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目覚めた少女

2900年 ガーデハイト合衆国 とあるアンドロイド廃棄場



そんな特異な場所の一角で、小さな火種のようにぽつりと目覚める、1つの意識があった。


(ん…………)


目覚めたなにかは、何も見えない暗闇の中で体を動かそうと力を入れる。しかし、体は動かない。それどころか、ずっしりとした重みと少々の痛みが返ってきた。


(…暗い……それに……すごくうるさい…体も動かない…ここは、どこ……?)


どうやら、アンドロイドの残骸の中に埋もれてしまっているようだ。幸いにも左手は外にあるらしく、動かすことができる。目覚めた何かは、誰かに気づいてもらわんと必死に左手を動かす。


(おねがい……誰か……いるなら気づいて…)






同廃棄場、Dセクター休憩所 19時



雑多に物が置かれている小さな休憩室で、三十代ほどの作業員が二人、コーヒーをすすっていた。


と、短い髭の生えた作業員がカップ片手にため息をつき、愚痴を始めた。


「ったく、廃棄処理業なんかやってらんねぇよなぁ」


「まったくだ。前の大戦(機械大戦)で大量の残骸がでやがったせいで、休暇返上。たまったもんじゃねえよ」


「しかも目も当てられねぇはした金でな」


「知ってるか?うちの廃棄場、よそより多く処理してるから国から助成金が出るんだけどよ。設備に投資して人件費には一切当てねぇとさ」


「はぁ?マジかよ……なおさらやる気なくすぜ……」


オールバックの作業員の言葉を聞いた髭の作業員は、椅子に深く腰を掛けデスクに足をのせると、天井を見ながらぼそりとつぶやいた。


「あーあ……なんかこう……あっと驚くようなことねぇかなぁ」


「俺は今のままで十分だな。食うに困ってねぇし、世界はあくびが出るほど平和だ。向こう10年は何もなくても文句は言わねぇな」


「嘘つけ。毎日毎日口開くたびに暇だ暇だ言ってるくせに。お前が1時間後に暇だって言うのに10ダリル賭けてもいいぜ」


「失礼な奴だな。だったら1時間後まで言わなかったらほんとに10ダリルよこせよ!」


「ああいいとも。それまで言わずに堪えられ…」




ウゥウウウウウウウウウウウウ




そんな話をしていると、突如けたたましいサイレンが鳴り響く。何事かと身構えていると、付近のスピーカーからアナウンスが入った。


『作業員各員に通達!廃棄セクターD-4にて、人間のものと思わしき腕が確認された!繰り返す!廃棄セクターD-4にて、人間のものと思わしき腕を確認!付近の作業員は全作業を一時停止!至急確認に向かってくれ!』


「……10ダリルは俺のもんになりそうだな」


幸いにも廃棄セクターD-4が管轄の2人は、呑みかけのコーヒーをそのままに、急いで確認に向かうのだった。




報告のあった現場に到着すると、アンドロイドの残骸が山となっている一部分に、夜間作業用のサーチライトが煌々と照らされている。

近づいて確認してみると、確かにそこから人の腕らしきものがパタパタと上下し、まるで手招きしているように動いているみえた。どうやら見間違いではないようだ。


「おいおい……マジに人の手だぜ……」


「言ってる場合かよ!とにかく掘り起こすぞ!」


二人は埋まっている人間に声をかけつつ、工具を使って周りのアンドロイドの残骸をどける。次第に体が見え始めたのを好機と見た二人は、専用の工具で残骸を持ち上げ固定。引っ掛かりがないことを確認し、二人係で引き抜く。


「せーのっ!」


力んだものの、思いのほか簡単に抜けたことで、二人はしりもちをついてしまった。


「いてて……おい大丈夫か?」


「こっちは何ともないが……見ろよこれ……」


二人は引き抜いた人物を見る。


透き通るような白い肌、まだ幼さの残る整った顔立ち。風にたなびく白銀の髪に、透き通るような青い目を持った、まだ10代前半ほどであろう女の子が出てきた。身体に出血や負傷は見られないが、廃棄物の中にいたということもあり全身が汚れているうえに、身にまとっている服もぼろぼろだ。


