交差する二人
ゼノンがアナを弾き飛ばした直後、アロンから数え切れぬほどの光弾が出現し、アナに向かう。
「数で押しつぶす!」
「効かない!!」
その光弾の波からアナを守るように、ラプターが五機、前に出ると同時に青色のエネルギー膜を展開する。
【ラプターズ プロテクトシールド!!】
ラプターから展開された青い膜はアナを囲み、光弾の弾幕を受ける。
すさまじい爆発音とともに、周囲に煙が立ち込める。
その煙を切り裂くように、数本の青い光線がゼノンめがけて照射された。
だが、ゼノンが杖を前に突き出すと同時に、紫色に光る六角形の膜が出現し、アナの光線を防いだ。
攻防一体。二人の絶え間ない攻撃は、互いの防御によって防がれる。
だが、手数による拮抗は、徐々にゼノン優勢になりつつある。
〔アレス プラズマレイン〕
声に反応したアレスの触手が光線銃のように変化し、名の通り雨のごとく光線を掃射する。アナは再びラプターで攻撃を防ぐが、絶え間ない光線の波に、身動きをとれずにいた。
アレスという援護。実力が拮抗状態にある二人の戦いにおいて、数のアドバンテージは勝敗に直結する大きな要因であった。
(光線が波のように…!動けない…!)
絶え間ない光線を防ぐことで生じる光で、アナの視界が白く染まる。
それをゼノンは見逃さない。
「隙だらけだ」
アナの背後から、ゼノンの声が聞こえる。
アナが振り返ると、ゼノンが自身の腕にエネルギーを溜め、拳を引き絞っていた。アレキサンダーにしたように。
〔ヴォイドフィスト!〕
「同じ手はくらわない!!」【ラプター ユーズトリプル ロケットパイル!!】
エネルギー膜をまとった三機のラプターが、ゼノンの拳とぶつかり合い、青紫の衝撃波が辺りを覆う。
衝撃によって、二人に期せずして間合いが生まれる。と同時に、ゼノンは思わず感嘆の声を上げた。
「これを防ぐか!」
「一度見た攻撃は、私には効かない!!」
「そうか…ならば手法を変えねばならんな…!」
突然、ゼノンはアロンの石突を鳴らす。すると、アレスが流動状に変形、ゼノンの杖と腕にまとわりつき始めた。
次第にアレスは形を変え、腕と杖に張り付いた。
「本来…アレスはアンドロイドや生物を強化するためのもの。一粒のナノマシンで、身体能力を極限まで高める」
アレスに張り付かれたアロンとヤールングレイプルが、次第に変形し始める。純白に輝いていたヤールングレイプルの色は白銀に変わり、伸長した溝から漏れ出る紫色の光はより濃く、そしてより邪悪に光る。
アロンも、全体を銀色のコーティングで身を包み、先端が三又に別れると、まるで王冠のような形状に変化した。
「そんな代物を…これほどの量、武具の強化に使ったのだ。しかもロストウェポンに…」
次第に変形は止まり、ゆっくりとなじんでいく。
「楽しみだ。どれほどの力を得られるのか!」
完全に融合したロストウェポンたち。その見てくれに、もはや神聖さはみじんもなかった。
「さぁアナ。これを受け止められるかな?」
変形が完了すると同時に、ゼノンから漂う不気味な覇気が、より一層濃度を増す。
しかし、アナはひるむことなく、一歩前に出た。
「どんなものでも受け止めるわ。あなたを止めるためなら!!」
「そうか…ならば心行くまでぶつかり合おうか!!」
ゼノンはこぶしを握る。と、指の関節部にあるビーム砲から紫色の縄が四本、だらりと垂れる。その縄もまた、稲光をまとっていた。
「貴様のラプターの使い方を見て、エネルギーの解釈が広がった。本来エネルギーの放出と吸収、変形のみが可能だったヤールングレイプルだが…アレスによって強化された今ならば、貴様のラプターと同じことができよう!!」
〔ヴォイドウィップ〕
ゼノンが腕を振るい、しなるエネルギーの鞭が、アナめがけて振り下ろされる。受けようとアナはラプターで再びシールドを展開する。
だが
バリン!!
