135.旅立ち
「タキナ様、本当に行っちゃうのー?」
「サージに住めばいいのに」
「そうだよ!タキナ様があのお城に住めばいいじゃん!」
馬上に居る私を見上げ子供たちが口をとがらせ不満を口にしている。昨日のオルハントからの手紙の件で出発を急ぐことにした私達は、夜が明ける前にサージを出ようと騎士に先導されながら街を通り抜けようとしていたのだが、何処で聞きつけたのか待ち構えていたサージの住民が大勢、城の外に集まっていたのだ。なんとか人をかき分けて進もうとしていたのだが、城から出て200mほどの所でついに立ち往生してしまった。
まだ暗いと言うのに城から門までの大通りを松明を焚いて照らしてくれている。そして、その揺れる炎に照らされるのはサージ国民の不安げな顔、ここで投げ出すわけではない。やれることはやって区切りがついて出ていく。……とは言え、その不安げな顔を見てしまえば後ろ髪をひかれてしまう。私ってほんとおひとよし……。そんな事を考えていると、私達を見送るために出て来ていたロウレウスと騎士達が、見送りどころではなくなり集まり続ける民衆の波をかき分けてくれている。
「ロウレウス団長!これ以上は無理です!応援を呼びに行ってきます!」
「はぁ……仕方ない。頼んだ!!!」
そう言うと騎士の1人が城へと引き返していく、それを見送ったロウレウスが民衆に振り返り大声を張り上げる。
「お前達!タキナ様への感謝の気持ちはわかるが、タキナ様には成さねばならぬことがお有になるのだ。道を開けてくれ!」
「道を開けろ!!タキナ様方御一行が通れないではないか!」
そう言いながら騎士達が私達の馬の周りから人々を押しのけ遠ざけていく「ごめんね」とサージの民達に謝っていると、私の前に座っていたリリーちゃんが満足げにこちらを見上げてくる。
「タキナ様!タキナ様を崇め奉る国がまた一つ増えましたね!流石タキナ様です!人間は甘やかすとすぐ怠けてタキナ様のご慈悲にすがろうとしますが、突き放して独り立ちさせるのは大変良い事かと思います!」
「えぇ……リリーちゃん私そんなつもりで急いで出るわけじゃ……昨日話したオルハントからの報告の件で急いでるのであって……」
そんな事を話していると、私の真横に馬をつけて来たロメーヌが珍しくため息をついている。
「はぁ……タキナ様、サージはまた絶対に、絶対にまた来ましょうねぇー。良い男漁りどころじゃなかったのがほんとぉーーーに残念だわぁー」
「ロメーヌさん元気になった途端それですか……まぁ私も薬草の情報収集どころじゃありませんでしたけど……」
アレイナの落ち込んだ声が響き、私も苦笑いせざるを得ない。傷もすっかり癒えて本調子に戻ったロメーヌだが、リハビリ程度に外には出ていたが体力がなかなか回復せずにいたのだ。
「ロメーヌさんが元気になったのは非常によかったですけど、教育上よろしくなさそうですね」
ルークスも苦笑いしていると、すかさずロメーヌがルークスの馬の横に移動する。
「あらあらあらぁー、ルークス君よく見ればちょっと腕が逞しくなったんじゃなぁーい?喜んでお相手するわよぉー」
そう言いながらすり寄るロメーヌに、ルークスが真っ赤な顔をしながら、声にならない悲鳴を上げている。ルークスと同じ馬に乗っているグレンが「邪魔」と言いながらメロンパンを頬張りロメーヌを片手で押し返す。
「あぁーん!相変わらず冷たいグレン君!でもそこが可愛いぃー!」
「エルフごときがドラゴンに気安くするな」
「そうですよ、グレン様の性癖歪んだらどう責任取るんですか」
ソウジュ、レイテもそれぞれの馬上からロメーヌにヤジを飛ばす。
「お互い怪我していたけれどぉー!人型のドラゴンってやっぱり顔の良い男揃いよねぇー、ンフフッ!どうかしら?人族との経験とかしてみたくない?」
「弱い奴に興味ねー」
「異種族はちょっと……」
「いやぁーん!何事も経験は必要なのにぃー!そう思いませんタキナさ「思いません」」
「そんなぁーん!」
そんなやり取りをしていると一番最後尾におり、茶色のフードを目深に被った男が一人ワナワナと震えている。
「いい加減にしろお前ら!いつまでその茶番を続ける気だ!!いつまでたっても外に出れないし!!大体なんで俺までお前らについて行かなきゃならないんだ!俺は里に帰るぞ!」
切れ散らかすザイアスにソウジュとレイテが何キレてんの?みたいな目を向ける。
「おいっ!俺がおかしいみたいな目を向けるなっ!」
すると、レイテがいやいやだってーとザイアスを呆れた顔で見ている。
「タキナ様に修行をつけてもらうのが目的で来たんだよ。けど、相手はほとんどリリーさん、ハイランジアまでの道中の平原で魔獣を狩りながらであれば、タキナ様が相手にしてくれるって言うんだからそりゃ付いていくでしょ、ねぇーソウジュ」
「あぁ、人の姿で魔力を使いこなすのもまだまだだし、世界最強に修行つけてもらえるんだ。そりゃ付いていく」
「どぉー考えても!修行をエサにした魔獣狩りの手伝い要員だろうがっ!いいようにこき使われて!お前らはそれでいいのか!?」
「別に?畑耕せって言われるよりましだ」
「狩りなんて普段もやってることじゃないか、ザイアス」
「お前ら……チビにこき使われ過ぎて、感覚おかしくなってるぞ、ドラゴンの誇りはどうし「チビって言ったか?クソトカゲ?」」
反射的にリリーちゃんが振り返り、獣のような目で今にも狩り殺さん勢いでザイアスを睨みつけるリリーちゃんに、ザイアスがビクリと体を硬直させて口を閉じる。
ザイアスどんまい……。そう思いつつフォローするために私もザイアスへと視線を向ける。
「3人ともリリーちゃんとの訓練でかなり動きも良くなったと思います。私とリリーちゃんとではまた攻撃のパターンも違いますし、引き続きの練習という事で、狩りの方はついでですから、ねっ?ザイアス」
そう告げると、ザイアスが視線を逸らす。何故!!?と思うもつかの間
「タキナ様に気を遣わせるなよザイアス」
「そうだよザイアス」
「だっさっ」
ソウジュ、レイテ、グレンの3人から口々に追撃が入る。なるほど、同族からの冷たい視線&プレッシャーえぐい。苦笑いをしながら見守っていると、城の方からかなりの数の馬の蹄の音が響き渡る。