そんな彼女を驚かせないよう、髭の作業員は優しく声をかける。


「お…お嬢ちゃん…?大丈夫かい…?」


「……うん……だしてくれてありがとう」


「お、おう、全然いいんだけどよ……名前とか言えるか……?」


「なまえ……わたしのなまえ……わからない……」


「じゃあ、どこから来たとかは?」


「それも……わからない…」


「そりゃ困ったな……」


「おいどうする?なんもわかんねぇなら、どうしようもなくないか?」


「うーん……とりあえずいったんこっちで保護して、後から本部に引き渡すしかないだろ…」



二人が少女について話していると、突然少女が口を開いた。



「ふたりとも……すぐにげて…!」


「へ?」


突然、周りのがれきが音と砂ぼこりを立てて崩れていく。


「うぉ!?」


「な、なんだぁ?」


砂ぼこりがやんだタイミングで、確認のために髭の作業員が崩れた山に近づいてみると、突如がれきの中から金属質の腕が飛び出してきた。


「うわぁ!?」


すると、それに呼応するように、内部から無数のアンドロイドががれきをかき分け這いずり出てきた。


もともと廃棄されるものだ。腕がないもの、下半身がないもの、頭の回路が露出しているものなど、各々が大破し、もう動けるはずのないものばかりだった。

二人があっけにとられている間にも、アンドロイドの数は次第に増していく。アンドロイドたちは、がれきから出て即座に三人のほうに顔を向けると


「テキヲ…カクニン……センメツセヨ…」


「センメツセヨ…」


「センメツセヨ‼」


無機質な機械音声で同じフレーズを繰り返しながら、ギシギシと駆動音を立て、遅い速度ながらじわじわとにじり寄ってきた。


「なんだこいつら!壊れてんじゃねえのかよ!」


「どんどん出てくる……ここまでの刺激は求めちゃいねえぞ!」


「言ってる場合か‼指令センター!アンドロイドが動き出した!コードレッド!繰り返す!コードレッドだ!wdoに連絡してくれ!」


オールバックの作業員は無線で本部に救援を求めるが、そうしている間にも動き出すアンドロイドの数は徐々に増えていく。


「ダメだ逃げるぞ!!」


二人は少女の腕を引き、逃げようと振り返る。しかし、その眼前にはうずたかく積まれた残骸の山があり、進めない。


「こっちはダメだ!横から回って…」


話しながら三人は右に歩を進めようとするも、すでにアンドロイドが道をふさいでいた。退路を断たれた三人は後ろに下がるが、残骸の山が行く手を阻む。


ついには四方を囲まれ、目前まで迫っていた。


「こりゃもう駄目だな、俺たち……」


「センメツセヨォォォ‼」


無機質な機械音声とともに眼前まで鋼鉄の腕が迫る。二人が身を寄せ死を覚悟した


次の瞬間



ビュン!!



二人の顔と顔の間から水色のレーザーのようなものが空を切り、眼前にいたアンドロイドの壊れかけの頭を焼き貫く。頭が破壊されたアンドロイドは動力を失い、その場にガシャリと崩れ落ちた。二人が茫然自失としていると、少女が叫ぶ。


「ふたりとも!しゃがんで!」


その声を聴き二人は少女を見た。


少女の目は、両目が見ほれるほどきれいな水色に光っている。しかし、目から何かを撃ったわけではないらしい。彼女の右上に浮遊している謎の物体が、とがった先端から白い硝煙を出しているからだ。


呆気に取られていると、彼女の後ろから同じ形状をした複数の浮遊する物体が出現した。数にして15機はあるだろう。

浮遊物体は出現するや否や、レーザーポインターでアンドロイドたちに照準を向ける。その照準は、すべてアンドロイドの核となる回路がある場所、頭と胸に向いていた。突然のことにアンドロイドたちも驚いていたが、即座に警戒し身構える。


二人が言われた通りその場にしゃがみこむと


「私を助けた人たちを……傷つけることは許さない!!」


その言葉をきっかけに浮遊物体から大量のレーザーが一斉に発射された。


一発一発が1ミリの狂いもなく、アンドロイドたちの頭や胸を貫く。とてつもない速度で絶え間なく発射されるレーザーに、先ほどまで身構えていた大量のアンドロイドたちは「グアッ」「ギャッ」などの短い断末魔を上げるが、レーザーの発射音にかき消されていく。


