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第23話 帰還

 残り二割の魔物が集まるまでしばらく待ち、それも殲滅しきった俺は、バヨエインの街に向かって神剣で飛行していた。

「全然見かけねえな……」

 地上の様子を見つつ、俺はそう呟いた。

 魔物を一匹も見かけないということは、広域挑発作戦は無事成功しているということ。

 それは探知魔法の結果から分かっていたことではあるが、実際に目で見てみると、俺はより強い安心感を覚えることができた。

 しばらくすると、見慣れた街の光景がうっすらと見えてきた。

 街の周辺には……周囲を警戒している冒険者が、ちらほらと立っている。

 おそらく、「魔物が引き返していったとはいえ、引き続き警戒しておこう」といった感じなのだろう。

 実際には、スタンピードは根本的に解消されているのだが……冒険者たちには、そんなこと知る由もないからな。

「ユカタだ!」

「ユカタが帰ってきたぞ!」

 警戒中の冒険者たちの上空を、神剣飛行で通過すると……冒険者たちから、そんな生き生きとした声が聞こえてきた。

「これで、次また魔物が襲って来ても安心だな!」

「だな! 心強いことこの上ねえぜ!」

 冒険者たちの会話とともに、張り詰めた空気が一気に緩いものへと変わっていくのを俺は感じた。

 まあ、魔物は全部討伐したから、第二波が来るなどあり得ないんだがな。

 ここで彼らに「スタンピードは解消されたから戻って大丈夫」と告げることもできるが……おそらく彼らは、ギルドの指示無しに持ち場を離れようとはしないだろう。

 魔物が引き返して何時間も経っているのに、まだここに残っているくらいなのだから。

 である以上……彼らに安心して街に戻ってもらうには、何よりもギルドへの報告が最優先だ。

 そう判断した俺は、彼らを素通りし、街の中へと入っていくことにした。

 

 ◇

 

 街に戻り、ギルドに入ると……俺は即刻、支部長のいる部屋へと通された。

「それで……どうなったのじゃ? 神剣ハウスに行ったところから、話してもらえぬか」

 支部長は期待と不安の混じったような目でこちらを見つつ、椅子に腰掛けるよう俺に促した。

「はい。まず……俺は神剣ハウスで、流星魔獣が孵化したらしいという話を聞いたっす」

 椅子に座ると……俺はまず、神剣ハウスでどのような話し合いが行われたかというところから話すことにした。

「何、流星魔獣じゃと?」

「はい。それも……二千年モノなので、通常の四倍強いとのことでしたよ」

「そんな……」

 一瞬、絶望したかのような表情になる支部長。

 その様子を見て俺は、「もう倒したから大丈夫って伝えなきゃ……」と思ったが、俺が口を開くより前に、支部長がこう切り出した。

「しかし……ユカタも帰ってきた時に気づいたじゃろうが、ここを襲ってきた魔物は皆引き返していったのじゃ。あれは一体、どんな対策を立てたのかね? もしや、流星魔獣の封印にでも成功したとか……」

 支部長の声は、だんだんと縋るようなトーンになっていった。

 これは……脅威は去ったってことを、しっかりと伝えなくてはならないな。

「いえ、流星魔獣は討伐してきたっすよ」

 俺は力強い声で、そう返事をした。

 これでやっと、安心してもらえるか。

 そう思ったのだが……支部長は、どういうわけかキョトンとした表情をしてしまった。

「……へ?」

 喉から絞り出したようは声で、そう一言呟く支部長。

 その後しばらく、支部長は目を白黒させていたが……数十秒経って、我に帰ったのか、支部長は大真面目な顔でこう聞いてきた。

「一体、どんな方法で討伐したのじゃ? いくらSランクでも、集団でどうこうできるような相手ではないはずなのじゃが……」

「普通に魔法二発で倒したっす。あと、他のSランクは街を守るためにそれぞれの街に帰ってました」

「流星魔獣を単独で……それも魔法二発で……? 次元が違いすぎて理解が追いつかんのじゃが……まあ天災の滴(ティア・ハザード)を追い返したユカタ殿じゃしのう……」

 そう言って、首を左右に振る支部長。

 その手に握られていたコップは手から滑り落ち、飲みかけのコーヒーが地面にぶち撒けられたが……支部長は、その事に気づく様子は一切無かった。

「ということは……流星魔獣が倒されたおかげで、流星魔獣から逃げ回っていた魔物はそれぞれの居場所に帰っていった、ということなのじゃな?」

 しばらくして、また我に返った支部長は、先ほどよりゆっくりとした口調でそう尋ねてきた。

「いえ、街を襲っている魔物は挑発魔法で呼び寄せ、一網打尽にしました。なので、もう魔物の心配はないっす」

「流星魔獣の孵化地点からここまで届く挑発魔法とは、一体どんな威力なのやら……。流星魔獣を倒せる者に聞くことでもないじゃろうがな……」

 遠い目をして、なぜか呆れたようにそう呟く支部長。

 その様子を見て……支部長の気分も若干は落ち着いただろうと思った俺は、最後に頼みごとをしていくことにした。

「というわけで……脅威は去ったので街に戻っていいと、冒険者たちに伝えておいてもらえないっすか? 彼らも疲れてるでしょうっすから」

「……そうじゃな。そのようにしておこう」

 こうして、バヨエインの街の冒険者達には「警戒態勢を解いていい」という通達が回り……他の街のギルドにも、早馬が向かうこととなった。


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