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目覚めた少女

2900年 ガーデハイト合衆国のとあるアンドロイド廃棄場…大量に積まれたアンドロイドだったものの山の中で、ぽつりと目覚める1つの意識があった。


(…暗い…それにすごくうるさい…体も思うように動かない…ここは、どこなんだろう…)


どうやら、アンドロイドの残骸の中に埋もれてしまっているようだ。幸いにも左手は外にあるらしく、動かすことができる。目覚めた何かは、誰かに気づいてもらわんと必死に左手を動かす。


(おねがい…誰かいるなら気づいて…)


同廃棄場、Dセクター休憩所 19時


二人の作業員が休憩室でコーヒーをすすっていた。


「ったく、廃棄処理業なんかやってらんねぇよなぁ」


「まったくだ。前の大戦で大量のアンドロイドの残骸がでやがったせいで、休暇なしでやらされるんだからたまったもんじゃねえよ」


「しかも目も当てられねぇはした金でな」


「知ってるか?うちの廃棄場、よそより多く処理してるから国から多額の助成金が出るんだけどよ。設備に投資して人件費には一切当てねぇとさ」


「はぁ?マジかよ…なおさらやる気なくすぜ…あーあ、なんかこう…今が一変するような驚くようなことねぇかなぁ」


「俺は今のままで十分だよ。まだ食うのに困ってねぇし、世界はあくびが出るほど平和だ。向こう10年は何もなくても文句は言わねぇな」


「嘘つけ、毎日毎日口開くたびに暇だ暇だ言ってるくせに。お前が1時間後に暇だって言うのに10ダリル賭けてもいいぜ」


「失礼な奴だな。だったら1時間後まで言わなかったらほんとに10ダリルよこせよ!」


「ああいいとも。それまで言わずに堪えられ…」


そんな話をしていると、突如けたたましいサイレンが鳴り響く。何事かと身構えていると、付近のスピーカーからアナウンスが入った。


『作業員各員に通達!廃棄セクターD-4にて、人間のものと思わしき腕が確認された!繰り返す!廃棄セクターD-4にて、人間のものと思わしき腕が確認された!D-4付近の作業員は全作業を一時停止!至急確認に向かってくれ!』


「…10ダリルは俺のもんになりそうだな。」


幸いにも廃棄セクターD-4が管轄の2人は、急いで確認に向かう。


報告のあった現場に到着すると、アンドロイドの残骸が山となっている一部分に、夜間作業用のサーチライトが煌々と照らされている。近づいて確認してみると、確かにそこから人の腕らしきものがパタパタと上下し、まるで手招きしているように動いているみえた。どうやら見間違いではないようだ。


「おいおい…マジに人の手だぜ…」


「言ってる場合かよ!とにかく掘り起こすぞ!せーのっ!」


ある程度当たりのがれきをよけ、二人がかりで腕を引き抜く。すると思いのほか簡単に引き抜くことができ、二人はしりもちをついてしまった。


「いてて…おい、大丈夫か?」


「こっちは何ともないが…それより見ろよこれ…」


二人は引き抜いたものを見る。


透き通るような白い肌、まだ幼さの残る整った顔立ち、廃棄上に似つかわしくない淡く光る水色の衣服を身にまとった、まだ10代前半ほどであろう女の子が出てきた。身体に出血や負傷は見られないが、廃棄物の中にいたということもあり、全身が汚れているうえに、服もぼろぼろだ。


「お…お嬢ちゃん…?大丈夫かい…?」


「…だいじょうぶ…だしてくれてありがとう」


「お、おう、全然いいんだけどよ…名前とか言えるか…?」


「なまえ…わたしのなまえは…わからない…」


「じゃあ、どこから来たとかは言えるか?」


「それも…わからない…」


「わかんない?そりゃ困ったな…」


「おいどうする?なんもわかんねぇならどうしようもなくないか?」


「うーん…とりあえずいったんこっちで保護して、後から本部に引き渡すしかないだろ…」


二人が少女について話していると、突然少女が口を開いた。


「ふたりとも…すぐにげて…!」


「へ?」


突然周りのがれきが音と砂ぼこりを立てて崩れていく。砂ぼこりがやんだタイミングで、Bが確認するために近づいてみると、突如がれきの中から金属質の腕が飛び出してきた。


「うわぁ!?」


すると、内部から無数のアンドロイドががれきをかき分け這いずり出てきた。もともと廃棄されるものだ、腕がないもの、下半身がないもの、頭が半分しかないものなど、各々が大破し、もう動けるはずのないものばかりだった。次第に数は増していく。アンドロイドたちは、がれきから出て即座に三人のほうに顔を向けると