次第に、周りを埋め尽くさんとするほどひしめき合っていた鉄の亡者たちは、水色の一閃により、長い時を待たずしてすべてが鉄くずと化した。




発射音と駆動音のような機械質な音が止み、しばらくして二人は立ち上がる。顔を伏せつつ隙間から見てはいたものの、眼前に広がる光景を後ろにいる少女がやったものとは、どこかまだ信じられないでいた。先ほどまで浮遊していた物体は、彼女の背中に集まると煙のように消えてしまっていた。


「…すんげぇ……いくら壊れていたとはいえ、あの量のアンドロイドをこんな短時間で…」


「いや、そんなことより……お嬢ちゃん、あんたいったい何者だ…?あの浮いてるのはどこから出した?」


そんな二人の問いに、少女は困惑しつつ答える。


「わたしは……何者なのかはわからない。背中のも、ふたりを守らなきゃと思ったら出たの」


何もわからずじまいの少女。しかし、助け出してすぐの時よりも声が張っていた。どこかうつろだった目も、いまははっきりとしている。先ほどの行為が、彼女に何かを思い出させたのだろうか。


「まぁ、詳しいことは俺らにゃわかんねぇだろうし……ひとまず本部に連れて行こうぜ」


「あ、あぁだがその前に……」


そう言うと、ひげの作業員は自分の着ていた上着を少女に羽織らせる。戦闘の際に出した浮遊物のせいで、背中の部分がバッサリと破け、着ていた服が今にも落ちそうだったのだ。


「と、とりあえずこれ着ときな。寒いだろうし……それに………服が落ちそうだ」


「私は別に気にしないよ?」


「俺たちが気にするんだよ!そんな恰好で歩かれたら心配だぜ……」


「……そうなの?」


「まぁ……そうだな……(咳払い)とりあえずお嬢ちゃん、一緒に来てくれるか?助けてくれた礼もしたい」


「うん、わかった」


そういって3人が歩き出そうとすると



「気持ちはわかりますが、ひとまず全員動かないでください」



突如、透き通った男性の声が後ろから聞こえた。


振り向くと、一人の男が残骸の陰から現れる。

特殊部隊が身に着けるような装備に、地面につきそうなほどの腰マントを身に着け、ヘルメットと近未来的なフルフェイスマスクを装着した人物。手には、あまり見ない形をしたハンドガンらしき銃を二丁携えている。


その場の全員が、警戒したように見つめる。少女もキッと男性をにらみつけ、先ほどと同様、鬼気迫る表情に変わった。


と、そんな三人の様子を見たフルフェイスの男性は「おっと」軽く咳ばらいをすると、ホルスターに銃をしまい、気さくに話し始めた。


「申し遅れました。私は『WDO』のエージェント『サム・フランシス』です。先ほど、複数の暴走したアンドロイドが出現したとの報告を受け、現着しました」


「WDO!?よかった!お嬢ちゃん、この人は味方だ!」


「……そうなの?」


オールバックの作業員の穏やかな表情を見て、少女は戦闘態勢を解く。


その様子を見たサムと名乗る男性は、軽く膝をかがめて少女に軽く手を振る。


が、すぐに元の姿勢に戻ると、咳ばらいを一つして再び話し始めた。


「ですが……該当するアンドロイドは一切見受けられない。そして、先ほどこちらから異常な光と音を複数確認したので、駆けつけてみるとこの通り……いったい何があったのか、どなたか説明していただけますか?」


「あ、あぁ。それなら、全部彼女が……」


作業員の二人は、先ほどまで眼前であったことを興奮しながらも事細かにサムに説明した。サムは二人の話を聞きながら、腰に付いているポーチから手帳とペンを取り出し、熱心にメモをとっている。


「なるほど……彼女が守ってくれたと。素性についてはなんと?」


「それが……武器のことはおろか、自分の名前すらわからないらしく……」


「ただ、さっきより声も目もはっきりしたよな。何か関係があるのかも」


「そういえば確かに」


「なるほど……」


二人の話を聞いたサムは、メモ帳とペンをポーチにしまいなおすと、少女に近づき、目線を彼女に合わせて話しかけた。


「ねえ、お嬢ちゃん。まだ、自分の名前とかは思い出せないかい?」


「……うん……でも、さっき二人に助けてもらったときは、頭にもやがかかってた感じだった。けど、今はない」


「そうか……」


サムはあらかたの聴取を終えると、腕についている小型のパッドのようなものでどこかに連絡を取り始めた。時折検査、保護といった単語が聞こえることから、この少女のことについて話しているのだろう。

