閑話 プヨン、めっちゃ強くなる
次の日の朝。
「ねーユカター。ちょっと、ちからをためしにでかけてもいいー?」
俺は、プヨンにそうせがまれる声で目を覚ました。
「力を試しにって……そんな事して大丈夫か?」
「にっこーよくなら、ちゃんとしたよー!」
威勢よく、そう答えるプヨン。いや、そういう問題か……?
「いや手に入れた力を使ってみたいのは分かるけどさ、ひとりで出かけて思わぬ強敵に遭ったりしたら──」
「だいじょーぶ!」
話してる途中……プヨンは、フッと姿を眩ました。
あれ……どこ行った?
不思議に思っていると……数秒して、プヨンは再び俺の目の前に姿を現した。
それもなんと、高等妖兵の水晶玉を抱えて戻ってきたのだ。
「これくらいならたおせるからー」
「……」
俺はなんか、心配した自分が馬鹿だったように思えてきた。
「……どうやって特殊空間に入ったんだ?」
「じげんのちずー!」
神剣も持たずにどうやって特殊空間に入ったのか疑問に思ったので聞いてみると、そんな答えが返ってくる始末。
次元の地図……てことは、自らの意思で、敢えてタダの次元妖ではなく高等妖兵を狩りに行ったってことだよな。
それくらいの実力はあるって自負していたのか。
てことは、クラーケン級の魔物までは遭遇してもへっちゃらってことになるのか……。
「分かった。好きにしてこい」
俺はプヨンに一人での外出を許可し、二度寝をすることにした。
[side:プヨン]
「なにかつよそーなのいないかなー」
試しに練習してみたら使えるようになった飛行魔法で空を飛びつつ……プヨンは、めぼしい敵を探した。
別にプヨンは、アテもなく飛んでいるわけではなかった。
探知魔法に突如、強そうな魔物の気配が映ったので……その方向を目指していたのである。
そうしてやってきたのは、王都の隣にある「ドレンジア」という領地の上空。
そこでプヨンは、魔物の気配の正確な位置を把握すべく、しばらくホバリングすることにした。
そして、十分ほどして。
「あっちだー!」
ひときわ大きな魔力の反応を感じたプヨンは、ドレンジア郊外の平原に向かった。
一見すると、最弱の兎型の魔物以外何もいないような、至って平和そうな平原。
だがプヨンが強力な魔物の居場所と断定した場所が、そんな平穏な場所のはずもなく……しばらくすると平原の地面はボコリと割れ、中から巨大な魔物が出現した。
竜の骸骨のような顔に、何十本ものタコのような足を持つ仰々しい魔物。
最凶の災厄……ゾス=オムモグだった。
「グオオオオオァァァァ!」
咆哮と共に眼を赤く光らせたゾスは……のそりのそりと歩き始めた。
向かう先は、王都の方角。その歩みは……どことなく、何者かに操られているかのようだった。
「たのもーっ!」
そう言って、ゾスの前に立ちはだかるプヨン。
だがゾスはプヨンには一瞥もくれず、プヨンを素通りしようとした。
「こらーっ、にげるのかー」
その瞬間──プヨンは、一撃で目の前の敵を討伐すると心に決めた。
そして……快晴の中貯めに貯めた魔力を使い、必殺技の準備に入った。
プヨンは自身の身体に回転をかけ……その回転を、魔法で加速させていった。
ある程度回転数が上がると、プヨンの周囲には無数のプラズマが走り始めた。
プラズマを纏ったまま……プヨンは、ゾスに体当たりしに行った。
「ぷらずまたっくるー!」
ドゴオオオオォォォォン!
プラズマ砲と化したプヨンは、ゾスを貫通し……射線上の地面に着地した。
その一撃で、ゾスは木っ端微塵となり……ゾスがいたところの地面まで、溶岩のようになってしまった。
「とーばつ、かんりょー!」
満足したプヨンは……地獄絵図と化した平原を意気揚々と去り、浴衣が泊っている旅館へと戻るのだった。
◇
ゾスは屍となり、プヨンは去っていった平原。
先ほどまでとはうってかわって、そこはまるで誰もいないかのような静寂に包まれていたが……そこには、戦いの一部始終を見ていた二人の男がいた。
「い、今のはいったい……」
「俺たちの最終兵器が、たった一撃のスライムの攻撃で……? 俺の目がおかしくなっちまったわけじゃあねえよな……」
そう、彼らこそが……ゾスを操り、今回の騒ぎを起こした張本人であった。
「いや確かにさ、おかしいなーとは思ったんだよ。スライムが空を飛んでる時点で、なんかあり得ないことが起きてるなって……。けどよ、俺たちが操ってたの、王都壊滅のために用意した災厄級の魔物・ゾス=オムモグだぜ? それからしたら、変なスライム一匹なんてどうってことないはずだったのに……」
「あのスライムが回りながら変な光を放ちだした時はよお、もう死ぬかと思ったよ。俺たちには手を出さず帰ってくれて助かったけどさ……」
「いや、助かったのか? 領主様のクーデターがばれたら俺たちだってただじゃ済まねえぜ。いっそあの一撃で巻き添え食ってた方がマシだったんじゃ……」
彼らはたった今目の前で起きた非現実的な光景に、ただただ身を震わせるより他なかった。