「テキヲ…カクニン……センメツセヨ…」


「センメツセヨ…」


「センメツセヨ‼」


無機質な機械音声で同じフレーズを繰り返しながらギシギシと駆動音を立て、遅い速度ながらじわじわとにじり寄ってきた。


「なんだこいつら!壊れてんじゃねえのかよ!」


「だめだ、どんどん出てくる…ここまでの刺激は求めちゃいねえぞ!」


「言ってる場合か‼指令センター!アンドロイドが動き出した!コードレッド!繰り返す!コードレッドだ!wdoに連絡してくれ!」


作業員Aは無線で本部に救援を求めるが、そうしている間にも動き出すアンドロイドの数は徐々に増えていく。

二人は少女の腕を引き逃げようと振り返るが、そこにはうずたかく積まれた残骸の山があり進めない。


「こっちはダメだ!横から回って…」


そういいながら右に歩を進めようとするも、すでにアンドロイドが道をふさいでいた。退路を断たれた3人は後ろに下がるが、残骸の山が行く手を阻む。ついには四方を囲まれ、目前まで迫っていた。


「こりゃもう駄目だな、俺たち…」


「センメツセヨォォォ‼」


無機質な機械音声とともに眼前まで鋼鉄の腕が迫る。二人が身を寄せ死を覚悟すると…


ビュン!!


二人の顔と顔の間から水色のレーザーのようなものが空を切り、眼前にいたアンドロイドの壊れかけの頭を焼き貫く。頭が破壊されたアンドロイドは、動力を失い、その場にガシャリと崩れ落ちた。二人が茫然自失としていると、少女が叫ぶ。


「ふたりとも!しゃがんで!」


その声を聴き二人は少女を見た。


少女の目は両目が見ほれるほどきれいな水色に光っている。しかし目から何かを撃ったわけではないらしい。彼女の右上に浮遊している謎の物体が、とがった先端から白い硝煙を出しているからだ。


呆気に取られていると、彼女の後ろから同じ形状をした複数の浮遊する物体が出現した。数にして15、6個はあるだろう。

浮遊物体は、出現するや否やレーザーポインターでアンドロイドたちに照準を向ける。その照準は、すべてアンドロイドの機能が停止する場所、頭と胸に向いていた。突然のことにアンドロイドたちも驚いていたが、即座に警戒し身構える。


二人が言われた通りその場にしゃがみこむと


「私を助けた人たちを…傷つけることは許さない!!」


その言葉をきっかけに浮遊物体から大量のレーザーが一斉に発射された。


1発1発が1ミリの狂いもなく、アンドロイドたちの頭や胸を貫く。とてつもない速度で絶え間なく発射されるレーザーに先ほどまで身構えていた大量のアンドロイドたちは「グアッ」「ギャッ」などの短い断末魔を上げるが、レーザーの発射音にかき消されていく。

次第に、周りを埋め尽くさんとするほどひしめき合っていた鉄の亡者たちは、水色の一閃によって長い時を待たずしてすべてが鉄くずと化した。


発射音と駆動音が止んでからしばらくして二人は立ち上がる。顔を伏せながらも隙間から見てはいたものの、眼前に広がる光景を後ろにいる少女がやったものとはまだ信じられなかった。先ほどまで浮遊していた物体は、彼女の背中に集まると煙のように消えてしまっていた。


「…すんげぇ…いくら壊れていたとはいえ、あの量のアンドロイドをこんな短時間で…」


「いや、そんなことより…おいお嬢ちゃん、あんたいったい何者なんだ…?あの浮いてる奴はどこから出したんだ?」


「わたしは…何者なのかはわからない。背中のも、ふたりを守らなきゃと思ったら出たの」


何もわからずじまいの少女ではあるが、引き抜いてすぐの時よりも声がはっきりとしていた。どこかうつろだった目も、いまははっきりとしている。先ほどの行為が何かを思い出させたのだろうか。