ひとしきり通信を終えたのを見計らい、オールバックの作業員がサムに声をかけた。


「あのぉ……この子いったいどうするんです?身寄りもないみたいだし。」


「ん?あぁ、そうですね……素性がわからない以上、どこかで面倒を見なければなりません。それに、お話にあった兵器の件もありますので、当分は我々WDOのほうで預かる形になります。彼女の身元や親族の方が確認でき次第、引き取っていただくことになるでしょう」


その言葉を聞き、二人は安堵のため息をつく。


「それならよかった……お嬢ちゃん。これからはこのお兄さんの言うこと聞くんだぞ」


「助けてくれてありがとうな。良い子にするんだぞ」


二人は、少女の頭をなでる。


しかし、少女はどこか離れたくないようだった。


「……ここにいちゃダメ?」


その言葉に、作業員の二人は少し困った表情を浮かべる。しかし、すぐに笑顔で少女に向き直った。


「ここにいると、お嬢ちゃんは自分のこともよくわかんないまま、どこかに預けなきゃならなくなっちまう。でもな。このお兄さんについていけば、自分のことが何かわかるかもしれねぇ。そのほうがいいだろ?」


「それに、ここは寒いし飯もまずい。WDOならうまい飯と温かいベッドで寝れる。そっちのほうが断然いいさ」


「でも……」


まだ迷っている彼女に、ひげの作業員は笑顔で背中を叩く。


「落ち込むなって!こんなところでよけりゃあ、またいつでも遊びに来ていいからよ!」


「おうとも!俺たちいつでも待ってるからな!」


「!……うん!」


二人の言葉に、少女の顔は明るくなる。

そのタイミングを見計らって、サムは少女の手を引いた。


「さ、お嬢ちゃん。行こうか」


「うん。よろしくね、サム」


「もう名前を憶えてくれたのかい?ありがとう」


嬉しそうにお礼を言うサム。しかし、あることが引っ掛かっていた。


「そうだな……君のことも名前で呼びたいけど……わからないんじゃなぁ……そうだ!君のことを名前がわかるまで『アナ』とよんでもいいかな?」


「アナ……とても素敵な響き…」


「気に入ってくれたならうれしいよ!それじゃあ改めて……僕はサム。これからしばらくの間よろしくね、アナ」


「よろしく」


軽い握手を交わすと、そのままサムとアナは廃棄場の正門へ向かう。せっかくだからと、二人も見送りに来てくれた。アナは、再度二人にお礼をし二言三言かわすと、迎えに来たWDOの車に乗り、その場を後にした。


遠ざかっていく黒い車を見送り、ようやく二人に平穏が訪れる。時計を見ると、すでに20時半を回っていた。


「いやぁ、一時とはいえ、引き取り先が見つかって良かったなぁ」


「ほんとほんと。それにしても…なんであんな女の子がこんな廃棄場なんかにいたんだ?捨てるにしたっ

てもっと場所があったろう。かわいそうに……」


「まあ何とかなったんだし一件落着だろ。さ、仕事仕事~っと」


「……お前、10ダリルのことうやむやにしようとしてるだろ?きっちり全額もらうからな!」


「覚えてやがったか…こんなことあるとは思わねぇだろ?だからチャラにしてくれよ、な?」


「絶対嫌だね!これに懲りたら今度から発言にゃ責任を持ちな!」


そうして二人は元の退屈な日常に戻るため、自身の持ち場に歩を進めた。しかし、ひげの作業員の中に一抹の疑問が残る。


(それにしても…なんでアンドロイドたちは急に動き出したんだ…?ほんとにただの不備だったのか…?)


しかし、感じた疑念は今の段階では解消のしようもない。ぐっとの飲み込み作業に戻るのだった。



こうして、廃棄場で起きた一件は幕を閉じた。そしてこの一件をきっかけに、世界がまた目まぐるしく胎動する大きなきっかけとなる。…………だが、それがわかるのはもっとずっと先のお話。
















同日深夜



一人の作業員がD-4セクターにいた。ひげの作業員だ。彼はアナたちが正門に向かう直前にサムにあることを聞いていた。


「今回動いたアンドロイドはどうするんです?」


「それでしたら、原因を調べるために後ほどWDOの回収班がうかがって、全機回収することになると思います。所長にも伝えておきますから、そのままにしておいてください」


これを聞いた彼は、偶然近くに転がっていた起動したアンドロイドの無傷の頭を、近くの残骸の山にけり入れたのだ。その頭は、その後すぐにやってきたWDOの回収班にばれることなく、廃棄場に転がったまま。