ゼノンの鞭が接触した直後、ラプターのバリアが音を立て砕けた。
(破られた!?)
それでもなお勢いが止まることなく鞭は迫る。とっさにアナは回避し難を逃れるが、バリアを展開していたラプターは鞭に直撃。地面に叩きつけられてしまった。
「さすがアレスだ…素晴らしい」
(威力が増してる…これ以上は受けられない…!)
アナが考えている間に、ゼノンは再び腕を振るう。鞭の速度はさらに勢いを増し、すさまじい速度でアナに迫る。
「受けれないのならよける!」
アナが走り跳ぶと同時に、ラプターが変形し足に装着。軽やかなスピードと身のこなしで鞭をよけ、ゼノンに迫る。
しかし
直後にゼノンが腕を引いたかと思うと、アナの背中に強い衝撃が走る。
「っ!!」
「鞭は戻す時が最も速度が出るものだ」
アナはとっさにラプターを間に挟み、ある程度衝撃を緩和させた。しかし、それでもなお力は殺しきれない。激しい痛みがアナの体を駆け巡り、一瞬思考を鈍らせた。
そこにすかさず、ゼノンが拳を叩きこむ。
〔ヴォイドフィスト!!〕
拳の接着と同時に、紫の衝撃波がアナを吹き飛ばす。何とかラプターを使ってブレーキをかけるが、相当のダメージを食らってしまった。
「はぁ…はぁ…はぁ…」
「どうしたアナ?息が上がっているぞ?もう限界か?」
「ふうぅ……まだまだ!!」
再びアナの目が青く光る。と同時に、アナは三度、ゼノンに向かって突進する。
「直進の一辺倒か!」
「正面からぶつかるなら!これが一番いいってレオンに教わったもん!!」
「くどい!!」
ゼノンは再び腕を向ける。同時にアナも、五機のラプターの照準をゼノンに向けた。
【ラプター パイルフラッシュ!】
ラプターから高速の光線弾が放たれる。だが、それもゼノンは予期していたかのように、焦ることなく杖を向けた。
〔アロン エネルギードレイン〕
一発はゼノンの肩に命中し、彼の肩を貫いた。が、四発が紫の電流につかまり、アロンに取り込まれる。すると、トライアングル上のアロンの先端に、青色のエネルギーが球状に凝縮され、ふわふわと浮き始めた。
ゼノンは、貫通した自身の肩をちらりと見ると、再び目線をアナに据える。
「貫通力の強い速度特化の技か…吸収して正解だった」
すると、アロンの先端が縮小し始め、中の青い光弾が目に見える速度で回転を始めた。そして、回るごとに光弾は先鋭化されていく。
「お返しだ」
〔リリース スピニング〕
アロンの先端が、まるで縛りを解かれたかのように広がると同時に、先鋭化された光弾が発射される。その速度は、アナが発射したときよりも早い。弾が数化する空間が、速度を持った光物質の影響で、ねじれてゆがむほどに。
光弾が、高速でアナの眼前に迫る。
しかし、彼女の顔には笑みが浮かんでいた。
「それを待ってたの!」
直後、アナと光弾の間を青い膜が遮る。青い膜はまるでトランポリンのように伸びながら、光弾を受け止めた。
「なに!?」
「やっぱり!あなたの杖は、物体を中に入れて初めて機能するもの!さっきみたいに物を持ち続ける構造じゃないから、”中の物体を活用した攻撃”じゃなく、”中の物体そのもの”で攻撃してくるんじゃないかって思ったけど、あってた!」
「確証はなかったはずだ…」
「あなたの腕が機能を変えたからね!その杖も何か変わったと思ったの!!」
(たったそれだけで…何という冷静さと考察力…!)