「まぁ、詳しいことは俺らにゃわかんねぇだろうし…ひとまず本部に連れて行こうぜ」


「あ、あぁだがその前に…」


そう言うと作業員Bが少女に、自分の着ていた上着を羽織らせる。先頭の時に出した浮遊物のせいで、背中あたりがバッサリと破け、着ていた服が今にも落ちそうだったのだ。


「と、とりあえず、これ着ときな。寒いだろうし…それに…服が落ちそうだ」


「私は別に気にしないよ?」


「俺たちが気にするんだよ!そんな恰好で歩かれたら心配だぜ…」


「…そうなの?」


「…まぁそうだな…(咳払い)とりあえずお嬢ちゃん、一緒に来てくれるか。助けてくれた礼もしたい」


そういって3人が歩き出そうとすると


「気持ちはわかりますが、ひとまず全員動かないでください」


突如、透き通った男性の声が後ろから聞こえた。


振り向くと、一人の男が残骸の陰から現れる。特殊部隊が身に着けるような装備と腰マントを身に着け、ヘルメットと近未来的なフルフェイスマスクを装着した人物が立っていた。

手にはあまり見ない形をしたハンドガンらしき銃を二丁携えている。その場の全員が見つめているとフルフェイスの男性は「おっと」軽く咳ばらいをすると、ホルスターに銃をしまい話し始めた。


「私はwdoのエージェント、『サム・フランシス』です。複数の暴走したアンドロイドが出現したとの報告を受け現着しましたが…該当するアンドロイドは一切見受けられない。そして先ほどこちらから異常な光と音を複数確認したので、駆けつけてみるとこの通り…いったい何があったのか、どなたか説明していただけますか?」


「それなら、全部彼女が…」


作業員の二人は、先ほどまで眼前であったことを興奮しながらも事細かにサムに説明した。サムは二人の話を聞きながら、腰に付いているポーチから手帳とペンを取り出し、熱心にメモをとっている。


「なるほど…彼女があなたたちを守ったのですね…。素性についてはなんと?」


「それが…武器のことはおろか、自分の名前すらわからないらしく…」


「ただ、さっきより声も目もはっきりしたよな。何か関係があるのかも」


「あぁ、そういえば確かに」


「なるほど…ねえ、お嬢ちゃん。まだ、自分の名前とかは思い出せないかい?」


「詳しくは思い出せない…でも、さっき二人に助けてもらったときは頭にもやがかかってた感じだったけど、今は感じない…」


「そうか…」


サムはあらかたの聴取を終えると、腕についている小型のパッドのようなものでどこかに連絡を取り始めた。時折、検査、保護といった単語が聞こえることから、この少女のことについて話しているのだろう。ひとしきり通信を終えたのを見計らい、作業員がサムに声をかけた。


「あのぉ…この子いったいどうするんです?身寄りもないみたいだし。」


「ん?あぁそうですね…素性がわからない以上どこかで面倒を見なければなりません。それにお話にあった兵器の件もありますので、当分は我々WDOのほうで預かる形になります。彼女の身元や親族の方が確認でき次第、引き取っていただくことになるでしょう」


その言葉を聞き、作業員の二人は安堵し、ほぅっとため息をついた。


「それならよかった…お嬢ちゃん。これからはこのおじさんの言うこと聞くんだぞ。助けてくれてありがとうな」


「おじさ…(咳払い)ということでお嬢ちゃん。”お兄さん”と一緒に行こう」


「うん…よろしくね、サム」


「もう名前を憶えてくれたのかい?ありがとう。そうだな…君のことも名前で呼びたいけど…わからないんじゃなぁ……そうだ!君のことを名前がわかるまで『アナ』とよんでもいいかな?」


「アナ…とても素敵な響き…」


「気に入ってくれたならうれしいよ!それじゃあ改めて…僕はサム。これからしばらくの間よろしくね、アナ」


「…よろしく」


そのままサムとアナは廃棄場の正門へ向かう。せっかくだからと、AとBも見送りに来てくれた。アナは再度二人にお礼をし二言三言かわすと、迎えに来たwdoの車に乗り、その場を後にした。遠ざかっていく黒い車を見送り、ようやく二人に平穏が訪れる。時計を見ると、すでに20時半を回っていた。


「いやぁ、一時とはいえ、引き取り先が見つかって良かったなぁ」


「ほんとほんと。それにしても…なんであんな女の子がこんな廃棄場なんかにいたんだ?捨てるにしたっ

てもっと場所があったろう。かわいそうに…」


「まあ何とかなったんだし一件落着だろ。さ、仕事仕事~っと」


「…お前、10ダリルのことうやむやにしようとしてるだろ?きっちり全額もらうからな!」


「覚えてやがったか…こんなことあるとは思わねぇだろ?だからチャラにしてくれよ、な?」


「絶対嫌だね!これに懲りたら今度から発言にゃ責任を持ちな!」


そうして二人は元の退屈な日常に戻るため、自身の持ち場に歩を進めた。しかし、Bの中に一抹の疑問が残る。


(それにしても…なんでアンドロイドたちは急に動き出したんだ…?ほんとにただの不備だったのか…?)


