第41話 貰う領地を決定した
俺が気になっていたのは、手紙にあった「領地の『候補』」という言い回し。
それについて聞いてみると……なんと、俺にはもらう土地を選ぶ余地があるらしいことが分かった。
「二つ?」
「そうじゃ。その二つの候補というのは……一つは北の大地・アイスストウム。もう一つは、ここ王都の隣にあるドレンジアという場所じゃ」
そう言って国王は、俺に王国全体の地図を見せてきた。
見るからにはっきりしているのは……アイスストウムはドレンジアに比べて、圧倒的に大きいってところだな。
メルカトル図法の錯覚って可能性もあるだろうが、それを差し引いてもアイスストウムの方が大きいと断言できるくらい、その差は歴然だった。
位置的なことを言うならば、アイスストウムは国境近くにあるが、ドレンジアは王都に隣接したところにあるって違いがあるな。
……さて、どちらを選んだものか。
こうも露骨に領地面積が違うってことは、何かしらドレンジアに軍配が上がる点があるってことなんだろうが……どうなんだろうか。
普通なら、王都から遠いアイスストウムよりは、王都に近いドレンジアの方が納税とかには便利なんだろうが……俺の場合、特殊空間と混沌剣飛行を併用するとすれば、そのメリットはあってないようなもんだしな。
まあとりあえず、もう少し詳しい話を聞いてみよう。
「この二つの土地……面積以外には、どんな特徴があるんっすか?」
「それはじゃな。まず、アイスストウムの方じゃが……ここは土地こそ広いのじゃが、とにかく貧しいというのが問題でな。農作物もあまり取れはせんし、唯一の資金源だった鉱山も枯れかけておる。その上、隣国が度々ちょっかいをかけてくるという有様じゃ」
「……はいはい」
「まあ、最後のはユカタ殿が領主になるなら関係なくなるじゃろうがな」
「そうっすかね」
「ドレンジアの方は、見ての通り領地は狭いが……強い産業もいくつかあり、民も豊かな暮らしをしておる。領土面積に大きな差がある裏には、そんな事情があるのじゃよ」
「なるほど」
まとめると……二つの領地候補アイスストウムとドレンジアは、面積と豊かさがトレードオフになっているという話だった。
確かにそれなら、どちらの領地の方が確実に良いとは一概には言えなくなったな。
聞いた感じだと、ドレンジアの方に分がありそうではあるが……もし俺がアイスストウムの領主になることで本当に他国の侵略が止まるなら、そこで余ったリソースでアイスストウムがどんな変化を遂げるか、とかは未知数だし。
結局どちらを選ぼうかというのは、少し迷うところだが……ちょっとその前に、俺は一つ、気になったことを聞いておくことにした。
「ちなみに、こういう新たな貴族が生まれる時って、いつも領地の選択肢があるもんなんっすか?」
「いや、今回はちと特殊でな。これはつい最近のことじゃが……アイスストウムの現領主の死とドレンジア領主の謀反の企ての発覚が、ほぼ同時に起こったのじゃ」
「……謀反の企てっすか?」
質問すると、国王の口から耳を疑うような単語が飛び出したので……思わず俺は、そう聞き返してしまった。
「そうじゃ。ドレンジアの領主がのう、十数年かけて手なずけた災厄級の魔物を、王都を陥落させんと差し向けたらしいんじゃよな……。その魔物は謎の丸い生物によって、あっけなく散ったということなんじゃが……それが起きなければ、今頃この国は大混乱になっておったところじゃわい」
国王はそう言うと……なぜか意味ありげな表情で、プヨンに目配せをした。
プヨンは頭に「?」が浮かんでそうな表情で、国王を見つめ返していた。
「ドレンジアの現領主は当然処刑じゃが、その息子の貴族位を剥奪することはない。じゃが事情が事情なのでな、ドレンジア領主の息子をアイスストウムに左遷することは可能なのじゃ。じゃからこそユカタ殿には、アイスストウムだけでなくドレンジアも選択肢としてあるのじゃよ」
国王は更にそう続け、二つの領地候補が上がった経緯を説明してくれた。
……左遷て。
それもう、ドレンジアの方が上って言ってるようなもんじゃないのか。
いや、それとも……そうとも言い切れないのか?
貴族には貴族社会独特の価値観とかもあるかもしれないからな。
その辺のこだわりがあまり無い俺にとっても、そういった価値観がまるまる当てはまるとは限らないものだし。
などと考えていると……国王は更に、こう付け加えてきた。
「ただ……ユカタ殿の場合は、功績の次元が他とは大違いなのでな……もっといい土地が良いという場合は、今回の叙爵は見送るというのもアリじゃ。その場合は……改めて後日、もっとマシな土地を手配できるよう、力を尽くしてゆくとしよう」
……マジか。
それはちょっと、流石に申し訳ないな。
そもそも土地が貰えること自体、俺はあまり重要視してなかったんだし。
「いや、俺はアイスストウムでいいっすよ」
少し考えた末……俺は結局、そんな結論をだした。
「本当に良いのか? もちろん、ユカタ殿がアイスストウムを治めてくれるとあれば、余としては心強い限りじゃが……おすすめできるのは、ドレンジアの方なんじゃがのう」
すると国王は、そんな風に念押ししてきた。
「まあ、アイスストウムの方が面白そうなので」
これが……悩んだ末の、俺が出した結論だった。
アイスストウム……伸びしろしかないんだよな。
せっかく領主になるなら、手に入れた力を活かして色々やってみたい気もするし。
そう考えたとき、魔改造の余地がある領地の方が楽しいんじゃないかと思ったのだ。
例えば国王はアイスストウムについて「鉱山が枯渇しかけている」などと言っていたが……それについても、パッと一つ簡単な対策を思いついた。
それ以外についてもそんな感じで、何かしらいい改善案を考えていけるはずだ。
ドレンジアはそこそこ良い土地なのかもしれないが……そういった意味では、逆に言えば退屈しそうな気もするしな。
領主がそんな考えでいいのかと言われるとアレだが……まあ基本的には当主代理さんが地に足つけて色々やってくれるんだろうし、俺はそんな風に構えていて問題ないだろう。
「ユカタ殿がそう言うのであれば……領地の方は、アイスストウムで決定じゃな」
国王はそう言うと……手元にあった何枚かの書類に、次々に判押しとサインを入れていった。
それが終わると、国王は再び口を開いた。
「では、次は……ユカタ殿には、当主代理をつけるという話になっておったからのう。その話に移るとしようか。リトア、自己紹介を」
そして……ここで初めて、横にいた女性が口を開いた。