「せっかく返してもらったけど、遠慮するわ!」
アナの声に反応するように、青い膜が今までの衝撃を跳ね返し、光弾をゼノンへ飛ばす。
「ならばもう一度!!〔エネルギードレイン!!〕」
ゼノンは再び光弾を取り込もうと、アロンを向ける。再び紫の電流が光弾に伸びていく。しかし、四発分の威力が凝縮され、回転と更なる速度が付与された光弾は、アロンが伸ばす電流を引きちぎり、そのまま先端とぶつかった。
バガァアン!!
光弾が接触するや、アロンの先端をねじり壊し、まるでドリルのように突き進んでいく。そしてゼノンの手のひらと接触した直後、大爆発を引き起こした。
けたたましい轟音と爆風、立ち上る土煙に、思わずアナは顔を覆う。しかし、その目は確かにゼノンがいた場所を見つめていた。
爆風によって、すぐに土煙は晴れ、ゼノンの姿をさらけ出す。
だが、ゼノンに目に見えるダメージは入っていなかった。
「そんな…あの威力の光弾を受けて無傷…!?」
「そうでもない。今ので手の装甲が38パーセント損傷した。もっとも、戦闘継続に支障はないがな」
そう話しながら、ゼノンは自身の手の動きを確かめるように、握って開く。アナから見ても、その動きに違和感は感じられなかった。
(工場の時は腕ごと無くなってたのに…)
アナが苦い顔をしていると、ゼノンが肩を回しながら話し出した。
「さて…アロンが破壊された。貴様と同様、受けることは難しそうだな」
ゼノンの腕に、再び紫色の電流が走る。
「もはや遠距離は貴様の土俵…ならば、こちらは肉弾戦で行くとしようか」
〔ヤールングレイプル ボディコネクト オーバードライブ〕
突然、ゼノンの体から白い蒸気が放出され始めると同時に、体中から紫色の電流が流れ始めた。
「さて。行こうか」
つぶやいた瞬間、20メートルほど距離があったアナとの間を、ゼノンは衝撃波が発生するほどの速度で埋める。
〔ヴォイドフィスト アクセラレート〕
目にもとまらぬ速さで、アナの体にゼノンの拳が直撃する。その痛みにアナが顔をゆがめる暇もなく、文字通り目にも止まらない連撃がアナに叩き込まれる。
「が!!ああっ!!」
アナの苦しむ声が、部屋全体にこだまする。
その声を聴いてか、だんだんと他のメンバーたちの意識が戻り始めた。
「ぐ……颯…大丈夫かい…?」
「動けない……体が…しびれて……」
「なら、そこで休んでてくれ。僕はアナの援護に……ぐ…」
「無理しないほうがいい…僕を受け止めたときに…肩を痛めてる……感触でわかるよ…」
「それでも、行かないと…!彼女一人に……重圧を背負わせるわけにはいかない……!!」
「……いや…彼女だけじゃない…」
そういって、颯は入口に目をやる。その先を見たサムは、驚愕と同時に思わず笑みがこぼれた。
「!彼らは…!」
二人が話している間にも、ゼノンの連撃は絶えることなくアナを襲う。アナはラプターを使って抜け出そうと試みるが、絶えず体全体を駆け巡る激痛がラプターへの命令を阻害する。
「まだ耐えるかアナぁ!!」
なおもゼノンは連撃を止めない。それどころか、体がヤールングレイプルのエネルギーに順応し始めたのか、次第に速度と威力が上がり始めていた。
ボルテージが上がるゼノンとは裏腹に、この数分全身が激痛にさらされているせいで、アナの意識は限界に近づいていた。
(痛い…痛い…痛い…意識が…もう…)
しかし、彼女の目に灯る覚悟は、それを許さない。
(ダメ…私が折れたら…大勢の人が悲しむことになる…!)