しかし、感じた疑念は今の段階では解消のしようもない。ぐっとの飲み込み作業に戻るのだった。



こうして廃棄場で起きた一件は幕を閉じた。そしてこの一件をきっかけに、世界がまた目まぐるしく胎動する大きなきっかけとなるのだった。



同日深夜、一人の作業員がD-4セクターにいた。作業員Bだ。彼はアナたちが正門に向かう直前にサムにあることを聞いていた。


「今回動いたアンドロイドはどうするんです?」


「それでしたら、原因を調べるために後ほどWDOの回収班がうかがって、全機回収することになると思います。所長にも伝えておきますから、そのままにしておいてください」


これを聞いたBは、偶然近くに転がっていた起動したアンドロイドの無傷の頭を近くの残骸の山にけり入れたのだ。その頭はWDOの回収班にばれることなく廃棄場に転がったまま。

探求心の高いBは、この頭を調べて謎を解こうと無断でセクターに侵入し、ヘッドライトであたりを照らしながら素人ながらにアンドロイドを調べていた。


(Dセクターに運ばれてくるアンドロイドはすべて動力回路が分離させられたのをチェックされているものしかこないはずだ。それなのに…)


Bがみているアンドロイドの頭部にはまだしっかりと回路が残っていた。軍用のアンドロイドを除いて、大抵のアンドロイドはこの回路が無事であれば、どんな状態でも行動ができる。その回路が綺麗に残っていること自体が異常なのだ。


(回路専用の検知器もあるし、それにこの量…あきらかに見落としの範疇を超えている。しかも、新品みたいに綺麗だ…誰かが人為的に直したのか…?なんのために?)


そんなことを考えながらさらに回路をいじっていた作業員Bが不可解な点を見つける。


「…ん?」


思わず声を出してしまうほどの異常。

内部のむき出しとなっている回路の奥。かき分けなければわからないような奥に黒と紫色のチップが差し込まれていた。様々なセクターを移動しながらほぼすべての業務をこなしてきた勤続9年になるベテランのBですら、こんなチップは今まで見たことがない。


(なんだこりゃ?最近のアンドロイドのか?でもこのアンドロイドは第3世代のやつ…こんなもの見たことないぞ?)


「オイ…」


作業員Bが思考を巡らしていると、背後から低い少しざらざらとした声がした。アンドロイドの部品はどれも高く売買されるため、スラムや貧困層の人間が窃盗目的で廃棄場に侵入するケースも少なくはない。そのため、夜になると警備員が数名配置されるのだ。恐らく警備員に気づかれたのだろうとBは考える。


(しまったな…カメラの死角をついてきたと思っていたが、どこかで写っちまったか…こりゃ始末書ものだな…)


すぐさま弁明を図ろうと、取り繕った笑顔と余所行きの声で振り向きながらしゃべり始めた。


「い、いやぁすいません。ちょっと調べたいことが…え…?」


振り向いたBの身に着けていたヘッドライトが声の主の全容を照らし出す。


170㎝あるBが、かなり見上げなければならないほどの巨体を有し、右手に先端が淡く深い紫色に光る棒を握っている。その棒ですら190cmはあるだろう。そして、地面につきそうなほどの長いマントと仮面を身に着け隠れてはいるが、体の至る所からギシギシと機械音を響かせ、マントの隙間から配線をのぞかせている。


それは明らかに人ではない。大型のアンドロイドだった。


「な…え…は…?お前、どこから…」


Bが言葉を言い終える前にアンドロイドが、今にも握りつぶさんとするほどの力でBの頭をつかみ軽々と持ち上げると、ゆっくりと、それでいて震えるような低い声で話し出した。


「余計な詮索ハするもノジゃない。タトえ好奇心にひカレたとしてモ…ソれが長生キの秘訣だ。来世で生かストイい。人間」


そう言うとアンドロイドはためらうことなく、易々とBの頭を握りつぶした。辺りに赤黒い鮮血が飛び散り、体はボトリと力なく地面におちる。アンドロイドは左手にべったりと付いたBの血を勢いよく振り落としてから、Bがいじっていた頭を拾い上げると懐にしまい、ぽつりとつぶやいた。


「もウ少シだ…待っテイてクれ。同胞たチヨ…」


身体が落ちたはずみにBのポケットから顔をのぞかせた10ダリル硬貨が、月明かりで輝いていた。


to be continued

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