探求心の高い彼は、この頭を調べて謎を解こうと無断でセクターに侵入し、ヘッドライトであたりを照らしながら、素人ながらにアンドロイドを調べていた。


ここ(Dセクター)に運ばれてくるアンドロイドは、コアの回路が分離させられたのをチェックされているものしかこないはず。なのに…)


彼が見ているアンドロイドの頭部には、まだ動く回路がしっかりと残っていた。


軍用のアンドロイドを除いて、大抵のアンドロイドは頭と胸にあるコア回路が無事であれば、どんな状態でも行動できる。その回路がDセクターに運ばれた時点で綺麗に残っていること自体、異常なことなのだ。


(回路専用の検知器もあるし、それにこの量……あきらかに見落としの範疇を超えている。しかも、新品みたいに綺麗だ……)


ふと、彼の頭に不穏な考察がよぎる。


(新品……?まさか、誰かが人為的に直したのか?なんのために?)


そんなことを考えながらさらに回路をいじっていた作業員Bが、不可解な点を見つける。


「……ん?」


思わず声を出してしまうほどの異常。


内部のむき出しとなっているコア回路の奥。かき分けなければわからないようなほどの最奥に、黒と紫色のチップが差し込まれていた。様々なセクターを移動しながら、ほぼすべての業務をこなしてきた勤続9年になるベテランの彼ですら、こんなチップは今まで見たことがない。


(なんだこりゃ?最近のアンドロイドのか?でもこのアンドロイドは第3世代のやつ…こんなもの見たことないぞ……)



「オイ…」



ひげの作業員が思考を巡らしていると、背後から低い少しざらざらとした声がした。


アンドロイドの部品はどれも高く売買されるため、スラムや貧困層の人間が窃盗目的で廃棄場に侵入するケースも少なくはない。そのため、夜になると警備員が数名配置されるのだ。恐らく警備員に気づかれたのだろうと彼は考える。


(しまった……カメラの死角をついてきたはずだが、どこかで写っちまったか……こりゃ始末書ものだな……)


すぐさま弁明を図ろうと、取り繕った笑顔と余所行きの声で振り向きながらしゃべり始めた。


「い、いやぁすいません。ちょっと調べたいことが…え…?」


振り向いた彼の身に着けていたヘッドライトが声の主の全容を照らし出す。



170㎝ある彼が、かなり見上げなければならないほどの巨体を有し、右手に先端が淡く深い紫色に光る棒を握っている。その棒ですら190cmはあるだろう。そして、異常に長い漆黒のローブと仮面を身に着け隠れてはいるが、体の至る所からギシギシと機械音を響かせ、ローブの隙間から配線をのぞかせている。



それは明らかに人ではない。大型のアンドロイドだった。



「な……え……は……?お前、どこから」


作業員が言葉を言い終える前に、アンドロイドが今にも握りつぶさんとするほどの力で彼の頭をつかみ軽々と持ち上げる。


突然の激痛にもがく作業員をよそに、アンドロイドはゆっくりと、それでいて震えるような低い声で話し出した。


「余計な詮索ハするもノジゃない。タトえ好奇心にひカレたとしてモ……ソれが長生キの秘訣だ。来世で生かストイい。人間」


そう言うと、アンドロイドはためらうことなく、易々と作業員の頭を握りつぶした。辺りに赤黒い鮮血が飛び散り、体はボトリと力なく地面におちる。


アンドロイドは左手にべったりと付いた血を勢いよく振り落としてから、作業員がいじっていた頭を拾い上げると懐にしまい、ぽつりとつぶやいた。


「もウ少シだ…待っテイてクれ。同胞たチヨ…」


身体が落ちたはずみに、作業員のポケットから顔をのぞかせた10ダリル硬貨が、月明かりで輝いていた。


to be continued

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― 新着の感想 ―
ここまで読ませて貰いました! 優しいおじさん(泣き) バタフライエフェクトって単語好きで そこから始まる歴史語りが面白かったです アンちゃんは何者で これから一体何が起ころうとしてるのか まだまだバタ…
テンポ抜群で一気読みでした。廃棄場の救出と浮遊砲の無双が爽快で、終盤の巨体アンドロイドの不穏さにゾクッとしました。
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