「そんなこと…そんなことぉ……!!」
「!」
「そんなこと絶対させはしない!!!」
殴打を受け続けてなおなくなることのない気迫に、ゼノンの攻勢の手が一瞬緩む。
その瞬間、誰かがすさまじい速度でアナを抱き上げていった。
その者の姿を見たゼノンに、憎悪にも似た怒りがこみ上げる。
「あ…あなたは…」
「……何のつもりだ…ギガス!」
「ゼノン……いや、ガーディアン。もうやめましょう」
「やめるだと!?今更何を言っている!気でも狂ったか!!」
「…違う。この子を信じるだけだ」
「なに?」
「…俺はさっき、そこで転がっている大男に言われたんです。『失敗を生かして、一歩踏み出せ』と。俺は一度失敗した。そのせいで俺の部下を何人も死なせた。たくさんの人を殺した。小さな女の子さえも…もうそんなことは起こってほしくない……そんな失敗をした俺を救ってくれたあなたに、俺と同じ失敗をしてほしくない…!!」
「虐げられている同胞たちはどうなる!!今ここで我々が手を引けば、もっと多くの”失敗”が生まれるぞ!!」
「だからこそ…彼女を信じてみようじゃありませんか…」
続いて、入口から声が響く。声の主はカナロアだった。
「カナロア…!お前まで…」
「ゼノン様。あなたは一度、彼女に可能性を見出した。もちろん、我々に加わるかもしれないという考えの元、見出したのかもしれません。しかし…彼女にある可能性はそれだけではなかった。でしょう?」
「…何が言いたい」
「彼女を信じてみましょう!屈託のない清き心で、すべての者たちが手を取り合って平和へと歩んでいける…彼女はそう信じている!今もなお!!」
「人間嫌いの貴様がいきなり何を言い出すかと思えば…血迷ったか…!今まで何度人間どもに裏切られた!!何度話を聞いてもらえなかった!!そんな小娘の話を信じたところで、結果は同じだ!!」
「彼女は工場であの光景を見て、そして貴方の主張を聞いてなお、手を取り合うことをあきらめていなかった!ここに来た時も!信念の固さは、あなたに通ずるものがある!それほどまでに強く何かを思う人間は、今までただの一人もいなかった……だからこそ、信じてみませんか!あの子の思い描く平和の道を!!」
ゼノンは二人の顔を見つめる。何かが違う。今まで共に過ごしてきた二人とは、何かが。ただそれが何なのかは、まだわからなかった。
「ゼノン……まだ止められるわ…」
と、ゼノンの腕の中で、息も絶え絶えにアナが話し始める。
「みんなが信じてる…みんなが望んでる…!平和への道を!」
その言葉に、ゼノンの動きが止まる。
「お願い…私を信じて……私たちをもう一度信じて!」
だが、帰ってきたゼノンの返答は、ため息だった。
「…どこまで行っても平行線だな…君とは」
「平和的な解決はできる。私も、ギガスもカナロアも、みんな信じてる。まだ私たちの線は交われる!まだ変われるの!」
「二人とは違う……私はもう……信じることなどできない」
「それでも信じて一歩進むことが大事なの!たとえどれだけいばらの道だとしても!」
「今更信じたところで何になる!決起を始めた以上、もはや平和的解決など露と消えた!この先待つのは破壊と破滅だけだ!」
「そうでもないみたいだよ…」
突然、アナの背後から声が響く。皆が目をやると、頭を押さえつつ腕の端末を見る、サムの姿があった。
「サム!無事だったのね!」
「ほかの皆よりはね…」
「そうでもないだと?どういう意味だ」
「それは…見ればわかるさ」
サムは腕の端末の設定を変え、プロジェクションモードに切り替える。その画面に映っていたのは、WDOの会見風景だった。
数分前 WDO本部 会見室
「世界中の皆さま、こんにちは。私は京極源一郎。WDOの長官の一人です。現在、世界各地で激しい混乱が続いていることとは思いますが、どうか今一度、足を止めてこの映像をご覧いただきたい。では……」
そういって源一郎は会見席から降りる。
続いて上がってきたのは、アンドロイド。しかし、アナには見覚えがあった。
登壇したのは、以前アナに心動かされ、アイアンエデンの情報をもたらしてくれたアンドロイド……元アイアンエデン信者、レックスだった。
to be continued




