てども顔を見せに来ない。すぐに来るといった手前、引っ込みがつかなくなった職員の二人が冷や汗をだらだらと流していると、アナが口を開く。
「……サム遅いね」
「そ、そうだね……どうしたんだろう?」
「き、きっと道中で誰かと話してるんですよ!……多分……」
その言葉を聞き、アナはまたしゅんとしてしまう。
その姿を見て、二人の職員はひそひそと言い合いを始めた。
「だから言ったろ!考えなしに物言うなって!」
「30分経っても来ないなんて思うわけないだろ!?」
職員二人がアナに聞こえない声で言い合いをしていると、廊下の奥から聞きなじみのある声が聞こえてきた。
「はい、おつかれさん。二人は自分の業務に戻ってくれ。こっからは俺が面倒見るからよ」
「ビルさん!」
「整備に手間取っちまってな、悪かった。あとは任せろ。ありがとよ」
職員の二人はアナにお別れを言った後、ビルに促され持ち場に戻っていった。少し広いベンチにポツンと座るアナの隣を、ビルは二人分空いたにスペースにどっかりと腰かけた。
「よぉアナ。サムじゃなくて悪かったな。だがさっき言ったろ?検査が終わったらもう1個アメをやるって」
そういって、ビルは再び手に持っているアメをアナに見せる。しかし、今の彼女は、アメよりも気になることがある。
「……サムはどうしたの?」
「あいつぁ今、ここで一番偉いやつらと”お話”してんのさ。それが終わればここに来るよう言っておいた。だからそれまで待ってようぜ」
「もしかして私のせいで怒られてるの?」
「そ、そんなこたねぇよ!ただ、大事な話をしてるだけさ」
「……そっか」
怒られているわけでは無いと知り、心配していたアナの表情は緩み、ほっと一息つく。そんなアナを見つめながらも、ビルは渋い顔をしていた。
(そんなことないとは言ったが、実はそうでもなさそうなんだよなぁ……早く来てくれよサ………想い人がため息交じりにお待ちだぞ……!)
ビルがそんなことを考えていた同時刻。
件のサムは、緊張したようにある部屋に入っていく。入口には大きくこう書かれていた。
「長官室」と。
to be continued




